第312話 勇者の日記
翌日、朝食が済んだ後、ドワーフやエルフ達からゴーレムについての情報収集をしてみたが、「エルフにはそう言う物を作ろうと考える様な奴居ませんって。」と大笑いされてしまった。
何でエルフって現実主義者が多いだろうか? 何かこう、熱いパッションとかって無いのかねぇ。
ロボットだよ? いや、この世界にロボットアニメ無いから判らないだろうけど、何かこう、男のロマンを感じないのかねぇ。
その点、ドワーフの親方は違った。
「ガハハ! 相変わらず、面白れぇな! おい!! だけどよぉ、あんなの作れるんか? え? 研究してる奴? 知らねぇなぁ。」
――結局、何も情報が無かった。
親方には、刀の強化版の試作だけをお願いし、ゴーレム作成案件は、そのまま取りあえずライフワーク・リスト入りとなったのだった。
俺は、子供の相手をしながら、打倒ゴーレムの事で思いを巡らせていた――
関節部分を破壊するにしても刀で切断は正直厳しいんじゃないかと思う。
であれば、破城槌的な――いや、パイルバンカー的な武器で関節部分を横からへし折る?
パイルバンカー……か。
ふむ。面白いかも知れないな。
問題は何で杭を打ち出すか? 火薬? 電磁コイル? それとも魔法で撃ち出す?
結局何機か試作してみたんだけど、ダメでした。
ダンジョンから持って帰って来た胴体や足等に試作品でテストしてみたんだけど、丸っきり役立たずで、逆に持って居た俺が吹き飛ばされてしまった。
なるほどね、作用反作用?って訳だね。
火薬は作れなかったけど、火魔法の爆発を利用したら、杭がもの凄い勢いで『撃ち出されて』しまった。
そう、本来ある程度の所でストップする筈の杭がストッパーを破壊して……ね。
その時の反動で俺の腕は粉々に折れるし、肋骨は肺に突き刺さるしで、久々にヤバい状況を体験した。
いや、ここまでの怪我は初めてなのか?
兎に角、ビックリした。
ちなみに杭だけど、ここまでの犠牲を払ったにも拘わらず、全く刺さりもせず、先が潰れただけだった。
杭の材質を換えたり、付与を付けてみたりしたが、一番マシだったのはアダマンタイトとミスリルの合金に付与を付けた物だったが、3cmぐらいの穴が開いた程度だった。
杭の材質も重要だけど、結局のところ、刺さる刺さらないの結果には撃ち出される速度と杭自体の重さが重要っぽい。
なるほどねぇ~。 正に物理の実験だな。
しかし、望むと望まざるとも、結局敢えて作る事を封印してきた鉄砲……まあ銃火器って奴か、あれになっちゃうんだなぁ。
この世界で大砲や銃と云った兵器は存在しない? もしかしたら知らないだけかも知れないけど、どうなんだろう? 過去の勇者とかって作ってても不思議は無いけどな。
スタッフ達に聞いてみたが、やはり誰も首を傾げていたが、アニーさんが「図書館に確か勇者様の伝記の日記があった様な……」と言って来た。
「え? 勇者の日記!? えー!? そんなのあったの?」
「そうなんですが、 多分日記だと思うんですけど、何やら勇者様の国の言葉で書かれていて、誰も読めないらしくて。 あれ? 報告入ってませんでしたか? 割と図書館を作って、本を集め始めた頃の話ですが?」
マジか! いや、全然記憶に無いね。
「ゴメン、報告を受けた記憶が全くないね。 何か他の事に集中してたんだと思う。 ゴメン。」
俺は早速、城から図書館へと移動し、司書にお願いして、その『勇者の日記??』なる本を出して貰った。
「これなんですが、どうやら勇者様のお国の文字らしく、誰も読めなかったみたいです。」
と申し訳無さそうに司書が両手に手袋を嵌めて持って来た。
何かそこまでされると、直に素手で受け取るのが悪い感じだが、一応気を遣ってクリーンを掛けてから受け取ったのであった。
おお、確かに『日記』と日本語で書かれているな。
俺は黒皮の表紙に金泊の文字で日記と書かれた4cmぐらいの厚みの本を撫でつつ久々の日本語に心を躍らせた。
「ねぇ、これってどの時代の勇者の物なの?」
「さぁ、おそらく2代以上前だと思います。」
司書のお姉さんは申し訳なさ気に教えてくれたのだった。
なるほど、詳細は不明ってか。 まあ、読めば判るのか?
