第225話 もしかして前振りですか?

翌朝、朝食の際に全員に新しい5名をお披露目した。

昨夜の黒装束とは違い、今朝は普通の格好をしているので、初めて顔を見た訳だが、みんな黒装束で顔を隠すのが勿体ない程の美男美女だった。


本当に毎回思うのだが、この世界って、下手な悪人面とか醜男よりもイケ面率が高いよなぁ。

前世のまま俺が迷い込んでいたら、確実にその少ない方にカウントされていただろうな。


肉エルフ呼ばわりされているコナンさんであっても、実際顔の作りは素晴らしいのである。ポッチャリだけどね。

痩せたら、絶対にイケ面だよ。痩せればね。



まあ話しは逸れたけど、本日は商業ギルドに行って、別荘用の土地を探す予定である。

サスケさん達に知り合いに良い板さんや調理人居ないかと聞いてみたのだが、料理を専門にしている仕事上の知り合い(情報源とかで利用している人)は居るけど、友人は居ないとの事だった。

何処かに潜入する際、料理人のフリをして潜り込む事もあるらしいが、所詮その程度なので期待はしないで欲しいと言われたし。

うむ……残念である。



そんな訳で、商業ギルドが終わったら、次は調理人の確保をする事に決定し、宿を出発したのであった。




やっと到着した商業ギルドは、かなり混雑していた。


「うっはー、これまたえらく混んでるねぇ。 どうしようか、全員入ると迷惑になりそうだから、俺一人で行って来るから、暫く何処かで時間潰してくれる?

ピョン吉達も悪いけど、みんなと一緒にお願いね。」


俺がそう言って一人で入ろうとすると、サスケさんが「主君、せめて拙者だけでも!」

と縋って来る。


まあ、しょうがないか……。


俺が了承すると、やっとホッとした表情をするサスケさんとコルトガさん。


「心配してくれるのはありがたいけど、そこまで俺はひ弱ではないからね? 少し過保護過ぎない?」


「ええ、勿論ひ弱処か、この世界で最強だと思っておりまするぞ! しかし、えーっと、何と言いましたかな? ああ『蟻の巣コ○リ?』と言いますれば。用心に超した事は無い故に。」


「は? 蟻の巣コ○リ? それ多分違うんじゃない? 多分『蟻の穴から堤も崩れる』って言いたいのかな? フフフ。 まあ油断したら駄目って事だよね? 大丈夫油断はしてないから。……蟻の巣コロリ……ブフフ。」

と思わず笑いながら俺が言うと、みんなも笑っていた。


ギィーと音を立てて商業ギルドに入ると、人が多いと思っていたギルドの内部が一瞬シーンと静まり返り、こっちを凝視している。


え? 何? 俺、何かした? と少しキョドってしまいそうになるが、必死で平然を装い、軽く会釈しつつ中にズイズイと入って行く。

そして比較的待ちの少なそうな列に並ぶと、また周囲がガヤガヤとし始めた。

だが、話しのネタはどうやら俺の事の様である。


「おい、アレか? 市場で爆買いしているという外国人は?」

「ああ、噂では他にもポッチャリエルフがバカ食いして居るって話しも聞いたぞ!」

「何か従魔と綺麗なお姉ちゃん連れてるって話しもあったな。」

「何処から来たんだろうか? 何でもかなり腰の低い方らしいが。 もしかしてどこぞの国の貴族のぼっちゃんとかか?」


って、全部聞こえてるんだけど? そんなに外人が珍しいですかね? そんなに気になる感じですかね? と心の中で絶叫する俺。

まあ、多少気持ちは判らんではないけどね。


すると、後ろから、肩をトントンと叩かれ、振り向くと、なかなか渋めの穏やかな顔の紳士、推定40歳ぐらいが微笑みながら声を掛けてきた。

「あのぉ、不躾で申し訳ありません。 外国の方ですよね? この国では外国の方が珍しいもので、ついついお声を掛けてしまいました。」


あれ? これって前にあった様なパターンじゃ? と微妙な気持ちになりつつも、笑顔で応える大人な俺。


「はい。 クーデリア王国から来てます。 確かにイメルダ王国では珍しいみたいですね。」

と無難に応えると、


「おや、これまたかなり遠くから来られたのですねぇ。 そうでしたか、クーデリアですか。

ああ、失礼致しました、私、メインは油問屋をやっております、カズサ屋のヨタローと申します。」


ふむ、何ともまあ落語に出て来そうな名前が。 しかし、油問屋か。 どんな油を扱っているんだろう?


「どうも、ご丁寧に。初めまして、私はケンジと申します。 一応商会もやっておりますが、メインは冒険者やっております。」


「ほほぉ、なるほど、冒険者の方ですか。 良いですねぇ、腕に覚えがあると。 自由に旅が出来ますし。 羨ましいです。」


「フフフ、まあ確かに自由は自由ですが、でも彼方此方廻ってますが、イメルダ王国程美味しい食事が出来る所は無いですよ?

ある意味、私も羨ましいですよ。 イメルダに来た一番の目的は食べ物ですからね。フフフ。

ところで、油問屋という事は、やはり食用油が主ですか? どんな種類の油を取り扱われているんでしょうか?」


「食用油にご興味があるとはお珍しいですな。 もしかしてご自分でも調理をされるのですか?

