第307話 風雲急を告げる
外環状線の工事は順調にスタートを切り、両端と中間地点からの3箇所から6方向へレールを進めて行く、
つまり、それぞれの箇所から背中合わせに始点と終点へそれぞれ向けて工事して行く感じだね。
外環状線の総延長は、クーデリア国内を除くので、ザックリ約3000kmぐらいである。
しかし、難所と言われる箇所はかなり多く、28箇所ぐらいあるので、俺も合間合間で先回りして建設して行く感じである。
大河や渓谷に関しては、一応人や馬車が通れる橋も併設するという親切設計になっている。
もし、クーデリアがあんな事をシレッとやらなければ、考えた物を……な。
そうそう、路線の充実と共に、1つの効果があった。
盗賊の減少である。
路線が本格的に物流で利用される様になると、馬車による街道の移動量が激減し、盗賊達が干上がってしまったらしい。
よって3カ国では街道に出没する盗賊が激減した訳である。そう、マスティア王国、イメルダ王国、サウザンド王国では……である。
廃業して真面目な職業に転職してくれるなら良いのだが、身に染みついた盗賊業、早々簡単に更正なんて出来る訳も無く、結果、もっと稼げる場所へと縄張りを移動し、クーデリア王国では、これまで嘗て無い程の盗賊が移転して来てしまったのであった。
そして、クーデリア国内の治安は日に日に悪化し、荷物を載せた定期便等も5便に1便ぐらいしか届かないという荒れっぷりとなった。
そして多分、ここが最後のターニングポイントだったのだが、クーデリアは愚かな方向へ、思いっきり舵を切ってしまったのだった。
サスケさんからの報告が上がった翌日、マックスさんからの連絡で、
「あのバカ共、とうとう破滅の方向へ舵を切りやがった。 スギタ陛下、このドワース領は、エーリュシオン王国への編入をお願いしたい。
我がドワース家はどうなっても構わないので、領民だけは何とか助けて頂けないだろうか?」
と言われたのであった。
即日、俺はコナンさん、コルトガさんを引き連れ、ドワースへと赴き今後の話し合いを行ったのだが、マックスさんは予想以上の手土産を用意してくれていた。
ドワースだけでなく、周辺の仲の良い領主……トライゼン子爵、サンゼルマン子爵の2名こちらサイドに引っ張って来たのである。
元々、ドワース辺境伯の寄子で、寄親寄子の関係だけで無く、旧知の友人なのだとか。
で、今回の王都からの進軍ルートを考えると、幾つかのルートがあるが、そのどれもがドワース辺境伯領、トライゼン子爵領、サンゼルマン子爵領の何れかを通る事となるのだ。
ちなみに、旧ラスティン子爵の寄親は、また別で仲の良くない某伯爵が寄親だったらしい。 まあ、どっちにしても、現在は王家の直轄で代官が仕切っているので、関係無い話だけどね。
そこで、4日間手分けして各領地の防備を固めて廻ったのだった。
そして、クーデリアの作戦発動前日にクーデリア国内の拠点全てを一斉に撤退させた。
更に建物を含む敷地はマギ鉱石で強化したシールドでドーム状に覆った。
これで、敵陣の中に安全地帯を確保出来た形にもなる。 ワッハッハッハ、笑いが止まらん。
まあ、精々明日の朝になって地団駄を踏んでおくれ!
