第329話 遭難者発見?

大きな街道に合流するまでは、路面状況も悪く、更に他の馬車等の通行量もソコソコあった為、ペースは上げられず、ジリジリとストレスが蓄積する道中であった。


そして、大瀑布を出て、2日が過ぎて、やっと大きな街道に合流し、ペースを上げられる様になった。


それを一番喜んだのは、一番ストレスを感じていたマダラ達であった。


馬車2台が余裕で離合出来る道幅なので、程々のスピードで巡航出来る訳だ。


「主ー! やっぱ、最低でもこれくらいの速度は出したいよねぇー!」


とはご機嫌のマダラの談である。


まあ、そんな調子で、走っていれば、 当然、先行している馬車の一団にも追いつく訳で、


「ぶーー! ぶーーー!」というB0のブーイングだ頭の中に聞こえて来る。


「マダラもB0も、絶対煽っちゃ駄目だからね? フリじゃないからね!?」

と一応煽り運転厳禁の釘を刺すと、


「フフフ、判ってるよぉー主ー!大丈夫!大丈夫! 僕達、ちゃんと判ってるからね!?」

と調子微妙な雰囲気を持った返事が返って来たのだった。



うーーん、かなり昔、何か似た様な事で、何かトラブルがあった様な無かったような・・・?。


30分程、後ろを走っていたのだが、前方の馬車が、休憩に入るらしく、左端に避けてくれたので、会釈をしながら、手を上げて、右側から追い越させて貰った。


「やったー! ガラ空きだぜーー!」と歓声共に一気にペースを上げるマダラ達。


一応御者席には対外的な配慮でシャドーズが交代で座ってはいるが、まあ、内情は、マダラ達の判断による、ほぼ自動運転である。(今のところ、この自動運転での事故は起きてないのである。超優秀)


街道がガラガラで逆方向に進行して来る馬車も歩行者も居ないのをこれ幸いと、割とマダラとB0の好き放題のスピードで進んで居ると、かなり先の方で、馬車が故障なのか、路肩で停まって居る。


「主ーー、前の馬車、故障みたい!」

とB0に知らされ、此方も路肩に駐めて、馬車から降りて、声を掛けて、みた。


「こんにちは、大丈夫ですか、故障ですか?」


と俺とコルトガさん、コナンさんの3人で、馬車の横に回り、声を掛けたら、馬車の下から、土とグリースっぽい油まみれの顔の女性がぬっと出て来た。

色々薄汚れては居るものの、栗毛色の髪で、青い瞳はパッチリしてて、多分、美人さんだ。



「あ、どうも、ちょっと馬車の車軸が壊れてしまった様で、どうしようかと、一応、馬車の下に潜ってはみたものの、駄目でしたー!」

とあっけらかんと笑って居る。


あれ?随分余裕だな? と不思議に思っていると。


何と壊れたのは、昨日の夕方で、誰も今まで通らずに、一昼夜ここで過ごし、実際途方に暮れていたらしい。


「えー!じゃあ、大変じゃないですか? 食べ物あったんですか? 飲み水は?」と聞くと、思い出した様に、お腹がクーと鳴って、頬を赤くしていた。


取りあえず、馬車から、メイドを呼んで、食事と飲み水を用意して貰った。

ついでに、馬車から外された馬が木に繋いであったので、その馬にも飼い葉と飲み水をタップリ用意して出してやると、相当喉が渇いて居たらしく、大喜びで、ガツガツガブガブと、飼い主の女性同様にガッついている。

やっぱり、こういうのは飼い主に似るのかな?と思いつつ、3人で馬車の車軸の曲がりをチェックしてみた。

どうやら、原因は構造上の脆弱さが原因で、余計に負担が掛かり、金属疲労と材質の強度不足で、現状に至っているらしい。


「まあこれなら、俺でなんとか治せるな。」と、呟きつつ、シャドーズにマダラ達にも、飼い葉と水を用意して貰いつつ、こちらは修理に勤しむ事にした。


レビテーションで、車体を持ち上げ、レビテーションで、固定したま、車軸を車輪ごと取り外した。 魔法万歳な手段である。両端の車輪を取り外し、単純の車軸だけの状態にして、同径の中空パイプを鋼鉄で作り、コッソリ、形状維持と強固の付与を行った。

車軸の請け部分に摩擦軽減の付与したメタルベアリングを追加し、車軸の請けを一箇所追加して、3点支持にしておいた。車軸を請けに挿入し、適度に

グリスアップして、車輪を車軸に取り付けた。更に、直ぐに壊れると、何となく嫌なので、車体の底面に、重量軽減の付与した、銅板を、内緒で貼り付けておいた。

これで、前より、良い馬車になった筈である。当社比、性能300%アップだな、ついでに馬車のボディ(但し、幌馬車タイプのオープンボディだがな)を真っ赤にオールペンしとく?フフフ。


