第236話 風雲急を告げる

「くっそーーー! どう言う事だ!? 何か知られているんだろうか? あの優男、何かやってるのか?

くっそーー! 何でこうも上手くいかないんだ? リキヤ……お前と天下取ろうって言ってたのに、先に逝きやがって……」

と自室に入るなり、辺りの物に当たり散らしながら、リキヤの死を悲しむミツヒデ大臣。


もうその目は完全にケンジを敵と認識し、ロックオンしているのであった。





一方、残されたハリマ王と健二だが、会談は穏やかに進み始める。


「ケンジ殿は、冒険者でもあると聞いておるが、凄いのぉ。 商人としても成功されていると聞く。 この度は多くの者を雇ってくれたと聞くし、ありがたい。」


「いえいえ、成り行きとは言え、お金だけ稼いでもしょうがないですからね。 ちゃんとこの国で稼いだ分はある程度この国に落とさないといけませんから。」


「時に、そのフードモールでは、獲れたての海産物も扱っておると聞いておるのじゃが、それは本当か? 余は海産物というと干物ぐらいしかお目に掛かった事が無いのじゃよ。」


「あらら、それは折角この食べ物が美味しいイメルダ王国に生を受けたのに、かなり人生損をしておられますよ? いやぁ~刺身や寿司は最高です。銀シャリと刺身の織り成すハーモニーは最高です。至高ですよ。

私は、ただ米を、刺身を、そして寿司を食べたくてこの国に度々訪れているぐらいなのですから。」

と思わず感極まって饒舌に語ってしまった。


ハリマ王さんサイドは俺の余りの絶賛振りにゴクリと生唾を飲んでいる。


「そ、それ程か!」


「ええ。 夢に見る程に。」


「あ、貴方、私食べてみたいですわ。」

と王妃様がハリマ王さんの袖を掴んでお強請りしていた。


おっと、いかん、話が少し逸れてしまったな。


「当方でも寿司は出しておりますが、マーラックの雷寿司……ライゾウさんの握る寿司にはまだまだ全然及びませんからねぇ。

いやはや、寿司の道は奥が深い。 もし機会があるのなら、是非ともマーラックの現地で、ライゾウさんの寿司を試す機会を作って見て欲しいものです。

さて、食べ物の話はここぐらいにして……、少々お耳に入れたい事がございます。 陛下は先程の大臣を経由しない本当の王都の現状をどれ程ご存知でしょうか?」

とストレートにぶつけてみたのだった。


「そ、それはどう言う意味かね? アケチ大臣を経由しない事に何か意味が? ……!!」

どうやら自分で言葉にする事でハッとした顔をするハリマ王さん。


「やはりご存知ないのですね? あの勇者の末裔と言われていた人物とアケチ大臣の癒着、違法行為のもみ消し、情報操作、国費の横領、国民の違法監禁と虐待や暴行等……。

更に極めつけは、町民や国費を横領して集めた軍資金を基にした王座の強奪を目論んだ計画。 これには全貴族の1/3程が手を組んで署名して関与している様です。

おそらく、先日の女神像の一件がなければ、ここ1年も掛からず、この立派な王城の主が代わっていたかもしれません。

流石は女神様ですね。 ここ一番のところでは某かの啓示を行われるようですな。 何処までご存知ですか?」

というと、ハリマ王さんサイドがザワザワとし始める。


「そ、それは誠か!?


「ええ、残念ながら当方がフードモールを開店する前の段階でこの王都と王国の事を事前調査した結果ですので、間違いないです。

まずは、大臣邸宅の地下牢に幽閉されている無実の被害者達の救出と、違法に集められた地下金庫室にある軍資金、そして書斎の本棚の裏にある隠し部屋の隠し金庫にある貴族らとの連判状を抑えるべきかと。

もし、今大臣を邸宅に帰してしまうと、証拠隠滅される恐れがあります故に。 大臣を監禁して、即座に信頼のおける陛下直属の家臣を向かわせるべきかと具申します。」


「ま、まさかそこまでとは! おい、ジュウモンジ、悪いが其方が全てを仕切ってくれるだろうか? 直ちに大臣を幽閉し、大臣宅を虱潰しに捜査せよ!」


「ああ、行かれるなら、書斎の横の隠し部屋への入り口は、その本棚にある『君も今日から国政デビュー!』と言う題名の本と連動する仕掛けらしいです。

あと、隠し部屋の金庫は左側の壁にある暖炉の裏らしいので、参考までに。

その隠し部屋から、地下の金庫部屋とお楽しみ部屋、それに地下牢へ直通で行ける様ですね。 尚呉々も他に漏れない様にしないと、結託した貴族達が逃げますよ?」


「うむ。忝い。 では陛下、早速!!」

とハヤテさんが、駆け足で部屋を出て行ったのであった。



「陛下、もしその地下牢の被害者達ですが、救出後に問題がありそうなら、当方にて面倒を見ますので、お知らせ下さい。」


「うむ。それは色々とお気遣い感謝する。 して、その方はどうして、そこまでしてくれるのだ? その方にとっては、イメルダはただの余所の国であろうに。」


「何故と言われれば、そうですねぇ~、イメルダの料理の為というのもありますが、それだけでは無いですね。 理不尽な事をされて泣いている人、それでもめげずに頑張って生きようとしている人を見ると、出来る限り手助けしたくなるのです。

