第219話 正月の風物詩

例年の通り雪が降り積もり、大晦日を迎え、新年となった。


城から見る白銀の世界は壮観である。



スタッフ全員にお年玉を配り、お雑煮を食べる。

イメルダ料理というか、お雑煮の風習は無いらしく、美味しい美味しいとアケミさんがお代わりしていた。

アケミさんは去年のあの事件以降、日々上機嫌である。 何でかな? 何か俺の治療が足り無かったとかそう言う事は無いと思うのだが……。

まあ不機嫌よりは良いので、OKなのか?



王都のモデルタウン4箇所の住民も、各別荘のスタッフや住居者も、この街の住民も、全員食べる物には困っておらず、温かい食事を毎日3食食べられている。

年末に、1年の収支決算というか、まあ書類に目を通したのだが、凄く凄い事になっていた。 あれ? 驚きで言葉が変だけど、それぐらい凄かった。

住民が増え、出て行く食料が増えたのは増えたのだが、まず第一に農作物の収穫量が消費量や販売分を含めて、その倍近くあり、その余りは時間経過の無い倉庫に備蓄されている。

また、スパイス類の栽培と収穫も順調で、初年度にしては上々と言ったところだった。

元祖村長曰く、来年はもっと増えます。いや、増やします!と言っていたので、期待出来るだろう。

余剰分は結構販売したのだが、その収益も凄かった。


スタッフや、警備等の人員に払う給料やその他の経費等が例え倍になったとしても、全く誤差としか言えない程の凄い黒字である。


「これ程とは想いもしなかった。更に11月にオープンしたモデルタウンが症状を悪化させてるな。」


「まあ、悪化というか勢いに弾みを付けたというか、実際に凄い数字ではありますね。」

とステファン君。


「しかし、これはアレだな……。もうもうちょっと住民全員に還元しないとだな。」


すると、全員から1年様子を見ましょうという風にストップが掛かったのだった。

「ほら、来期はそれ程でも無いかも知れませんし、何があるか判らないですし。」

という事らしい。 ふむ。 有ったら有るだけ使うのは確かに愚の骨頂だ。 まあ余裕は必要だよな。

と納得したのだった。


まあ、とは言え、ボーナスの代わりに、せめてお年玉という事で、全スタッフ達に一律で配った訳である。

全員大喜びして居た事は言うまでも無い。




神殿と神社にお参りをして、ついでに冬の泉はどうなっているのか疑問に思って、久々に泉の水を補給しに行ってみた。

所謂、初汲みってところかな。


「マジか。 冬の泉はこうなっているのか!」


思わず驚きの声を上げてしまった。


そこには雪どころか、心地よいそよ風の吹く花園がそのままの姿であったからである。

つまり、年中この気候なのだろう。


「ある意味、ここは楽園なんだな。 やっぱりこんな所で目覚めると、あの世に来たと勘違いしてもおかしくはないよねぇ。フフフ。」


泉の水を汲み終わり、念の為泉に温泉の源泉に使った転送ゲートパイプを沈めて設置した。

これで、ある意味使いたい放題となる訳だ。 いや、勿論自重するけどね?


果物の木をチェックしに行くと、これもワサワサと実った果物が実っていた。 どうやらこれも年中無休らしい。


実った果物達をありがたく頂戴し、ゲートで城に戻り、全員で初物を美味しく頂いたのであった。




午後からは、街のみんなとかまくらの中で餅つき大会である。

今では人口が増えたので、地区地区に別れての開催となった為、俺は各地区の大会に顔を出す事になっている………らしい。(今日初めて聞いたので)

近い順から周囲に広がる感じで全16箇所を廻るのだが、どこも熱気でかまくらが融けそうな勢いである。

どの会場でも全員笑顔で餅を突いたり、丸めたり、食べたり、お酒を飲んだりと大賑わいである。


そして、俺の傍らにはアケミさん、リック、サチちゃんに加え、コルトガさんとコナンさんが同行している。

コルトガさんの同行目的はどうやらガチで護衛らしいのだが、コナンさんの同行目体は確実に食い倒れツアーである。


何処の地区に行っても、「え? 僕まだ今日は何も食べてませんでしたぁ~」って素振りでガツガツ餅を食っている。


「コナンさん、餅ってね、圧縮されてるから気付かないけど、相当にカロリー高いらしいよ? これ1個でおにぎり1個分以上だからね? 程々にしておかないとヤバいよ?」

とヤンワリ止めたのだが、聞かない聞かない。


冬休みの餅の食い過ぎは、かなりヤバいのである。餅好きだった俺が言うのだから間違いは無い。

小学校の頃、冬休み明けはかなりホッペが膨らんでいたからねぇ。



何か終始気を張っているコルトガさんには

「ここは拠点で安全だから、少し普段通りにしてくれよ。」

とお願いしたのだが、聞き入れて貰えなかった。

どうやら、あの事件が相当に堪えたらしい。

それは俺も同じだが、人間常に気を張るのは限界があるし、何とか元通りになって欲しい物である。


まあ、これはサスケさんにも言える事なんだけどね。

俺は、マギフォンでサスケさんに連絡を入れ、

「あのさ、コルトガさんにも言ったけど、サスケさん、ここは安全な拠点だから、シャドーズのメンバーもサスケさんも、お休みしてよ。

気配殺して見守らないで良いからね?」


「ハッ! せ、拙者は本日は休みでござりますれば、特に何も仕事はしておりませぬぞ。」

と見え見えの事を言っていた。


結局、彼らは16箇所全部に着いて廻り、影ながら見守ってくれていたのだった。

流石に城に戻ると気配が消えたので、安心して解除してくれたのであろう。


それはそうと、前回の事件以降、俺の察知能力が向上して、それまでは気配を殺したサスケさんには気付かなかったのに、今では気配を殺したサスケさんがちゃんと判る様になったのだ。

こう言うのを怪我の功名というんだろうか? ありがたいが、二度と起きない様にしないとな。



こうして、正月のイベントである餅つき大会は大盛況の内に終わりを告げた。

唯一の事故と言えば、次の会場に出発する際に、慌てたコナンさんが餅をガバッと口に入れ、喉に詰まらせたぐらいであった。


「し、死ぬかと思ったんだな。だな! あ、焦ったんだな!」

と珍しく青白い顔で餅を見つめていたのだった。


「だから、最初に注意したよね? 餅はちゃんと小さく小分けに食べないと危ないんだからね。」

と俺が叱ると、シュンと小さくなっていた。(気持ちだけね)

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