第265話 最高のご褒美(嬉しい言葉)
式典をするまでの1週間、ドリーム・シティは、身内(エーリュシオン国民)向けでプレ・オープンという形を取り、慣熟営業をする事となった。
住民達に取っては、待ちに待った自国のリゾートである。
秋の収穫を終えて暇になってしまった農民や、工場で働く人達が休み等を利用したりして、続々と詰めかけ、連日大盛況となった。
約1ヵ月間、非常に過酷な環境下で作り上げたこのドリーム・シティだが、彼らの喜ぶ姿をこの目で見る事が出来て、報われた気がする。
親と手を繋ぎ、嬉し気にはしゃぐ子供らの姿に心が和む。
俺も負けじと、アケミさんにお願いして、リックとサチちゃんを連れ出したのであった。
ここ最近は、やれダンジョンだ、やれ建設だと、放置気味で拗ねてたサチちゃんであったが、初めて見る夢の街ドリーム・シティの凄さに圧倒され、拗ねていた事すら忘れ、キャッキャとはしゃいでいる。
普段はお兄ちゃんという事で、色々我慢しているリックでさえ、年齢相応にハイテンションになっていた。
やっぱり、子供はこうでなくてはな。
まずは、この世界初のモノレールに乗り、ドリーム・シティをグルリと一周して、色々と説明してやる。
このモノレールは、外周を回るルートに12箇所に駅があり、街の中間を回るルートには8箇所の駅がある。
それぞれ、街全体を循環する様にしている。
このドリーム・シティに来た人達は、まずこのモノレールで度肝を抜かれる事、間違い無しである。
アケミさんは建設の時に見て知って居るので驚かないが、リックとサチちゃんは初めて見るモノレールに大興奮である。
それとは別に東西南北の門を十字に繋ぐ地下鉄というか、これもモノレールが存在する。
これらによって、広いドリーム・シティでも楽に移動し、色々な所を回れる様に考慮したのである。
「しかし、本当によくここまでの物を1ヵ月で作り上げられましたね。」
アケミさんが、モノレールから街を眺めつつシミジミと呟いていた。
遊園地エリアに着くと、まずは大観覧車に乗る。
「あーー! ケンジ兄ちゃん、サチ達のお城見えるよー!」
最近、少しロレツが回ってなかった可愛い言葉遣いから、シッカリとした言葉に成長したサチちゃんが観覧車から見えるエーリュシオンの新しいお城を見て喜んでいる。
「ケンジ兄ちゃん、こ、これ落ちないよね? だ、大丈夫だよね?」
と時々風に揺れるゴンドラに、やや恐怖を感じているらしいリックが腕にしがみつきながら聞いて来る。
「ハハハ、大丈夫だよ、リック。 ちゃんと強化を付与して万全の対策を施しているから。」
「キャハハ、リック兄ちゃん、怖がりだなぁ~」
とサチちゃんが笑っている。
そんなサチちゃんだったが、ジェットコースターはヤバかったらしく、ヒシッと俺の腕にしがみついて、ブルブルと震えて居た。
ジェットコースターを降りると、そんなサチちゃんの様子を見て、少し青い顔をしていたリックが、
「フフフ、サチは怖がりだなぁ。」
と兄の威厳を保つ為か、やせ我慢をしながら笑っていたのだった。
「ハハハ。 まあ、作っておいて言うのもなんだけど、俺もジェットコースターはダメだな。」
「来年ぐらいには、更に凄いジェットコースターを作る予定ではあるけど、正直、自分で乗る気は無いからね。」
「え? これより凄いの作るんですか?」とアケミさんが目を輝かせていたよ。
どうやら絶叫系が好きらしい。
「でも不思議ですね。 ケンジさんって自分で空を飛んでる時は、全然もっと無茶な飛び方してましたよね?」
とアケミさんが突っ込んで来た。
「ああ、そうなんだよね。 自分でも不思議なんだけど、既にご存知の様に、俺、高い所が苦手なんだよね。
でも、自分で空を飛ぶ時は、同じ高さでも大丈夫なんだよ。 変だよねぇ?
