第246話 それぞれの初めてのお遣い(使者)

思ったよりも早く撤収作業が終わったお陰で、日付が変わる前に城へと戻って来られた。


「みんな、お疲れ様。 ステファン君も遅くまでご苦労様! 詳しくは明日ユックリ話すからね。 遅いし早く寝てね。」

出迎えてくれたステファン君にお礼を言って俺は風呂へと向かったのであった。


健二的には、『今日も良い仕事をしたぜ!』 という感じでひとっ風呂である。


「やっぱ、大仕事の後の風呂は格別だなぁ~。」

湯船で肩まで浸かり、ファ~っと両手を挙げて全身で伸びをする。


「ですなぁ。」

「だな。」


「ハァ~~あと二カ国か。 まあ多分だけど、イメルダ王国は何となく上手く行く気がするんだけど、マスティア王国はどうなんだろうね?」


湯船に浸かりながら、コナンさんに聞いて見ると、微妙かもと言っていた。

うん、それに関しては俺も同意だ。


マスティア王国の王都というと、どうしてもあのエンドルド・フォン・サンバルタンことジャ○・ザ・ハットを思い出す。

ん? ジャ○・ザ・ハットことエンドルド・フォン・サンバルタンだっけ? まあ、いいや。 どっちにしても碌な者じゃねぇーし。


まあ、要はあんなのが貴族で居られる国って事で、何か色々横槍が入りそうな気がするのである。


「まあ、火の粉が降って来たら、某が全力で払い落とす故、ご心配召されるな。主君! 寧ろ某として、火の粉ウェルカムですぞ!!」



「ダメだから。 火の粉ウェルカムはダメだから!!」

とコルトガさんが滾る前に慌てて釘を刺していおた。



 ◇◇◇◇



一晩明け、イメルダ王国とマスティア王国の王宮宛てに親書を届けて貰う為、朝からバタバタと人選を行った。

イメルダ王国へはフードモールの支配人とこちら側からアケミさん、コナンさんを送り込む事にした。

ああ、勿論シャドーズの護衛付きである。


更に、マスティア王国側へはコルトガさん、ステファン君、アニーさんとお付きの者としてシャドーズ5名にお願いした。

俺は、前回ゴタゴタで作らなかった別荘を作る為、マスティア王国の王都へ同行して、別行動をする予定である。


こんな事になるのだったら、前回ジャ○・ザ・ハットと遭遇した際に別荘作って置けば良かったよ。



アケミさん達をイメルダの王都の外に送り届けてから俺達はマスティアの王都へと向かったのであった。


今回こうやって分散して動く事となった訳だが、そうなってみて初めて思った事がある。

そう、各別荘なんかには常設型ゲートを設置しているのだが、当然その都市にある城門を通過せずに入ったり出たりする事となるので、何処まで管理しているのかは不明だけど、今回の様な正式な記録に残る訪問の際には、実に面倒なのである。

今更ではあるが、これは別荘とペアで城壁の外にも何処か隠れた場所にゲートを設置すべきじゃないかと思い付いたのであった。


俺がこの大発見?を提案してみたんだけど、みんなの反応が薄いんだよね。

不思議に思って聞いてみると、全員同じ事を思ってたって。 それも随分と前から。


「えー? だったら誰か教えてくれよ!」

と。


誰も口にしなかった理由は、そもそもこの常設型ゲートの使用用途が緊急時の出入りや、短期の用事での移動や、物資の出し入れぐらいであった為、態々外に管理しないといけない建物を増やすのも面倒と思ったらしい。

