第220話 冬の宿題

さて、長い冬休みに俺が取り組むのは、待望のラーメンである。

食糧倉庫から生麺タイプのラーメンを取り出して、麺の製法を詳細解析Ver.2.01大先生から習い、それに従ってまずは麺作りから始めた。

作るのは一般的な醤油ラーメン等に入って居る普通の太さの麺と、後は博多ラーメン用の細麺である。

まずは普通の麺から始めるのだが、麺を捏ねるボウルや麺打ち棒?何かを作成し、白い板前風の服と前掛け、それに帽子を被り、形から決めた。


「フフフ、この姿になってこそ、気合いが入るってもんだ。 滾るぜ!」


うどんは打った事があるが、ラーメンは初体験である。


煮干しベースのスープを適当に作り、打った麺を茹でて試食するが、何かが違う。

いや、スープが全然ダメなのは承知しているんだけど、ラーメン屋で食べたあのツルンとした喉越しが無いのである。

小麦の配合や種類を変えて色々と試し何十回も試して行く。そして3日間の試作の結果、やっと最適なあの麺の再現が出来た。いや寧ろ俺の知るラーメンの麺を一歩も二歩もリードしているだろう。

続く博多ラーメン用の細麺も何度も試作しては内容を変え更に試作して行き、今度は2日ぐらいで取りあえず完成した。 多分ね。 この麺は豚骨スープで食べてみないと何とも判らん。

なので、取りあえずの完成としたのだった。



そうなると、今度はいよいよ本格的なラーメンのスープ作りである。

雄鶏を骨を使った鶏ガラスープ、ロック鳥を使った鶏ガラスープ、オークの骨を使った豚骨スープ、ボア系を使ったスープ等、色々試す事にした。


よく判らないけど、確かTVの番組で骨を綺麗に洗ったりしていたのを覚えている。綺麗に洗うのは、生臭さを無くす為とか?

長ネギとか、思い出しながらショウガとか色々入れて煮込んで行く。

沸騰させちゃダメとか言っていた様な気がするので、火加減に細心の注意を払いながら、かき混ぜたり灰汁を取ったり……約8時間。


ついに試作スープ第一号が完成した。

合間に作ったチャーシューをスライスし、まずは普通の麺で醤油、塩で試して見る事にした。


この日の為に作ったラーメンの丼にスープを入れ、茹で上がった麺を入れて行く。


ネギやメンマ(これも作ったんだよ!)を入れ、キクラゲは判らなかったので無しにしたが、煮玉子とチャーシューを入れた。見た目は正にラーメン店のそれだ。


まずはスープから。


ズズズッ




悪く無い? 悪くないけど、あれ? 何かパッとしないな。麺は? 麺は美味しい。

鶏ガラスープベースの塩ラーメン……ズズズッ……おお!これは普通に美味しいな。


醤油スープ、もう3歩足らない感じだな。何だろう? あ! そう言えば!!! ラーメンのスープ用の醤油ってたまり醤油だったっけ? もしかしてそれか!?

