第213話 王都で噂の白亜の街

次のターゲットは、北東地区のスラムである。

事前にシャドーズによる攪乱工作によって、新興勢力であったエーネムは大混乱に陥り、一気に他のファミリーにより壊滅してしまった。

コナンさん+サスケさん率いるシャドーズの作戦はエグくて、複数勢力の居る北東地区は対立するファミリー同士に潰し合いをさせ、良い感じに力を削いだところで一気にカタを付けるという物であった。

それは南西地区も同様で、多少の時間差で同様に抗争が激化していた。

一番厄介なのが、北西地区で、このエリアには表向きが1つの組織が仕切っているのだが、ここは裏ギルドを運営しており、構成人数も一際多く、力で制圧出来ない事は無いが、被害が多くなりそうなのである。

しかし、これまたエグい方法で目下裏で密かに実行中らしい。

ア○サ・ク○スティ大先生の推理小説じゃないが、コナンさん曰く作戦名は『そして誰も居なくなった』作戦らしい。


現在、旧シャドーズの本部の賃貸一軒家の地下は、既にその裏ギルドの主力メンバーの一時保管所というか、監禁小屋と化している。

中には能力的に使える人物も混じっているとの事なので、更生させられそうな奴はシャドーズのメンバーに引き入れたいと言っていた。


そして、地下の牢獄では、既に100名程の裏ギルド構成員が閉じ込められている訳である。

日々構成員が消えて行く裏ギルド側は国による捕縛等を疑い、かなり神経質になっているが、そんな警戒をあざ笑うかの様に日々地下の住民が増えて行っていた。



王都では、南東地区のスラムが高級感と清潔感の溢れるトレンディなスポットにある日生まれ変わった事が、大きな噂になり、日々訪れる人数が増えている。


しかしだ、誰彼構わず入場させる事はしない。 何故なら、ここは完全なる俺の私有地である。入場門の上には大きく『スギタ商会モデルタウンNo.1』と看板が掲げてあるのである。

この中は、例え衛兵であろうと、正当な理由無く入る事は許されない。 私有地だから。

(とは言え、実際はまだお洒落区画の店をオープン出来るまでに、スタッフ教育が整って居ない事が原因なんだけどね。)



そして、そんな噂が王都を駆け抜けて間もなく、北東地区のスラムも同様に生まれ変わった。

更に驚く王都の住民達。

北東地区のスラムを牛耳っていた幾つものマフィアは全ていつの間にか王都から消えて居たという……。 うーん、ミステリーですなぁ~。


そしてその数日後には南西地区のスラムである。もう、誰が何をしているのか、証拠は無いが丸分かりであった。

現代の日本であれば、確実に『#スギタ商会』のハッシュタグが立つ事だろう。


そして最後に残った北西地区の表がガリュー一家というマフィアで裏が裏ギルドのボス、ドレイクだが、やっと真の敵が誰なのかを知り、愕然としていた。

そのドレイクの横には、彼の情婦兼この組織のN0.2である女性が忌々しそうに親指の爪を噛んでいる。

「け、ケンジの野郎!! またアタイの居場所を奪う気かい! 絶対に許さない!!」


そう、この女性の名はサティー。 健二からギルドカードを取り上げ、結果、引き篭もらせた張本人である。

健二が奴隷から救ってくれたにも拘わらず、反省する事無く、復讐の爪を研ぎ続けていたのであった。


奴隷から解放されたサティーだが、当然行く宛ても頼る相手も居らず、結局一時期は北西地区の娼館へと身を墜とし、そこで当時幹部の地位にあったドレイクと知り合い、元ギルド職員というノウハウを活かし、闇ギルドを大きく飛躍させた。

そしてその結果、ドレイクが見事にガリュー一家のボスとなり、サティーがそのNo.2の座に落ち着いたのであった。

尤も、ここ2週間程、街で一際大きなキラー・ホーンラビットを従えた超美形の青年の話と、どうやらそれのツレと思わしきの女性が2人の子供と大きなシャドー・キャットや同じく大きな犬系の魔物を連れて買い物して廻っているという噂を聞いていた。

