第458話 次世代の成長の為に
エリック達が正式な夫婦となり、既に2ヵ月が過ぎ様としているが、それ以前と全く変わりのない朝食風景である。 いや、若干変化はあるな。俺達の目の前だと言うのに、このバカップルは、朝からキャッキャウフフと見せつけやがる。
「お前達、まだ未成年のユーちゃんやケンタも居るんだから、控えなさい。」と朝から小言を言う羽目になっている俺である。
これで、子供でも出来れば落ち着くのかも知れないが、まだ一番楽しい時期だろうし、暫くはしょうがないのか?
ちなみに、2人の仕事は従来通り工房所属で、魔動具等の製造をする事なのだが、最近、ちょくちょく帝国の助手A君達と連絡しあっているらしく、珍しく、俺に相談があると言って来た。
朝食後に会議室で話を聞くと、
「えっと、結婚式以降、帝国のアレックスさんや、マルラットさんとも話し合っているんですが、『アトランティカ』のアーカイブを利用して調査も必要なんだけど、ちょっとしたプロジェクトをやりたいと思ってまして、許可して貰えないかなと。」と、いつにも増して改まった口調のエリックである。
「ん? 誰?アレックスさん?、マルラットさん?」と初めて聞く名に頭の中を?マークでいっぱいにする俺。
すると、「え?何言ってるの、ケンジ兄ちゃん、皇帝さんの所の助手さんじゃない!」と何惚けてるの?と言う感じで批難の目を向けて来るサチちゃん。
えーー!? ちょっと衝撃だった。俺、素で全然知らなかったよ。良く今まで支障がなかったな。
「マジか、あの2人、そんな名前だったのか!? いや、俺、自己紹介されてなかったから、今まで渾名で呼んでたよ。(心の中で)」と俺が言うと、呆れた顔で見られてしまった。
「それは失礼過ぎるよ! で、ちなみに、渾名って、何て呼んでたの?」と追求を受けたのであった。
どうやら特徴を言って摺り合わせした結果、助手A君がアレックスさんで、助手B君がマルラットさんらしい。良かったよ、彼らが双子じゃなくて。
俺って、自慢じゃ無いけど、人の顔と名前を覚えるの、
「そう言えば、よくよく考えると、皇帝君との普段の会話の中でも、助手A君、B君って呼んでて、皇帝君にもちゃんと通じていて、会話成立してた記憶あるし、ちょっとそっちの方が不思議でもあるな・・・。」と俺が呟くと余計に呆れた顔をされてしまったのだった。
と脳内で言い訳しつつ、助手君らの名前も判明し、ホッと一息。
「いや、だから、そこでホッとしてないで、プロジェクトの話だって!」とエリックに話の続きへと引き戻された。
「まあ、ヤバイプロジェクトじゃ無ければ良いよ。どんなプロジェクトなの」と聞いたら、エリックがニヤリと笑いながら、「『ゴーレム』の製作プロジェクトだよ」と教えてくれた。
「ほう、確かに面白そうではあるな!」と俺が応えると、「でしょ?」とサチちゃんもドヤ顔である。
皇帝君側の許可は既に取れて居るとの事だったので、俺も許可を出して、正式にプロジェクトの発足も許可したのであった。
どうやら、この『ゴーレム』プロジェクト発足の裏には、先日の落盤事故の一件があって、もうちょっと安全に抽出等、又危険地帯での人に変わる単純作業等の代行をさせる手段が欲しいと言う思惑もあるらしい。
なる程ね、それはうちとしても、有用なプロジェクトだな。
という事で、秘密工房で発足式を行い、俺も、それとなく(発足式に)参加する事にしたのだった。
俺としては夢の在る面白いプロジェクトとは思うけど、余りガッツリ関わるよりは、若い世代の頑張りに任せたいと言う気持ちである。
まあ、前回のパワードスーツのアシスト部分を独自に制御出来れば、イケる気はするけど、直立歩行や自立バランスのフィードバック制御とか、どうするつもりなんだろう?と興味津々ではある。
「面白そうな事始めたね。俺は時々参加させて貰うぐらいだけど、頑張ってね!方向性の目処は付いてるの?」と(発足式の)立食パーティー中、皇帝君に聞いてみた。
「え?」っと驚いた表情をする皇帝君。
「ん? どうした?」と聞き返すと、俺がガッツリ関わらない宣言をしたのが信じられないというか、困るという事らしい。
「どう言う事?俺は全くそっち方面無理だと思うけど、皇帝君主軸でやるプロジェクトなんじゃないの?」と聞くと、
「なぁ兄弟、そんな事言わずに一緒にロボのある異世界ライフにしようぜ!」と俺肩を組んで来て、執拗に絡んで来た。
「いや、得手不得手で言うと、多分不得手な方面だと思うんだよ。例えば、ダンジョン等のゴーレムのコアを解析したりぐらいはお役に立てると思うけど、当てにされても、自立歩行のバランス制御とか訳分からんし。役には立たないと思うぞ?」と俺が出来る範囲を説明すると、「それで良いから、ガッツリ頼む!」って言って手を合わせて頼まれた。
「まあ、しょうがないな、じゃあ、取り敢えず手分けして、やるか? 俺はゴーレムのコアの解析方向で行くから、そっちはアーカイブの調査だな。」と、斯くして半ば無理矢理参加させられる感じになったのだった。
そうだな、まず俺は、ゴーレムのコアをゲットするか・・・。
俺は通信機を取り出して、リック達にお伺いを立てる事に。
「あ、リック、元気にしてるか? ちょっっと頼みがあるんだけど、ゴーレムって、そのダンジョンに出没したよな?
