第218話 雪をも溶かすホットな話題と顛末

俺は良く知らなかったのだが、後で報告を受けたところでは、どうやら王都のスラムのNo.2をやっていて、最後に潰したスラムと裏ギルドを牛耳っていたらしい。

あの元冒険者ギルドの受付嬢……顔すら覚えてなかったけど。


王都で奴隷から解放された後、結局堕ちる所まで堕ち、その後持ち前の美貌?と経験を活かしてのし上がった様だ。


俺は、今回の出来事で、今更だが深く後悔してしまった。 あんな奴を奴隷から救った事を。

あの時俺は事前に警告されていたのだ、『あの手の女は反省する処か必ず逆恨みするぞ』と。


そして今回それが現実なり、結局は自分の精神的な自己満足の結果、関係無いアケミさんやサチちゃんを巻き込む形となってしまい、アケミさんはほんの数分ではあったが、心肺停止し、出血多量で命を失うところだった訳だ。


しかし、十分だと思っていたアケミさんのレベリングだが、何故咄嗟とは言え、対応出来なかったのか?という疑問もあったのだが、当の本人にあの瞬間の記憶が無い為、定かでは無いのだが、あのサティーが着ていた隠匿系の付与が掛かっていたローブと、魔剣の所為ではないかという結論に至った。

それと更に宜しく無かったのは、ドワースの店で買ったばかりの服に着替えてしまっていた事もある。

普段着ていた服であれば、それなりの防御の付与があったのだが、買ったばかりの普通の服ではそんな物は無い。

ブレスレットの方の自動防御シールドが何故反応しなかったのか?というのも……これまたご丁寧に長袖の服を着替えるのに邪魔だったらしく、取ってしまっていたのだった。

不運に不運が重なった結果が今回の結果であった。


まあしかし、ほぼ即死に近かったからかは不明だが、本人にその事件当時の記憶が無いのは幸いかも知れない。

誰しもそんな記憶を持ちたいとは思わないだろうからなぁ。


目の前で両親を殺された事のあるリックとサチちゃんにはこれ以上のトラウマとならない様に、その後直ぐにマインド・ヒールを掛けた。

俺も自分自身に掛けてみたんだけど、このマインド・ヒールって、自分には効かないみたいなんだよね。

まだ未だに思い出すとドキドキと動悸が止まらない。

本当に怖かった……。


本当にアケミさんを救ってくれた女神様には感謝しか無いな。




そして、俺は現在、ちょっと燃え尽きた様な感じで、拠点(正規に門を出て)まで戻る気力も無く、ここ2日程ドワースの別荘の部屋でグタッとして居る訳だ。

ドワースの街では雪が連日チラついて居るが、その雪を溶かす勢いでホットな話題になっている。『愛の奇跡』って事で………。


はぁ~……


後で周囲から聞いたらしいアケミさんがやたらと唇を触りつつ、ウフフと上機嫌なんだけどね。



「ケンジにーちゃん、そろそろお城にもどりゅ?」


「そ、そうだね。 そろそろ戻らないとだね。」


そんな会話をサチちゃんとしていると、別荘に領主様からの呼び出しが掛かったのであった。

召喚状? 招待状? にはアケミさんとリックとサチちゃんも同伴してくれとの事だった。






「お久しぶりです。お元気そうで、何よりです。」

と挨拶をする俺。


「おお、久しいな。ケンジ君。 聞いたよ。本当に災難だったな……。」

とマックスさんが気の毒そうな目で俺を見る。


「ああ、ご紹介させて頂きます、こちらがアケミ、リック、サチです。」

と順に紹介して行くと、アケミさんの首を見て、


「「「はじめまして。」」」

と3人がやや緊張気味に声を揃えていた。


「なるほど、本当に跡形も無く元気になった様で、何よりだな。

フフフ、なるほど、イメルダ王国の方か。 噂通りの美しい女性だな。 ケンジ君も隅に置けないねぇ~。

メインストリートのど真ん中で口づけして抱擁して号泣とはね。

いや、失敬、状況を考えると、それどころじゃなかったのは判るんだけど、噂が先行しててねぇ。フフフ。

そうか、ケンジ君がねぇ。」

と意味深な言葉を吐きながら、生暖かい目で俺を見つめて来るマックスさん。


止めてーー! 精神を削るのは止めてーーー!