完成した車体を前に、腕組みし1人でニヤニヤしていると、後ろからこえをかけれれ、ビクッとしてしまった。


「あの!もしかして、修理して頂いたのでしょうか?」

と、あの女性だ。


「ええ、修理完了です。前より、かなり良くなっている筈ですね。 それこそ、車体を真っ赤に塗れるぐらいには・・・。」



「何から何まで、ありがとうございます!何とお礼をすれば良いか、お、お金、代金余り手持ちがないのですが、もしご迷惑でなければ、自宅の方まで着いて来ていただければ、支払えると思うので、如何でしょうか?」

と焦った声で、捲し立てている。


「ああ、別に代金は不要ですよ。困った時はお互い様って言うし、気にしないで。」

と落ち着く様にと宥めたのであった。


「あ、私ったら、余りの事にテンパってしまって、名乗るのをわすれてました。申し訳ありません、ウェルディ・ウィ・ギュレットと申します。この先のギュレット子爵家の次女でして。」


あらま。意外な事実が判明。そうか、最近、余り余計な先入観や情報を頼りにしない様に鑑定を使って無かったからなぁ。


こ、これは、ギュレット牛を購入するチャンスなんだろうか? いや、確かにギュレット牛は欲しいけど、何か、これを切っ掛けにするのは卑怯な気がする。


うーん、悩ましい。 どうしようか。 と瞬時に脳内で検討した結果・・・。


「ああ、これは、ギュレット子爵家のご令嬢でしたか。申し遅れました。越後屋の会長をしております、ケンジと申します。

あのう、本当に修理代金とかは不要なので、少しだけ、お時間取らせませんので、ギュレット牛に関する質問をさせて頂ければ、助かります。」

と頭を下げて、お伺いを立ててみた。


という事で、我々3名と、件のギュレット子爵家の次女様と、さっきまで食事を取って貰っていた、テーブルに着いて、メイドには、紅茶とシュークリームを茶請けに出して貰い、話を始めるのであった。


「まず、最初に、断って起きたいのですが、特に今回の事で、無理を通したり、特段の便宜を図って貰うつもりは無いので、変に誤解はされたくないです。」

と切り出すと、ウェルディさんが、より真剣な顔付きになって、此方を見ている。


「で、質問内容なのですが、噂で、ギュレット牛が、大変肉質が良くて、美味しい特別な牛とお聞きしまして、当方でも、何頭か纏まった頭数を購入出来るものなのか、禁止されているのか?という事が知りたいと思ってまして。」

というと、

「なる程、そう言う事ですか。つまり、ギュレット牛を自分達で繁殖させたいって言う解釈で合ってますでしょうか?」

と聞いて来た。


「ええ、概ねその通りです。ただそれでは、単に、一見するとギュレット子爵家の利益を横取りする様な行為に思えますし、普通に禁止されてるのでは無いかと、考えた訳です。

あ、その茶請けのスウィーツはシュークリームと言って、牛系のミルクを使って作った甘いお菓子です。是非、お試し下さい。」

と言って、少し食べる時間を挟んだ。


「あ、甘ーーーい! やだ、何これ美味しいよー!」

とシュークリームにかぶりついて、口の周りをカスタードクリームだらけにして絶叫する、ウェルディさん。

「これは、タンク・カウという魔物のミルクを使って作っております。あと、卵は魔物のウーコッコーの卵ですね。これの他にも、ケーキやタルト、パイ、プリン等、色々な甘いお菓子を作って販売しております。

ただ、我々の本拠地は此方では無く、遠い所でして、今回は商売関係無く、単に旅行でやって来ただけでして、どうせなら、美味しい物を食べて、お土産に買って帰れればなぁというかんじなのですよ。

だから、ギュレット牛をもし当方が持ち帰っても、ギュレット子爵家の利益のでる縄張りを横取りする様な事は無いと確約できるのですが。」

と自己紹介宜しく、越後屋をアピールしておいた。 が、自分で中途半端に説明しておいて言うのも何だが、滅茶滅茶、胡散臭い話に聞こえるな・・・。

と、脳内で少し自分にダメ出ししてしまった。


「なる程、魔物のタンク・カウに、ウーコッコーの卵ですか、多分、高価な材料なんでしょうね。 こんなのが作れれば、我が子爵家のピンチも・・・。」

と口籠もってしまった。何やら言動を見るに、事情がありそうである。


「すみません、ウェルディ様、お引き留めしちゃいましたが、こらからご自宅の方にご帰宅されるのですよね? もうすぐ、夕方になって、道が見えにくくなる時間ですので、夜間の移動は危ないですから、もしご迷惑で無ければ、当方のテントで一泊して、明日の早朝に一緒に出立致しませんか?」

