第247話 変わる大陸の勢力図

まあ、過ぎた事を今更言っても仕方ないし、そもそも一国の使者に対し、その主君を侮辱するという非礼を働いたのは先方の大臣である。

それに加え属国発言となれば、この世界では既に宣戦布告を受けたにも等しい訳で、十分な戦争理由となる。


この大臣らの非礼だが、新興国という事で、戦力も国力も無いと高を括った大臣の暴走であった。


まあ、これを諫めきれなかった王様にも問題があるのだが、ここでコルトガさんらが退けば、この世界では弱さを認めた事となるので、今回の件では意外な事にコルトガさんの対応が正解であったらしい。

それが判って居たのでステファン君も止める事はしなかったらしいのである。


驚きの異世界常識であった。


「フッフッフ、そう言う事で、主君、もっと某達を褒めて良いのですぞ?

なんせ、このマスティア王国を属国にして来たのですからな。」

と物騒な笑いを漏らしているコルトガさん。


「え?? マスティア王国を属国? どう言う事?」


寝耳に水である。 対決したのは理解した。 理由は先方の侮辱や属国発言である事も理解した。


そして、コルトガさん曰く、どちらが属国なのかを賭けて戦った訳だから、文句は無かろうという事である。

ああ、確かにそう言う事を臭わせる説明があったな。


「マジかぁ…… いやでも、要らないなぁ、この国。」



その後、疲れた表情のステファン君と、正反対にニマニマ(失礼な大臣の鼻を明かしたので)とした表情のアニーさんが城へと戻って行った。




さて、時間と場所は変わり、クーデリア王国の王都、時間は遡って今朝の話である。

王宮での紛糾は収まる事無く、今朝から再度会議を開く事となっていた。

王家側からは、取りあえず、遣いを出してもう少し待って貰う様に要請を出す事にしたのではあるが、遅すぎた。


朝一でモデルタウンの方に向かった使者が慌てた様子で王宮へと戻って来て、国王へと報告した。


「陛下、大変です。もう既にモデルタウンNo.1は更地になっております。 他のモデルタウンの状態を現在他の者に確かめに向かわせております。」


そして程無く、他の3箇所を見て来た者から、完全に更地に戻っていたとの報告が入ったのであった。



唖然としながらその報告を聞いている正にその時、執事が部屋に入ってきて、商業ギルドのギルドマスターと秘書が、王宮へ請求書と委任状を片手にやって来たとの報告を受けたのであった。




すぐに会議室へと通され、国王、大臣、文官と共に面談する。


「陛下、ご無沙汰しております。 早々に拝謁のご許可を頂き、恐悦至極に存じます。」

と商業ギルドのギルドマスターが挨拶をする。


「おお、久しぶりじゃの。 本日は何やらケンジ殿からの請求書の件と聞いておるが?」


「はい、話が通っている様でホッと致しました。 こちらが昨日の時点でのモデルタウン4地区の評価価格での土地売買代金、それに立ち退き料と、当商業ギルドの手数料込みの請求書となります。

宜しくお願い致します。」


そして、受け取った請求書を開き、国王と大臣が絶句していた。


「こ、この金額は!?」


「はい、このところあの一帯の評価価格は鰻登りでございましてね、昨日の段階でこの価格となっております。 いやぁ、スギタ商会のケンジ様の手腕には本当に驚かされますなぁ。ハハハ。」

とギルドマスター。


「こ、これは高過ぎなのでは無いのか?」

と大臣が食い付いた。


「何を仰います、これでも過小に評価した価格でございますよ? あの周囲の現在の価格の坪単価で計算しておりますので、間違いは無いです。寧ろあの周囲の単価の2倍でもおかしくないぐらいなので。」


「し、しかし、全て込みで黒金貨100枚と、白金貨2枚とは!?」


「ええ、本来であれば、黒金貨130枚ぐらいになったとしてもおかしくないところでしたが、ケンジ様があまり高額にならない様、負担にならない価格で抑えてくれと仰せでしたので。」


「「………」」


「あと、少々困った事もございましてね。 実はスギタ商会が王都から撤退した事で、色々と物流がこの先問題になりそうなので、その対策を王宮側でも立てて頂きたいと思いまして。」


