第461話 ベータ・タイプコアの特訓

翌日から、ベータを連れたコルトガさんが嬉し気に、第ニ訓練場へと姿を現す。

通常、秘密防衛軍やシャドーズ達は第一訓練場を使って居るのだが、極秘中の極秘であるベータを人の目に触れさせない為の配慮であろう・・・。


第ニ訓練場に2人?が入ると、内側から、鍵が掛かり、内部を覗く事も出来なくなった。


「良いか、ベータ、俺が剣術の師匠である。これより、お前やお前の主、民を敵から守る為の剣術を俺が教える。」都コルトガさんが静かな重みのある声で語りかける。

「はい、よろしくお願い致します、コルトガ師匠。」と頭を下げるベータ。


流石、散々エリックやサチちゃんに躾けを受けただけあって、ゴーレムとは思えない程の芸の細やかさである。


普通に、パワードスーツを其処らの少年が着用していたと言うオチでも違和感が無い。


ベータの師事する姿勢に気を良くしたコルトガさんが、新兵を来たる時の様に、木刀と持たせて基本姿勢や、素振り、力の入れ具合までをシッカリ何度も手本を見せつつ、ベータにやらせる。

流石は優秀な頭脳を持つベータである。あっという間に剣、この場合木刀の振り方を習得し、次のステップへと移行する。


「良いか、基本の型はこうだ!」と宣言したコルトガさんが1つ1つの動きを見せながら、部分部分で注意事項を挟んでいく。


「はい!師匠!」と元気良く応えるベータに上機嫌のコルトガさんが、再度型を通しで披露して、ベータにやらせる。


「おう!素晴らしいぞ!ベータ!そうじゃ、そこで一気に振り抜くんじゃ!」と掛ける言葉に気合いが籠もる。


「ハッ!」と掛け声で応えるベータ。


疲れを知らないベータは師匠の指導に応え、その教えを完璧にトレースする弟子への指導に更に熱を上げる・・・。

この相乗効果で、剣術を始め3日目には、掛かり稽古へと進み、5日目には、コルトガさんとの模擬戦まで進んだ。

この時点で、2人が折った木刀の火事は80本を超えており、ソロソロ木刀での限界と言う事で、刃を潰した模擬刀を使っての真剣勝負へと進んでいた。


「ベータ、声出さんかい!、死にさらせー、木偶の坊!・・・」

バシュ・・・ガキン。

「ハッ!オラー、死ねぇー糞ジジィ!!キェー!・・・」

ギンッガキン と刀の激突する音に混じり、罵倒と気合いの入った掛け声が誰も邪魔しない第2訓練場に木霊する。


 ◇◇◇◇


1週間が過ぎた頃、漸く満足してスッキリした表情のコルトガさんと、全身に模擬刀による生々しい傷を残した戦士、そうベータの姿が、ここ、第1訓練場にあった。


「頼もう! 道場破りである! 尋常に勝負である!」とベータの声がだだっ広い訓練場に響く。


「おう!儂の弟子の挑戦を請ける者はおらぬか!?貴様らの中に弱者は居らぬだろ?フフフ」とコルトガさんも大声で煽る。

「だろ?フフフ」と師匠に続いて煽るベータ。

基本、ゴーレム故に表情に変化は出無い筈なのだが、第一訓練場に運悪く居合わせた秘密防衛軍の兵士達の目に写る悪魔の微笑みの様な雰囲気表情は気の所為だろう・・・。


カチンと来たたのだろう、ランドルフさんを始めとする10名が我こそはと名乗りを上げる。


「面倒なので、全員で掛かって来られよ!」とベータが言って構えると、ザッと取り囲んで、ランドルフさんの号令で、一気に斬り掛かる10名の猛者達。


すると、ヒラリと最小限の動きで刀を躱して、木刀で全員の刀や剣を弾いて、肩や胴に一撃を入れて行くベータ。

正に蝶の様に躱し蜂のように刺す。恐ろしい程の腕前である。


「クッソーー、足りんな。全員で掛かれ!」とコルトガさんが叫ぶと「「うぉーー!」」と叫びながら、その場に残った全員が一斉にベータへ向かう・・・。


68名の攻撃を息一つ乱さずに冷静に処理して、ある者は腕を、ある者は肋を折られ、鎖骨をを折られ腕すら動かせずに蹲る者、剣を落とし、胴を強打してくの字になって撃沈する者、吹き飛ばされて悶絶する者等、散々状態で、死屍累々の屍が訓練場の床で呻いて居る。


