第222話 自分へのご褒美タイム

順調に2月が過ぎ、そろそろ雪解けが始まる季節である。

2月の間に、各別荘のある都市で孤児達を積極的に受け入れ、他でも鯛焼き、たこ焼き、更にラーメンの屋台を始める事にした。

小さい子供達はお手伝い程度となるが、少しでも働ける環境を増やす事に意義がある……と俺は思う。

真面目に働く事をちゃんとに理解すれば、正しく育って行けるのではないかと。


まあそんな訳でラーメンの屋台の開始に伴い、拠点と王都のモデルタウンにはラーメンのスープや麺を作る工場を作り(何気にこの雪の残る中での工場建設が一番大変だった)、拠点で必要なラーメンの物資を供給する方法を採用した。

一気に作るのであれば、多くの暇人達が居る冬は最適な季節である。

なんせ、俺達には時間経過が無い倉庫があるから、作り貯めし放題という訳だ。



とは言え、鶏ガラスープを作る為のロック鳥はまだ良かったのだが、鶏の在庫はそれ程無くて、慌てて仕入れを強化したりと、結構大変であった。

チャーシューと豚骨用のオークなら沢山あるんだけどねぇ。



そして、今日3月5日、全国一斉に屋台オープンの日となった。

各別荘のある地には、それぞれ拠点からラーメンの炊き出しを行ったスタッフを1名派遣する等して、不慮のケースに対応して貰う様にしている。

俺も朝からソワソワして、リビングを行ったり来たりしている。

まるで分娩室前の新人パパ状態である。


時差があるので、東の沿岸都市ライゼムから順に朝9時にオープンとなる。

ライゼムからオープンしたとの連絡を受け、続けて最初の客が入ったとの連絡を受けた。――――そして連絡が途切れた。


「あれ? 何もレスポンスないねぇ。」

とジリジリしていたが、居ても経っても居られないので、コッソリゲートで上空から覗き見する事にしたのだった。

気配遮断をして、上空からライゼムの街の屋台の場所辺りを視力を強化して見てみると、長蛇の列が出来ていた。


「ハハハハ、なるほどフル回転なんで、連絡してる場合じゃないのか。ハッハッハ! 良い感じじゃん。」


好調なスタートダッシュにホッとして城へと戻ったのだった。



1日が終わり、各地からの報告が入ったが、ラーメンもたこ焼きも鯛焼きも大好評で、オープンして5人ぐらい客が入った後は、口コミで膨れ上がり、常に15~30分待ちの行列が出来てしまうという事だった。

まあ、初日だからな。1週間ぐらいすれば落ち着くだろう。



なーんて甘い事を考えていたんだけど、来客数は増える一方で落ち着く気配も無い。

連日の忙しさで拠点へのヘルプ要請が頻繁に入る様になり、結局完全な2シフト制にする様、早急に人員の増員を決めたのだった。


とは言え、増やして直ぐに即戦力となる訳ではないのだが、1週間ぐらいで過労状態が緩和されたのであった。

更に、人員を増やし、交代で週休が取れる様にした。

気が付くと、オープンから3週間で人員は2.5倍くらいに膨れ上がっていたのだった。


そして今では完全にどの屋台も定着し、高収益をキープしていたのだった。



ラーメンの成功に気を良くした俺は、季節が来る前にと、冷やし中華のタレ作りに勤しむのであった。

フッフッフ、冷たい食べ物というジャンルで言うと、ざる蕎麦ぐらいしか無かったので、これは確実に売れると思うんだよね。

これはタレを作るだけだったので、比較的簡単に3日ぐらいで完成した。


あと、夏にかけて本格始動させたいのは、アイスクリーム作りである。個人で楽しむ程度は直ぐに作れるんだけど、量産体制を整えるのには、また魔道具を沢山作る必要あるしね。

フフフ、アイスクリームを作れば、応用で恐らくシェイクも作れるな。

ああ~、夢が広がるよぉ。


という訳で、引き続き、アイスクリームの製造機魔道具の開発に着手する。

まあ、大した仕掛けは無く、ミスリル製の容器に材料を入れて混ぜ、更に冷やしながら空気を含む様な感じで混ぜ混ぜするだけ

バニラアイスの要であるバニラビーンズだが、こっちの世界でもこれは発見済みなので、揃わない材料は無い。

一応、バニラは元祖村長に言って、栽培して貰う事になっているし。

ただ、これがチョコアイスだと話は変わる。

チョコの原料となるカカオが何処にあるか、判らないのである。


俺の記憶にあるカカオの雰囲気をイラストに描いて、それこそスタッフから街の住民まで聞いてみたが、知る人は居なかった。

もしかすると、この大陸には無い可能性もあるのかな? 無いと思うと食べたくなるのが人の心理である。

前世では、歳と共に段々甘い物とかコッテリした物が欲しいとは思わなくなったのだが、今は若い所為もあり、全然OKなのである。

まあ、ダダ甘いよりというは、上品な甘さが好みではあるが。


詳細解析Ver.2.01大先生で食糧倉庫のチョコを取り出し、製法を問い合わせしてみたんだが、どうやら『カカオ』という名前でこの世界にも存在する事は確かな様であったが、肝心の生息地の情報は無かった。