「しかし、コナン殿は、本当にエグい作戦を思い付かれますなぁ。 いやぁ~、敵に同情してしまいそうになりますな。ワッハッハッハ!」
とマックスさんが笑っている。
「まあ、しかし、普通なら実行不可能な作戦ですから。 これが出来るのは、一重にケンジ様の力があってこそですから。」
コナンさんは謙遜しているが、実際の所、本当にエグい作戦である。
実質上、これがハマれば、こっちには被害皆無で敵は壊滅的な被害は必至である。
壮大な罠に嵌まってしまえば、後は放置でも良いし、間接的にジワジワと追い込む事も出来る。
翌日、クーデリア王都のドリーム・ランドとヒルズに向け、王都第一騎士団率いる兵200名が向かったのだが、完全な空振りに終わった。
何処にも人影すら見当たらないその敷地内に入る事すら出来ず、見えない結界を壊す事すら出来ずにスゴスゴと戻って行った。
そして、騎士団を含め約5000名で構成された大部隊が、意気揚々と王都を出発した。
途中、4貴族から出兵された約3000名と合流予定となっている。
しかし、大部隊が王都を発った丁度そのタイミングで、王宮へドワース辺境伯、トライゼン子爵、サンゼルマン子爵の3名から、クーデリアからの独立を宣言されるのであった。
クーデリアにしてみれば、寝耳に水であったが、どうせ、辺境の3貴族の戦力等どうとでもなるという事で、大部隊を率いるラットン将軍に連絡だけ入れ、ついでに始末する様に指示しただけで、基本作戦の変更は無かった。
騎兵の進軍はその気になれば、早いのだが、歩兵の移動は非常に遅い。 ましてや、兵糧を詰め込んだ荷馬車を従えての行軍である。
その為、辺境にあるドワース領まで辿り着くまでには約1ヵ月近い時間が掛かる。
更に合流して、人数が増えるので、ドンドンと動きが遅くなっていくのだ。
ちなみに、平和な時代であった為、クーデリアの軍隊に、本格的な戦闘経験者は皆無で、将軍も含め全ての指揮官も、ここまでの大部隊による行軍やそれに伴って蓄積される兵達の疲労や士気の低下等のノウハウは無く、全ては座学で得た知識だけであった。
「しかし、恐ろしい程にコナンさんの予測通りに事が運んでいるね。」
俺は、サスケさんからの報告を聞きながら、改めて驚いていた。
ちなみに、出兵から既に10日が経っている。
クーデリアの王都では以前の騒動時と同様で、一般庶民らが入手可能な物資が枯渇し、大問題となっていた。
近隣に領地を持つ貴族達へ物資の緊急搬入を要請するも、近隣の領地でも王都と同様に物資が枯渇しており、それどころでは無い状態であった。
更に悪い事は続いた。
出兵から15日が過ぎた頃、突然クーデリア国内の全てのマギフォンが繋がらなくなってしまった。
その為、クーデリア国内では、旧来のダンジョンから希に出土した、通信魔道具か、伝令を使っての通信しか取れず、クーデリア王宮も王都も大混乱である。
マギフォンでの通信連絡に慣れ親しんだ者達程、容認出来ない状況であった。
これは、コナンさんのエグい作戦の内の1つである『ボッチ作戦』発動であった。
救援も指示も仰げない状況を作り、『既に王都は滅んだんじゃないか?』とか『見捨てられた?』とか大いに動揺して頂こうという趣向である。
更にもっとエグいのは、シャドーズによる、『毎日兵糧奪取作戦』である。
序盤で、ガッツリ奪取してしまうと、確実に気付かれるので、日々少しずつ兵糧を減らして行く様にしている。
つまり、1日分が1.2日分とやや消費量が多い感じに減らすのである。
その結果、補給部隊の隊長が消費の異常さに気付いたのは、なんと出兵から22日が経った頃であった。
「おい、何だこの残存数は? 計算が合わないじゃないか?」
「ハッ! それが、出庫量と現存残数を照らし合わせると、何度計算しても日々余計に出している感じなのですが、毎食チェックしていますが、不正はありません。」
「何でもっと早く報告しなかった? これから先は入手出来る所は近隣の農村や集落程度だぞ!」
補給部隊の隊長は、直ぐさま上官へと報告を挙げるのだが、この上官の貴族が、また実に良い仕事をしてくれた。
「え? 物資が足り無い? どう言う事? それ、拙いじゃないか! こんな事が上へ知られたら、俺の出世に響くだろ!
何処か、近隣の農村を見つけたら、補充しておけ! 良いか? 内密にだぞ!」
補給部隊長を怒鳴るだけ怒鳴り、そして上官へは報告しなかったのだ。
補給部隊長は、イライラしながら部隊へと戻り、各小隊長を集め進行方向上の農村等を見つけ次第、根こそぎ持って来る様に指示をだしたのだった。
しかし、彼らは知らなかった。
この先には、2箇所しか農村は無く、その何れも既にシャドーズによる仕込みがある事を。
翌日の午後、進路を逸れる事、10kmに農村を発見した補給部隊は、直ぐに食料の奪取に入る。
シャドーズの面々が扮した村人達は、迫真の演技で怯えつつ、倉に案内して、精製する前の殻付きの小麦の袋を見せ、それをウマウマと持ち帰らせた。
さて、この精製前の小麦だが、汚水の下味が付いていたりする。 倉の中では、匂いを浄化していたので気付かないのだが、一旦袋から出すと、とても食える匂いはしないのである。
しかも、精製前の物なので、脱穀からする必要があるのだ。
そして頑張って脱穀しても、汚水味の小麦というオチである。
更に3日後、最後の村でも同様に汚水小麦と、傷んだ野菜を奪取させた。
そして、行軍する大部隊の目に漸く俺の仕込んだ大物が現れたのであった。
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