第459話 成長の鈍い世代と伸び盛りの世代の共演

人間、10回も同じ様なミスを繰り返せば、大体の奴は、学習するだろう。


悟った様な口調ではあるが、10回も懲りずにミスしてしまったのは俺です・・・。その為、連日の様にダンジョンに通って、真っ暗な第34階層を行ったり来たりする羽目になったんだけど、


まあ、その過程で、色々思い付いた事もあって、レントゲンじゃないけど、魔力の流れをリアルタイムに確認出来るフィルター的な物を考案して、カメラに付けて撮影出来る様にしたのが最大の功績かな。

前世の世界の赤外線カメラとか暗視モード的な物と思って貰えれば判り易いだろう。 一応、これは皇帝君の所にあった魔力検知センサーを応用したとの合作になる。


で、そのカメラを持って第34階層に通って、ゴーレムの動く様を撮影しながら倒し、モニターで確認しながら、スライスする場所を決めてスライスしたりして、頑張った結果、ゴーレムのコアによる肢体の制御の仕組みの解明等に大きな前進があった。


腕を動かす際や、歩く際の動作における魔力の伝達経路とフィードバック等の流れ等々、実に良く出来ていた。


一方、皇帝君を始めとするアーカイブの調査グループの成果としては、微妙で、元々パワードスーツを作る際に参考とする為に当時調査研究したらしいが、結果作ったのはロボでもゴーレムでも無く、パワードスーツだけだった様である。


「それもそうか。 もし自立行動型のゴーレムとか作れていたら、人口減少による労働力減少の打開策として、使って、滅亡回避してるか。」と俺が感想を口にすると、なる程・・・と全員頷いて居た。


そして、綺麗に取り出せたゴーレムコアを詳細解析する事で、漸く、人工的にゴーレムコアを作る方法や必要な魔方陣の刻印が判明し、紙に書き起こして1冊の本に纏めたのであった。

ザックリ要約して説明すると、多層に渡る魔方陣の書かれたミスリルプレートを魔力回路的に接続し、フィードバック制御して行動させるCPUがゴーレムコアとなる。


その構造を知った皇帝君が、「まるで、LSIやそれを着けたプリント基板みたいだな。」と呟いていた。


ゴーレムコアの製造方法が判明した事によって、これを更に研究する事で、今後様々な物に応用出来そうである。

例えば、このゴーレムコアを使って単純作業をする元の世界のFA用のロボットアーム的な使い方等、ライン製産にも応用が利きそうである。


まあ、余りやり過ぎると、人々の仕事を奪う事になるので、何でもやりゃぁ良いって物じゃないし、加減が必要だろうな。


尤も、現状判ったのは、簡単で単純な動作や動きに関してだけなので、自立思考型というか、AIと呼ぶにはほど遠い。


出来て、江戸時代にあった、お茶を運ぶ『カラクリ人形』程度だろう。


フフフ、散々時間とお金を掛けて作ったのが、茶運びゴーレムとかだと笑えるな。

と頭の中で想像してたら、声に出して笑ってた様で、気付くと、全員の注目を浴びていた。


「何? 楽しそうだけど?」と皇帝君に聞かれ、

「いや大した事じゃないけど・・・。」と、想像した内容を白状すると、ネタ元を知らない人達は意味が判らずにポカンとしていたけど、皇帝君だけ大爆笑していたのだった。


「まあ、話は逸れたけど、結局、CPU的なコアを作っても、『カラクリ人形』で言う所の『お茶を乗せる』と言うイベントに対してのアクションとなるイベント(周囲の状況の取得)が重要になるんじゃない?」と思った事を口にした。


結果、今後はミスリル・ゴーレムの頭の部分の耳や目等を入念に調査して、ゴーレムがちゃんと敵(人)等を認識する為のセンサーを持って居る事が判明したのであった。


それからの俺達は、各パーツ単位で解析や複製、更には、解析結果から得た理論や方法を用いた独自の物を作っては、テストベンチ用の筐体に魔力回路を接続して、動作実験を行ったりしていた。


そもそもだが、ゴーレムの敵を攻撃する動作等に関しては、骨髄反射と言うんだっけ?脳を介さない様な動きに近いレベルの物で、コアを殆ど使って無い。ただ、コアにはどうやら、通常とは別ルートの回路で繋がっている部分があり、現状ではその部分の利用方法が不明のままだったのがが、先日、ゴーレムの補給をしに言った際に遭遇したオリハルコン・ゴーレムとの戦闘時に漸く判明したのであった。


長くデータを取る為に戦闘を態と長引かせ、ヘイトを稼ぎまくった結果、オリハルコン・ゴーレムが唸り声を上げ、眩しい程に一瞬輝いた後、ブースト・モードと言うべきかはふめいだが、これまでの動きとは全く別物の、俊敏名動きと、まるで、格闘を専門とする拳闘士のような洗練された不規則な動きをみせたのであった。


この時のデータは素晴らしく、通常使われて居ないコアの部分がブースト・モードに入った途端に激しく指令を出し始め、それまでの『骨髄反射』に近い動作時に稼働して居た部分が休止し、完全に切り替わっていたのだった。


このデータを基にオリハルコン・ゴーレムのコアを取り出して魔力回路から全て解析し直した結果、ほぼ別物と呼んで良い程に相違が見つかり、我々の目指す物はこの『ブースト・モード』時のコアの使用状態を作り出す事と決定したのであった。