当方で取り扱っているのは、オリーブオイル、菜種油、ごま油、ひまわり油、紅花油、コーン油等が多いですね。」


なるほど、ひまわりか! そう言えばひまわり油ってまだ購入していないなぁ。


「ひまわり油ですか。 それはまだ仕入れてませんでした。 後でお売り頂けますでしょうか?」

とお願いすると、


「おお、そうですか。 では後ほどカズサ屋の私、ヨタローまでご用命頂ければ。」


そして、丁度俺の順番となったので、また後ほどと断りを入れてから、受付嬢と対したのだった。


「こんにちは。商業ギルド王都支部へようこそ。 本日はどのようなご用件でしょうか?」


「どうも。 今日はこちらに拠点となる土地をご紹介して頂きたくてやってきました。

こちらが、ギルドカードとなります。」

と商業ギルドのカードを提示すると、一瞬だけハッと目を見開いた受付嬢のお姉さんだが、何処かのギルドのポンコツ嬢とは者が違った。


「ケンジ様ですね。 ありがとうございます。 もうカードは仕舞って頂いて結構です。 (余り人に見られると騒ぎになりますので)」

と最後に小声で忠告をしてくれて、ニコッと笑顔を見せてくれた。


ふむ、出来る受付嬢である。 いやぁ~てっきり前回の再現かと身構えていたのだが、流石はイメルダ王国の王都支部だ! フフフ。

シッカリしろよ、クーデリア王国の王都支部!!


そして、俺達はこのタマエさんという受付嬢に応接室へと通され、物件の条件を伝えて何軒かをピックアップして貰った。


「ふむ、見た限りだと、これが一番良い場所ですね?」 と1枚の書類を指刺して言うと、


「ええ、そうですね。 私もこれをお薦めしたいと思っておりました。 まあその分、多少他よりは値が張るのですが、周囲に問題を起こしたり、難癖を付けてくる様な者も居ない所なので、これがベストだと思います。」

とタマエさん。


「じゃあ、この物件でお願いします。 あと質問ですが、ここの王都では建てる建物の制限や注意事項とかあったら教えて下さい。」

と質問すると、


「そうですね……、特に極端な高さ制限等は無いですが、目安としては、王城の半分の高さですかね。 ああ、後ですね、これは非常に国としては恥ずかしい事なのですが、法律関係無く鬱陶しい難癖を付けて来る一部の貴族が居たりします。

これがですね、何と言いましょうか、かなり質が悪い事にこの国ではかなり高位な家系でしてね……何と申しましょうか、抑えられないのですよ、国王様でも。」

と言い淀んで居る。


俺は、あー、アレか? と思い、サスケさんをチラリと見ると、苦い顔で頷いていた。


「えー、でも国王様でも抑えられないっておかしいですね。 国の最上位が国王様ではないのですか?

で、もしですが、その鬱陶しい者に難癖付けられたり、被害を与えられたり、理不尽で法に反する事をされた場合ですが、何か手立てあるんでしょうか? それとも泣き寝入り?」


「はあ、その家系のご先祖様がこの国に多大なる貢献をされた方でしてね、当時の国王様より、免罪符を頂いてましてね。 それがあるので、何も制裁を科す事が出来ない状態なのです。

つまり、出来る事は泣き寝入りだけという事ですね。 この国の恥部です。」


なるほどね。かなりヤバいんだな。 後でサスケさんに詳しく聞いてみよう。


俺達はタマエさんにお礼を言ってギルドを出たのだった。


「なんかさ、このしつこいまでの前振りって、凄く嫌な予感がするなぁ。 これってフラグって奴じゃないの? ねえ、サスケさん、そんなにその勇者の子孫ってヤバい奴なの?」

俺は購入した別荘予定地に向かって歩きながら、そのヤバい奴を詳しく聞いてみた。


サスケさん曰く、「兎に角最悪の貴族をイメージして、それを2倍くらいにしたのがそいつです。」と。

貴族、しかもこの国で最高位に近い存在で、更にその免罪符を使う悪行三昧で、泣いた女性や商人は多いそうだ。

気にくわないと、無礼討ちするわ、何でも持って行っちゃうわで、奴の所為で潰れた商会も多いらしい。

更に奴の所為で奴隷墜ちした人も数多くあるらしい。 何とか王家が裏から手を回して被害者の救済をしようとしているらしいが、最悪のケースだと取り返しが付かない状態になる事が半数以上と。


いや、それはヘタレな俺が言うのもおかしいけど、王様が強権を発動すべきなんじゃないの?


「なあ、サスケさん、この国の王様ってヘタレなの?」

と聞いて見ると、慌ててシーっと人差し指を口の前に当て、

「主君、流石にそれは人に聞かれると拙いでござるよ。 この国の国王様は心優しきお人柄故、なかなか決断がですな……」

と暗にヘタレだと言っていた。 まあ俺もヘタレだからアレだけど、これでも少しは成長したんだからね。


「まあ、最悪の場合、成敗するしかないか……」

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