第306.5話 大きな問題

 誠に申し訳ありません。1話アップし忘れてました。

 第306話 と 第307話の間に幻となっていた1話がありました!

 何故かコメントとアップした筈の内容に食い違いがあるなぁ?とは思ってましたが、まさか、アップし忘れて居たとは…… 誠に申し訳ありませんm(__)m

 -------------------------------------------------------------------------------------------

産後の肥立ちにはかなり個人差があるのだが、俺のヒールのお陰か、骨盤の位置も戻り、翌日にはサクッと歩き廻る事が出来る程であった。

まあ、無理はしない様に厳命しているが、赤ちゃんが居るとそうも言ってられなかったりする。

数時間おきにおっぱいを飲ませ、ゲップを出させ、おしめを替えは随時行う。

こうして見ると、本当に子育てって大変である。


こんな乳飲み子を抱えれば、幾ら片親で働かないといけない状態でも、ほぼ仕事にならないのは良く判る。



託児施設や一歳未満の乳児を抱えたシングルの家庭にはやはり手厚い支援をして行かねばな……と改めて思うのであった。




まあ、そんな幸福を噛み締める日々の健二であったが、その一方では、苦虫を噛み潰さざるを得ない様な報告も受ける事となる。


件のクーデリアである。


「――反省は……無いのか。」


自分らが去った後の会議室の映像を見て呟く健二。


「で、ケンジ様、今後なんだけど、おそらく、まずは王都のドリーム・ランドやヒルズに何か難癖を付けるか、もっと酷いと従業員を拘束して人質にする可能性があるかもね。」

とコナンさんが告げてくる。


「本当にそこまでするのかな?」


「いや、下手すると、それ以上かもね。」


「え? それ以上って、実質的な戦争を仕掛けるって事?」


俺の問いに静かに頷くコナンさん。


「えーー!? マジかぁ。 いや、実際に勝てると思えるのが不思議だよね? だってさ、ここの場所の正確な位置って誰も知らないよね? 全部地下鉄使って来てるから、道すら知らないだろうし?」

俺が不思議そうに呟くと、


「まあ、だからこそ かも。 だって、正確な周囲の状況を把握していたら、ここが天然の要塞だって気付くでしょ? 普通の軍隊なら、まず森すら突破出来ないからね。」

とコナンさんが指摘する。



「だよねぇ。 どうするかなぁ。 俺、マックスさんの所とは戦いたくないなぁ。 マックスさん、こっちに移籍しないかなぁ? どう思う?」


「ドワース辺境伯は、気さくな方だけど、ある意味忠義に厚いから、祖国から領地ごと離脱は難しいんじゃないかな? 可能性は0じゃないけど、五分五分かな。」


「まあ、向こうの出方次第ではあるけど、クーデリア王国内のうちの各施設には注意を促す感じだけで良いのかな? それとも、もう一斉に引き上げちゃうか?

どちらにしても、もう以前の様には付き合えない国になりそうだね。 ハァ~ 残念だなぁ。」


「ケンジ様、一応拙者の方では、既にシャドーズに監視の強化を既に命じているでござる。 何か具体的な動きの兆候があれば、それから直ぐに撤退する感じでも間に合うでござろう。」


「うん、じゃあそう言う方向で宜しく頼みますね。 しかし、そうかぁ…… ハァ……」


一応方向性は決まった物の、ため息が止まらない健二だった。




そして、今、健二は更に重大な問題を抱えていた。


「アケミ~、早く決めてやらないと、可哀想だから、今日こそ決めようね。」


「ですねぇ~。 この子の将来にも関わる事ですもんねぇ。」


「どうしようか? アケミは何か『これは!』って感じの思い入れのある物とかないの?

俺としては、やっぱり女の子だし、可愛い感じが良いのかな?って思うんだけどね。

まあ、前から何度も話し合っている様に、『久美子』とか、『久子』とか、まあ夏生まれってところで、『夏子』もアリか?

愛称で呼ぶなら、順に クーちゃん、ヒーちゃん、ナッちゃんか。 うん、どれも可愛いな。」


「そうですねぇ。特にこれだ!ってのは無いんですが、スギタ姓に合う感じの響きの物が良いですねぇ。

ああ、でも結婚したら、姓が変わるのかぁ。 うーーん、『アキエ?』……アーちゃん、アキエ・スギタ 『サナエ?』……『ケイコ?』 あーー! 難しいです!

