第193話 儚い記憶

待ち伏せているブラック・オーガの襲撃が切れたので、俺は一旦偵察と伝令を兼ねて空中へと飛び上がった。


さて、中心地帯だが、遠目に見ると、黒いのがワサワサと外に向かって整列しているのが判るが、その奥には予想通り、大きな穴が地面に開いていた。


「なるほど、あれか。」


あそこから、ドンドンと湧いて出て来ているらしく、現実にこうして確認して居る間にも20匹程増えていた。


そして、穴から離れた各人の持ち場辺りでは、時々爆発やつむじ風や絶叫が聞こえて居る。


まずは、アケミさんの方向に時計回りに空中から飛んで行く。


「よ、アケミさん、順調かな? 無理してない?」


「あ!ケンジさん!!! ウフフ、大丈夫です。 着実に仕留めてますから。

こっちは50匹ぐらいは仕留めたんですが、まだ終わりが来なくて……。」

とアケミさん。


という事で、中央の穴から湧いて出ている事実を知らせ、後200m前進したら、2人1組になる様に指示をし、その次の作戦を伝えた。


次に微笑みながら肉串を食べつつ、魔法を放っているコナンさんの所に行き、同様に伝えると、

「え? 終わりが無いの?」

と驚いていた。


そして次はヒャッハー中のコルトガさん。

「そうですか! 終わりが無いのですか。ガハハハハハ! そりゃ、結構結構!」

と悪い顔でバカ笑いしていた。


そして四天王サイドをグルリと周り、自分のポジションへと戻って来て、遅れを取り戻しつつ前進した。


包囲する半径が小さくなった事で、より密度の濃い攻撃が可能となる。


さあ、第一段階の追い込みを終了し、狩り取った素材を回収しつつ、半径300mまで後退する。

照明弾(火魔法の花火)を1発打ち上げ、1分後に全員が半径300mまで後退したのを確認すると、穴を中心に城壁(小x2)を設置して再度照明弾を2発打ち上げた。

そして素早く各4つの城門を手分けして土魔法で完全に塞いだのだった。


「おーーし! これで囲い込み完成だねぇ。」

と俺とアケミさんがテーブルと椅子を出して一休みしている所へ、全員が続々と集まって来る。


「如何かな、我が主君は?」

とコルトガさんが嬉し気にラングさんの肩を軽く叩きながら聞いている。


「うむ、話には聞いておったが、これまた面白い事をされる。

いや、長生きはするものじゃな! ガハハハハ。」


「であろう? ガハハハハハ。」


アケミさんは少々お疲れモードであったが、コナンさんは腹ぺこモードらしい。

全員で早めの昼食を食べつつ、今後の作戦を話始めた。


「まあ、こうやって閉じ込めたのには理由があってね、どうやら、奥の大穴の中が本当の住居の様なので、幾ら倒しても切りが無い感じだったのと、纏めて置けば殲滅も楽だし、素材を傷めずに収穫出来るでしょ?

ブラック・オーガの皮はかなり良い素材だから、これから先の貴国の貿易に使えるからね。

せっかくドンドン湧き出て来るなら、有効に活用した方が良いかと思ったんだよ。」

と俺がブラック・オーガ取り放題の有用性を説明すると、全員が納得していた。


食後に一度範囲魔法でサンダーシャワーを放ち、地上に出て居るブラック・オーガを一掃して回収した。


午後2時半にはゲートで一旦魔王都まで戻ったのだった。


「にーちゃん!!」

「ケンジ兄しゃん!」

とリックとサチちゃんが駆け寄って来てガバッと抱きついて来た。


「おう、お利口さんにしてたかな?」


「「うん」」

と声を揃える子供達。


2人の頭を撫でながら、会議室に移動して俺が流れのままに用意したフルーツフレーバーティを飲みながら魔王さんにブラック・オーガを囲い込んだ事を報告し、今後の交易の際の輸出品目に使える事を教えると、


