第198話 秘密防衛軍

拠点から島に渡った際の入り江に戻り、一泊して翌朝から更に西の海岸線の探索を再開した。


イメルダとの国境の川までの間を探索して廻り、1つの都市の廃墟と13の村を廻った結果、

約2週間で発見した138名中、75名を拠点に移住させる事になった。

移住を打診しなかった63名がどう言う奴らかは察して欲しい。


またこの間、魔王都との定期取引やコケノスケ達の第二陣の移動も終えている。

魔王国のブラック・オーガの巣であるが、ちゃんとコントロール出来て居る様で、かなりのブラック・オーガ素材を更に引き取っている。

引き取ったブラック・オーガの素材は既にドワーフの親方へと引き渡し済みで、俺が書いたイラストを元にして、何種類かのブラック・オーガ素材の皮鎧一式を試作に入っている。

良い感じに仕上がったら、警備部署の者や冒険者家業の者にお揃いの物を支給出来る訳だ。

フッフッフ、お揃いの黒い皮鎧を着けた黒装束……何とも心躍る風景ではないか! 実に楽しみである。



おっと、話が脱線してしまった。

さて、西側の海岸線だが、将来的には漁港として使えそうな所は発見してあるが、当面抑える事は止めて置く事にしている。

あまり手を広げすぎても人員が不足するし、拠点的にもかなり俺の所為で忙しくしているので、今は無理をしない事にした。

『急いては事をし損じる』しな。


まあ、取りあえず、これで西側は完了である。残るは東クーデリアの沿岸部である。


何だかんだで夏が過ぎ、季節は秋に突入しているが、この調子なら冬前には余裕で間に合うだろう。


特に食い物に関しては、海鮮物以外それ程期待している訳ではないが、何か俺が忘れている重要な海鮮物が出て来る可能性もあるので、スルーする事は出来ないのである。



そして、この山を越えれば、そこはクーデリアとなる。

エリーラン山、ここは休火山?らしく、ここ100年は噴火していないらしい。

まあ、火山と言えば、真っ先に思い浮かぶのは何と言っても温泉である。


これまでは何処を廻っても温泉という物が存在して居なかった

滅茶苦茶期待した『竜の墓場』も結局はお門違いな場所であったので、今回は特に力が入って居る訳である。


休火山となって幾久しいエリーラン山の周囲は一帯は大森林になっていて、その大森林ごと何処の国にも所属していない。

何時噴火するかも判らない所を領地にして開拓したいと考える奴なんか、俺くらいなのだろう。


温泉ありそうなのに、勿体無いよねぇ。


そして、馬車から乗馬スタイルに切り替え、大森林へと突入したのだった。





大森林では、沢山の魔物に出迎えられる事となる。

この大森林に足を踏み込む物好きは、依頼を請けた極少数の冒険者ぐらいなのである。


兎に角、ゴブリンもオークも大集落を築き、色んな種族と抗争を繰り返している様で、下手な集落よりも警備や巡回に隙が無い。


ゴブリンの集落を1つ潰し、現在進行方向にあるオークの大集落を攻める為、全員で打ち合わせ中なのである。

紙に描いたオークの集落の概略図をテーブルに広げ、ザックリと説明しているが、如何せん敵の数が非常に多い。

広範囲の魔法攻撃をすれば、それこそ一網打尽には出来るが、そうなると、折角のオーク肉が無駄になってしまうのである。

かと言って、この4名+3匹ではとてもじゃないが、数に押し切られる可能性が高い。


「主君、ここは一つ、拠点の防衛軍の訓練を兼ねて導入してみては?」

とコルトガさんが提案して来た。


ん?? ぼ、防衛軍? 何だそれ? 俺はそんなの知らないのだが?


「えっと、何処から突っ込んで良いのか、正直判らないのだが、そもそもその防衛軍とは何ぞやと。

俺、その防衛軍って設立したの知らないんだけど?」


「おやおや? そうであったかな? まあそれ程堅苦しい物では無いですかなぁ。 まあ単純に敵国が攻めて来た時に軽くひねり潰して、敵国の本拠地を制圧する程度の感覚ですからのぉ。

まあ主君がそんな細事を気に掛ける必要がござらん。某や他の者が主君を煩わせぬ様に仕切っておりますれば、ご安心召されよ。」

とコルトガさんが、何だそんな事かと言わんばかりに説明して来た。


「いや、それ既に防衛の範疇超えて、敵国潰してるよね? ダメだからね? 勝手に戦しちゃ。 本当にみんなで静かに楽しくスローライフが俺達の目標なんだから。」

と釘を刺すと、「ええ、心得ておりますとも!」とニヤリと微笑むのだった。コナンさんも隣でウンウンと頷いている。


怖いな、一度帰ったら徹底的に現状を把握して、ヤバそうだったら軌道修正しないとな。




まあ、しかし提案自体は悪くない。ここらで拠点防衛の底上げも兼ねると考えれば、一石二鳥……いや食材が手に入る事を考えれば一石三鳥か?


