第223話 市場での運命の出会い

まあ、王都観光もそこそこにして、早速今晩の宿へと向かう事にした。

宿は勿論門番の人にも聞いたのだが、サスケさんのお薦めでもある。

どうやら当初仕えていた人物は王都に居た様で、その為王都にも詳しいみたいである。

俺が奴隷商で契約する時、サスケさんの経歴を詳細解析で確認した訳だが、そこまでの記載が無かったので知らなかったよ。


「サスケさん、もしかして遇いたくない人とか王都に居たりする? なんだったら、拠点に戻って貰っても構わないけど。」

と聞いて見たら、苦笑いしながらも、


「主君のお心遣い、誠に恐縮でござるが、今の拙者は主君の影として生まれ変わった身。 影とは即ち本体とは切り離せぬ物故、ご心配には及ばないでござる。」

と片膝を着いて頭を垂れていた。


「本当に? 無理してない? 何かあったら、直ぐに相談してね。 みんな大切な仲間なんだから。」


「ハハッ! 勿体無いお言葉、ありがたき幸せでございます。」

と嬉し気に応えていた。 大丈夫かな?



イメルダ王国の王都にある『富岳の宿』だが、これがまた名前通りに豪華でデカい宿である。

建物的には3階建てで、横に大きい感じで、巨大な旅館という感じかな。


早速チェックインして部屋に案内されたのだが、部屋に備え付けの風呂の他に、大浴場があるらしく、イメルダ富士を眺められる展望浴場となっているらしい。


「夕日を浴びたイメルダ富士を眺めながらのお風呂は最高ですよ。 是非お試し下さいね。」

と宿のスタッフが自信満々に勧めてていた。


なるほど、それなら誘いに乗らねばなるまいな。フフフ。


部屋で一休みした後、全員に恒例となったお小遣いを渡すとコナンさんはピューッと街へ消えて行ったのだが、コルトガさんとサスケさんは俺の傍から離れようとはしない。


「あれ?行かないの?」と聞いてみたら、「某は主君の剣であり盾でありますれば。」「拙者は主君の影故。」と……。

どうやら去年のドワースでの事件がまだ尾を引いているらしい。


「あれから個人向けのシールド魔道具もマギ鉱石で強化したし、そうそうあんな事故は起きないから心配しないで良いよ?

折角イメルダの王都に来たんだし。 じゃあどちらか交代制にしたら?」

と提案すると、顔を見合わせる2人がゴニョゴニョと後ろを向いて話し合った結果、初日はコルトガさんが着いて来てくれる事となった。


サスケさんは、

「では主君、お言葉に甘えちょっと知人と会って参るでござる。 かなり有能な奴故、勧誘のご許可を頂きとうござる。」

と頭を下げて来た。


「ほう! 有能な人なんだ。 じゃあドシドシ遠慮無くやって! 有能な人で性格に問題無い人なら大歓迎だよ!」


「ハッ!」

と言って目の前から消えて行ったのだった。


「相変わらず見事な消えっぷりだな。 フフフ」


まあ、実際あの事件以来、サスケさんの気配をある程度は追跡出来る様になったので、実際に何処までどの様にしているかは判っているんだけどね。

ほら様式美ってのがあるから、それはバラさないのがお約束だよねぇ~。


リックなんかは、何時もの事なのに、「おおお」とか言って目をキラキラさせてるからね。


そして俺達も宿を出て街へと繰り出したのだった。


ピョン吉達を連れて街を歩く訳だが、やはりかなり目立つ訳で、多くの視線を感じるが、気にせずに何時もの様に屋台や店等を周り市場方面へと向かうのであった。



王都の市場は数が多く8箇所あるらしい。

俺達が今回向かうのは、その8箇所の中でも宿から一番近い市場である。


市場エリアに入ると、それはそれは人通りが多く、滅茶苦茶賑わって居る。


「凄い賑わいっぷりだね。 ここまで人が多いと迷子にならないとも限らないから、気を付けないとだな。

あと、ピョン吉、角を人に当てないように気を付けてね? 拙いからね?」


「キュッ!」<了解!>


サチちゃんを肩車してリックとはガッチリ手を繋いでいざ市場へ!



