第237話 出番を待つ男

「あ! こう言うのって、毒味を誰かにして貰うべきですかね? 安全は私が保証しますが、そちらの騎士の方にどれか無作為に飲んで食べて貰うので良いでしょうか?」


「いや、構わん。 ケンジ殿の事は信用するに足る人物と思っておる。」


ハリマ王さんが、そう言うや否や、近場のティーカップを片手に騎士が止める間も無くゴクリと一口飲んでしまった。


「ぁあ! あっつーーー!」


一瞬俺も周囲のみんなも驚いた顔をしたのだが、紅茶が熱かったのだと判り、ホッとした表情で爆笑していた。


「あ、熱いですから、お気を付けて下さい。」


「お、遅いわ! ガハハハ」

と笑うハリマ王さん。


「舌、火傷しましたか? ちょっとすみません、回復掛けますね。 ヒール」


俺がヒールを掛けると、ボワンと軽く光り、驚いた顔のハリマ王さんが、

「ケンジ殿は、回復魔法も使えるのか。 益々驚くのぉ。」

と感心していたのだった。


そして緊急事態だというのに、この室内では、王家全員がプリンに蕩けていた。

「母上、こ、これは! 蕩けてしまいますわ!」

と頬を上気させて、プルプル震える第一王女。

そして、さっきまでのおすまし顔から一転し、蕩けた顔でトリップ中の第二王女。


「ああ、貴方、これは素晴らしい物ですわ! ええ、これは素晴らしい物です。」

とアッと言う間に完食してしまった王妃さん。


「なんと、これ程までとは……」

と絶句するシンノスケ殿下。


「この紅茶?も素晴らしい香りと味じゃのぉ。 素晴らしいぞ!」

とプリンを食べた後の紅茶で余韻を楽しむハリマ王。


警護中の騎士は横でゴクリと生唾を飲んでいる。


「良かったら、騎士の方達も、お一つ如何でしょう? あ、でも警護任務中だと拙いですかね?」

と俺が言うと悲しそうな顔をして頷いていたのだった。


暫くすると、復活したハリマ王さんが、唸って居る。


「うーーん、まさか、これ程素晴らしい物がこの世にあるとはのぉ。 これは連日大賑わいな訳じゃな。」


「お褒め頂きありがとうございます。 他にもシュークリームという物があるんですが、これも味見されますか?」


と俺が皿に置いたシュークリームを人数分取り出すと、今度は躊躇無く手に取って食べ始める。


「あ、中にカスタードクリームというのが入ってまして、潰すと横から漏れ…… てしまってその様に顔に着くので気を付けて下さいね。他の方は。

コツは、囓る際に、少しクリームを吸う感じで食べると、横からはみ出し難いですよ。」

と俺が説明すると、


「お、遅いわ! ガハハハ!」

とまたもや口の周りをクリームだらけにしたハリマ王さんが笑っていたのだった。


他のみんなは、ハリマ王さんの捨て身の人柱によって、上手に食べていた。


「どうです? やはり美味しい物を食べると、『ああ、生きてて良かった!』って気持ちになりませんか?

私は、イメルダに来て、最初の村でおにぎりや、肉じゃがをご馳走になって食べた時にそう思ったんですよ。――――」



「主君! ちょっと拙いでござる。 敵の集結が想定以上に早いのと、脱出を阻む為に封鎖している側にも敵が紛れており、突破されそうな気配が。」


「(マジかよ。 どんだけ食い荒らされているんだか…… 俺が行った方が良さそう? でもなぁ、俺は外部の人間だしなぁ。 ちょっとこっちで相談してみるよ。)」


これまでは俺とサスケさんの会話を横の席で一応大人しく聞いて居たコルトガさんだったが、ここら辺で如実にニヤニヤソワソワとし始め、俺の方を熱っぽい目で見ている。

その目、止めて貰えないかなぁ? 何か変な誤解を招きそうなんだけど?


「陛下、どうやら、かなり状況が芳しくなさそうなのですが、どうしましょうか?」


俺が取りあえず、ハリマ王さんに状況を説明している頃、伝令が一人部屋へノックももどかしいとばかりに飛び込んで来た。


「陛下! ご報告申し上げます。 大臣率いる賊軍の数、当初は凡そ60名。 当方100名でこれに当たっておったのですが、当方陣営側にも潜伏した裏切り者が紛れ込んでおり、混戦の様相になってしまっており、疑心暗鬼で殲滅するどころか、逆に同士討ちになりかねない状況でありまして。」


伝令の報告を聞いて、苦虫を噛み潰したような顔をして思案しているハリマ王と不安そうにその様子を見るご家族。

それとは対象的にワクワク顔で腰を拳一つ分浮かせているコルトガさん。


「主君! ここは一つ加勢するのは如何ですかな? 」


とうとう待ちきれず、横からハリマ王に聞こえるぐらいの声で俺に進言してくるコルトガさん。


アケミさんは、アチャーって顔で苦笑いしているし。


「ハァ……。 陛下、こちらの者が加勢したくて堪らない様なんですが、如何でしょう? このコルトガさんなら、第三者なので、向かって来る者を敵として認識出来る筈なので、同士討ちにはならないかと。」


「ケンジ殿、先程から気になっておったのじゃが、もしやコルトガ殿とは剣聖コルトガ・フォン・ラルダス殿か!?」

とハリマ王が聞いて来た。


すると、嬉し気にコルトガさんがそれに応える。


「如何にも、かつてはその様な名で呼ばれた事もござったが、今はケンジ様とエーリュシオンの剣であり盾となる事を誓った身故、ただのコルトガにございまする。」


あ! こ、こいつ、サラッとエーリュシオンの名前出しやがった!!! ダメだろ!! 俺がガッと横を向いて睨むと、こちらを向いてニヤリと笑ってやがる。

こいつ、確信犯かよ……。


「ほほぅ、やはりそうであったか! その――剣聖コルトガ殿が我が方に加勢して下さるのであれば、心強い。 何卒よしなにお頼み申す。」

とハリマ王の顔がパーッと明るい表情になる。


「ハッ! 主君のご許可さえ頂ければ、このコルトガ、喜んで敵を殲滅致しまするぞ。 某など我が主君の足下にも及ばぬ故に、恥ずかしい限りではございまするがのぉ。ガハハハハ」


もう口開くの止めてーー!

このまま喋らせると、何か色々ヤバい事になりそうなので、

「じゃあ、コルトガさん、もうサクッと行っちゃって、形勢をひっくり返して来て。

あ、あと余り目立たない感じでね? ほら、ここはイメルダ王国の王城だし、本来なら余所者が出しゃばる場じゃないからね?(本当に頼むよ?)」


「ハッ! 某しかと承った。 では、これにて御免。」


嬉し気なコルトガさんが、伝令と一緒に部屋から出て行った……。

何か既にグッタリだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る