確か、イメルダで買い出しした時に少し別けて貰ったはずだ。

再度チャレンジ! 今度はたまり醤油でスープを作り、茹でた麺を入れ、風味付けにごま油を垂らしてっと……出来た。


「出来たかも知れない! 出来たんじゃないか? よし、明日みんなの意見を聞いてみよう。 今日はもう限界……」


俺はスープ等全てを収納し、身体にクリーンを掛けてから部屋にゲートで移動して、そのままベッドに沈没したのだった。



 ◇◇◇◇



ファ~

朝から大きな欠伸をしながら、身体をコキコキと動かしつつ、ベッドを降りる。既に時刻は午前8時を過ぎていた。

まあ、眠りに着いたおのが夜中の3時ぐらいだったから、5時間程しか寝てないのだがな。


昨晩は夜中にラーメンを3杯も試食した所為か、朝から腹が重い。

早速作業を再開したいところだが、流石に朝からラーメンはキツいな。 


食堂へ行くと、既に全員朝食を終えたらしく、マッタリと食後のコーヒーを飲んでいた。


「おはようございます。 朝食は何になさいますか?」

と食堂付きのメイドが訪ねて来たのだが、


「おはよう。悪いけど、夜中に食い過ぎてお腹がまだ無理そうだから、コーヒーだけ貰って良いかな?」

とお願いすると、席にコーヒーが梳かさず出て来たのだった。


「昨夜は遅くまでやられてたんですか?」

とアケミさんが笑いながら聞いて来た。


「ヘヘヘ、何とか試作スープ第一号が上がってね、試食を繰り返したりしたから、まだお腹がいっぱいでね。

でも、かなりいい線まで漕ぎ着けたと思うよ? 後でみんなにも試食して貰いたいな。」

と俺が笑いながら報告すると、コナンさんが


「い、いつでもイケるんだな! 試食大好きなんだな!」

と食い付いて来た。

コナンさんは朝食後でも即イケるんだ……相変わらずの食欲だな。ハハハ……。



「まあそうは言っても、今の俺はまだ作る気にならないから、昼食に出すから楽しみにしててね。」

という事で、約束しておいた。 テスターが減らない様に早めに言っておかないとね。




そして、(コナンさんが)待ちに待った昼食タイム。


俺は厨房で麺を茹でる……茹でる……茹でる。

人数分一気は厳しいので4回に別ける。


味付けは、昨晩の最後の試食の物にしている。

全員の分を作り終わり、伸びない様に巾着袋に収納していたのを、一気にテーブルに出して行く。


「ささ、麺が伸びない内に! あ、熱いから気を付けてね。」


「「「「「「「「「「いただきまーーす!」」」」」」」」」」

と全員が声を揃えて大合唱し、


まずはスープをズズッと一口飲み、


「あ! 美味しい! 蕎麦の海鮮ベースの汁とはまた違うのですね。 これ美味しいです!」

とアケミさん。


「アチアチだけど、おいしいーー!」

「あ、本当だ。醤油っぽいけど、何か色々美味しさが詰まってる!」

とサチちゃんとリックにも好評。


「アチ、あ、美味しいんだな!」

とコナンさんも満面の笑みでグイグイ食べている。


結果、全員に大好評であった。

アケミさんにも他のみんなにも確認したが、この世界にはラーメンという物はやはり存在しないらしい。


好評だったので、続けて塩ラーメンも出したのだが、これまた大好評ではあったが、流石に素人にはラーメン2杯は厳しかったらしく、食べ終わった後は、みんなノックアウト寸前だった。

ただ1人コナンさんを除きだが。


「まあ、これはあくまで第一バージョンであって、完成形じゃないから。 今後も進化させ続けるし、まだまだ他にも沢山種類もあるからね。 フフフ、ラーメン道の奥は深いからなぁ~。」


「凄いですね。ラーメンって。これ以外にも色々あるんですね?」

と驚くステファン君。


「ああ、他にも豚骨系や醤油豚骨とか、味噌ラーメンとかもあるし。

後は、夏専用の冷やし中華とかもあるぞ? つけ麺シリーズもあるしな。 まあ追々技を磨いて出して行く予定だから。 期待しててね。 フフフ。」



 ◇◇◇◇



俺が新年早々から始めたラーメンの探求だが、のめり込んでいると、月日が経つのは恐ろしく早く、1月が終わり2月に入った頃、漸く大体の目標が達成された。

実に長かった様で短い様な不思議な感覚だ。 試食に付き合ってくれたみんなには感謝感激である。


というか、みんな見事なまでにドンドンとラーメンに嵌まって行ったのには笑ったな。

まあ、結果から言うと、ウーコッコー達の卵は美味しすぎるという事だ。

あれ1個をラーメンに入れると、デカ過ぎるし、味が濃厚で、全てのラーメンが消し飛んでしまうのである。

そこらの素材であれに打ち勝とうとするのが、そもそも間違っているのだ。


唯一善戦したのは、オーク・キングの骨をベースにした豚骨と背脂を使った醤油豚骨ぐらいだな。

味噌ラーメンは味噌が吹っ飛んだし。

あの卵に完勝出来るとしたら、やはり……いや、いかんいかん、もう俺の従魔とその家族だし! いかんいかん!!


俺は心に封印しつつ、気を紛らわせる様に新たな屋台プラン等を練るのであった。

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