だからカカオは気長に探す感じで行こうと思って居る。

ほら、例の毛根再始動薬で使用したハゲテール茸の発見もあったし、何処で何を発見するか判らないからねぇ。 後の楽しみとして取って置こうかと。





そして夏に向けたラーメン屋台の季節メニューも完成させた俺は、心置きなく次の旅へ……という事で、現在イメルダ王国の王都にやって来たのだ。所謂『頑張った自分へのご褒美』タイムである。

もしかすると、俺が忘れている新しいイメルダ料理に出会える可能性もあるので、そこも楽しみではある。


え? 1年の内のご褒美タイムが多過ぎる? いやいや、ノンノン、そんな事は無い筈だ。 だって十分な成果も出しているし、遊びと実益半々ぐらいだからね?

半分はお仕事なのです。 職業旅人って奴です! フフフ。



城門を潜ると、イメルダ特有の屋台が建ち並んでいる。

海から遠い事もあって、屋台に並んでいるのは殆ど肉系であったり、豚汁であったりで、数は少ないが川魚の串焼きを出す店も何軒かあった。

川や山は近くにあるのだが、海からは350~400km程は離れている。


そう、イメルダ王国の王都だが、国土の中央よりというはかなりマスティア王国との国境寄りに位置している。

理由は中央付近にある山であるが、これが日本人にとっては懐かしいあの山に形が似ているのである。そう、富士山だ。

尤も富士山程の高さは無く、1600mぐらいらしいのだが、過去の勇者が『イメルダ富士』と呼んで喜んだ為、現在ではイメルダ富士と改名してしまったらしい。


そして、勇者の提案で城が改築された? いやもうこれは新しく作られたと言って良いだろう、完全に天守閣を持つ日本古来の城の形になっていた。

城門を潜って以来、色々と俺を驚かせてくれるぜ。


城は大阪城の様にかなり大きめの堀に囲まれており、ちゃんと忍者返し付きの石垣の塀がその堀の周りに聳え立っている。

是非とも1000円なりの拝観料を払ってでも中を見学してみたいところだが、そんなシステムは無いらしい。当たり前だけどね。


但し、ここイメルダ王国の王都では、王城の堀の近くまではちゃんと一般市民が入って来られる様になっている。

通常他の国では、王城付近にある貴族街への立ち入りは、許可書が無い限り許されなかったりする事を考えると、これはかなり凄い事である。


「しかし、こうして間近で見られるとは思わなかっただけに、城マニアでない俺でも興奮しちゃうな。」

日本人である勇者が監修した城だけに、かなり細部に渡って再現されているのが素晴らしい。


俺の拠点でも拡張して城を建てる(出す)際、どのタイプにするか、かなり迷ったのだが、形的には実に良いが、実際に住むとなると不便そうだったので、日本古来の城はパスしたのだ。

内部が全て鶯貼りの木製廊下であったり、部屋が全て和室であったり、襖と障子だけで区切られた部屋というのも却下した理由である。

やっぱりスタッフ達の事も考えると、プライバシーの確保は重要だからね。

尤もそうは言っても、やはり畳のある生活にも未練タラタラだったので、結局広い自室の隅を家具で仕切り、畳のある和室空間を確保してあるのである。

冬にはコタツを出したりして、座椅子に座りポーッとしたり、ゴロリと横になって畳を満喫しているのだ。


まあ、そう言う訳で、この城の内部はどうなっているのか、興味津々なんだが、流石に保安上の理由で探りを入れて居ると捕まってしまうだろうから、我慢しているのである。


そうそう、過去に来た300年前の勇者だが、この国のお姫様と懇ろになって、結婚して幸せに暮らしたらしい。

だから、今でも王族の一部にはその末裔が居るという話である。

だが、サスケさんの情報では、その末裔はかなり屑らしく、実に評判が宜しく無いのである。

勇者の末裔だけに王様も処分し難いらしく、困ったちゃん扱いなんだとか。


「なるほどね。何を遠慮しているんだかな。サッサと処罰してしまえば良いのにね。」


「いえ、そう言われましても、一応末席とは言え王族、それも勇者の血を受け継ぐ者故、なかなかそうそう簡単ではござらんのですよ。」

とサスケさんが苦い顔をしていた。

ふーん、なんか色々あるんだろうなぁ………

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