第276話 ジジがキレる
エリック君……いや、既に君呼びは止めて気軽にエリックと呼んでいる。
その事からも判る様に、城に来て生活する様になったここ5日で、エリックも城にのみんなに馴染み、変に緊張したり、驚きに固まる事が少なくなった。
出会った頃は、薄汚れ、顔色も悪く、髪の毛も汚くて伸び放題だったので目立たなかったのだが、俺の所に来て、風呂に入り、身なりを清潔にした事で、滅茶苦茶可愛い男の子へと変身したのである。
そんなエリックはメイド達からもチヤホヤと構われていて、日々笑顔で居る時間が長くなった様である。
おそらく栄養事情も悪かったのであろう、拠点の同年代の子供に比べると、幾分小柄であった。
しかし、俺の所に来たからには、たっぷり必要な栄養を取って、スクスクと成長して貰わないとだな。
内陸育ちのエリックは、まだ海の魚を食べた事が無いらしい。
せっかくなので、まずは洋食系の食べ易いフライ等で徐々に慣れて貰う事にするか? それともつみれ汁か? そろそろ鍋のシーズンだし、海鮮鍋も良いね。
数日掛けて、徐々にイメルダ料理にも慣れて貰う事にしよう。
と云うのも、俺がそろそろ寿司や刺身を食べたいだけなんだけどね。
確かに我が儘言える立場ではあるんだけど、どうせなら、みんなで食べたいしね。
出来れば、ライゾウさんのお寿司を食べにも行きたいのである。
アケミさんと2人で行くのでも問題は無いけど、出来れば子供達にもあの寿司の美味しさを知って欲しい。
まあ、そんな訳で、地道にイメルダ料理洗脳を画策しているのである。
既に白米や、煮っ転がし、出汁巻き卵、お味噌汁に慣れた様で美味しそうに食べているし、徐々に徐々に布教度をアップして行く予定である。
そうそう、エリックと言えば、まだ文字の読み書きや計算等が出来なかったので、サチちゃんがお姉ちゃんの出番!とばかりに文字カードを使って教えていた。
そんなサチちゃんを見ていて、ふと思い出したのが、カルタである。
勿論百人一首的な物ではなく、お子様向けの普通のカルタ。
早速絵描き班に協力して貰い、カルタの作成に入ったのであった。
しかし、当初考えた以上にこれが大変であった。
何が難しいって、あの『犬も歩けば棒に当たる』とか『猿も木から落ちる』とか、人生の教訓的な文章を作るのが滅茶苦茶大変なのである。
「え? 何ですか? その『犬も歩けば棒に当たる』って?」
と絵担当にキョトンとされてしまった訳だ。
意味文字も含め、200種類程作るのだが、この世界の有名な諺とか教訓は、かなり残酷であったりとか、子供ではなく、冒険者の間で伝わっている下ネタ的な物とかが多く、殆ど使えなかったのである。
俺? 俺はダメダメだね。 全くもって使えないのしか思い浮かばないんだよね。
例えば、『う』は『うわきものには死刑を!』とか『ふ』では『不倫は大罪』とか……碌でもない最初の単語が頭にこびり付いてしまって子供向けにならないのであった。
と云う事で、取りあえず、そう言う文章とか得意そうな人を何人か回して貰って、お願いする事にしたのであった。
いや、丸投げだけど、最後はちゃんと俺も確認するからね?
俺の出番はまだまだ先になりそうなので、取りあえず暇になった俺は……
「コナンさんも今の身体に慣れた様だし、そろそろダンジョンアタックを再開しようと思うんだけど、良いかな?」
「ハッ! コルトガ、何時でも発射オーライです!」
「拙者も、準備は万端でござる。」
「僕も、大丈夫だよ。」
<<<わーい、出番だ、出番だーー!!>>>
<わ、私も行くニャン!!>
とピョン吉達に続き、ある程度子育ても終わったジジも参加を表明したのであった。
若干、黒助の顔が引き攣って居る気がしたが、そこはスルーしておいた。
勿論エバも参加である。
「よし、今回は人数も増えたし、ガンガン行こうな!」
「「「おぅーー!!」」」
「キュー!」
「ワフ!」
「「ニャ!」」
「……」(エバ)
久々にジジをモフりつつ、俺達はチェックを兼ねて、第7階層へと足を運んだのであった。
「まさか、この短時間でジャングルが復活しているとはなぁ。」
驚く俺を尻目に、コナンさんが教えてくれた。
「ダンジョンは一応どんなに破壊されても、一定時間が経つと、元に戻す様な力が働くらしいよ。
だから、魔物も一定時間でリポップするし。」
「マジか。 でもまさかジャングルまでもとは。」
「まあ、正直、あれだけ派手にやった後だから、どうかな?とは思ったけど、凄い回復力だよね。」
軽く魔物の気配を察知してみたが、以前の様な密度でゴブリン・レンジャーは居なかった。
やはり今の密度が正常な状態と考えるべきらしい。
確認を終え、直ぐに第8階層へと降り立ち、またしてもジャングルを目の前にして、開始早々、若干ウンザリするのであった。
<ニャァーーー! またゴブリンニャー!!!>
倒しては湧いて来るゴブリン・レンジャーにジジがキレていた。
苦笑いする、俺を含む全員であった。
「フシャー、フシャー」
と威嚇とも息切れとも聞こえる鳴き声を混ぜて、ジジがプンプンと怒っておいでである。
俺達は、今、俺がジャングルに切り開いた道を通って階段のある方向へ向かっている最中であったが、次から次に出て来る100匹単位の襲撃でなかなか進んでいない。
最初こそキレのある攻撃を続けていたジジであったが、それが1時間も続くと、子育てで殆ど動きが制限されていた事もあって、電池切れを起こしかけている訳で。
「なぁ、ジジ。 だから言ったろ? ここのダンジョンはちょっと異常状態だからってさ。」
と俺が宥めたのだが、
<異常過ぎるニャ! ちょっとじゃ無いニャ!>
と突っ込んでいた。
結局その後もダラダラ続くゴブリン・レンジャーの群にキレてしまった俺の『ミスト・サンダー』による広範囲攻撃で第8階層のゴブリン・レンジャーはほぼ全滅したのであった。
ちなみに、このミスト・シリーズだが、かなり使い勝手が良い。
霧状に広げた魔力の粒子から無数に雷魔法を放出するのであるが、性質上、ほぼ魔物に対してのみに着弾するのである。
勿論、防御シールドと、消音のシールドを張る事は忘れ無かったので、こちら側に被害は無かった。
兎に角、早く第10階層までを終えて、新しいゴブリン以外の魔物を新しいステージで倒したいものである。
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