第299話 使徒様の使命とは?

「まず、最初に先日の婚礼の儀のお礼を。 先日はありがとうございました。 お陰様で立派な式となりました。」

と俺とアケミさんが頭を下げると、


「な、なんと、畏れ多い。 頭をお上げ下さい使徒様。 王妃様。」

とロンデリンさんが慌てて俺達を止めに入る。


アケミさんはアケミさんで、「ヒャッ! おおひしゃま!?」とそこに反応して盛大に照れていたし。


「それなんですが、何度もも言いますけど、『使徒様』では無いです。 そもそもですが、使徒様の定義って何ですか? 無学な俺に教えて頂けますでしょうか?」


「そ、そんな、使徒様へお教え出来る様な者では無いのですが……。 いえ、そうですね。使徒様と言えど、この世界の事でご存知無い事もあるのか?…… いや、私の信仰度を試されているのか?」

とブツブツ言いながら、納得出来たのか、説明を始めた。


「えー、では僭越ながら、不詳ロンデリンが知る限りの事をご説明させて頂きます。――――」


曰く、使徒とは、女神様やその他の神々によって祝福されし神に選ばれた人族やその他の種族を指し、持って生まれた時点で、某かの使命を帯びているらしい。

ある者は人では到底叶わぬ悪や魔物を倒し、ある者は人々を導き、ある者は文化や文明を大きく進展させ、ある者は平和や幸福をもたらす。


「うーん、漠然としてますね。 それって、神殿のシスターや司祭長もそうじゃないですか? 孤児を助け育て、人々の怪我や病を治し、幸福を願い日々送られていますよね?

神殿関係者だけじゃないですよね? 街の人達だって、人助けをしたり、新しい魔道具を作ったり、美味しい農作物を作ったり……そう言う意味では、みんな全員が使徒なんじゃないですか?」

と反論してみた。


「いや、まぁ、そう言われてしまうと、そうなのですが、しかし決定的に違う事があるのです。 それは神様の加護や祝福等の特定の恩恵が付いていたり、天界からの某かの啓示があるのです。

先日の婚礼の儀の時の様に……」

と言い切り、熱い眼差しで見つめられたのだった。


うーん、参ったなぁ。


「なるほど、仰りたい事は、何となく理解しました。 しかし私は使徒ではないです。 明確な使命を帯びている訳でも無いですし。

そもそも、先日が女神様とは初対面ですからね。

それに、考えて見て下さい。 仮に……仮にですよ? 私が使徒であったとして、そう言う某かの使命を帯びていたとします。 しかも、仮にですが『口外してはならない使命』だったとしましょう。

もし、そこで貴方方が『使徒様だー』と騒ぎ、それが世間に広まった場合、その極秘の使命の遂行の妨げになりませんかね? つまり女神様を信仰され、一番民衆を神の御心に沿う様に導く筈の『貴方方』が、その御心を邪魔する結果になる とは考えられませんか?」

と俺が彼らの存在意義を突く作戦で揺さぶりを掛けてみた。 その効果の程を女神様に祈る気持ちで……。



すると、どうだろう?

驚きの余り、目の玉が落ちるんじゃないかと云う位、目を見開き、愕然とした表情で慌てるオッサン2名。


「アッ! あぁぁ……私は何という思い違いを!!!!」

と叫びながら、両手で頭を抱えている。


フフフ、効いたみたいだ。


「な、なるほど! 確かに。 確かに仰る通りでございます。 流石は使徒様……いえ、極秘使命を帯びたお方。」


うん、何かちょっと方向が怪しいな。 俺、女神様の隠密じゃないからね?


「なにやら、うちのステファンに、こちらに神殿本部を移したいとか仰ってたとお聞きしましたが、それは女神様の意思に沿う事なのでしょうか?」


「ハッ! そ、そうですね。 いえ、そもそもそう言う啓示があった訳ではありません……」


「では、そう言う話は聞かなかった、無かった事にして宜しいですね?」


「ええ……。 極秘使命を帯びたお方………いえ、スギタ陛下、これからも我らへの導きを、宜しくお願い致します。

全国の神殿には、『使徒様の件は勘違いであった。 絶対に騒がぬ様に』と廻します故に。 どうか、お許し下さい。 ついでに、私がここに滞在する事もご許可を。」


「ええ、判って頂けたのであれば、安心です。 私としても、神殿とは、今後も仲良くして行ければと思っておりますので。 これからも宜しくお願い致しますね?」


「ええ。勿論、宜しくお願い致します!」





ふぅ~、何とか最終手段を使わずに、イケたな! 一時はどうなるかと思ったよ。


その後、少し雑談をして、ホクホク顔で神殿を後にしたのであった。


神殿を出た後、アケミさんが、

「流石は、私の愛する旦那様です! 凄かったです! 良く丸め込めましたね! 丸め込んだ時のあなたの悪い笑み、ドキッとしちゃいました!」

と褒めてくれたのだが、


「何か、人聞きが悪いって! 丸め込むとか クックック。 まあ丸め込んだね。

あの人達って、基本悪い人ではなく、『人々に女神様の福音を!』って事が原動力でしょ? 普通宗教ってさ、割と色々な利権とか神様とは関係無い一部の人の思惑なんかで曲げられたりする事があるけど、あの神殿の関係者達って、そう言うのが無いからね。

視野が狭くなって見落としている所を、上手く突けたのが幸いしたね。 でも、実際にそうでしょ? もし密命なら………いや、密命ならあんな派手な登場はしないか。」

とサプライズの事を思い出して、首を横に振るのであった。


まあ、取りあえず、これで急場は凌いだよね? 大丈夫だよね? と考えつつ、2人で手を繋ぎ、街を歩いて帰るのであった。




午後からは、トンネル区間の工事を2時間程で終わらせ、工事現場の最前線に立ち寄ると、作業員達から、口々に、結婚のお祝いの言葉を頂きつつ、逆に激励と差し入れをした。


「各国への延長がほぼ決まってるから、引き続き無理無い程度で、よろしくね! 先は長いから、焦りは禁物だよ!」


「「「「「へい! 任しておくんなせぇ!」」」」」

と嬉し気に返してくれていた。



後に、彼ら作業員達が、この世界初の『スギタ建設』という建築会社の主要メンバーとなり、この世界に建築ブームを巻き起こしのはもう少し先の話であった。



城に戻ると、アケミさんと子供らが笑顔で出迎えてくれた。

昔からの憧れであった、『お父さん、今帰ったよぉ~』の図である。


子供らと一緒に大浴場に入り、背中を洗ってやったりしたのだが、少し見ない間にリックがえらくガッチリした身体になって、背もかなり伸びていた。

日々、コルトガさん達にかなりしごかれているらしい。


リックとエリックが本当の兄弟の様に、仲良くしているのを見ていてホノボノとした幸せを感じる健二であった。

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