第200話 恐ろしい仕込みと戦力

敵(親方)の卑劣な策略に嵌まり、怒るタイミングで腹を抱えて笑ってしまったが、一頻り笑った後、再度苦言を呈そうとしたタイミングで、今度はあのいつもはお兄ちゃんという事で色々我慢しているリックが興奮気味にやって来た。


「ケンジ兄ちゃん! ありがとーー! オイラ達にまでこんなカッコ良い装備くれて! オイラもう嬉しくって嬉しくって!!」

と出会ってから一番の笑顔でお礼を言って来た。

リックもみんなとお揃いの出で立ちである。

更に嬉し気なサチちゃんも、「サチもにあいましゅか?カッコ良いでしゅか?」と嬉し気に聞いて来た。


「ああ、リックもサチちゃんも凄く似合ってるよぉ! カッコ良いねぇ~。」

と思わず本音で褒めてしまった……。


アケミさんもお揃いの格好で嬉し気にモジモジしているし。

ああ、これは何となく判るぞ? 褒めて欲しい感じだよな?


「あ、アケミさんも似合ってますね! 良い感じです?」

というと、更に右肩と同じ様な色に耳まで染めていたのだった。



いかんな、完全に敵の思う壺に嵌まった。もう怒れないし、これはダメだと取り上げる事も出来ない。

流石は前世と今世を含め、その3倍近く生きてるジジイだけあって、搦め手が上手い。


まあ、こうなってはどうしようも無いので、暫くこれで行くしかないか。 どうせ人目に触れる事も無いしな。


俺は完全に怒りが萎れてしまい、諦めて出発するのであった。



「フッフッフ、ケンジ様、ちゃーんと、ケンジ様の分も更にカッコ良く仕上げてあっから。」

と親方に渡された一式を着る事になった。


ああ、これ試作の時に来たあの肩の赤い奴だな。

と俺が落胆気味に思っていると、そんな俺の機持ちを見越したかの様に親方がニヤリと笑いながら言って来た。


「ケンジ様、ケンジ様の分は更に効果を付けてるんだぜ? ちょっと魔力を込めて見てもらえるか?」

と。


どうやら、また何かギミックを仕込んでいるらしい。


俺が諦め半分で言われるままに鎧に魔力を込めると、突如右肩がまるで溶岩の様な赤系統の目映い輝きを放って、その一瞬後に全体が真っ赤に染まった。

「わぁー、全部真っ赤かよ。これは意表を突かれたな。」


「グフフ、じゃろ? それだけじゃねーぞ? ケンジ様、軽くジャンプしてみてくれよ。」


俺は親方の言う通りに軽くジャンプしてみた。


すると、バビューンと15m程飛び上がってしまい、滅茶苦茶ビビってしまった。

「な、何これ!?」


「フッフッフ、よくぞ聞いてくれた! この隠しモードはな、約3分間だけだが通常の2倍の力、3倍のスピードが出せるモードなんじゃ。」

とドヤ顔を決める親方。


うっはー、これは凄いな。ここ一番でリミッター解除的な感じで使えるのか。 しかし、全身真っ赤って…… ま、まあ良いか……きっと能力を付与する為に必要があったのだろう。


「確かに凄いな。 だが、これ慣れてないとかなりぶっつけだとヤバいぞ。 ちょっと動きに慣れさせて。」

と言い残し、即座に、ダッシュしてみると、ズベベーと盛大に転けてしまった。

その後も連続で3回転けたが、徐々に慣れて来た。

おお、これは凄く身体が軽く感じるね。

よし、これで身体強化と身体加速を全開にしてっと……

バンッ


今音速超えたよね? 衝撃波出たね?あ、ぶつかる!! ジャンプだ! ドゴーン あ、道路がボロボロじゃんよ。

これはヤバいな。既に人を超えたな。


俺は直ぐにスキルを解除し、空中から飛んでみんなの待つ広場へと戻って来た。


「親方、これ、ヤバ過ぎ。 そうそう使えないよ。」


「うむ、どうせ多用は出来んのじゃよ。一度使うと、クールタイムが6時間程掛かるからの。」


「ふむ。まあこんなのをそうそう多用してたら、俺の身体もボロボロになりそうだからな。それで良いのかもしれないな。」

と納得したのだった。


そして話をしている間に3分が過ぎると真っ赤だった鎧一式がブシューと音と蒸気を出しながら黒へと戻っていった。

何か色々と面白い物を作ってくれた物だな。


しかし、その反動が突如として俺の全身を襲う。グァーーー痛い!!!


筋肉という筋肉が悲鳴を上げている。俺は慌ててヒールを掛けた。 ボワンと身体が光ってやっと痛みがスーッと退いて行ったのだった。


「や、ヤバいよこれ! 今一瞬凄い全身から強烈な痛みが出たよ!!」


「じゃろうな。所詮あのモードは補助をしているに過ぎんからのぉ。 実際に動かしているのは筋肉であり、支える骨じゃから。」

と言いながらウンウンと頷いてやがる。


「それは先に言えよ!」

と俺が突っ込むと、


「だからケンジ様専用なんじゃよ。他の者だと身体が保たんからのぉ。ガハハハハハ」


ガハハハハじゃねぇよ! 全身痛みから来る冷や汗でビッショリだよ。匂いそうじゃねぇかよ。 クリーンっと。




俺は念の為、もう1度クリーンを掛けた後、泉の水と桃を1個囓りつつ、全員でオークの集落の傍へと出たのであった。





ゲートから出ると、全員が素早く作戦通りのポジション、即ち俺達を起点として、25名ずつの小隊が正三角形の位置になる様に移動する。


30分後、予定通りに作戦を開始の合図のファイヤーボールを集落の上空に上げ、討伐を開始した。



前方の遠くでも戦闘を開始した様で、彼方此方でピギャーとかグモーとか雄叫びやら悲鳴やらが聞こえて来る。


俺達も綺麗な食材となって貰う様に丁寧に首を刎ねて仕留めて行く。

リックも手に刀を持ち妹を守らんと気合いを入れている様である。

リックは亡くなった父親より幼少の頃から剣術を仕込まれていたし、ここ最近は、暇がある時はコルトガさんやコナンさんから剣術や魔法の訓練を受けているので、そこらの戦闘職でない大人よりもリックは力を付けている。