ジェットコースターも同じでさ、乗り物としてあのGを感じるとダメなんだけど、自分で飛んでる分には全く問題ないんだよ。」
「ん? 『ジー』?って?」
「ああ、そうか。Gって言うのは、何て言ったら良いかなぁ? 簡単に言うと、地面に引っ張られる力かな。
バケツに水を入れて振り回すと、水が零れないでしょ? あれは、水に地面に引っ張られるのと同じ様に横向きの力が掛かって、バケツに水が張り付いているから、零れないんだよ。
そう言う力の事をGって呼ぶ? 大分簡略化したけど、大体そんな感じだったと思う。」
というと、判った様な判らない様な顔をしていた。
俺も理系じゃないから、余り説明出来ないんだけど、こっちの世界に来ると判ってたら、もっと勉強しておくんだったんだけどなぁ。
まあ、今更嘆いたところでどうしようもないのだが。
大賑わいの遊園地であるが、各アトラクションに待ち行列はあるものの、待ち時間はそれ程でもなく、長くても10分~15分ぐらいである。
中でも一番人気はどうやら、俺が苦心して最後に作った『ダンジョン・ツアー』(ウォーターコースター)であった。
冒険者の一部以外は、ダンジョンに潜る事など無いので、ダンジョンの話は聞くけど、どんな所なのか、実際に見る人は少ない。
更に実際の魔物は怖いが、魔物の人形が迫って来るという、少しお化け屋敷的な要素を取り入れた事で、更に面白い物になっていると、大評判なのである。
船の形も凝っていて、ピョン吉やジジ、コロ達をデフォルメした様な形の船にしたのも良かったらしい。
出口に置いた、ピョン吉達のデフォルメぬいぐるみが、飛ぶ様に売れている。 ウハウハである。
そうそう、この世界には、ぬいぐるみという発想が無かったそうで。 女の子が遊ぶお人形なんかも無かったんだよね。
そう言う発想が無かった理由としては、お人形を使ったお飯事的な子守をするぐらいなら、兄妹の面倒見たり、家の手伝いをするのが当たり前だからみたい。
みんな生きて行くのに必死なので、それどころでは無いという事なのだろう。
話は逸れたが、会心の作であるダンジョン・ツアーは、アケミさん、リック、サチちゃんにも大好評であった。
3人とも、終始キャーキャーと興奮していた。
遊び疲れた様で、全てのアトラクションを周り切った午後3時頃になると、電池の切れかけたサチちゃんが俺の背中でウトウトしている。
リックもそうだが、サチちゃんは出会った頃より、背も伸びて、体重も増えた。
サチちゃんの温もりを背中で感じつつ、幸せな気分を俺も満喫させて貰った。
「せっかくだから、一度何処かのリゾートホテルに泊まって行こうか。」
という事で、一泊リゾートホテルを体験する事にした。
ホテルの従業員からは、驚かれたが、一般と同じ扱いでお願いし、旅行気分を味わう事にしたのだった。
ホテルの部屋に案内されると、サチちゃんが目覚めた。
「あれ? おやつの時間??」
「フフフ、コナンさんじゃないんだから。 目覚めと共におやつはなでしょ。」
俺の突っ込みにサチちゃんが真っ赤になっていた。
温泉に入り、ユッタリした後、真新しい部屋で4人で冷たいミルクを飲みながら一休み。
「サチ、今日はとても楽しかったです。 ありがとうございました。」
とサチちゃんからお礼を言われ、ビックリする俺。
何か、目がウルウルとしてしまった。 自分の子が成長し、お礼を言われる感じってこんな感じなんだろうか?
もう、堪らない気分である。 俺は必死にこみ上げる涙を堪え、
「ハハハ、楽しんで貰えたなら作った甲斐があったという物だ。 良かった。 また機会があれば、みんなで来ような!
あ、でもその内、サチちゃんもリックも、好きな人と来る様になるのかな? ハハハ。」
と返すと、
「じゃあ、サチはケンジ兄ちゃんとアケミ姉ちゃんと一緒だね! あ、リック兄ちゃんもか! エヘヘ。」
と照れながら言ってくれた。
あ、追い打ちを掛けられた、ヤバい!
と思った瞬間、先にアケミさんの涙腺が崩壊していた。
ガバッとさちちゃんとリックを抱きしめ、
「ありがとうう、お姉ちゃんもサチちゃんとリック大好きだよーー!」
と大泣きしている。
俺も思わず、涙腺崩壊……。
何か4人で涙を流すという、カオスな状態になってしまったのであった。
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