10分も経過した頃、立っているのは、息も乱していないベータと、それ自分の鍛え上げた玩具ベータの仕上がり具合に満足げな表情で眺めているコルトガさんのみである。

息を乱して無い・・・・? それも当然で、そもそも息をして無いのだから・・・。


「良し、そこまで!ベータ良くやった、完了じゃ、その調子で今後も励むが良い!」と無傷で制した弟子作品に満足そうなコルトガさん。


この日、負傷者・・・いや、犠牲者だな、78名がこの獰猛な師弟の餌食となってしまった。

直ぐに救護班が駆けつけ、速やかに治療されたのだが、生まれたてのゴーレムに負けた事で闘争心とプライドに火の付いた78名は再度コルトガさんの指導を仰ぎ、暫くの間、連日コルトガさんの笑い声と怒号が第一訓練場に響いていたのであった。

その特訓の合間合間にベータが呼ばれ、ある程度仕上がった秘密防衛軍の面々と模擬戦を行い、その度にボコボコに打ち据えて、「オラオラ、もっと来い!命を燃やせ!吾を葬ってみよ!」と煽るベータ。

どうやら、ベータは剣の腕だけで無く、煽りの腕をも師匠から受け継いだ様であった。


幸いな事に、これで心折れる者は居らず、全員が闘志を滾らせた結果、コルトガさんの目論み通り、秘密防衛軍や巻き添い偶然その時その場に居たを食らったシャドーズ達の戦闘力が格段に上がったのであった。


尤も、この出来事をケンジが知ったのは、事件の1ヵ月後であった・・・。



程良く日数が経った頃、「主君、ベータが仕上がりました・・・。何処の戦場に出しても恥ずかしくない、無敵の兵士死に神です。」と言うコルトガさんの隣には、随分と傷だらけにになって、貫禄の付いたベータが片膝を伝手居た。

「そうか、2人共、ご苦労さん。どうだ、ベータ修行は楽しかったか?」と俺が聞くと、「ハッ!実に有意義な日々でありました。」と頭を下げた。

なんだろう? なんか、随分と、雰囲気や、佇まいが変わった様に思えるが、気の所為かな?と思いつつも、スルーして、コルトガさんにもお礼を言って、ベータと秘密工房へ行って、現状のメモリーのバックアップをとったのであった。


翌日、プロジェクトメンバー全員に招集を掛け、剣の修練の終わりを告げて、作り置いていた新品のゴーレムのメモリーに更新されたバックアップをコピーし終えて、持ち帰ったのであった。

尤も、ベータの筐体はカラーリングを変えて、傷も綺麗に化粧直しをして、我が国の持ち分として兄弟機と一緒に持ち帰って様子を見る事となったのだった。

取り敢えず両国で、各々2機ずつとなる。

ちなみに、ベータの新しい色は兄弟機と同じに黒一色に左肩だけ赤くしてある。これなら、秘密防衛軍と混じっての行動でも違和感が無いだろうと言う判断である。

一応、ベータと1号機との区別が付く様に、胸に0の文字があるのがベータ、1の文字があるのが1号機である。

便宜上、0号機のベータはそのまま『ベータ』とし、1号機は『ガンマ』と呼ぶ事にした。


まあ、俺のネーミングセンスはこれが限界である。


もしかすると、後々カラーリングの変更を行う可能性もある・・・。

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