と心の中で叫びつつ、苦笑いする俺。


アケミさんは、終始ニコニコと笑顔である。


悔しかったので、話題を強引に変える為、マックスさんの頭に着目し、以前より薄くなった髪の毛の話をした。


「ところで、最近面白い薬を作ったんですが、お話お聞き及びでしょうか? 毛根再始動薬というのですがね。」


「おう、それそれ、それも聞こうと思って呼んだんだよ。 何かね、先日王宮からというか、陛下から自慢気な連絡が魔動通信機で入ってね。

何かと思えば、今王都のスラムが一掃されて、トレンディスポットに生まれ変わって、更に凄い事になってるって言って居られてね。

で、よくよく聞くと、ケンジ君、君だよね?」

とマックスさん。


「ええ、俺ですね。」


「やっぱりか。それで、陛下が『髪の毛が今はフサフサなんじゃっよ。』と自慢するんだよね。 何か秘薬を手に入れたって言っててね。

それもケンジ君、君だよね?」


「ええ、俺です。 良かったら、お試しされませんか?」

と俺が言うと、もの凄く嬉しそうな顔をしている。


早速頭皮にクリーンを掛けて、プシュプシュと吹きかけてあげた。


頭皮マッサージを終えた後、鏡の前でジッと見つめるマックスさんが、

「ウォーー、マジで生えたーー!」

と叫んで居た。


「マジかぁ、これで青春をやり直せるぞ! あいつに無理矢理家督を継がせ、第ニの青春を謳歌するぞ!!!」

と悪い笑みを浮かべてらっしゃる。 ワァ……長男さん、乙。


興奮しっぱなしのマックスさんに昼食をご馳走になり、その後2人で別室に移り、少し話しをする事になった。


「この度は、うちの街で警備が行き届かずに、大変申し訳なかった。

本来であれば、城門で察知して排除される筈だったのだが、どうやら何処からか紛れ込んだ様なんだ。

それでな、あのサティーだが、どうしたい? 裁量権は俺にあるのだが、一応希望だけは聞いて置きたいと思ってな。」


「そうでしたか。いえ、領主様が謝る事ではないです。 元はと言えば全ては俺が撒いた種ですから。

下手に奴隷から解放した俺が悪かったんです。 それに俺も迂闊だった訳で。 もっと全員の安全に気を配るべきだったのです。

一瞬嫌な予感があったのですが、即座に動けませんでした。

なので、本件に関して、奴がのうのうとまた再犯を繰り返さない状況であれば、後はお任せします。」


「そうか。 まあどちらにしても、釈放されてまた再犯を繰り返す様な状況にはならないから安心してくれ。」


まあ、つまりそう言う事なんだろう。

死刑かもしくは終身犯罪奴隷って事でヤバい所に送られる感じだろうな。

これに関して、一切の同情の『ど』の字すら無い。


実際、俺はあの時の事を思い出すと、自分自身凄く危うかったと思う。精神的に。

下手すると、街を巻き添いに大惨事を起こしかねなかったからな……。

やっぱり俺は精神的に弱いんだなぁ。こればかりはなかなか鍛える事が出来ない。

これでも前世の頃よりはマシになったとは思うのだがな。



その後、領主様の屋敷を出て、一旦別荘に寄って全員に挨拶をしてから、拠点へと戻ったのだった。



 ◇◇◇◇



拠点に戻ると、待って居たのは、今回の事件の詳細を伝え聞いて顔面蒼白で白装束に身を包んだコルトガさんとサスケさんの土下座だった。

一応、他のスタッフ達は普通に心配しつつも無事を喜んでくれたのだが……。



「何たる失態…… 主君! 某は主君の剣で有り盾である事を誓った者。この不届き者へ何卒処罰を!」

と床に額を擦り付けるコルトガさん。


「いやいや、何でコルトガさんとサスケさんを処罰しないといけないの?

今回の件どう聞いているか知らないけど、2人は落ち度無いでしょ? どれもこれも俺の油断や判断が招いた事だし。」


どうやらコルトガさんは、今回のドワース行きに同行しなかった、警備を怠った事を悔い、切腹等では済まされない事と考えたらしい。


「拙者が、拙者がもう少し早く北西地区のスラムを根こそぎ無にして居れば……この失態、万死に値するでござる。 何卒処罰を!」


サスケさんは、サスケさんで、俺とサティーの因縁を知らず、更に王都のスラムにサティーが潜んで居た事を、そして其れを取り逃がした事を悔いていたそうな。


「どれもこれも、元はと言えば、俺の判断だし、最も責められるべきは俺自身だよ。君らに落ち度は無い。

それに、サティーとの事を知らないのは当然だよ。随分昔の話だし、俺自身あいつがあそこに居たなんて知らなかったんだから。

だから、気にせず、これまで通りにお願いしますね。」

とこれ以上の自責の念は不要とし、普段通りに接してくれる事をお願いしたのであった。


まあでもこの2人がそんなに簡単に気持ちを切り替えられる訳が無い事は百も承知なんだがな。

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