早速、一旦全員で拠点に戻り、手筈を整える事にしたのだった。




早々に防衛担当の者(コルトガさん曰く防衛軍)に面通しすると、そのトップには当然の様に虎のおっちゃん事ランドルフさんが居た。

「ランドルフさんお久しぶり。 しかし、これ俺がお願いしてた防衛用の人員だよね?」


「ああ、そうだな。まあしかし、コルトガ殿の指揮の下、今じゃあ全員が一騎当千の秘密防衛軍として機能する様になっているぜ!」

とニヤニヤとしたドヤ顔のランドルフさん。


「え? 何その秘密防衛軍って? 何かまた新しい単語増えてるんだけど?」


「フッフッフ、まあこの衣装を見れば判るだろ? 隠密に特化して敵軍の奥深くまで入り込んで指揮系統をズタズタにして殲滅するんだよ。

忍者の様にな!!」

と俺が前回上げた黒装束をこれ見よがしにホレホレと指刺している。


オフゥッ、何かもうお腹一杯で頭痛が痛いよ?

俺が頭を抱えて椅子に座り込むと、俺を放置してオーク殲滅戦の話し合いをコルトガさんと始めたのだった。



彼らの打ち合わせが終わった頃、ドワーフの親方が何人かの配下と共に会議室にやって来た。

「おぅ、ケンジ様!!! 見てくれ! 試作品が出来たぞ! ほれほれ、運び込め!」

と配下の人に箱を運び込ませている。


どうやら、俺が頼んで置いたブラック・オーガ素材の皮鎧が出来上がったらしい。


結構ガッツリとメンタルを削られた後なので、これは素直に嬉しいぞ!


ワクワク顔で箱を開けてテーブルの上にデザインA~Cを広げてくれた。

「まずは、何と言っても大将であるケンジ様の分からじゃからと、張り切って作ったんじゃ!」

と自信満々のドワーフの親方。


広げられた皮鎧はほぼ俺のイラスト通りに仕上がっていたのだが、何か変なのである。


「あれれ? 俺疲れてるのかなぁ? ほぼ俺のデザインの様な気はするんだけど、何か変だね?」


俺が首を捻っていると、


「まあ、そんな事よりも一回実際に装着して感想を聞かせてくれ!」

と何か知らない間にメイド3名がズイと入って来て、あれよあれよと言う間にデザインAを装着していた。


「おお!やはり!! ケンジ様! 凄くお似合いじゃぞ! 馬子にも衣装とは良く言った物じゃな!ガハハハハ!」

とバカ笑いする親方。


「おお!主君、これはまた凄いですな!ハハハ」

とコルトガさん。

ランドルフさんは、羨ましそうに目をキラキラさせている。


「うん、着心地は良いね! しかし何だろうか? ちょっと姿見をここに持って来て貰えないかな?」


すると、阿吽の呼吸でドアが開かれ、大きな全身を写せる鏡が登場した。





「ねぇ、違和感の原因が判ったんだけどさ、親方! 俺のイラストにこんな角というかトゲトゲ付いて無かったよね? 何この世紀末的なトゲトゲは!!!」


こんなトゲトゲの鎧を着せて、俺にどうしろと? ヒャッハーー とでも叫べと言うんだろうか?


「え? でもカッコ良いぞ?」

と真顔で応える親方とそれに追従するランドルフさん。


「いや、これは却下でしょ! こんなトゲトゲ邪魔だし、危ないから!!」


「っじゃあ、まあ、それはさて置き、ちょっと鎧に魔力を込めて見て貰えんかの? そうすれば気も変わるってもんじゃ!」

と親方が食い下がる。


「え?魔力込めるの? まあ、良いけど――」


俺は、言われるがままに、鎧に魔力を込めてみた。

すると、なんて事でしょう! それまで真っ黒だった鎧の角やトゲトゲが、目映く光るではないですか!!


鏡に反射したその光で目をやられてしまった。


「「「おぉーーーー!」」」

「「「キャァーーー素敵!」」」


「そう言う問題じゃない! このギミックに何処に実用性があるんだよ! タダの色物じゃないか! 全面的に却下。」

と俺が言うと、今度は渋々引き下がり、


「じゃあ、ケンジ様、気分を変えて、デザインBを着てみようぜ!」

と親方がメイドに目で合図したら、メイドさんがテキパキと鎧を脱がせ、デザインBを装着してくれたのだった。


「ああ、これは割とまともだけど、何で目立たないブラック・オーガ素材なのに、右肩のパット部分が真っ赤なの?」


「グフフフフ、気付きましたかな? この細やかな配慮。 これはのぉ、かの300年前の勇者様から伝え聞いた最強の部隊――名前なんじゃったかのぉ~? まあええか、その最強部隊のトレードマークが右肩の赤い色らしいんじゃと。

どや? これなら気に入ったであろう? 本当は全部真っ赤という説もあったんじゃがのう。そうなると、今手持ちのレッド・デス・オーガの素材じゃ足りんのでの。」

と自信満々である。 ああ……また頭痛が痛くなってきたよーー。

思わず頭を抱え、崩れ落ちそうになる。


そして多くを語らず、最後のデザインCを装着してみた。


ん??? 何だろうな? この息苦しさは。

姿見を見ると、何故か詰め襟が聳え立つデザインの鎧を装着していた。


「やっぱり大将首は狙われやすいですからのぉ。 これも勇者様からの伝承で、襟部分の高さは高ければ高い程、位を現すという事でしたので、ギリギリを攻めて見たんじゃぞ?」

とニヤリと笑う親方。


俺は、とうとう、椅子に座り込むのであった――


結局、一番動きやデザインを考慮した結果、デザインBで生産に入って貰う事にしたのだった。 ああ、勿論右肩は黒に戻してね。

軽く親方から舌打ちが聞こえた気がするが、メンタルを削られた故の気の所為だろう。

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