第275話 エリックの居場所

絶賛売り出し中の『デザート』さん達を辞退し、足早にヒルズに戻って来て、ホッと一息。


「いやぁ~、コナンさん、ありがとうね。 よくアソコまで俺の事を見てたね? というかかなりオーバーな表現もあったけどね。フフフ。 でも助かったよ。」


俺は戻るや否や、コナンさんにお礼を言うと、


「ああ、あれですか? ハハハ。 どういたしましてと言いたいところですが、実は半分以上適当に言っただけなので。 嘘も方便というではないですか。」


「え?」

俺が唖然としていると、


「ガハハハハハ」とコルトガさんが大爆笑している。


「まあ、でもこれで諦めてくれれば御の字ですよね。」


「あれ、実際のところ、完全に『政略結婚』だよね?」


「どうでしょうか? 意外と王女様2人ともノリノリだったっぽいですよ? だって、上の姉の方は既に20歳ぐらいでしょ? 世間では完全に行き遅れですしね。

下手に変な強欲ジジイと政略結婚させられるぐらいなら、そりゃあ必死ですよね。

ケンジ様の所なら、そりゃあ最高でしょうから。 あの涙は本気モードだと思いますよ?」

と冷静な分析力を披露するコナンさん。


そ、そうか……20歳で行き遅れといわれれる世界なのか。何ともまぁ。

日本に居た頃は30歳で初婚とか普通に幾らでもある時代になってたからなぁ。

俺も30歳でやっと結婚した口だし。 まああれが結婚だったのか、今となっては定義すら怪しいけどな。

でも、そうかぁ。 20歳で行き遅れと言われたら、アケミさんは大丈夫なのか?