ちょっと、色々研究したい事あって、ゴーレムのコアとか欲しいんだよ。」と通信機越しにリックにお願いする俺。
「うん、元気だよ! ゴーレムのコアか・・・。どっちにしても、手持ちの在庫は無いから、欲しいなら、第34階層に取りに行くしかないね。 どうする?俺達が取りに行くのでも良いし、ケンジ兄ちゃんなら、一回俺が第34階層に連れて行けば、欲しい時に自分でゲートで幾らでも行けるだろ? そっちの方が良くない? 連れて行こうか?」と言われた。
「ふむ、言われて見れば、それもそうだな。じゃあ、都合の良い時にピックアップして貰って第34階層へお願いして良いかな?」とお願いすると、善は急げで直ぐに行こうと言う事に・・・。
結果、取り敢えず、王宮で待ち合わせて、そのままオーゼリーゼダンジョンの第34階層に連れて行って貰ったのだった。
子供に連れられてダンジョンに行くというのは、何と表現すれば一番判り易いかな? 多分、「初任給が出た息子が外食に招待してくれた」って感覚に近いかな。
嬉しい様な、息子達が誇らしい様な、勿体無い様な、何とも言葉にし難い、複雑な心境である。
「すまないね、邪魔した様で。」と俺が最初に詫びていると、「大丈夫だよ。ヤバイ時には連絡に出られないし。」と気にする事は無いと言ってくれたのであった。
リックとミケールに連れられて、一旦、オーゼリーゼダンジョンの第34階層に入ったが、真っ暗な状態に思わず「わぁ~、こんな環境だったのか!?」と驚きの声を上げてしまった。
よく、こんな真っ暗な環境で抽出を何ヶ月も頑張ったもんだと2人の頑張りに感心してしまった。
リック曰く、階層の中盤辺りからゴーレムが頻発するとの事で、大体のポイントまでゲートで送ってくれた。
「おう、ありがとう!あとは適当に
2人と別れてからリックに教えられた方向へ光魔法のライトで照らしつつ、通路を走り続け、30分後に初ゴーレムに遭遇し、その後も約1時間程走りって回ってミスリル・ゴーレムを三体サクッと倒して丸っとボディを無傷で収納して秘密工房へと戻ったのであった。
工房の隅の空きスペースに獲って来たミスリル・ゴーレムをデンと取り出すと、皇帝君を始め、エリック達や助手君達もギョッとして、作業を中断してこっちにやって来た。
「流石、兄弟、凄いの持って来たーー!」と皇帝君の興奮が五月蠅い。
どうやら、帝国側の面々は初めてフルボディー状態のミスリル・ゴーレムを見るらしい。
「ああ、普通は解体されて素材になってるのか?」と自分で討伐しないとそう言う物かと、納得。
尤も、一応討伐やレベル上げで右王宮裏のダンジョンに行ったりしてる
エリック達だが、ミスリル・ゴーレムを生で見るのは初めてだった様で、「凄い、凄い」と何度も繰り返していた。
思って居たよりも大きかった様で、こんな大きさの重い奴が襲ってくるのを見た事も無いので、動く様が想像出来ないらしい。
「こいつらは、それ程俊敏な動きはしないから、倒しやすい部類だと思うぞ。まあ、このプロジェクトで作るゴーレムはこんな鈍重なのはだめだよな。どっちかと言えば、パワードスーツがそのまま意思を持って動く感じじゃないとね。」と俺が言うと、なる程と頷いて居た。
倒すのは簡単なのだが、逆にここれからが、実に大変だった・・・。
魔力回路や魔方陣などを破壊しない様に、最深の注意を払いつつ、カ解剖するかの様にスライスしたり、コアをスッポリ抜き取ったりと、神経をすり減らす作業の数々。
結果、夕方になる頃には、頑張った割には2体失敗して、普通にミスリルの素材となってしまった。
残り1体・・・最悪、標本となるべきミスリル・ゴーレムを入手しにいかないと駄目みたいである・・・。
「もうちょっと、レントゲン的な手段欲しいな。」と俺が呟くと、皇帝君が、ハッとした様な表情をしていたので一瞬期待したのだが、10分程無言で考え込んだ後、
「無理!」とボソッと呟いていたのだった。
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