確かにな。 特に人目の無い場所を探して作る必要があるから、セキュリティの問題もあるよな。

それに、折角隠れた場所にその建物を作ったとしても、バンバン出入りしていると、結局目立つんじゃないか?という指摘もあり、なるほどと唸るのであった。


まあでも、作れるのであれば、作るべきだよな? と頭の中でどう言う建物にすれば一番安全かを考えるのであった。




俺が商業ギルドから別荘の土地を購入し、別荘を建て終わった頃、イメルダの王宮に行っていたアケミさんから連絡が入った。


「ケンジさん、アケミ、初めてのお遣い無事完遂致しました! 頑張りました!!」と。


「おお、ありがとう! で、どうだった?」


「ええ、親書を手渡して終わりかと思ったのですが、そのままイメルダ王と会見出来まして、地図の領土までを了承して頂けました。

イメルダ王からは、ケンジ殿に宜しく伝えてくれと言われました。」

とシュタッと敬礼する様な勢いの意気揚々とした報告であった。


「そうか、ありがとう。じゃあ、どうしようか? 一旦こっちに合流する? ああ、こっちの別荘も準備OKだよ。」


「了解でーす!」


それから暫くすると、常設型ゲートでアケミさんとコナンさん、そして護衛のシャドーズ達がやって来たのであった。


「アケミ、ただ今任務を完了し、帰還致しましたであります!」

と言いながら、ドヤ顔でシュタッと敬礼するアケミさん。


「アハハ、お疲れ様でした。」と俺も敬礼して返してやったら、喜んでいた。



「しかし、遅いなぁ……コルトガさん達。 何かあったのかな?」



更に2時間程経過した頃、やっとコルトガさんから連絡が入ったのであった。


「主君、遅くなり申したが、このコルトガ、やっとマスティア王を『説得』し終わりましたぞ! 無事に何事も無く、任務を完了致した故に。」


「そう? お疲れ様、今こっちに新しく作った別荘に全員集まっているから、こっちに来てくれる?」


「ハッ! 直ちに!」

と言って通信が切れた。 何かコルトガさんの言った説得という単語と、少し息切れ気味だったのが、実に気になるところではあるが、まあそれは合流した後にステファン君達に聞けば大丈夫だよね?




それから30分ぐらいで、意気揚々としたコルトガさんと、ゲッソリとしてステファン君、アニーさん、そして笑顔のシャドーズ5人が別荘にやって来たのであった。


「お待たせし申した。 ただ今戻りました。」

とニヤリと笑いつつ、片膝を着くコルトガさんとシャドーズの面々。


「みんなご苦労様。 何かかなり時間掛かったけど、ちゃんと平和的に説得出来たんだね? というか親書を届けて後日話をする予定だったけど、王様と面会出来たんだ?」


「ええ、まあ謁見は出来たので、親書を届けたまでは良かったんですが……」

と言葉を濁すステファン君。


「ん? 何か問題あったの?」


「ええ、実は――――」


王様は概ね問題無いと了承する感じだったのだが、大臣と貴族数名からチャチャが入ったらしい。

そいつら曰く、「属国として認めて欲しいのであれば、貢ぎ物の条件を提示してやろう。」と。


「はぁ!? 属国???」とここでコルトガさんがキレた。


あーー、それは何となくそのシーンが目に浮かぶ気がするね。 まあ俺でもキレるかもな。


更に、俺を墜とす様な発言があったところで、アニーさんとシャドーズがキレたらしい。

とここで、その時のアニーさんを思い出したのか、ステファン君が少しブルブル震えながら話しを続けた。


そして、流れ的に何故か、『どちらが属国に相応しいか』をコルトガさんvs近衛騎士団100名で話し合う事になったらしい。物理的に……。


結果、5分で100名の屍(いや殺してないけどね)が出来上がり、それでも納得のいかない大臣達は、第一騎士団300名を呼んだらしい。


とここで、「某は見ておる故、お主らも見せ場を作って参れ!」とシャドーズ5名に振ったらしい。

すると、大臣達の言動に鬱憤が溜まっていたシャドーズがはっちゃけちゃったらしい。


「主君、我々も思い知らせてやりましたぞ! やはり男同士の語り合いはコレに限りますな!」 と力こぶを見せ、爽やかな笑顔のシャドーズ5名。


「ハハハ……つまり、君らは、6人で延べ400名の騎士団をヤって来たという事か?」


「ハッ! 身の程を思い知らせ、説得致しました。」

とシャドーズの面々。


「ハッハッハ、某、この手のお遣いは得意であります故。」

とコルトガさんもドヤ顔で宣っていた。



ハッハッハ!!! 人選誤ったか。 まあ属国なんてなる気はサラサラ無いから、結果オーライとしておこう……。

と無理矢理思い込もうとするも、頭を抱える俺であった。

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