と提案してみた。 そう、時間は既に、夕方の5時、今から出発しても、どう考えても、夜までにギュレット子爵領に辿り着く事は無い。と思う。


俺は、メイド達に合図して、街道脇の空き地にテントを立てさせて、馬車をテント脇に移動して、マダラ達を馬車から切り離し、向こうの馬も一緒に張られる、厩舎用のテントも立てさせて、一緒に世話をして貰ったのだった。

アケミさんとメイド達に先導されて、あれよあよという間になし崩し的に、テントに誘導して貰い、先に風呂に入って一息着いて貰う感じの流れである。

正に、ナイスチームワークだ。


風呂に入っている間に、夕食の準備をして貰い、アケミさんには、ウェルディさんの着替え等を準備して貰った。


何やら、事情がありそうだが、他家の内情にズケズケ踏み込むのも憚られるし、どうすっかなぁ~。と、考えて、自分なりのある程度の方向性を決断した。


風呂から上がり、小サッパリしたウェルディさんは、テント内にお風呂やトイレが付いていること、そもそも内部の奥行きや広さの辻褄が合わないことに驚いて居た。


そうか、忘れて居たけど、普通は、そこからだよね。


「まあ、落ち着いて、まずは夕食にしませんか。」

とうながしつつ、全員を軽く、紹介し、食事を開始したのだった。


食べ始めると、ちょっと前に軽食以上を食べた筈のウェルディさんは、美味しい美味しいと連呼しつつ、ペロリと完食したのだった。


そして、食後のお茶を飲みつつ、話を進める事になった。


「まずは、色々と、助けて頂いた事にお礼を。 ありがとうございました。 貴方方が通らなかったら、今頃どうなっていた事か。」

と、頭を下げつつ、お礼を言うウェルディさん。


「いえいえ、もう先程お礼を言って頂いたので、十分ですよ。

まさか、これから向かう予定の領主様のご令嬢とは思いも寄りませんでしたが。偶然ってあるんですね。」


と微笑んだ。


そして、ウェルディさんから、ポツリポツリと語られる、ギュレット子爵家とギュレット領の問題点。

現時点のアルメニダ王国の内状等、実際余所者の俺達に話しちゃって良いのか?と疑問に感じる内容も含まれていた。


現在、アルメニダ王国は、ライリッヒ帝国と、戦争中であり、その為、国民や各貴族に、かなりの負担(税金や兵役、出兵等)を強いられている事。


ギュレット子爵家は、極最近、漸く、今までの頑張りの成果で、ギュレット牛のブランド化に成功しつつある状態、評判は良いが、物流と鮮度の問題で、輸送コストがネックになっていて、王都での収益に結びつかないのが問題である事。


更に問題なのは、これまでの先行投資と、国への農委税等で、王都近隣の大貴族からの借金のカタに、ブランド化したギュレット牛の成果と権利を取られそうな事等をツラツラと語って居た。


此方の予想以上のかなり、クソな展開である。


「ギュレット牛を其方で育てるという希望のようだが、ただ、普通に育てるのではギュレット牛の価値は出ない。」

と。


「ふむ、やはり、そうでしたか。そう言うノウハウが存在すると思ってましたが。」


確か、血統というか、遺伝子的な要素も大きいと思うけど、飼育方法や飼料によって肉質や味も変わるってのは、前世の日本でも聞いた事があるし、松阪牛だったかは、なんか、マッサージされてるとかTVでやってた気がするし。

ふむふむ・・・じゃあ、うちでタンク・カウ達の様に放ったらかしの飼育は難しいな。

特約を組んで、精肉として出荷して貰う感じにして、此方は、魔道具等で輸送コストや鮮度の維持に貢献する感じで話を進めるかな。

と脳内会議で答えを出したのだった。


「なる程、となると、こちらで飼育ってのは、難しいみたいですね。 生き物はデリケートですし、生活環境や気候が変われば、肉質や味に影響でそうですからね。

 例えばですが、これから、ギュレット領に訪れて、試食してみて、気に入った場合、当方に定期販売して頂く契約を結ぶ事は可能でしょうか?」

と方向を変えて質問してみた。


「勿論です! 勿論ですが・・・」

と後半の声が小さくなって行く。


つまり、その王都周辺の大貴族からの借金のカタにブランド牛の取り上げの催促が激しく、今回、この場所で遭難していたのは、それを回避すべく、伝手を頼って、借金のお願いに行った帰り道での故障だったらしい。

かなり切羽詰まった状況の様である。

現状、我々が現金化したのは、ほんの少しだけであり、大貴族からの借金の額によっては、足り無い可能性が大である。

そうなると、予定を変更して、サスケさんにスカイラーク号で王都辺りに先行して、売り捌いて貰って、,現金を用意するか?

等と頭の中で算段をした。


「まあ、そこら辺は、一度試食してみてからじゃないと決断は難しいですが、味に気に入れば、額によりますが、出資というか投資する形で、何とか出来る筈です。多分。」

と返答しておいた。

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