何か、アケミさんの大事な時間を俺の所為で浪費させているんじゃないだろうか? 俺がハッキリしないばかりにな……結婚かぁ……。


しかし、申し訳無い気持ちにはなるが、ここで焦っても意味が無いので、その気持ちごと蓋をしてスルーする事にした。


念の為、一応マインド・ヒールを自分自身に掛けたのだった。

何故か、このマインド・ヒール、全然自分自身に掛けても効いた気が全くしないと云う、実に微妙な魔法なんだよね。

これでうちの『クララ』? いや、『ジョー』が立ち上がってくれるなら、な……。




そんな健二の知らない所では、コルトガさんから伝え聞いたアケミさんが、実に盛り上がっていた。

両腕で自分の肩を抱き、右へ左へと身体を回転させながら……。


「まぁ! ケンジさんがそう仰っていたのですか! ああ、アケミ幸せです!!」と。


その日、何故か終始鼻歌交じりのご機嫌なアケミさんであった。



 ◇◇◇◇



翌日、エリック君を連れて城へ戻る事にした。

若干不安気な顔をするエリック君に、

「大丈夫。 お母さんがここに訪ねて来たら、直ぐにこっちに戻って来る事も出来るからね。 ちゃんとここのスタッフにも伝えてあるから心配無いよ。」


「本当に? ……では、宜しくお願いします。」

と納得してくれた。 ハァ……子供を騙すのって心が痛いです。


マダラとB0の曳く馬車に乗り込み、貴族門から王都の外に出た。


「ケンジ兄ちゃん、これから行く所って遠いの?」


「うーん、距離は遠いけど、時間は掛からないからね。 一瞬で着いちゃうよ。 俺はね、魔法が使えるから、アッと言う間なんだよ。」


馬車を脇道から人目の無い所へと移し、ゲートを発動した。


「わっ! 何これ? 黒いトンネル? あ! 向こうに別の景色が見えるよ!!」

と大興奮のエリック君。


「エリック、これはケンジ兄ちゃんのゲートって言う魔法なんだよ! ケンジ兄ちゃんは凄いんだよー!」

と自慢気にサチちゃんが教えて居た。


そして一気にゲートを潜ると、大きな城門の前に出た。


「わぁーーー! デッカい塀だーー!」


「ここは凄いのよ! エリックもきっと気に入るわよ! 全部ケンジ兄ちゃんの物なのよ!」

とサチちゃんがドヤ顔で説明している。


今回はエリック君に全部見せてあげようと思って、外壁から門を開けて入っているのである。


「わぁー! 全部見渡す限り畑!? 凄い風景だね。」


「ああ、今は収穫終わっちゃったから、ちょっと寂しい感じだけど、ここでは色んな物を育てているんだよ。

まあ、こことは別に隣に放牧地区とか工場地区とか色々あるんだけどね。」


俺の説明に色々と質問をして来るエリック君。


「隣の放牧地区って、何が居るんですか?」


「ああ、放牧地区にはタンク・カウやアンゴラ・シープとか、あとゴールデン・シープも居るね。

養鶏もやっててね。 鶏の他には、ウーコッコーも居るんだよ。 まあ1日で全部を見るのは少し難しいから、何回かに分けて、色々見せてあげるよ。」


「はい! 愉しみです!!」


そして暫く走ると、今度は内門が見えて来る。


「え!? また大きな壁が!」


「ああ、今度は住居地区の内壁だね。 いよいよ中心の街に入るよぉ~。」


静かに素早く開く門を潜ると中の清潔でゴミ一つ落ちてない街の様子に驚いている。


「お! ケンジ様だべー! お帰りなさいケンジ様ー!」

「おかえりー!ケンジ様-」


街行く住民達が俺達に気軽に挨拶をして来る。


「ああ、みんな! 新しくうちの子として預かる事になった、エリック君だよ。 よろしくね!」


「あ、うー、エリックです。 宜しくお願いします。」


「あらぁ~、ちゃんとご挨拶ばして、賢かねぇ~。」


「可愛い子だねぇ~。 なかなかハンサムに育ちそうだね!」


ちょいちょい、馬車を停めて挨拶したりしていると、凄く時間が掛かってしまった。


「わぁー、デッカいお城があるんですねぇ。 へー!? ここの領主様のお城なんですか?」


「ああ、あそこが我が家だよ。 今日から、エリックもあそこに住むんだから。 ちょっとデカ過ぎて不便なんだけどね……」


「………」


エリック君が固まってしまった。


「エリックは、お姉ちゃんと同じ部屋だから心配しないで良いんだからね? 景色が良いから気持ち良い部屋なんだよ。」

とサチちゃんが鼻歌交じりに言っていたけど、固まってしまったエリック君の耳には届いて無い様子であった。




城のロータリーに馬車を停めると、玄関ホールにはスタッフが並んでお出迎えしてくれた。

エリックはポカンと口を開けて固まっている。

しょうがないので、俺が抱き上げてみんなに紹介すると、再起動したエリック君が


「エリックです。 よろしくお願いします。」と頭を下げていた。


エリック君はメイドのお姉さんに大人気で、全員から頭を撫でられていた。(俺が抱き上げているのにである。)


「ちょ、ちょっと。 エリック君が驚いてるから! みんなガッツキ過ぎだって。 ユックリ少しずつ慣れて貰わないと!」

と俺が注意すると、ハッとして一歩下がっていた。



サチちゃんとリックが責任持って面倒見るとの事だったので、そのまま任せ部屋で一休みして貰う事にしたのであった。


勿論、ちゃんとエリック君の写真も撮っておいたよ。

エリック君単体の写真もだけど、俺達5人での写真も撮った。

またフォトスタンド作らないとだな。


今回の王都行きの最大の意義は、エリック君と出会い、彼の居場所を作れた事だな。



それと、サスケさんにお願いして、母親のエメリーさんの行方をそれとなく捜して貰う事にした。

何がどうなるかは判らないから、取りあえず将来の不安要素を取り除く意味である。

もし、母親が見つかり、本意でが無く、捨てざるを得ない様な状況で、それでも息子に会いたいと思っているのであれば、会わせる事も考えたい。

要は母親の人格次第かな。

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