第194話 マッコイさんの忘れ去っていた黒歴史
愕然と床に崩れおちる俺を余所に、マッコイさんは今までの10分を取り戻すかの様に加速して食っていた。
その加速に脅威を感じたのか、コナンさんも焦ってペースを上げていたのだった。
「ケンジ兄しゃん、元気だしてね? ほら、サチがちゅつんだんだよ?」
とサチちゃんが巻いた手巻き寿司を持って来てくれた。
ええ子やぁーー! サチちゃんええ子やぁーー!!
俺がホロホロと感動の涙を流していると、「尊いな。」と言うロシュタットさんの声がが小さく聞こえたのだった。
怖いから!! この子は俺が守る!! と心の中で思い、ガバッとサチちゃんを抱きしめるのであった。
「(あ、サチちゃんだけ、良いなぁ……)」と言う呟きが聞こえた気がするが、スルーしておいたのだった。
俺は取りあえず、復活して戦線復帰した。
こうなったら、ヤケ食いだ!
屋台の海鮮汁をお椀に注いで、手巻き寿司を作りつつ、海鮮汁を堪能する。
「ああ、やっぱりあのオヤジさんの海鮮汁は美味いな。海の旨味が凝縮されている感じだよ。」
と呟くと、
「何、そんなに美味いのか! じゃあ俺も!!」
とマッコイさんが、自分で丼に海鮮汁を注いでいた。
「おーー、これイセエビか? 珍しいなぁ。懐かしいぞ! どれ?」
と一口飲んで、「うぉーー、うっめーー!」と絶叫している。
「フッフッフ、だろ? アケミさんご推薦の一品だからな!」
と俺がドヤ顔で応えると………
「あぁーーーっ! 思い出した!! イセエビ!!」
と素っ頓狂な声を上げるマッコイさん。
一瞬食堂の全員の動きがピタリと止まり、シーンとする。
「ほら、あれだ! イセエビだよ! そうだった。イセエビ食ってたんだよ! ウーコッコーが!」
と叫んでいる。
「おい、女豹! お前覚えてるだろ? 一緒に行ったんだからな!! あの最悪の一夜の思い出を頭から除外しようと思ってたから、完全に忘れてたぜ!」
と言った後、マッコイさんが『しまった!』って顔をしてガクブルし始めた。
「あ! あれかい? 私があんたを食っちゃったあの島かい? ウフフフ、なかなかだったわよ? また久々に一戦交えてみる? ウフフフ」
とニタリと笑う女豹ことサンドラさん。
「逝かねぇし! 俺、逝かねぇから!!!ぜってぃ逝かねえからな!!!! 忘れろ! 直ぐにその記憶を抹消しろ!」
とマッコイさんが騒いでいたのだった。
まあ、騒げば騒ぐ程、そこまでの何があったのかが気になるところではあるのだが……聞けば後悔しそうな気がする。
その『一夜の出来事』はさて置き、これから俺が行く海岸線から北へ10~15km程行った所に無人島があるらしい。
そこで何があったかは伏せるが、そこの岩場でウーコッコーがデッカいイセエビを獲って食っていたらしいのだ。
殻ごとね。
「マジか。そんな所に居たのかよ。 これまで無駄な所を探していたのか。」
と一瞬落ち込みかけたが、だがしかし、これで究極のラーメンへの道が開かれたのである。
ラーメン道、それは険しく奥深い道…… とグッと拳を胸の前で握り締め斜め上を見上げる俺。
そして俺は、そんな素晴らしい情報を教えてくれたマッコイさんに
「ありがとう! マッコイさん。 ささ、この中トロの叩きの軍艦巻き食いねぇ! 食いねぇ!」
とサービスするのであった。
一夜明け、早速今度こそ別荘を旅立つのだが、見送りがてらに何故か昨日のメンバーが朝からやって来て、一緒に食卓を囲んでいた。
「なあ、ケンジ、また近い内に来てくれよな? ほら、あの紅茶とか色々あるし、ブラック・オーガの件もあるしさ。」
と魔王さんが何回も念を押して来る。
「判ってるって! 今度来る時までには間に合わないと思うけど、また美味しい料理を考えておくから。フフフフフ」
「あら、それは楽しみですわね? 期待してますよ?」
とニッコリ笑う奥方様からのプレッシャーが凄い。
「え、ええ、まだ構想段階なので、『急いては事をし損じる』と言いますか、ジックリと腰を落ち着けて試行錯誤しますからね。
やはり何事も一朝一夕では上手くはいかないから、長い目で生暖かく見守って下さいね?」
と取りあえずの逃げを打って置いたのだった。
そして、いよいよ出発である。
全員に手を振り、ゲートで昨日の戦場近くの街道までショットカットして、旅を再開するのであった。
あれだけ群がって出て来ていた魔物達だが、ブラック・オーガを討伐して封じ込めた結果か、えらく平和である。
「うーん、全然平和だよね? もしかして、あれってブラック・オーガが原因で押し出されたが為のスタンピードだったのかな?」
「うむ、主君の仰る通り、それはあり得ますな。あれだけの数のブラック・オーガであった故、食料も相当だったのではと。」
だよなぁ。 まあそこら辺は上手くコントロールする様に魔王さん達に言って置いたし、大丈夫だろう……多分。
旅路は順調で、昼までに出て来た魔物は2回で、黒助がサクッと仕留めて居たので、ノンストップで通過出来ている。
昼食後もほぼ同じで、特にコルトガさんが狂喜する様な魔物は現れなかった。
休憩の度に「チッ!」という舌打ちが聞こえた気がするが、きっと気の所為だろう。
マダラ達が頑張ってくれたお陰で、その日の夕方には、森を抜け、海岸線の切り立った断崖絶壁まで辿り着いたのだった。
断崖絶壁っぷりはかなり強烈で、荒波に削り取られた崖は、忍者返し??の様に反り返っている感じである。
高さで約50mぐらい、真下は岩場で落ちると確実に痛いでは済まない場所であった。
今では飛べる俺だが、意外にこう言う絶壁から真下を見るのは苦手で、股間がキュッとする感じでゾワゾワしてしまう。
俺なんか、怖くて崖先端3m手前から匍匐前進で這って行って、漸く下を見たぐらいなんだから……。
しかし、アケミさんは全然平気らしくて、
「わぁ~凄いですねぇ。抉れてますよ! わぁ~下は痛そうですねぇ!」
と平気で下を覗き込んで居た。
「危ないから! ね? 本当に危ないから!!」
と俺が注意すると、ウフフと笑っていた。
その日は断崖絶壁で一泊し、波は崖にぶち当たる音を聞きながら夕食を取り、久々のテントでユックリ休養を取ったのであった。
俺? フフフ、俺は明日の無人島の事が楽しみで、なかなか寝付けなかったのはご愛敬である。
崖が怖くて眠れなかった訳ではないからね?
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