第199話 大宴会だよ、全員集合!

俺の良く知らない所で着々と準備されていたらしく、秘密防衛軍とやらのの制服は現状普通の格好であったが、ここ一番の戦闘服は黒装束となっていたらしい。

まあ、黒装束になった切っ掛けは、俺がランドルフさん達に夜闇に乗じる王宮急襲作戦で着せたのが発端だし、実際にカッコ良いので良いんだが、悔しいのはその素材である。

何と、ダーク・キル・スパイダーの糸で紡いだ黒装束は、俺がギリギリと歯ぎしりをしてしまう程に、クソカッコ良い。


しかもダーク・キル・スパイダーの糸の生地だけに、光りを吸収する効果まであって、強靱で普通の刃物ならそれだけで防げてしまうというそこらの忍者やアサシン業の奴らが、喉から手を出して奪いたくなる程の一品である。

更に今回はなーんと、お得な温度快適調整機能や疲労軽減、気配及び魔力の隠匿機能まで付与された一品となっているですよ、お客さん!

という事で、これは欲しく無い奴を探す方が難しい話である。


俺が悔しさで文句を言うと、

「あれ? ケンジ様のお部屋のクローゼットにお届けさせましたよ?」

とメイドさんに言われ、慌ててゲートを使って部屋に飛び、クローゼットをひっくり返す勢いで確認したぐらいであった。


で、再度大森林のオークの大集落を攻める日程であるが、何故かドワーフの親方から1週間の延期を切望――いや泣き落とされて、俺も新しい黒装束を手に入れて有頂天になって居たので、機嫌良く承諾してしまったのだった。

どうせなら……と、その間に拠点でやるべき事を行う事にしたのだった。



ヤル事と言えば、勿論常設型ゲートの作成である。

作り方自体は既に判って居るので、試作品でA,B,C三地点間の相互選択を可能にするテストを行う事にした。


そして、俺はここ3日程コナンさんとリサさんの3人で錬金工房の方に籠もりっきりで試作とテストを繰り返して居るのである。

1対1の双方向の移動は問題ないのであるが、これを選択式にすると、かなりややこしい。

かと言って、ここや全部の別荘に何個もゲートを置くなんて無様な事はしたくないので、必死で知恵を絞って居る訳である。


現在躓いているのは、選択した場所の空間(座標)をどうやって増やす(更新する)か? というところである。

つまり別荘が増える度に各地を廻って設定を更新していくなんて事をしたくないのである。


「なんか良い方法が無いかねぇ。 せっかくここまで出来て居るんだけど、新規の場所を増やすと番号の指定では上手く空間(座標)の接続が出来ないんだよね。」


「いっそ、何か他の手段を考えるとか? 例えばこれが人と話して住所を聞いてから手紙を送るという考え方とかをターミナルでやれれば?」

とこう言う内容だと流暢に話すコナンさん。


「なるほど、一回相手先のターミナル(常設型ゲートの制御魔道具の呼称)へ座標を事前に問い合わせする様にするという事ですね? マスター、それって可能ですか?」

とリサさん。


「ふむ、つまり新設されたとか関係無く、先方のターミナルに接続すべき空間を問い合わせして、ターミナルが固有で持って居る空間に接続するイメージか――――

なるほど、何か出来そうな気がする!? ちょっとやってみるか。」


そのアイディアの試作品を1日掛けて3つ作成し、ターミナルを設置した場所の空間を設定して廻る。


「さあ、これが上手く行かなくても今夜はこれで終わりにして、久々に風呂入って寝よう。 結構疲れただろ?」

と俺が2人に聞くと、ハハハと苦笑いしていた。


「よし、まずはポイントBへ接続だ。」

常設型ゲートを起動して、リンゴを移動してみた。

即座にBへと自前のゲートで移動し、リンゴがちゃんと届いているのを確認した!

「おお! 届いてるし。 じゃあ、今度はBからCへリンゴを……移動っと」

そしてCへ自前のゲートで移動してリンゴは……

「おお、届いてるね。今度は、CからBとAにそれぞれバナナと桃を送って……」


結果、Bに行くとバナナが届いていた。更にそのバナナをAに送ってA(錬金工房)へと戻ってみると、桃を片手にバナナを頬張るコナンさんがニンマリ笑っていたのだった。


「あぶねぇ~、危うく成功した証拠を隠滅されるところだったな。ハッハッハッハ!!」

「マスター、おめでとうございます! 大成功ですよ!」

と大喜びで迎えてくれるリサさん。


「よし、物体の移動は確認出来たな。次はいよいよ、人の移動だな。」


「Cにセットして、ゲートオープン。 じゃあ、行って来るわ!」

と俺が飛び込むと、後ろでリサさんの悲鳴が聞こえた?