サチちゃんも水魔法の初級ぐらいは使えるが流石にまだ幼いので、直接の戦闘はさせられない。

というか、今になって気付いたのだが、そもそも何故子供2人をこんな殺戮の場に連れて来てしまったのだろう?

これ大人しく拠点で待って貰うべきだったな……。

何か皮鎧の一件で有耶無耶に流れに乗って連れて来ちゃったけど、拙かったんじゃないか? と深く反省してしまった。


とか考えていると、1匹リックの方へ突っ込んで行ってしまった。ヤバい。


するとリックは身体強化と身体加速を使い、シュタッと加速してオークの首の高さまで飛び上がり、手にした刀でスパンと跳ねてしまった。


「うむ。見事だ!」


すると、それを見たサチちゃんも、「よーし、あたちもがんばりゅー!」と言いながら両手を上に上げて水の塊を出して行き、別のオーク目掛け投げつけた。

ザパッと水の塊がオークの顔を包み込み、焦ったオークが藻掻いている。

見る見るオークの顔色が悪くなり、そのまま崩れ落ちた。


おいおい、5歳にして、何とエグい攻撃だよ! 流石は家の子……凄いな!!

しかし、凄いし可愛いんだが、これって幼児教育としてどうなんだろうな?

前世の地球なら、確実に児童虐待に当たるとバッシングされるよなぁ~と冷や汗を掻くのであった。




戦闘開始から15分が経過した頃、俺は既に大量のオークを仕留めていた。

しかし、このオークの大集落、倒しても倒してもオークが減らないねぇ。

こちらのチーム全体で言うと、既に300匹ぐらいは倒している筈なのだが、まだまだ奥から湧いて来る。


コルトガさんは鬼神の如くに怖い笑みで顔を固めたまま、新たな獲物を欲して無双しまくっている。

コナンさんは、ちょっと休憩なのか、水筒を出して飲み物を飲みつつ肉串に囓り付き、ホッコリしている。


アケミさんは基本子供らの傍に居るが、大分オークが減ったので、少し離れた所で、辺りを警戒しながら子供らと話しをしてニコニコしいる。


さて、ピョン吉達だが、コルトガさんと同じく前方の方で、オークの取り合いして居る。

きっと、誰が一番多く仕留めるかで競争しているのだろう。

ピョン吉の仕留め方は、肉を綺麗に!という俺の言いつけに配慮して、コメカミや眉間を角で一突きして瞬殺して廻っている。

コロは首筋を食い千切ったりしているし、黒助はシャドーバインドで搦めてから、爪で頸動脈辺りをスパッと斬っている。


俺は辺りに散乱しているオークの死骸を収納して廻った後、他の2小隊の状態を確認する為に上空に飛び上がったのだった。



第一小隊はかなり中央付近まで進行していて、第二小隊は若干遅れているが、両小隊共に負傷者は居らず、ホッと一安心。


そして、気になる戦力であるが、相当に扱かれているのか、相当に素晴らしく強い。殆どのオーク達は、彼らを認識する前に首を刎ねられているのである。


「コルトガさんが言うだけあって、なるほど、本当に凄い隠密部隊だな。」


何か、隠密というか暗殺部隊なんじゃ? という考えが頭を過ぎらない事もないのだがな。


そして、戦闘開始から30分が経過した頃、最後に残った上位種 オーク・キング、オーク・ジェネラル、オーク・メイジ、オーク・アーチャーをコルトガさんやコナンさん、そして各小隊のリーダーが倒して討伐を完了したのであった。


「お疲れ様ーー。 いやぁ~、君ら、なかなかに凄いね。 上空から暫く拝見してたけど、危なげないというか、オークが気付く前に電光石火で首を刎ねてたからねぇ。素直に感心したよ。」

と50名を褒めると、嬉し気に「「「「ありがとうございます!」」」」と声を揃えていた。


一休みを終えると、全員で手分けしてオークを回収し、合計1時間半でオークの大集落を殲滅したのであった。

気になるオークの大集落の人数というか数だけど、1800匹を超えていた。

もしかすると、逃げたオークが居るかも知れないが、何処かの都市の近くにこれだけの集落があると、領軍だけでは防ぎきれない数である。


しかも、隊員達全員、返り血すら浴びて居ないのである。

それを僅かなこの人数で仕留めたのだから、これは思った以上の戦力なのかも知れないな。



最後に全員にクリーンを掛けた後、拠点へと戻ったのであった。


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 いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。m(__)m

 お陰様で200話となりました。

 また★マークは5000を超え、本当に嬉しい限りです。


 相変わらず、誤字脱字や勘違いが多く申し訳ありません。

 これからも楽しんで頂ける作品になる様に頑張りたいと思いますので、宜しくお願い致します。

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