「あ! ケンジさん! あそこでお漬物売ってますよ!」


目敏く発見したアケミさんが、露店のお漬物屋さんに素早く駆け寄る。

俺達も後を追ってお漬物屋さんに移動する。


「わぁー、おばさん、この沢庵美味しいーー!」

いち早く味見中のアケミさんがニコニコしながら、俺達にも沢庵を一切れずつ爪楊枝で刺して食べさせてくれた。


「おお、これはまた何とも酒が進みそうな味ですな。」

とコルトガさんも絶賛。


「カツオの風味が美味いね。 いかんな。早速お茶漬けが食べたくなってしまうな。 これ買おう!! 沢山ね!」


更に白菜の浅漬けを試食してこれも買うリストに追加。

ぬか漬けを試食すると、これまた絶品で、大好きなキュウリや茄子のぬか漬けもリストに追加する。


「ん? こ、これは!? もしや奈良漬けか?」


俺が視線を送る先には、半分にカットされた瓜が味噌の様な物に塗れて付け込まれていた。


「おや、お客さんツウだねぇ。 これをご存知かい? どうだい、試食してみるかい?」

と1本を樽から取り出して切ってくれた。


爪楊枝に刺して、一口食べるとあの懐かしい味が……。


「おばさん、これ! これだよ! あるだけ買う! 買えるだけ買うよ!! 美味いねぇ。 これってここでも奈良漬けって言うので良いの?」


思わぬ出会い(奈良漬けね)に大喜びする俺を不思議そうに眺めるおばちゃん。


「名前は違うよ。 これは酒粕漬けって言うんだよ。」


なるほど! そりゃそうか。 この世界に奈良なんてある訳が無いもんな。フフフ。


アケミさんもコルトガさんも奈良漬け……おっと酒粕漬けか、初めて食べる酒粕漬けを気に入った様子。

サチちゃんだけは俺の肩の上から、ちょっと苦手だと言っていたけどね。



そして俺は、更にその奥にまたもや衝撃的な物を発見してしまった。

「おばちゃん、その奥にあるそれって、もしかして『らっきょう』?」


「お兄さん、本当にツウだねぇ。 良くこれを知ってるねぇ。 味見するかい?」

とおばちゃんが、小皿に取り分けてくれた。

ツーンとする匂い……正しくらっきょうの匂いである。


指で摘まんでポイっと口に入れる。 コリコリとした歯応え、味、正しくらっきょうだ!


「うぉーー! らっきょうだー! まさか巡り会えるとは! おばちゃん、これも買えるだけ全部買うよ!」


まさか欲しい欲しいと思っていたらっきょうにここで出会えるとはな。これでカレーがまた一段良い感じになるな。フフフ。

これで福神漬けまであればなぁ。


ダメ元でおばちゃんに聞いてみた。

「おばちゃん、もしかして福神漬けってあったりする?」


「ふくじんづけ? 聞かない名前だね。 どんな物なんだい?」


福神漬けって何が入ってるんだっけ? 大根とレンコンだっけか? メインはそんな感じだよな?

俺が口頭で説明すると、「ああ、あるよ!!」とニヤリと笑っていた。


こちらの世界では、『福宝漬け』という名前だそうで。

俺は迷わず、それも大量買いする事にしたのだった。


「大量に買ってくれるのはありがたいんだけど、あんたら、これ、どうやって持って帰るんだい? 相当な量なんだけど。」

と心配してくれるおばちゃんに、お金を払い、受け取ったお漬物をバンバン収納して行く。


見る見る収納される様に呆気にとられるおばちゃん。

そんなおばちゃんにお礼を言ってから、次の店へと向かう。


「こりゃあ、初っ端から、好調な滑り出しだね。 ウンウン、良い感じだよなぁ。」


「フフフ、ケンジさん、本当にイメルダ料理大好きですよねぇ。 私もそこそこ作れるんですけど、いっその事、イメルダ料理の職人を雇ったら如何ですか?」

とアケミさんが提案して来た。


「そう、それなんだよねぇ。前々から結構考えては居たんだけど、そうそううちの拠点に来てくれるものかなぁ? 何か嫌がりそうじゃない?」


俺が言うと、「確かに……」とアケミさんも頷いていた。


やっぱり普通に雇うとなると、拠点に連れて行くのは難しいよね。 そうなると、また何時もの奴隷商でヘッドハンティングって事になるんだけど、そんな都合の良い条件の人が居たりするかな?とね。


「まあ、ダメ元でここの奴隷商でも後で廻ってみるか。」

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