もしや、それは憎きあのケンジなのでは? と思っていた矢先で、何とかケンジかもしくはそのツレの女性と子供を仕留める機会を伺っていたところであった。


しかし、ケンジの行方は一向に掴めず、そうこうして居る間に、あれよあれよという間に、3つのスラム地区が壊滅し、ケンジの商会の名が付いた街が出来てしまったのだ。

そして、現在ファミリーはほぼ壊滅に近い状態となっており、残った構成員はボスと自分を含め10人を切っていたのだ。


「許さない!許さない!許さない!!!」


鬼の形相で爪を噛むその様子は、良く言って完全に夜叉、悪く言えばヒスを起こした際の健二の元妻の様であった。




そして、その日を最後にサティーが忽然と消えた。

ボスであるドレイクは、「サティー、お前もか……」と呟き、早々に白旗を揚げたのであった。


最後のスラムがスムーズに明け渡され、長年悪臭を放っていたスラムの存在が王都から消えた。

時を同じくして、『スギタ商会モデルタウンNo.1』の限定箇所が一般公開された。

王都の話題は、真っ白な壁で統一された通称『白亜の街』と呼ばれる街の事で持ち切りであった。


その設備も街並みも清潔さも、王都の住民の憧れの的となっていた。

誰もがその街に住みたいと思っていたが、新規の入居者は何故か孤児以外受け入れておらず、多くの裕福層が地団駄を踏んでいた。

そしてどこからともなく聞こえて来る街の中の噂は、もう正にお伽噺の様であった。

曰く、中には大温泉という入浴施設があり、脂肪を燃焼し、要らない脂肪を体内で燃やしてくれるからメリハリボディーが手に入るだとか、美肌効果が凄くて5歳は若返るだとか。

曰く、王国では普及していない、一級のイメルダ料理の店が凄いとか、他にも食べた事も無い様な熱々チーズが美味しい円盤状の薄いパンがあるとか、この世の幸せをギューッと凝縮したかの様な黄色い色のプルンプルンしたデザートがあるとか。

曰く、見た事も無い様な洗練された素材で作られた一級品の服や、刃紋の紋様が美しい恐ろしい斬れ味の曲がった剣や凄い素材を使った防具(しかも付与付き)が売っているだとか。

曰く、恐ろしく便利な魔道具が売っているとか。

もう、噂が噂を呼んで凄い状態であった。



そしてその3日後に、他と同様に『スギタ商会モデルタウンNo.4』の看板を誇らし気に掲げた目映い街が仲間入りしていたのであった。





賢王と言われたこの国の王様はその手腕に感心し、その街の主は以前過去にドワースで問題となった事件の被害者であるケンジである事を知り、感慨深く思い返して笑みを浮かべていたが、さてこうなると面白く無いのが、既存の王都でブイブイ言わせていた商会や、我が儘放題に贅沢を極めた貴族達である。

その中には闇ギルドを利用し、非合法な悪行を重ねていた連中も多い。


そう言う奴らは、決まって何とか健二の商会に難癖を付けて、食い込もうとしたり、乗っ取りを謀るのであるが、その全てが悉く撥ね除けられ、何故か邪な考えを持って事を起こした連中が急激に没落して行くという不思議な現象が起きていた。

貴族連中のパターンは「何? こう言う教本だかテンプレだかがあるんですか?」と聞きたくなるほどにほぼ同じなのである。

『不敬罪』なる物を盾に無茶をやらかし、その賠償の代わりに、無茶な要求をするのである。それでもそう言う輩が後を絶たないから不思議である。

しかし、俺は……少なくとも俺からはただ『街と住民を守れ』としか指示はしていないのだが、見事に撥ね除けてくれている。 街の警備隊+秘密防衛軍の出張組は実に優秀である。

そして報復があるかと警戒していると、大抵はそれどころでは無い状態となって、勝手に没落して行くのだ。 本当に不思議。

王都の住人らが、その因果関係に気付くのはもう少し先の事であった……。

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