そして、俺は今人類史上初めて?? 常設型ゲートでC地点に無事移動が出来た人となったのだった。

そして、俺は、常設型ゲートでBからAへと移動を繰り返して戻って来ると、

「マスター! 何て事をするんですか! もしマスターの身に何かあったらどうするんですか!! まずは関係無い虫や動物とかで実験するのが普通でしょ! もっとお立場を理解して下さい!!」

と大層怒られたのであった。


それから俺達は、深夜ではあったが、軽く打ち上げをして、風呂に入り、爽快な気持ちで眠りに就いたのであった。



翌朝から、早速3人で手分けして常設型ゲートを大量に作成した。

俺がリング状にマギ鉱石をカットし、リサさんがターミナル用の台座と球状のマギ鉱石を作り、コナンさんが魔方陣を搔き込んで行く。

この流れ作業で取りあえず、予備を含め、50セットを作り出した。

翌日は、各別荘に常設型ゲートの設置をして廻った。 とは言え、まだそれ程の数がある訳ではないので、午後2時頃までには全部設置を終わり、次はいよいよ島6箇所へ飛んで、島に拠点や宿舎、それに常設型ゲートを設置した。

また海岸には漁師小屋や、船着き場も設置し、漁師専用のゲートも設置しておいた。

後は、拠点に漁師専用のゲートと、ウーコッコー達専用のゲートを設置すれば完了である。



そして、夕方5時には、完全に拠点側のゲートも設置完了したのであった。


その日の夕食は、常設型ゲート開設記念という事で、街を上げての大宴会となり、各別荘の住民も呼ばれ、大賑わいとなった。

現地で雇ったスタッフ達は、初めてみる拠点の規模と人の多さに驚いていた。


「俺達、何か想像以上に凄い人の下で働いていたんだね。」

と子供を抱えたショーキチさんが呟くと、奥さんのサツキがパカッと後頭部を殴って諫めていた。

「それはあんたが物を知らないからだよ!」と。


なんか、暫く見ない内にサツキさんがかなり強くなっている気がするのは俺だけだろうか?

最初街道で見かけた時の儚さは既になく、強い母というか、何とも言えない気持ちになってしまった。 ショーキチさんグッドラック?




結局別荘から呼ばれた各地のスタッフ達は、城で一泊して翌日はここの拠点観光をして大喜びしていた。


そんな訳で、結局1週間の延期が2日伸びてしまったが、明日はいよいよオーク討伐に出発である。

ドワーフの親方は、「ケンジ様~、宴会の所為で予定が狂っちまったけどよ、明日の朝の出発にゃぁ全員分間に合わせっから、心配しねぇでくれや!」とニヤリと笑っていた。


「そうか、お疲れさん。悪いけどせっかくだし、よろしくお願いしますね。」

と俺が言うと、「応よ!」と言ってピューッと工房の方へと戻って行ったのだった。



 ◇◇◇◇



翌朝、朝食を済ませ、城の前の広場に行くと討伐組の50名とその後ろには控えの200名がズラリとお揃いの黒装束の上にBタイプの真新しい皮鎧や籠手、ブーツで身を包んで整列していた。

正に壮観な眺めである。


「おおぉーー! こうして揃うとカッコ良いな!! あれれ? ――」


俺は目を擦って再度可全員を確認した。


「親方ーーーー!!! 何で? 何で右肩が真っ赤なままなの?」

俺が絶叫すると、


「ケンジ様ぁ~、これは様式美って奴でさぁ! もう全員分揃えちまったんでね。ゲヘヘヘヘ」

とヤリ切った感を振りまきながら、満足気に笑っていた。


やりやがったな……いや、確かに、確かにカッコ良いけどさ、いやこれ目立つよね?


「おお! 主君、やはり赤のワンポイントが映えますなぁ。流石でござる。」

と満足気なコルトガさんが腕を組んで頷いている。

そんなコルトガさんも同じく黒装束にお揃いの皮鎧一式を身に付けている。


それでも怒ろうとしたのだが、嬉し気にスキップで登場したコナンさんを見て、不覚にもブホォッと噴き出してしまい、怒るタイミングを逃してしまったのだった。

流石にコナンさんの体型で、この格好は面白過ぎたのだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る