第262話 チキン南蛮弁当の思い出
「ヤバいな、何かダンジョン楽しいな!」
「ですな!」
「ワクワクでござる!」
「……」
ワクワクしている俺達なのだが、何故かコナンさんだけは浮かない顔をしている。
「コナンさんはダンジョン気に入らない?」
ちょっと心配になって聞いてみた。 何か無理強いするのは嫌だしね。
「う……い、嫌じゃないんだけど、せ、狭いんだな。 戦い辛いんだな。」
「まあ、コナンさんはどちらかというと魔法メインだから、後衛だよね。 無理無い程度に後衛を努めてくれれば。」
「ん。 だな……」
と何か、戦い方を考え込んでいる様子だった。
魔法職の場合、基本は後衛となり、接近戦には弱いのが常識ではあるが、コナンさんなら、何か方法を思い付くかも知れないな。
その後、何度も単発的に2~3匹のゴブリンが出て来るがモンスターハウスの様な物は無く、危なげなく進んで行く。
まあ第1階層だし、こんなところだろう。
そして1時間程進んだ頃、大きなホールに足を踏み入れた。4匹のゴブリンがこちらに気付き、突っ込んで来たが、瞬殺して終わった。
「何とも物足りんですな。」
コルトガさんは、ご不満のご様子。
「まあ、そりゃあ第1階層からヤバいの出て来たら、それこそ無理ゲーだよね。 手始めはこんなもんでしょ。」
「ふむ。 まあ、下階層に期待ですな。」
「しかし、そこの階段で第2階層へ行けるみたいだね。 11時だからちょっと早いけど、昼食を食べてから第2階層に行くか。」
と俺が提案すると、
「チキン南蛮弁当! チキン南蛮弁当!!」
とコナンさんが歓喜の声を上げていた。
今回試作を重ねた特製タルタルソースは非常に好評で、コナンさん曰く、「このタルタルソースだけでご飯ドンブリ3杯は行ける!」と饒舌に語っていた。
コナンさんと同様に、エバのはしゃぎ様も凄かった。
<ケンジ様の手作りのお弁当ーーー! わーーーい! わーーい! 僕、人間の食べ物って初めてーー!>
と。
そう、生まれて初めて食べる、人間の食事。
今までゴブリンや色んな魔物等を食べて来たが、これ程美味しいと感じた事は無かったらしい。
どうやら、スライムにも味覚があると始めて知った事実であった。
コナンさんとエバで競う様に弁当を3つずつペロリと食べて居た。
流石に弁当箱ごと食べてしまうのは如何な物かとは思ったのだが、まあ初めての事なので、敢えて指摘はしなかった。
そんな2人(正確には1人と1匹)の姿を見て健二は、色々と頭の中でチキン南蛮弁当の思い出に思いを馳せるのであった。
フフフ、そこまで気に入って貰えると、嬉しいよね。
苦労して作った甲斐があるという物だ。
あの思い出の味を再現するのにかなり苦労したからな。
そう、独身時代に一時期、近所の弁当屋のチキン南蛮弁当に凝った頃があったんだよねぇ。 あのお姉さん、名前は最後まで聞けなかったけど、可愛かったなぁ~。
時代はワンレンボディコンのイケイケブームだったけど、清楚な感じの女性だったな。 所謂ディスコ全盛期だったよな。
20代半ばの思い出の一ページであるが、気の利いたお喋りなんか出来ず、ただ来る日も来る日も会話と言えば、
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ち、チキン南蛮弁当で。」
「520円になります。 では出来上がりましたらお呼び致しますので、少々お待ち下さい。」
とか言う、何の変哲もない会話のみだったけどね。
でも、その会話だけでも、俺は毎日嬉しかったんだよなぁ。
ハハハ、俺も若かったなぁ~。 あの子、今でも元気に幸せに暮らしているのかなぁ?
健二の脳内では美化されているこの思い出だが、知らぬが仏――実はそれ程清楚なお姉さんではなかったのである。
通称、『弁当屋のマリリン』という二つ名を持つ、イケイケ姐さんで、弁当屋の仕事上がりの5時には、メイクバッチリにキメ、アップにしていた髪の毛を下ろし、反対に前髪で隠していたゲジゲジの眉毛を全開にし、髪の毛を盛り上げ、更に戦闘服とも言えるボディコンスーツに身を包み、当時流行っていたフサフサの付いた扇子を片手にディスコに出没していた。
弁当屋のマリリンお立ち台に立つ戦士であり、ハンターであった。
時々、その彼女が青白い顔色で体調悪そうにしていたので、健二は無理して頑張ってる偉い子だな!と心配していたのだが、実際は「あぁ~、オールでヤリ過ぎた。ダリぃ~」とか内心で呟いていたらしい。
事実、その戦闘服姿の彼女とは、何度も道ですれ違っているのだが、健二は全く気付かなかったらしい……。
そしてそんな弁当屋のマリリンは、ディスコで知り合った、歯科医のボンから、夜景の見えるホテルのバーで「君の瞳に乾杯」とか言われ、その後なんやかんやで、ハワイで挙式を挙げ、永久就職への切符を手に入れたのであった。
そんな事とは全く知りもしない健二は、足繁く弁当屋に通っていたが、ある日を境に、弁当屋のマリリンの姿が見えなくなった。
当初は、「あれ? 病気かな? 大丈夫かな?」と心配して居たケンジであったが、1週間もする頃には、新しいパートのおばちゃんが入ったので、「ああ、辞めたのか。」と理解したのであった。
そしてその後、健二のチキン南蛮弁当熱は急激に冷めて行くのであった。
話は戻り、健二達は昼食と休憩を終えて、ダンジョンアタックを再開する。
意気揚々と、ホールの隅にあった第2階層への階段を降りて行くのであった。
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