第224話 富岳の宿の罠

時期的な物もあり、新しい野菜との出会いは無かったが、『振り掛け』等の店を発見して終始ご満悦な俺。

屋台の味噌田楽や団子等を食べながら、市場を廻り切り、最後に梅干しの店を発見してこれまた大量に購入した。

俺とアケミさんには馴染み深い味だけど、コルトガさんやサチちゃん、リックにはキツかったらしく、酸っぱい顔をしていて思わず笑ってしまったのだった。

匂いの段階で、ピョン吉達は、最初から見向きもしなかった。

勿論、梅干しは買えるだけ、樽買いしたよ。フッフッフ。

あと、手の込んだ梅干しのしそ巻きとかもあったので、それも樽で買った。このしそ巻き、昔日本で食べた事があったんだけど、まさかここで出会えるとはねぇ。

正に、イメルダ最高!



さて、昼飯時である。


「昼ご飯、どうしようか? 俺、蕎麦が食べたいんだけど、みんなはどう?」


「おお! 蕎麦ですか! 某は大賛成ですぞ!」

と食い付きの良いコルトガさん。

全員が俺の提案に乗ってくれたので、市場の人に聞いた美味しい蕎麦屋へと向かった。


向かった蕎麦屋は王都で老舗の蕎麦屋らしい。

店構えは古いが、清潔で古びた暖簾が掛かっている。


流石に従魔を連れて入るのは、拙そうだったので、ピョン吉達には、悪いが店の前で取り出した肉串等を食べて貰う事にしたのだった。



「へぃ、らっしゃい!」


「5名なんだけど、良いかな?」


「どうぞ、奥のテーブルへ。」

と案内され、早速注文に入る。


「じゃあ、私は温かい天ぷら蕎麦で」

とアケミさんが言うと、全員同じで良いらしく、俺も同じ天ぷら蕎麦にしておいた。

どうせ、追加するつもりだし。



10分もせずに天ぷら蕎麦が乗ったお盆が運ばれて来て、全員で頂きますをして箸を取った。


すると、

「へぇ~、お客さんお見かけしたところ、外国の方ですが、客さん達『も』、お箸使えるんですかい!?」

と運んで来た店員が驚いていた。


そう、俺やアケミさんが器用に箸を使うので、興味を示した俺の周囲の者達は、みんな箸が使える様になっている。

リックもサチちゃんもだ。


「やっぱり、蕎麦とかは箸で食べないとねぇ。」

と俺がニヤリとすると、


「今日は珍しい事が続く日だなぁ。 今朝開店して間もなく来た外国のお客さんも箸を上手に使って、滅茶滅茶食べて行かれたんですよ。 不思議な事があるもんだなぁ。」

と呟いてから店の奥に行ってしまった。


ああ、そのバカ食いした変な外人、身に覚えあります。 多分俺達のツレですわ……。


コナンさん、ここにも来たんだな。

食べてる姿が脳裏に浮かぶ様だよ。フフフ。

全員の顔を見ると、全員その外人が誰か判ったらしく、苦笑いしていたのだった。


蕎麦は本当に美味しかった。

鰹出汁の効いた汁も素晴らしく、麺は喉越しも良くて、これなら何杯でも行けと思える一品であった。

俺は食べ終わる前に店員を呼んで、ざる蕎麦を追加注文した。

すると、アケミさんもコルトガさんもリックも同じ様に俺の注文に乗っかって追加オーダーを入れていたのだった。


サチちゃんだけは、お腹がいっぱいになったらしく、残念そうにしていたが、届いたリックのざる蕎麦を一口だけお裾分けして貰い満足そうにしていた。

ざる蕎麦も大変に美味しく、最後の締めの蕎麦湯で幸せな余韻を残しつつ店を出たのであった。



ここ、王都では残念ながら寿司屋は無い。

海の幸という意味では、魚は日干しや粕漬けの様な日保ちする加工品のみである。

この国にかなり肩入れして影響を及ぼした過去の勇者であるが、どうせやるなら、俺の様に物流の方まで影響を及ぼしてくれていればなぁ。



一通り、宿の近辺の散策を終え、午後2時頃に宿に戻って来た。


「という事で、ここ王都にも別荘を作る方向で考えたいと思っているけど、大丈夫かな?」

と俺が意見を聞いてみると、コルトガさんもアケミさんも特に反対意見は無く頷いている。

後はサスケさんとコナンさんが帰って来て意見を聞いてみて、問題無ければ明日にでも商業ギルドに行ってみるかな。




夕暮れ時、『富岳の宿』自慢の展望風呂で夕日に染まるイメルダ富士の絶景を堪能しながらボーッと湯船に浸かっていたら、若干湯あたり気味になり、急いで上がってライト・ヒールを掛けた。


