第212話 生まれ変わるスラム

その日はスラムの周囲を塀で囲み中の作業が周囲から見えない様にしたところで作業を終えた。

まあ、明日からの本番に向けた下準備ってところだ。


尚、一応気休め程度にしかならないが、これらの事やこれらの工事を誰がどのように行ったかを口外しない様に口止めしておいた。

まあ、赤ん坊を含め600人以上居る訳だから、何処からかは漏れる可能性はあるだろう。

もうね、ある程度情報が漏洩してもこれはしょうが無いと諦める事にした。 まあこれだけ派手にヤルんだからしょうが無い。


「では、明日の朝から工事を始めますので、各自自宅にある必要な物は今日の内に持ち出す様にして貰えますか? 後でうちのスタッフが一時預かりをしますので、袋に名前を付けて集めて置いて下さいね。」

と言って、後をスタッフにお願いして俺は拠点へと戻ったのだった。


秘密防衛軍と助っ人のスタッフ達は今晩ここで夕飯の炊き出しを出した後、先程出して置いた宿舎で泊まる事となっている。

尤も秘密防衛軍の皆さんは、交代で夜通し警備してくれる事になっているが……サスケさん達シャドーズの報告と事前の工作のお陰で、恐らく他のスラムからのちょっかいは無い筈である。


そんな夜の警備をしてくれる彼らには悪い気はするのだが、明日の工事に備え、俺は早めに就寝するのであった。


翌朝、隠れ家に設置してある常設型ゲートで王都へとやって来た。


サスケさんからの報告では、今のところ、王宮側ではスラムの異変に気付いてないらしい。

流石にそれはそれで、どうかと思うよねぇ。

自分の懐の中で大異変起きてるのに、それに気付かない衛兵もその周囲も。

つまり、どれだけこのスラムが隔離されている地域かって話だよね。


スラムでは、ワクワクした表情の住民達が、炊き出しの朝食を嬉し気に食べているところであった。


「ケンジ様ぁ~ オラ、昨日からワクワクして眠れ無かったズラよ。」


「あぁ~、それ私もだわ。アッハッハッハ」


「朝ご飯美味しいです。幸せです!」


と朝からワイワイと楽し気な住民達。


「ケンジ様、おはようごぜいます。本日は宜しく頼んます。」

とジェームズさんがスッと寄って来て挨拶して来る。


「おはようございます。 もう開始しちゃって大丈夫ですかね?」


「はい、全員1時間前からここで今か今かと待ちわびてますんで。ヘッヘッヘ」


という事で、早速作業を開始する事にした。

既存の建物(と言っても瓦礫に等しいんだが)を取り壊す際に音が出ない様に、ある程度の範囲で遮音のシールドを貼りながら、ドンドンと更地にして行く。

建物を取り壊す音はしないのに、見ているスラムの住民の驚きの声の方が五月蠅いぐらいである。


結局30分ぐらいで南東地区のスラムは消滅した。今は完全にフラットな地面があるだけである。


「いやぁ~、こうして見ると、壮観だね! 広いねぇ。 まずは道路から行くよー! みんな宜しくね!」

と道路要員の全員に声を掛ける。

コナンさんも「おー!」と肉串を振り上げていた。


サンプルとなる道路を見せ、それに合わせた感じで石畳を作る感じである。道幅は広く取り、側溝もちゃんと設置して蓋を作る。

まあ、まだ建物は無いので、間違ってもやり直しは利く。


立派なメインストリートが、まるで色を塗り替える様に出来て行き、交差する脇道がそれを横断して区画を作って行く

この中でサスケさんだけは初めて見る訳で、何度も声を上げて興奮していた。

そして、いよいよ宿舎や工場、倉庫、温泉や集会場、商店等の建物を設置する番となる。

街の真ん中には俺の別荘区画を建て、塀を周囲に設置し、宿舎を建て、公園を作り、温泉を設置しドンドンと街を作り上げて行く。


途中、何回か休憩を挟んだが、結局は午後2時には全ての作業を終えてしまった。


最後にメインゲートとなる門の所に警備の詰め所を作り、全てが完了した。


「おし、完成したな。 お疲れ様~。」

と俺が完成を伝えると、かなり離れた所から見ていた住民達からまたもや、

「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」

と言う大歓声が沸き起こったのだった。


「け、ケンジ様ぁ~!!! ありがとう! ありがとうございます!! 俺ら本当にここに住んでいいですかい?」

と泣きながら聞いて来る奴、嬉し気に子供を抱き上げてはしゃぐ母親……もう現場はカオスであった。


ちなみに、お洒落なオープンカフェや、レストラン、大型の温泉施設や、拠点で作る剣や防具を販売する店、魔道具を販売する店、高級ホテル等をお洒落区画に作ってある。

この一画は表参道辺りをモチーフにして街路樹を一定間隔で植えたりしている。

裏手の通りには、食材や大衆食堂、飲み屋等の区画を作ったし、住宅エリアには一軒家を住民らが頑張って宿舎から出た後に住める様にと用意してある。

なかなかに良い雰囲気である。

公園には芝生を敷きつめ、遊具なども置いてあり、噴水もある。


まあ、この街では不要であるが、井戸や水場も一定間隔で用意し、ゴミ箱も設置している。

この旧スラムのエリアではゴミのポイ捨てはルール違反とする事にしてある。


王都一の綺麗スポットを目指すのだ!


全員にセキュリティキー代わりのブレスレットを配布し、安全対策で門は夜の9時に閉まり、朝の5時に開く事にしたのだった。


そして、その晩はそのままの流れで、街を上げての大宴会となり、全員で街の生まれ変わりを祝った。



さて、元南東地区のスラムに居た住民の728人(赤ん坊を含む)であるが、この内、残念な事に俺の審査を通らなかった人物がやはり78人居た。

詳細鑑定大先生にご活躍頂いた結果、工事を始める前の昨日の段階で、無事にそれらは排除済みである。

問題は彼らが下手に秘密を漏らさないか?という事だが、彼らには小金貨2枚をそれぞれに渡し、引き換えにスラムの再開発に関する記憶を闇魔法で消去させて貰った。

……とサラッと言っているが、実際はほぼ全員を鑑定するのは本当に本当に大変な作業で、治療の傍ら約半数をチェックし、残る半数は食事をしている間に鑑定して廻り、シャドーズにそれとなく伝え、1箇所に隔離した後、一気に闇魔法を使って記憶を弄ったのである。

それはそれは地味且つ面倒な作業だった。

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