第300話 暑すぎる夏

幸いな事に、高速鉄道の件は、上手く纏まった。

結局、2つ目のプラン……つまり、各国で作業員を用意し、責任持って条件を履行するというプランね。


3カ国の工事開始はジェイクさんの所が終わり次第って事になっているから、ガンガン一気に進めよう。


作業員達の士気は高く、日増しに洗練されていく。

作業員主体で工事手順の最適化を行ったらしく、現在、とうとう1日に体250本前後まで増え、大体7.5kmが延長されていくようになった。


実に素晴らしい。 思わず拍手して、全員に金一封してしまったよ。


俺もそんな彼らに応えるべく、先回りして、渓谷や大河に橋を架け、トンネルセクションを作って廻った。


そして、全て俺の担当する箇所が終わった頃、作業員全体を纏めて居る総監督から相談があった。


「ケンジ様ぁ、ちょっと相談があるんだがよぉ。 今少し良いですかい?」と。


どうやら、日々の工事での問題点があるらしい。


「日々、橋脚の設置が洗練され早くなって行ってるんですがね、頭打ちになる原因が判明したんでさぁ。――」


総監督の言う問題点は、移動してドンドンと先に進む最前線に宿泊所の設営が間に合わないというか、その時間が勿体無い状態なんだとか。

大体、現在20km事に開拓、設置を繰り返している宿泊施設ではあるが、場所によっては余計に開拓する必要が出てしまい、無駄と考えているらしい。


「まあ、言われてみれば、確かにそうだな。 うん、了解。 ちょっと良い方法を考えてみるから。」


そう答えて、幾つか改善策を検討した結果、宿泊施設列車を作成する事にした。

ゲートで固定宿泊地に繋ぐ事も考えたのだが、常設型ゲートの存在が各国に筒抜けになるので、積極的に使うのは避けたのである。

既存の予備車両を改造し、10両編成を2セット作成した。内部は空間拡張の付与を施してあるので、十分な居住空間が確保出来た。

まあ、宿泊施設列車への乗り降りは、仮設タラップになるが、これなら毎回設営する必要も無く、レールが日々延長されても自走させれば良いだけである。

逆に、何故今まで思い付かなかったのかが、不思議なくらいだ。

早速導入すると、作業員やその世話をする者達から大喜びされ、やはり、もっと早くに導入すべきだったと痛感したのであった。


同様の車両を更に6セット作成し、来る3カ国の枝線作成時には活用しよう。


これに気を良くした俺は、調子に乗って、更なる効率化を目指し、前世で見た橋脚の上に自走して自動でレールを延長して行く工事列車を思い出して作ってみる事にした。

本来なら、油圧等を使った結構大掛かりな仕掛けを必要とするのであるが、そこは魔法のある異世界である。

空間魔法や重力魔法等を駆使すれば、簡単とは言わないが、同様の結果は再現可能なのだ。

10日間程、開発に要したが、思いの外良い物が出来上がったと思う。


現場で試しに使って貰ったところ、評判も上々で、3日ぐらい運用して慣れた頃には、1日に10kmのペースまで上がったのであった。


更に総監督からの提案で、作業効率が上がった事で、手が空く作業員が増えたから、勿体無いので更に半分を別チームにして、ドリーム・シティ駅から逆側へ工事を進めてはどうだろう? と打診された。


俺としては、楽になった分、休みを増やしても良いと提案してみたが、

「なぁ~に、気持ちは嬉しいんですがね、これ以上楽させて貰っちゃあ、他の現場が大変になりまさぁ! ガハハハ」

と言われ、納得したのであった。


時計回りと反時計回りの工事チームはお互いに競い合うかの様に工事を進め、結果、1日に20km前後というハイペースでレールが延びて行く事となった。


7月の半ば頃には、既に総延長900km近くまで伸びていた。


「ここまで来れば、終わりが見えて来たな。」

そう思って油断していた頃、事故が起こった。


幸い、誰も死傷者は出ず、設備等の被害も出なかったが、夏特有のゲリラ豪雨による落雷である。


「いやぁ~、死ぬかと思ったばい。」

と落雷にあった作業員は笑っていた。 幸いだったのは、俺が事故防止で全員に装備させていたシールドが機能してくれたらしい。


落雷した本人は、「これで俺ぁ、『赤い稲妻』たいっ!」と痛い二つ名を喜んでいたが、俺としては流石に笑い事ではなかった。


そこで、急遽車両に走行時だけでなく、制止時にも自動起動する耐雷撃のシールドを付加し、橋脚10本に1本の割合で避雷針を設置する事にしたのであった。


避雷針設置で数日効率は落ちたが、それ以降は順調であった。

7月が終わる頃には1週間の夏休みを与え、作業員達に骨休めをして貰った。




話は変わり、俺とアケミさんだが、順調にラブラブである。

そんな俺達に当てられたのか、城のスタッフの中で結婚する者が日々急増中である。


城だけかと思っていたら、実は6月の俺達の結婚式以降、神殿では、日々結婚の儀が行われていて、結婚ブームが沸き起こっているらしい。


良い事である。


まあ、良いニュースの他には、若干悪いニュースもあって、長年苦楽をともにして来た、あの押しの強い元祖村長が、ダウンした。

心配して飛んで行ったのだが、何の事は無く、熱中症であった。


直ぐに治療したので事なきを得たが、いい加減、歳なんだから、自重して欲しい物である。


当の本人曰く、「なに、ワシはケンジ様とアケミ様の子をこの目で見るまでは死にませんのじゃ!」と宣っていたが、憎めないキャラだけに長生きして欲しい。

まあ、最悪、コルトガさんにも与えたあの秘薬というか、実を食べて10歳若返るってのもアリなんだがな。


今年の夏は、例年より暑いらしく、巷ではドリーム・シティとドリーム・ランドに作った流れるプールとウォータースライダーが大人気である。



尤も、この暑さが原因かは不明だが、他国では、何箇所かの地方で水不足による被害が出ているらしい。


近くに川があるのに、水位や距離の問題で水が引けないらしいのだ。


早速俺は工事をしている作業員達から、50名を選抜し、各国に打診して、該当地区の水路の改修等を提案したのであった。


俺達が廻った被害のあった地域では、農作物の半分がヤラれていて、かなり悲惨な状況であった。

一応、気休め程度に『大地の息吹』を掛けておいたが、どうなる事やら……。

枯れた作物を見て項垂れている農民達の姿に心が痛んだ。





そして、8月も終わりに近付いた頃、待望の山手線がとうとう完成したのであった。

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