「危ない風呂でしたな。 危うくのぼせ上がるところでしたわい。 ガハハハハ」

と笑うコルトガさん。

コナンさんは苦笑いしていた。


リックだけは早々に上がってしまったので、無事だったが、大人全員が絶景の罠に引っ掛かってしまっていた。


「アケミさんとサチちゃん、大丈夫かな?」

と心配していたが、サチちゃんが早めにリタイヤした事で必然的にアケミさんも風呂から上がった為、罠を回避出来ていた様だった。



この宿の夕食は、この世界の宿では初めてみるビュッフェタイプで、一応食い放題となっていた。

それを聞いたコナンさんが狂喜乱舞していた。


「ぼ、僕の為にある様なシステムなんだな! だな!!」と。


「一応、念の為に言って置くけど、取って来た物を食べ残すのはルール違反だし、ペナルティーだからね? そこのところを考えてから取って来てよね?」

とコナンさんをメインに一応他の者にも釘を刺して置いた。まあペナルティー=罰金という事で追加料金を請求される訳であるが、コナンさんを前にこの罠は余り意味が無い気がするね。



並んだ料理はどれも美味しく、少しずつ取って来て、どれもを堪能していたのだが、1人だけハイペースに攻める奴が同じテーブルに……。

流石に驚く勢いでお代わりを続けるコナンさんに店のスタッフだけで無く、周りの宿泊客も唖然としていたのだった。


勿論だが、余りにも食べ過ぎだったので、宿のスタッフに3名分の食事代金を追加で渡しておいた。

これだけで潰れる事は無いだろうけど……ね。


ああ、そうそう、ピョン吉達だが、同じ部屋に泊まる事は許されたのだが、ビュッフェで一緒に食事をするのは流石に拙いので、部屋にシートを敷いて、俺の手持ちの食事を出して置いた。

モモとサリウスには何時もの様に果物メインで与えているが、最近モモも少し成長し、肉類も食べる様になってきている。

サイズも掌大だったところから、両手サイズまで成長している。 まあ、相変わらず甘えん坊なのは一緒だけどね。


そして、夜の9時頃、サスケさんが帰って来た。5名の黒装束を従えて――。


「主君、遅くなり申した。 この者達が拙者が言っておった者達でござる。」

と5名の黒装束を紹介して来る。


5名は2名が男性、3名女性であった。


「ほほー、くノ一なのか!?」

と俺が感嘆の声を小さくあげると、5名の方が驚いていた。


「ほほぉ、くノ一をご存知とは、流石は我が主君でござる。」とサスケさんが嬉しそうに返す。


5名はサスケさんが率いて居た後輩に当たる人達で、サスケさんが怪我を負う事件を機に、同時期、当時の主から離反したらしい。


それぞれの名前は、サノスケ(23歳)、ゴスケ(23歳)、カエデ(21歳)、リン(21歳)、オキク(20歳)である。

不思議な事に、サスケさんもしかして、洗脳したんじゃないの?という程に、この5名の俺への信頼度や忠誠度がおかしい。

初っ端で両方共に100%なのである。あるのか? こんな事が?


「みんな、俺の所に来てくれるという事で良いのかな? 勿論無理なお願い何かはしないし、ちゃんとそれぞれ自分の命を大切にして欲しい。」

と俺が聞くと、


「「「「「ハッ!我ら、ケンジ様を主君と仰ぎ、主君の影となれる事を誇りに思うでござる。」」」」」

と片膝を着き、頭を垂れていたのだった。


早速、全員にシャドーズフルセット(黒装束と例の黒い鎧セット)それに親方特製の刀や小刀、クナイ、それに巾着袋、それに活動資金を渡すと、大喜びしていた。

しかし、コルトガさんやサスケさんと同じ穴の狢なのか、忠誠度が100%を超えるって……何?


流石にこの部屋には泊まれないので、急遽2部屋追加して、男性陣と女性陣で別れて泊まって貰う事にしたのだった。


何にしても、優秀な人材が揃って行くって素晴らしいよね。

集まった全員が平和にそして幸せに暮らせる拠点で有り続けたいと思うのであった。

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