やはり、ここはケンジさんが、パパであるあなたに決めて欲しいです!」

と俺に切羽詰まった表情で視線を投げ掛けて来る。


「そ、そうだな。 パパだもんな。 この子はアケミに似て、黒髪黒目の美人さんになりそうだから、容姿に負けない可愛い、誰からも愛される名前にしたい。

そしてアケミ……ママの様に優しく、育って欲しい。 ふむ、そうだなぁ……『優子』はどうだろうか? ユウコ・スギタ。

前世の日本風にすると、杉田優子か。 うん、悪く無いね。 愛称なら、ユーちゃんか。 若干何処かの窓のシャッターから外を覗くイメージが浮かんで来るけど、それはさて置き、ユウコ。どうかな?」


「ユウコ……ユーちゃん、 うん、可愛いですね。 ウフフ、私に似て美人さんだなんて、ウフフ。 ユーちゃん、良かったねぇ、あなたはユウコよ? どう?」

とアケミさんが腕の中でスヤスヤ眠る可愛い我が子に話し掛けている。


「うん、優子……ユウコ。 良いんじゃないかな? ちなみにユウと言う字には『優しい』という意味が込められているんだよ。 フフフ、ユーちゃんに決めよう。」




フフフ、優子。 優子、良い名前なんじゃないかな? ああ、この子が健康にスクスクと育ちます様に! 女神様、良い第二の人生をありがとうございます!

親父、お袋! そしてお義父さんお義母さん、見て下さい! 貴方方の孫の優子です! どうぞ見守ってやって下さい。



俺は心の中で感謝の祈りを捧げるのであった。





さて、初めての我が子、優子たんは、今日も輝いてます。もうね、鳴き声まで可愛らしい。

それにね、ママに似て、端正でキリリとした美人さんなんですよ。


「ああ、俺は本当にマギカメを開発して良かったよ! 俺、偉い!!」

そう自分で自分を絶賛しつつ、パシパシとシャッターを切る、切る、切る。


「もう、一体、何枚同じシーンを撮るんですか! あ、あと、授乳中は、お願いですから止めてください!! は、恥ずかしいです!!」


アケミさんから、半分呆れ、半分口を尖らせつつ、叱られてしまった。


「ごめんなさい。」



そうそう、子供達にも、生まれた当日に逢わせたんだけどさ、サチちゃんの喜び様が半端じゃなかった。

「あ、赤ちゃん、可愛いーーー!」


「こ、コラ、サチ、大きな声出しちゃダメ!」


リックに叱られつつも、キャーキャーと喜んで居た。 まあ、流石に新生児を抱かせるのは不安があったので、お兄ちゃんのリックには抱かせたけど、流石にサチちゃんとエリックは、お互いもう少し大きくなってからだね。


「どうだい? 兄妹がまた増えたぞーー。」


俺の言葉にエリックが反応して、密かに嬉しそうにしていたのが、印象的だった。


勿論6人で家族写真を更新しておいたのは、言うまでも無い。



 ◇◇◇◇


優子が生まれ、8月に入る頃、やっと俺の興奮もやや収まり、遊んでばかりは居られないと、次のプランの実行に着手した。

何を作るかというと、環状線、枝線を作ったから、今度は外環状線というか、泉を中心にして、半径600kmぐらいの円周を走る線の建設を各国に打診したら、大いに喜ばれ、即決で作業員の休暇後から開始する事になっているのだ。


ほら、折角各国の作業員の熟練度が増したのに、勿体無いじゃん? だから、蜘蛛の巣状に鉄道網を張り巡らせれば、物流が大きく変わるからね。


経済が廻れば、自ずと税収も上がる、税収が上がれば、公共事業や福祉にも廻す資金が増えるし、民間の仕事も増える、正にWinWinと言えるだろう。


既に各国の枝線が出来た段階で、大きく水をあけられた感じだったのが、この外環状線の計画で、更に加速し、クーデリアだけ、景気が減退しているのである。

独自の情報網を持つ商会や商人達は、クーデリアの現状を招いた原因を良く知っていて、気の早い所では、既にクーデリアから他国への主拠点移動を開始したりしているらしい。


さて、クーデリア王宮では、連日脳筋な武官と強欲な文官が、正常な判断の出来る者達に詰め寄り、7:3の割合で、開戦の機運が高まっていると報告を受けている。


俺は密かに、ドリーム・ランドとヒルズで働くクーデリア国籍の人達にアンケートを取り、クーデリアからの撤退の際の身の振り方を聞いていたが、聞くまでも無く、我が国への移動を希望されたのだった。


