第226話 勇者の末裔の被害者達

何か(テンプレの不幸事)が降って来るんじゃないか?と心配していたのだが、無事に購入した土地へ辿り着き、残っていた残骸に近い建物等を一気に処分して、何時もの様に別荘セットを設置した。


「ふぅ~、これで一先ず安心だね。 後は奴隷商廻りをしてここのスタッフや料理人をスカウトしないとな。 ああ、そうそう、さっきの商業ギルドで油問屋のヨタローさんと知り合いになったんだけど、ひまわり油を売ってるらしいから、買いに行くよー!

美味しい天ぷらとか、揚げ物系作りたいしね。フフフ。」


「え? オリーブオイルも高いですけど、ひまわり油って確か高級品だった様な?」

とアケミさんが呟いている。


ん? そうなの?


「ひまわりとかだと、それ程貴重って事無いんじゃないの?」


俺が不思議そうにしていると、アケミさんが意外な事を教えてくれた。


「あれ? ご存知じゃなかったですか? ひまわりの種ってロック鳥やスピード・バード、ホバリング・キラー・バードなんかの大好物なんですよ。

なので、種が出来る頃になると、ワンサカやって来るんですよ、奴らが。 だから収穫量が激減しちゃったり、年によっては完全に完食されてしまったりするんで、なかなか安定して収穫出来ないのです。」


なるほど、正に魔物の居る異世界ならではのあるあるだな。


普通に考えて、ネットとかで四方と上面を囲えばと思うのだが、そんな網くらいは、直ぐに食い破られるらしい。

じゃあ、ミスリル糸とかで作れば?とおもったのだが、そんな高価な物を一般の農家が使える訳が無いでしょ? と言われ、確かにそうだなぁと納得してしまった。

シールドの魔道具とか使えば? とも一瞬思ったが、一般にそんなのが普及してないので無理だと悟ったのだった。



フフフ、じゃあ逆に考えると、ひまわりを栽培すれば、安定的に高収益になるのか。 思わず顔がニヤけてしまうな。

そもそもシールド張るならうちの拠点程に条件の揃っている所はまずないからな。フッフッフ。


「じゃあさ、ひまわりの種って結構高いの?」


「ええ。とても高いです。」


マジかぁ。ひまわりの種、どっかで手に入れないと拙いね。 ひまわりの種かぁ……。


ん? いや、俺どっかでひまわり見てるな。 何処だっけ? 普通に群生してた記憶あるぞ? えー? 何処だっけか?


俺が一人でニヤニヤしたり、次の瞬間にウーンと唸ったりしていると、


「キャハハ、ケンジ兄ちゃん、一人で百面相してりゅー!」

とサチちゃんが笑っていた。


まあ取りあえず、難しい事は後回しにして、宿の連泊をキャンセルして、マダラ達と馬車を引き上げ、サスケさんの案内で奴隷商を巡る事にしたのだった。



今回募集する人員であるが、第一に料理人というか板さんというか、イメルダ料理を本業にしていた人、それに別荘のスタッフである。

そして何だかんだで予定して居なかった奴隷商まで廻る事になってしまい、7軒の奴隷商を廻った結果、過去最大の24名と契約をしたのだった。


何故そこまで人数が膨れ上がったのか?というと、全ては件の勇者の末裔の所為である。

兎に角、被害者の数が半端無いのだ。 何時もの様に経歴を読んで見ると、ムカムカしたり、頭を抱えてしまったり、涙ぐんでしまいそうになる物ばかりであった。

しかも五体満足な人は1/3未満で殆どが何処かを壊されたり切り取られて居たりという有様だった。


そして今回の目玉だった料理人のトージローさん(39歳)は料理人の命である、利き腕を切り取られ料理人としての人生を失ってしまい絶望の淵に居た。

何故彼がそこまでの状況になったかというと、話は1年程前に遡る。

当時彼は自分の店を持つオーナーシェフだった訳だが、その評判の良さに目を付けた奴(勇者の末裔)の配下が、奴に報告し、屋敷の料理長を首にするだけでなく、これまた料理に難癖を付けて利き腕を切断して身包みを剥いで放出し、断るトージローさんを無理矢理脅して店を潰し、料理長にしたらしい。

だが半年もしないうちに、今度はトージローさんの一人娘のマサヨさん(17歳)に目を付け、寝所に来る様にと告げたらしい。

これは一大事と、妻タマヨさん(37歳)と共に有り金全てを渡して屋敷から逃がしたらしい。

で、逆鱗に触れ、腕を切断された……と。


まあ、どの人もそうだけど、どれもこれも大体同じ様な胸くその悪い話ばかりだった。

こんなストーリー見ちゃうと、どれもこれも何とかしたくなるのが人情ってもんでしょ? だから詳細解析Ver.2.01大先生の情報に従い、縁のある所を探して廻った結果7軒で24人という数字になったのだ。


兎に角大人数になったので、途中1回別荘に輸送して貰い、そして俺と一緒に最後の12人が別荘へと戻って来たのであった。

彼ら全員を治療し、完全な状態に戻したが、手や足や指等の欠損や中には女性として酷い目に合って心を閉ざしてしまった人等を身体的には治したが、マインド・ヒールで何処まで癒やせているかは不明である。


拠点の城から助っ人のメイドさんを10名程呼んで、完全に落ち着くまでの面倒を見て貰う事にした。


更に言うと、今回はこれだけで終わりでは無い。

トージローさんの奥さんと娘さん同様に家族がスラムに身を隠している人が多いのである。

よって、家族を救い出す所までが今回のミッションである。


俺は直ぐにサスケさんに言って、シャドーズを集めて貰い、彼らの家族をスラムから救出する様にお願いしたのだった。


「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」

と全員が片膝を着き頭を垂れた後、颯爽と消えて行った。フフフ、サスケさんに比べるとまだまだ隠し方が甘いな。


兎に角、24名には体力と精神の正常化の為にも栄養を付けて上げないとだね。

取りあえず、泉の水と果物を食べさせて、それから雑炊とかで慣らして行くかな。


さて、サスケさんから聞いた情報を纏めると、問題の勇者の末裔こと、リキヤ・フォン・ハットリ・イメルダであるが、御年35歳で、黒目黒髪、身長は185cmぐらいで、筋肉質な身体を持っている。

勇者からの遺伝の所為か、生まれながらに身体能力や魔力量が大きく、剣技に関しても魔法に関してもこの国でトップクラスというか、おそらくこの国随一の戦闘力だろうという事だった。

これには正直驚いたね。 所業だけを聞いて想像していた醜悪なデップリさんとは全く違っていたからね。

話を聞く限りだと、かなりのイケ面で、一見すると人に害を及ぼす様な雰囲気に見えないのだそうだ。


また、この末裔の配下には、シンセン組と言われる戦闘部隊が50名程居るらしく、これがまたとんでもなく悪い奴らで、リキヤの威光を使って遣りたい放題らしい。

チンピラというか、愚連隊って感じか。 だが、戦闘力だけは本物らしい。


果たして、もしまともにやり合う事になった場合、正面からぶつかったらどうなるんだろう?

負けるとは思わないけど、こちら側にも被害が出そうだよなぁ……。 それは避けたいね。

さて、どうするかなぁ? ここまで色々揃って来ると、もう何かこっちに火の粉が飛んで来るのが決まってしまっている様な気がするよ。

俺の勝手な妄想なら良いんだけどね。

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