第245話 さようならモデルタウン、さようなら王都
モデルタウン内の別荘へ戻る途中の馬車の中、俺は各モデルタウンを仕切る責任者へと連絡を入れた。
早速打ち合わせ通り、撤収準備に入るとの事だった。 王様には4日以内と言ってあるが、痛くない腹を探られるのも、変な潜入工作員や横槍が入るもの嫌なので、出来るだけ今夜の内に撤収するつもりである。
サスケさんには引き続き、俺らの去った後の王宮側や、ギャレン公爵サイドを偵察して貰っているので、変な動きがあれば即座に知らせが入る様に対策済みである。
現在の様子だと、俺が立ち去った後、現在進行形で場が紛糾しているらしい。
ハハハ、ざまぁ~である。
ギャレン公爵に関しては、王都でモデルタウンに降りかかる火の粉となりうる要注意人物として、シャドーズからの報告を受けていたのである。
そして今回建国宣言をするに際し、その障害となるであろうモデルタウンの存在に、確実に難癖を付けて来る事は想定済みであった。
そこで、コナンさんと話し合い、幾つかのパターン別に対処法や流れを決めていたのであった。
フッフッフ、ただのデブではないのだよ、コナンさんは。
さて、あのギャレン公爵とその取り巻きであるが、元々は取るに足りない小悪党で、前の王都の騒動以前はうだつの上がらない伯爵であったのだが、王国側の操作と女神様の粛正をくぐり抜け、いつの間にか押し上げで公爵位を得てしまった棚ぼた君である。
小心者で並み居る上位の貴族の影で、モデルタウンへ手を出しそびれている内に目障りだった上の貴族が自滅したり粛正されて行き、やっとこの世の春が訪れたと燃え滾っていた訳である。
そこへ、丁度都合良く今から二時間ちょっと前、王宮から王都に居る全貴族に招集が掛かった。
内容は、Sランク冒険者でスギタ商会の会長である健二が、国を興したという事で王宮を訪問するという。
この千載一遇のチャンスに沸きに沸いたギャレン公爵は、早速手下の取り巻き貴族連中を登城前に呼び出し、知恵を絞り出したのであった。
そしてその結果が、先の進言であった。 あの一見正解に思える進言から、難癖を付け、上手く金のなる木であるモデルタウンを1~2箇所……上手くすれば3箇所ぐらい掠め盗るつもりであったのだ。
だがしかし、まさか折角苦労して作ったあの素晴らしいお伽の国の様な街を、ああもアッサリ手放すとは思いも寄らなかったのである。
しかも相手は、あれを友好の証として立ち退くので『現在の相場』+立ち退き料で支払ってくれれば大丈夫 という意味不明な条件を付けてきたのである。
スラムの劣悪な環境や住民が居るあの地域は、幾ら土地が広く場所的に良くても激安である。
実際に健二が買った際の価格も4箇所合わせて、金貨8枚であった。
それが今ではあの辺りの価格は鰻登りで、4箇所合わせると、黒金貨20枚は下らないという価格。最悪だと黒金貨40枚になる可能性がある。
そして、ギャレン公爵が全く考慮していなかった事は、建物や各店舗の従業員や仕入れルート込みで入手出来ると思い込んでいた事である。
よくよく考えれば判る事だが、そんな訳が無い。
更に最悪だったのは、そのモデルタウンの中から、この王都の食卓の味を支える調味料……砂糖とスパイスを各商会に卸していた事である。
更に最近では、新鮮な海産物まで販売していたのであった。
まあ、これに関しては、実際に仕入れている商会以外は知らない事実だったので、しょうが無いとは思うが……。
健二としては、スラムの住民の食い扶持を稼げる仕事を作るぐらいの軽い気持ちで始めたこのモデルタウンは、実は知らぬ内に王都民の生活に深く入り込んで居たのであった。
今でさえ紛糾している王宮の会議場の面々が、この事実を把握するのはまだもうちょっと先の話である。