失敗ややり直しは多かったが、結果としてより深く知識を貯める結果に繋がったと思いたい。



結果として、再度『ブースト・モード』の解析結果を纏めた物をベースに、サチちゃん達の提案で改良したり、してテストした結果、テスト用の筐体に取り付けたアームで、音声に反応し、自立した動作で生卵を掴む事に成功したのだった。


この成功で、このタイプの自作ゴーレムコアを、『アルファ・タイプコア』と呼ぶ事にしたのだった。



ここまでで、軽く半年の期間を費やしたが、両国の若手世代の成長は素晴らしく、実に頼もしい存在となった。


そして、パワードスーツの外骨格をベースとした物に『アルファ・タイプコア』を融合させたゴーレムのプロトタイプの製作が本格的に始まった。


 ◇◇◇◇


かなり魔力回路の変更が必要ではあったが、プロトタイプ製作開始から2ヵ月が過ぎ去った頃、漸く、プロトタイプ0号機が歓声したのであった。


何故か知らないが、皇帝君の無駄な拘りで、ボディーカラーは紫ベースにストライプの入ったカラーリングにされてしまったのだった。

何か、「でもこの色にすると、『0号機』って呼び名だとちょっと違うんだよなぁ~」と最後まで色と呼び名に拘って居たのは謎である。


何故か今日のこの日の為に無精髭?まで伸ばし、更に態々作ったらしいサングラスまで掛けて、見た事のない黒い上着に白い手袋を填めて、プロタイプ0号機の稼働試験に赴いている。


殆ど同世代を日本で過ごして居ると思うのだが、余裕の無い人生の後半を過ごした所為か、微妙に皇帝君のノリに付いて行けない俺が居る訳で・・・。


そんな俺の心中を知らない皇帝君は、「ほら、判るでしょ?」って顔で俺のツッコミを待つような顔でウズウズして居る様だ。

これみよがしに、白い手袋を嵌めた指を口の前で組んでみたり、サッパリだよ・・・。


そんな、皇帝君はさて置いて、サッサと起動試験を開始しようと言う事になり、


この日の為に拡張して新たに作った起動実験室のガラス張りの中二階のモニタールームに陣取って、録画を開始し、俺が頷くと、サチちゃんが代表して、ポチッと起動スイッチを押した。


椅子に座る形で待機させていたプロトタイプ0号機が、ビクッと全身を震わせ、スタンバイモードへと移行した。


プロトタイプ0号機の前に置かれた机には角材や、人形やお皿等、何種類かの物を置いてある。


サチちゃんがマイクを使ってプロトタイプ0号機に指令を出す。

「プロトタイプ0号機、目の前のテーブルに置いてある角材を持って。」と言うと、静かに立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回して、テーブルの方まで歩み寄って、角材を指差して首を捻っている。


「そう、それよ、それが角材」とサチちゃんが教えると、片手の指で上手に持ち上げた。

「そう、上手よ!美味く出来たわね。じゃあ、角材を持ったまま、お皿を持って。」と難易度を上げた指令を出す、サチちゃん。


プロトタイプ0号機は人形を指差して首を捻っている。


「それは人形よ、お皿じゃ無いよ。」と言うと、今度はお皿を指差してて聞いて居る様であった。


「そうそれがお皿よ。」と言うと角材とは別の方の腕を伸ばしてお皿をソッと持ち上げた。


「そう、上手よ。じゃあ、角材とお皿を元の所に置いて。」と言うと、元在った場所に角材とお皿を置いた。


一旦元の椅子に座らせ、再度、人形を持ってと言うと、先程の会話で学習した様で、ちゃんと一度で人形を選択して持ち上げたのであった。


素晴らしい。これをベースにドンドンと仕込んで行けば、今回プロトタイプを作るにあたって追加した魔導メモリーに得た知識が蓄積されるはずである。

この魔導メモリーに関しては、若手の発案で『アトランティカ』のアーカイブより仕入れた知識と『アルファ・タイプコア』を連結した物で、若手の柔軟な発想の賜であった。


余談だが、このメモリー付きのユニットを『ベータ・タイプコア』と呼ぶ事になっている。


言われてみれば、昔のマイコンは、カセットテープとか、パソコンも、フロッピーとかハードディスクとか記憶媒体にデータを保存してたな・・・と思い出したのだった。


皇帝君も完全に失念して居た様で、提案された時、ハッとした表情してたし。


そんな地球の知識を持たない若い世代が柔軟な発想でここに行き着いた事を非常に誇りに思う。


「凄いな、ボディの色は兎も角、プロトタイプ0号機は取り敢えず成功と考えて大丈夫だよな?」と俺が言うと、全員が笑顔で頷いていた。


この日は、このまま、成功祝賀会へと移行して、みんなで飲み食いしたのだった。


この日、この世界初の人工知能の原型となる『ベータ・タイプコア』が命を持ったのであった。


俺としては、サチちゃんやエリック、そして助手君達が大きく育ってくれた事が誇らしくもあり、単にゴーレムの自作に成功した事よりも、何十倍も嬉しい事であった。


そうそう、最後まで、皇帝君が、何のコスプレをして居るのか判らなかったので、素直に聞いてみたのだが、「えーーー?あの国民的な人気を誇ったアレを知らないの?」と驚いていた。


何やら、日本の有名なアニメの設定らしいのだが、名前を聞いても俺は知らない。そんな余裕すら無かったからな・・・。

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