「そ、それはどう言う事なんじゃ?」


「ええ、陛下は直接ご存知ないかと思いますが、スギタ商会さんがこの王都でかなり安い価格で安定して小麦や野菜類、そしてミルクや卵といった鮮度が重要な物や、最近では海産物等も販売してくれていたお陰で、末端の低所得者達も飢える事無く過ごしていたのです。

更に付け加えると、ここの王都で現在使われて居る9割以上の砂糖やスパイス類は全てスギタ商会が持ち込んだ物でして。 しかもそのどれもが上質な物でした。 しかし価格はこれまで嘗て王都では販売されていた価格の半分に近い価格であったのです。

これらの供給が止まった為、何らかの対策を取って頂けないと、これから王都民達が暴動を起こす結果になるやも知れません。」


「「………どうするんじゃ?(どうしたら?)」」


兎に角、取りあえず配下の者に言って黒金貨100枚と白金貨2枚を持ってこさせ、それをギルドマスターへ支払ったのだった。


そしてその日の夕方、皮肉な事にスギタ商会から購入したマギフォン経由で、イメルダ王国とマスティア王国に潜入させている密偵から至急の連絡が入った。

イメルダ王国では、エーリュシオン王国を認め、友好国となったとの報告があった。

現在イメルダ王国では、スギタ商会が新しく作ったフードモールが大盛況で、そのお陰で王都でも海産物が多く出回り、活気に溢れているという事も付け加えられていた。


一方マスティア王国の密偵からは……

「マスティア王国がエーリュシオン王国の属国となった様にございます。 その属国となった経緯ですが、恐ろしい状態になっております。

大臣らが、親書を持って来た使者に対し、属国として認めてやっても良いと言ったり、エーリュシオン王国の国王に対する侮辱発言をし、マスティアの騎士団400名と使者6名で対決した結果、エーリュシオン王国側が完勝しまして、マスティアの精鋭騎士400名は再起不能に陥ってしまいました。それも数分で。

我が国の賢王陛下なら大丈夫とは存じますが、手遅れになる前に御注進させて頂くと、決して、決してエーリュシオンを敵に回しては拙うございます。」

という報告であった。


この報告を聞いた王様は、ポツリと一言呟いたのであった。


「遅いよ……」と。





一方、健二達であるが、モデルタウンから引き上げた住民達の活躍の場と、今後の外交……特に自国への入国に関してをどうするか話し合っていた。


「取りあえずだけど、無闇矢鱈に外部から拠点に入れる事は避けたいと思ってるんだ。 でも国として宣言したからには、お互いに入国させる必要がありそうだし、どうした物かと考えてたんだけど、あの平原に出島を作ろうかと思っているんだよね。」


「主君、何ですかな? その出島とは。」

とコルトガさんが聞いて来た。


「うーん、つまりだね、本来なら入国させたくないけど、貿易や入国は取りあえずせざるを得ないって時にね、離れた限定箇所だけを解放して、そこでのみ入国させて貿易とかしたりするんだよ。

つまり拠点ではなく、あの平原辺りに塀で囲った砦っぽい街を作って、そこを応接室兼売店にするって言う感じだね。」


うん、我ながら判り易い説明だと思う。


「なるほど、流石我が主君ですな。」


「なるほどなんだな。」


「では、そこに王都から引き上げた彼らを置くという事でしょうか?」


「そうなんだけどね、それをヤルとちょっと困る事になるかもなんだよ、ドワースが。」


「ああ、なるほど。客を取っちゃう感じになるんじゃないかと?」


「うん、出来ればドワースとはWinWinな関係で居たいから、あまりあそこの不利益になる様な事は避けたいんだよね。

ほら、折角髪の毛フサフサにした3人が、客の減少で悩んでハゲちゃうと意味ないし。」

と俺はマックスさん、ガバスさん、ジェイドさんの顔を思い浮かべながら告げたのであった。


取りあえず、全ての国に対して建国宣言も終わり、その夜は密かに豪華な夕食で全員の労を労うのであった。

ちなみに、俺の作った夕食を食べたシャドーズの面々が感激してくれたらしく、大袈裟にヒィヒィと泣いていた。

メニューは煮込みに煮込んだ、試作の辛さ3倍カレーを使ったオークカツカレーだったんだけどね。


楽しい宴も終わり、温泉を堪能した後、眠りに就いたのであった。

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