なので、こちらも受け入れ準備を着々と進め、環状線の各駅の都市への配属等で上手く分散する感じに予定でしている。


こっちは、既に撤退の準備は万端で、何時でも発動OKとなった頃、件のデップリ大臣達のアホな計画の一部が知らされた。


ドリーム・ランドとヒルズへ押し入り、クーデリア国民である両施設のスタッフを人質に取る計画だ。

もう、驚きだよねぇ。 何でそれが人質となりうるのか、小一時間程問い詰めたいぐらいである。



ただ、気掛かりなのは、ドワースだけ。 俺はマックスさんに会談の申し入れをしようと決断するのであった。




「お久しぶりです。ドワース辺境伯。」


「ケンジ陛下、お久しぶりです。 何やら、噂では、お子さんがお生まれになったとか? おめでとうございます!」


「あ、ありがとうございます。 そうなんですよぉ~♪ 写真見ます? 優子って名前にしたんですがね、妻に似て、もう可愛くてぇ~。」


折角キリリと挨拶をしていたのだが、優子の話題を振られ、思いっきりデレデレになる健二であった。


「おお、これまた可愛い子ですなぁ。 いやぁ~、成長したら、嘸かしペッピンさんになりそうですな!」

と写真を見たマックスさんも目尻を下げる。



一頻り、デレデレになった後、気を取り直し、本題へと移行する。



「で、本題なのですがね、ドワース辺境伯は、クーデリア王宮内で現状どのような計画が進んで居るか、ご存知でしょうか?

どうやら、大臣とその取り巻き、更に同じ穴の狢の強欲貴族と、プライドの高い脳筋武官や軍関係者らが、我が国へ戦争を仕掛けようと考えているらしいです。

しかも、現地で雇ったスタッフ……つまりクーデリア国民ですね、これを人質に取って、うちに脅迫しつつ、有利に事を運ぶ予定なんだとか。」


俺の説明に、ポカンと口を開けて固まるマックスさん。



「え? クーデリア国民をクーデリアが人質に取る? それ、何か意味あるんじゃろうか?」


「まあ、全く無いとは言いませんが、それでも人道的な見地で、寝覚めが悪い程度の影響力ですね。」


「じゃよな? 何を考えて居るんじゃ?」


「ですよね。 でも、そうなると、我々はクーデリアからの一斉撤退を致します。 そしてここドワースもその例外では無いのです。」


「まあ、そうなると、そうするのが当然じゃろう。 うーーん、これは……困ったな。 正直な話、今のドワース領は、某かエーリュシオン王国との関わりがある物ばかりで収益構造が安定しておるからのぉ。

そうなると、もはや成り立たないのは明白じゃな。」



俺は、ここまでに至る経緯を資料や映像を交えて説明した。


「うーむ、これは一言で言うと、アホじゃな。」


「ええ、アホですね。」


説明を聞き、呆れた顔でマックスさんが吐き捨てる様に言い放っていた。


「ねぇ、ドワース辺境伯……いや、マックスさん、この際だからハッキリ言いますが、エーリュシオンに移籍しませんか?

ドワースには、お世話になった人も多くいますから、このままもし戦争となると、確実にマックスさんの所に、大きなしわ寄せ来ますよ?

そうなると、ここは確実に捨て駒にされて荒れ果てます。 まあ、うちの国内には絶対に進行出来ませんからね。


「じゃよなぁ。正確な場所さえ判らんのに、進軍とか、アホとしか思えん。 どっちにしても、あの森を突破出来んじゃろうに。」


「まあそこら辺は、きっと舐めてるんでしょう? あの森を。」


「このところ、何も王宮側から情報が来なかったので、不審に思っておったのじゃが、何と愚かな事に。 で、何時までに返事をすれば良いであろうか?

もう、9割方、心は決まって居る様な物なんじゃが、これでも祖国であるからのぉ。」


そう言いながら、少し悲しそうな顔を覗かせたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る