私は孤児ですが、縁あってこうして自由に好きな事をして、好きな物を食べ、好きな所に行ける様になりました。でも、これは私一人の力ではなく、その時々で縁あって私を助けてくれた人々が居たからです。

私は単に運が良かっただけ。 だから孤児等の問題にはどうしても敏感になってしまいます。 次世代の国を支えていく筈の子供らが国に救われてない惨状を見ると悲しいというか怒りすら覚える事も多々あります。

であれば、私を助けてくれた周囲の人々と同じ様に、私も自分の周囲で頑張って生きて居る人々を助けたいと思ったまでです。 特に国とか生まれとか、種族とか関係無くです。

しかし残念ながら、中には救うに値しない事もあるにはあるのですがね。」


「なるほどのぉ~。 つまり、ここでも孤児等の調査をした結果、アケチ大臣の国費横領が露見したという事かな。 うむ……一国を預かる者として耳が痛い。」


「こう言っては何ですが、やはり世襲制の貴族制度には問題がありますね。 過去の先祖の功績は兎も角、現状野心ばかりの無能な者や欲に塗れた愚か者が、地方とは言え権力の座に就くと、国民に取っては災難としか思えないです。

同じ世襲制を取るのであっても、ある一定以上の能力に達してなければ、世襲させないという事を真剣に考えるべきかと。」


とその時だった――――



凄く嫌な胸騒ぎがしたので、慌ててサスケさんにマギフォン経由で連絡を入れる事にした。

そう、常にグループモードでオンライン状態にしていたので、ここまでの会話内容も全て筒抜けである。

「(サスケさん聞いてる? 何か嫌な予感がしたんだけど、何か起きてない?)」


「ハッ! 先程アケチ大臣が激怒しながらそちらの部屋から出て、一旦自室に戻ったのですが、直ぐに人を呼び、その騎士と何やら話し合っているところへ、ジュウモンジ近衛騎士団長と副団長が部屋に突入したところまでは良かったのでござるが、副団長は大臣の息が掛かって居たらしく、ジュウモンジ近衛騎士団長が2人掛かりで後ろから斬られ、重体の様でござる。

大臣らは、既に城から脱出を謀っておりまする。」


「(マジか! それ何とか足止め出来ない?)」


「ハッ! 既に5人衆と手分けし、足止めに入って居りますれば。 ただちょっと厄介なのが、敵が続々と集合しておる次第にて、我ら6名では妨害程度にしかならんでござる。」


「(ありがと! 早速こっちの方も動く様に進言するよ! シャドーズには大臣らを大臣邸に入れない様に妨害して貰ってくれる?)」


「ハッ! 既にコナン殿の指示にて、残りのシャドーズにも招集を掛け、そのように手配してござる故。」


うむ、流石はコナンさんとサスケさんである。


「陛下! 大変です。 私のスキルの1つなのですが、大臣捕縛に向かったジュウモンジ殿が大臣の息の掛かった副団長の裏切りで斬られたかも知れません。 思い過ごしであれば良いのですが、至急大臣室へ誰かをやって貰えませんでしょうか? その際必要になるかも知れませんので、こちらの特級ポーションをお持ち下さい。 あと大臣ら一派は城を脱出し、反撃体勢を整え討って出る可能性もあるかと。」

いやぁ~、のっけから、大変な事態に巻き込まれてしまったぞー。


「なんじゃと!? それは誠か? こ、こうしては居れん。 ササキよ、直ぐにジュウモンジを助け、大臣らの脱出を阻止せよ! 尚裏切り者が紛れておるやも知れんので、十分に気を付ける様にな。」


「ハッ! 直ちに! おい、誰か!」

と一礼しつつ、慌てて配下を呼び、4名をハリマ王一家の警護に付けて、自らは特級ポーションの瓶を片手に持ち走って行ったのだった。


「父上、こうしては居れませぬ。 若輩ながら私も捕縛に向かうべきかと。」


「殿下、お気持ちは判りますが、今は陛下や御家族を御守りすべき時かと。 微力ながら私も安全が確保されるまで、こちらに居りますので。」

と俺が進言した。


「し、しかし……」


「いや、今はササキとケンジ殿を信じ、知らせを待つのじゃ。」


ハリマ王さんの説得で、漸く椅子に座り直すシンノスケ殿下。


2人の王女様は不安そうに二人で手を握り合って居る。


「こう言う時こそ、冷静にならないとな。 どうでしょう? うちのフードモールのカフェで出している、デザートでも食べて落ち着きますか?」


俺がそう言いながら、お土産代わりに持参していたプリンをハリマ王さん御一家に配って、更にフレーバーティーをティーカップに入れて渡すのだった。

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