第313話 勇者の残した物
使命を果たした勇者は、自らをハンゾウ・ハットリと名乗り始めた。
どうやら、最後に邪竜を仕留めた忍者スタイルで行くらしい。
なるほどね。 ここでこの名前が出て来るのか。 あれれ? でも前の勇者もそんな名前じゃなかったっけ?
まあ、話は戻るが、勇者は使命を果たした後、同じパーティーに居た大魔法使いの女性、回復役の女性、それに4カ国の王女を妻に娶ったらしい。
「なんだよ!それ!! 一瞬でもこいつの事を見直して感動してしまった1時間前の俺を返せ!!」
どうやら必死に頑張ったご褒美は『ウハウハのハーレム』だった様だ。
しかも、6人の妻だけでは飽き足らず、他に愛人や妾も沢山囲い込み、酷い内容であった。
きっと、同郷の者が後に召喚され、読んだ時に自慢したかったのかも知れないが、全然羨ましいなんて気持ちは無い。
何度読むのを止めようとした事か……。
でも読んだ。 俺が読むのを止めようかとしたページの最後に必ず、俺の欲しい情報を臭わせるから始末が悪い。
所謂、『チャンネルはこのままで!』って奴だ。
そして、何ページもグダグダが続くパターン……。
こいつの唯一の取り柄というか、長所は多分『物作り』で、今も残って居るかは不明だが、過去に黒色火薬や、井戸用の手押しポンプ等、結構色々な物を作っているのである。
そのお陰でこの世界の文化はかなり進んだのかもしれないな。
「長かった20代を終え、やっと30歳代に入ったぞ。
しかし、さっきから、前振りだけはチョロチョロしているんだが、肝心の本題が一向に始まらないんだよなぁ。
本気で銃を作る気あるんかい!」
と思わず日記に突っ込んでしまいつつ、先を進めた。
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――そこで俺は考えた。
やはり渋めの30代はダーティーなチョイ悪親父で攻めるべきだろうと。
ダーティーと言えば、44マグナムだ。
俺は早撃ちマスターを目指すぞ!!
そこでおれは夕日のガンマンを目指すべく、ピストルの開発を思い付いた。
フフフ、尤もベッドの上では遅撃ちだがな!
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「軽ぅっ! 動機が軽すぎる 流石は勇者クオリティ」
思わず突っ込んでしまった。
まさかのファッションの一部で銃の開発を考えるとは……な。
しかも、チョイチョイ混ぜ込んで来る下世話な下ネタがウザい。
何自慢なの? と。
更に7ページぐらい進み、やっとピストルの開発が始まった。
そして、10ページ目には銃身が破裂して、大失敗した。
「ハンドガンを作る予定なのに、何で口径が8cmもあるんだよ! それを手で持って撃とうと考えるとは……」
失敗の原因の根本は恐らくだけど、こいつの発想と認識不足、それと緻密な工作技術の欠如じゃないかな。 それともバカだから?
何となく、銃身の焼き入れに失敗して反った銃身をそのまま使用した形跡もあるな。
そして、材料の強度不足の問題もありそうだ。
しかし、この実験失敗で流石の勇者も大怪我を負ってしまったようだ。
だって、次の日記の日付が1ヵ月ぐらい空いて、更に字が結構歪な感じでまだリハビリ途中って感じだったからなんだけどね。
それから、グダグダが何ページも続いた後、どうやらピストルブームが冷め、他の事に現を抜かしていた。
「え? 1回の大失敗で折れたのか! 弱っ! 俺も人の事は言えないけどな。」
まあ、でも過去の勇者の失敗原因や難しさは何となく理解出来た。
そして、日記の月日は流れ、80歳を超えた辺りで、過去を振り返った内容が多く出て来た。
中には自分の事だけで無く、妻達との不仲や子供の教育の失敗談等、後悔を色々綴っていた。
故郷の事や、どうしても再現出来なかった料理の事も増えて来た。
特にラーメンに対する熱い想いには、なるほどと共感した。
彼は、それ程料理に対する知識はそれ程深くなかったらしい。
味噌や醤油の作り方は覚えていたのに、簡単なハンバーグやスパイスの配合が難しいカレーライスも再現出来なかった様だ。
最後は89歳ぐらいの日記のページで、その1ページだけは、非常に感銘を受けた。
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日本から召喚された勇者諸君へ
どうだい? 俺が半生を掛けて日本化した食文化は? おそらく召喚された諸君の多くは、ここイメルダ王国へやって来るだろう。
ここには、俺の作った味噌や醤油があるからな。
もし出来れば、俺が再現出来なかった料理を再現して広めて欲しい。 そして可能なら、俺の墓にそれらをお供えしてくれると嬉しい。
多分、俺の墓はイメルダ王宮の中庭の桜の木の横にある筈だ。
そうだな、先輩として幾つか忠告と俺の持って来た知識を諸君に残そう。 もしかすると、その中のどれかは伝承されずに消えてしまっているかも知れないからな。
まず、忠告だが、ハーレムは止めとけ! 必ず夫婦仲に影響を及ぼす。 若い内は良いかも知れないが、40代を過ぎると心が落ち着かなくなるぞ?
更に50代に入ると、自分の入る隙間が無い事に気付くだろう。 俺は最終的に20人程の女性を娶ったが、今ではその誰もが俺の事を見向きもしないし、誰も年老いた俺の世話をしようと言う者は居ない。
これは、複数の女性を娶り、蔑ろにした罰が当たったのだろう。 子供も多く作ったが、その所為で跡取り争いや、親の七光りで問題を起こす奴ばかりだった。
妻達に任せっきりでちゃんと躾をしなかった俺の自業自得なんだろうが、正直寿命を迎えそうなこの歳で、そのいざこざを目にするのは辛いぞ。
さて、俺が諸君らに残せる物は知識だ。
味噌や醤油の作り方、日本刀の作り方、手押しポンプ、旋盤、魔導バイク、黒色火薬、ニトログリセリン、それらを使った爆弾、そして失敗して諦めたが銃の設計図等だ。
これらの設計図や解説書は、同じ日本人の君らだけに託したい。
この日記の革表紙を上手く剥ぐってみてほしい。そこに全てを残してある。
ああ、最後にもう一度故郷のラーメンが食べたかった。
では、諸君らの健闘を祈る。
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そしてソッと革表紙を捲ると、そこには空間拡張されたスペースがあり、その中から日記の最後のページにあった色々な資料や設計図、説明書等がゴッソリ出て来たのであった。
そうか、ラーメン食べたかったんだな。 俺の場合、おにぎりだったけど、ラーメンも食べたかったからなぁ。 うんうん、気持ちは判るぞ。
よし、今度春になったら、イメルダ王国の王宮のお墓にラーメンのお供えでもしに行くかな。
まあ奴の故郷のラーメンが何ラーメンなのかは判らないけどな……。
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すみません、コピペミスで前話が被っておりましたm(__)m
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