第221話 ラッパを鳴らせ!

ラーメン用の屋台セットを20台ぐらいと、店舗用厨房セット、それにラーメンの製麺機(魔道具)を作ったり、ついでにパスタやうどんの製麺機もアレンジ版で作ったりした。


別荘経由で各地の状況を聞いてみたが、特に問題は起きていないらしい。

ただ、王都のモデルタウンからの情報を除いてであるが。


王都のモデルタウンは元々スラムである。 つまりそのスラムの周辺もそれ程裕福とは無縁の人達が住んでいる訳で、ゆとりなんてある訳が無い。

元々困窮気味の人達が住んでいたのに、通りを1つ跨いだ先の最底辺の地区が、王都で屈指の最高級地へと生まれ変わった事で、軋轢?が生まれているらしい。

それまでは、マウントを取る事でギリギリのプライドを保っていたのに、そのバカにしていた相手であるスラムの住民達が、ある日突然立場を逆転して良い暮らしを得てしまったのだからな。


そりゃあ、やっかみや妬みの対象となるだろうなぁ とは想像出来る。

モデルタウンの住民達は、モデルタウンから出る必要が無いので、実害が無いのだけは救いであるが、モデルタウンNo.1のジェームスさんから連絡で、


「ケンジ様、周囲の2ブロックには、元々スラムギリギリぐらいの住民が住んでやして、やはり冬には餓死者が出るでさぁ。

こんな事を言えた義理じゃねぇんですが、炊き出ししてやっても良いでしょうか?」

とね。


「ふむ……、炊き出しは別に自由にして良いよ。 ただどうなんだろうな? やってみないと判らないけど、これまで下に見ていた奴らに炊き出しされて、暴れそうな予感もするんだけど、大丈夫かな?

周囲の住民であっても、孤児や性格的に問題の無い奴らなら、モデルタウンの住民にする事も可能だけど、人選を間違うと俺の様に後々面倒な事になるよ?」


「ええ、ドワースでの事件はお聞きしてやす。 まあ、そこら辺は炊き出しをしてみてから検討してご相談致しますんで。」

という事だった。


炊き出しか……… 冬、雪、寒いとくれば、ラーメン? ついでにラーメンの屋台の実験しちゃうのも面白いよな?


フッフッフ、ここのところ、ジッと籠もって物作りばかりしてたから、そろそろ外で身体を動かすのもアリだな?



「えーっと、10名程お手伝いを募集します。 王都のモデルタウンの横で炊き出しするらしいんだけど、そこでついでにラーメンの屋台やって実験したいなって思ってまして。

何方かお手伝いプリーズ!」


するとシュタッとコナンさんが真っ先に手を上げていた。


「えっと、コナンさん、一番乗りなのは嬉しいんだけど、食べる手伝いじゃないからね? 作る側だけど、そこは大丈夫?」

と俺が念を押すと、エッ? って小さく叫びガーンって顔をしていた。 逆に不思議だよ。 食べる手伝いって 何? 試食の手伝いと勘違いしたのか? フフフ、まあ、良いか。


厨房の調理スタッフも含め、ラーメンの作り方(麺のゆで方や湯切りのコツ、スープの配合とか色々)の特訓を行った。

ルールとして練習で作った物は各自で食べさせる様にしたので、各自真剣味が更にプラスされていた。

コナンさんも久々に見る真剣な表情であったのは笑ってしまった。


そうして、約2日間の特訓を経て、ウンザリする程のラーメンを食べた(食べきれなかった分はちゃんと各自の巾着袋に収納済み)全員が、王都へとやって来たのであった。


「お久しぶりですね。 どうです? 炊き出しの具合は?」


挨拶を交わしつつジェームスさんに聞いてみると、半数は喜び、お礼を言いながら食べて居るが、半数は揉め事を起こしているらしい。

しかし、じゃあ食いに来なければと思うのだが、それでも食いに来るから始末が悪いのである。


炊き出しは毎日昼食タイムに出す様にしているとの事で、早速俺達も屋台の準備に入る。

今日は、醤油ラーメン一本で勝負する予定である。

ああ、勿論従来の炊き出しは横で配っているから。ほら、好みとかもあるし、分量的に足り無い事もあるだろうからね。


この日の為に、新たに作成したアイテム……ラッパである。

これを作るのは何気に大変であった。 更に大変だったのは、ラッパを鳴らすまでの練習である。

やっぱりラーメンの屋台と言えば、お約束のアレを吹かねばなるまいて。 いざ出陣である!


パラプーパパ パラプララプー♪ パラプーパパ パラプララプー♪


俺が練習の成果を吹き始めるとゾロゾロと集まる周囲の住民達。

この世界初の本格的な楽器である。 当然聞いた事も無い音とそのフレーズを不思議に思わない訳が無い。


スタッフ達には、「これが屋台のラーメン屋の基本だから。」と俺が言うと、みんなは真剣に真顔で聞いていた。


そして、戦争が始まった。分業でドンドンとラーメンを作り配って行く。


初めて見るラーメンに不思議そうな顔をする住民達であったが、雪の積もる寒い季節、温かい湯気を放つラーメンの魅力にメロメロになるのは早かった。


「うっめーーー! 何これ!?」


フッフッフ、何これって、ラーメンですがな。


「わぁー、初めて食べるけど、美味しいわぁ!」


そりゃそうですよ、世間的には本邦初公開って奴ですからねぇ。


「わぁー、薄いけど肉も美味いし、卵? これも美味い!」


わ、悪かったな!薄くて!! 分厚く切ると、コストが嵩むんですよ!


と心の中で突っ込んだりしながら、ラーメンをガンガン配りまくった。



翌日は塩ラーメン、その翌日は豚骨ラーメン、更にその翌日は味噌ラーメン……と連日ラーメンを炊き出しの横で配りまくった。


結果として、ラーメンは元スラム脇の住民にも大好評で、冬というあまり人々が出歩かない季節だというのに、数日で王都中に広まるのであった。



さて、俺はというと、ただ闇雲にラーメンを配っていた訳では無い。

密かに詳細解析を使い、こちらサイドに入れて良い人物とダメな人物を選定していた。


水面下では『可』の者と『不可』の者とでラーメン丼を別けて配りつつ、その丼を見てシャドーズが勧誘する感じで進めていた。


この結果、ドンドンと『可』の者がこちらに移住し、徐々に炊き出しに来る者が減っていったのだった。

他の3つのモデルタウンでも同様に炊き出しを行い、数日で引き抜きを行った。

結果、各モデルタウンでは20%~30%程人口が増えた。


『不可』の者達がこれに気付くのは、春を迎えた後であったという……。

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