健二達が王宮から戻って暫くした頃、急激にモデルタウン内の各店舗が店じまいを始めた。
そして、モデルタウン内に居たお客さん達がその後の一時間で敷地外へと出されてしまう。
堅く閉ざされた門の外で戸惑う王都民達が騒いでいたが、警備員達は、
「申し訳ありませんが、理由については王宮へお問い合わせ下さい。」
と繰り返すばかりであった。
一応本人達の希望を聞いてみたのだが、何処のモデルタウンの住民達も全員、健二の下を離れないとの事だったので、全員揃ってエーリュシオンで受け入れる事にした。
そして、夕方5時の段階で、モデルタウンの住民達は、全員常設型ゲートでエーリュシオンへと移動が完了し、各モデルタウンには、責任者と警備担当の数名が残っているだけとなった。
「しかし、ここまで来ると、本当にあのギャレン公爵って人、哀れですねぇ。 この後、あの人、大丈夫なんでしょうか?」
と苦笑いするアケミさん。
「グフフ、欲を出したのが運の尽きなんだな。」
と悪い顔をしているコナンさん。
「ガハハ、敵に回しては駄目なお方を敵にしてしまったが故のブーメランですな。 ドンマイドンマイ。」
と笑うコルトガさん。
「まあ、しかしさ、アルデータ王国と違って、国が滅んだ訳じゃないから、王都民は大丈夫でしょ。
それに、謁見の間でも言った様に、これは何も狙ってないという『友好の証』だからしょうが無いよね。
俺が他国であるこの国に何かを『してやる』だなんて烏滸がましい話だしな。」
と俺が言うと、三者三様の顔をしていたのだった。
「そうは言っても、割を食うのは庶民達ですからねぇ。 何か気の毒で。」
とアケミさんが呟いている。
まあ、言いたい事は判るのだが……な。
「アケミさん、それこそ、俺にはどうしようもないよ。 だってこの国の事だもん。 どうにかする義務があるのはここの支配階級でしょ。
それを他国の俺がどうにかするって言うなら、それこそ侵略して、大陸全土を統一し、支配下に置くのかって話になるんじゃない?
俺にはそんな支配欲とか無いしね。 面倒なだけだから。
今回の事だって、別に飢えて餓死者が出る話ではなく、食い物の味が不味くなるだけの話だからね。 大丈夫だよ。」
というと、何とか納得してくれたのであった。
塀の外からは見えない建物等を収納して行き、塀の傍の建物だけを残す状態にして行った。
出来るだけ夜中の作業を簡素化する為である。
作る時は、カッチリキッカリ作る為に神経と時間を使ったのだが、いざ取り壊す(再利用するから、回収するんだけどね)となると、これが驚く程にサクサクと進むのである。
最終的には、道路の石畳さえ全部無くし、全て普通の土の状態へ戻す予定である。
「ああ、勿体無いなぁ。」
ドンドンと寂しくなっていく街を見て、アケミさんが悲しそうに呟く。
「まあ、勿体無いという件に関しては、俺も激しく同意するよ。
ただ救いなのは、また同じ以上の物を作ろうと思えば、直ぐに出来てしまうから問題無しだな。」
夕方暗くなる前には、4箇所のモデルタウンも外周部と塀と門を残すのみとなっていた。
完全に日が落ちたところで、最後の仕上げ作業に入る。
建物を全て収納すると、敷地内の道路等を全て土に戻した。
最後に塀と門を回収し、次のモデルタウンへ。
そして、2時間後にはモデルタウンは消え去り、だだっ広い空き地が出来上がっていたのであった。
商業ギルドへは既に使いをやって、王宮側に現在価格での販売価格と相場の立ち退き料込み込みで請求する様に依頼済みである。
俺達はマダラの曳く馬車に乗り、王都の城門から出て、我が家へと戻ったのであった。
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