しかし、他人の日記を読むのはプライバシー保護の観点からしてどうなんだろうか? そう考えると、ちょっと背徳感?あるが、まあ時効って事で許して貰おう。
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俺の名前は前村翔太、西暦2001年6月18日生まれの16歳だが、いつもの高校への通学途中の道で段ボールに入れられて捨てられた子猫を発見し、大の猫好きの俺は我慢しきれずに道を横断して駆け寄ったら、マンホールの蓋が開いてたらしくて、思いっきり落下した。
そして気が付くと、白い部屋の様な空間の様な、ちょっとこの世の物とは思えない所に立っていた。
怪我はしてなかったけど、いつの間にか、変な服に着替えていた。 ちょっと状況が理解出来ずにオロオロしていると、声を掛けられ気が付くと金髪の綺麗なお姉さんが立っていた。
聞くとドリアスって世界の主神でエスターシャって言うらしい。 女性で綺麗だから女神様か。
ラノベを読んでいたので、すぐにハッと状況が飲み込めた。 どうやら召喚、それも勇者召喚なんだって。
ひゃっほーーー! って、思わず俺が叫び声をあげると、苦笑いされちゃった。
「じゃあ、魔王とかやっつけて、ハーレム、ウハウハな感じですね? チートマシマシで?」って言ったら、ダメだって。
なんだよーって思うよね。 折角呼んでおいて、何も無しで放り込むのかと文句を言おうと思ったら、3つだけチートくれるってさ。
チェッ、しけてるぜ! とは言え、行くのは剣と魔法の世界だって。 魔王も居るけど、この世界の魔王は普通に良い人なんだってさ。
じゃあ、俺は何を倒す為に召喚されるのか? と聞いたら、何でも邪竜を倒して欲しいらしい。
「えー? それだけ?」と文句を言ったんだけど、綺麗な顔の女神さんが困った様な顔をしたので、一応謝っておいた。
で、でよ、くれるチートだけど、全魔法適正と、成長促進、それに剣術らしい。
「更に、今ならお得! 何とマジック・ポーチをプレゼント! 更に更に! 勇者武具セットもプレゼントしちゃいます!」
と得意気にドヤ顔で言われた。
何処のTVショッピングだよ。 と心の中で突っ込んだけどな。
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うーーん、これは高校生がやって来た感じなのか。
なんだろうか、実に『うーん』な感じだなぁ。
しかし、苦笑いしながらも俺はそのかなり酷い文章の日記を読み進めて行ったのだった。
さて、この勇者だが、日記によると書かれたのは、今から1000年ぐらい前っぽい。
だから、多分、前の前の前辺りって事になるのかな。
不思議な事に、時代を超越してこの世界に召喚されているっぽいのである。
しかし、アレだな。 何でこんなのを選んで勇者やらせたんだろう? お世辞にも良い人物とは言えない気がする。
ただこの高校生の功績は、1000年後の俺にとって、非常に大きかったと言わせて貰おう。
そして、「ありがとう」と。
奴のお陰でイメルダに味噌や醤油が発展したみたいだし。
なんか、何時召喚されても良い様に、色々と調べて暗記してたっぽいんだよね。
凄いよねぇ。 何で召喚の準備をしてたのかは、ちょっと不明なんだけどね。
どうやら、そう言う願望があった、イタい子だったのかも知れない。
でも、召喚から5年の歳月が流れ21歳になった奴は、ちゃんと自分の使命を果たした様だ。
ちなみに、その5年の中で4度挑んで3度かなりヤバい状態で負けている。
「ふぅ~、何だかんだでやっとか。 結構苦労したんだな。
しかし、やっと半分ぐらい読んだ所で、5年かぁ。 思わず先に結末を読んで見たくなるけど、いや、ここは我慢だな。」
俺は一度目を休める為にコーヒーを取り出し、ユッタリとソファーに背を預けるのであった。
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