「なるほど、それは良い事を聞いたな。 ありがとう!」

とお礼を言われたのだった。


「今後、うちの方からもブラック・オーガの素材の買い付けすると思うから、宜しくお願いしますね。」

とニッコリ笑うと、


「勿論でんがな! その代わり、こっちも砂糖とかスパイスとか宜しくね。」

と笑っていた。


そう締め括っていると、奥方様がスッと寄って来て、


「貴方! このお茶もよ!! これはマストアイテムだわ!!」

と追加していた。


フフフ、美味しいもんねぇ。


「まあそれ程量は作ってないんですがね。」

と言いながら、一ケース(小分けしたガラス瓶12個入り)を出すと、ガバッと上から抱え込んでササッと持って行ってしまったのだった。


「ハハハハ…… ケンちゃんの所は、本当に美味しい物に特化しているよねぇ。」

と魔王さんが苦笑いしていた。


「ハハハ、褒め言葉と受け取って置きます。まあでも、美味しい物を食べると幸せな気分になったり、生きてるって実感したりしますよね。

住民も同じ様に思って欲しいですからね。

でも、ここの料理だって、本当に美味しいじゃないですか。街で売ってる肉串も美味しいですし、凄いと思いますよ。

うちのコナンさんなんて、買いだめしてますからね。」

と俺がコナンさんの方を見ると、エヘヘと笑っていた。

コルトガさんやコナンさんにも前にマジックポーチを渡してあるのだが、コナンさんのマジックバックだけは見なくとも大体何が入っているのか想像がつく。

たが想像がつかないのは、その量だけだ。正直知るのが怖かったりもする。



そして暫く会話を楽しんだ後、別荘へと戻ったのであった。

但し、コナンさんだけは、折角だから買い出しをするとか言って、俺からお小遣いを捥ぎ取り、小走りに屋台の方へ去って行ったのだった。




別荘に帰ってホッと一息着いていると、アケミさんが

「今夜は手巻き寿司にしませんか?」

と提案してきた。


「おお!! 手巻き寿司か! それやってみたい!!」


うん、TVのCMとかでやっているのを見て、何気に憧れていたんだよねぇ。


「よし、じゃあ酢飯を作らないとだね?」

と俺が言うと、


「多めに炊くので、お手伝いお願いしますね。」


という事で、全員でキッチンに移動し、1升炊きの釜5個を使ってご飯を炊き始めた。


大きな木のタライを5つ用意して、炊き上がったご飯を出して風魔法で湯気を飛ばしつつ、酢と砂糖や塩等を合わせながら、混ぜて行く。


「酢飯作るのって結構重労働だよね。」


「そうなんですよねぇ。前にライゾウおじさんに教わって作る練習してた時、腕がパンパンになりましたからね。

翌日とか、お寿司疲れの筋肉痛で仕事がきつかった事、きつかった事……」

と笑っていた。


アケミさんが具材となる魚を捌いて行き、ドンドンとストックして行く。


俺達手伝い班は、タダ黙々と酢飯を作るのだった。


酢飯は混ぜた後30分ぐらい寝かせる事で、味が混ざり合い、良い感じにまろやかになるらしい。

なるほどね、だから俺が前に作ったのは、何かシャリがベシャっとしてて、酢の味がキツかったのかも知れないな。


下準備が終わった頃、タイミングを見計らったかの様に、コナンさんがホクホク顔で帰って来た。

何というタイミングの良さ。 お前、窓から見てただろ? と指摘したくなる程である。


更に、後を追う様に、魔王さん一家と四天王も

「ちわーー! 来たよーー!」

とやって来たのだった。


「え? な、なんで?」

と俺が素で返すと、


「え? だってブラザーの事だもん、用意して待ってたんだろ? 悪いじゃん。暗黙の了解なのにさ。」

と魔王さん。


え?何処に暗黙の了解なんてあったんだろうか?


「ささ、まあ、こんな所ではなんですし、ね?」

と奥方様が、ズイズイと入って行かれた。


この人達の距離感判らんわ……。

まあ、面白いけどさぁ。



そうして結局また今夜も長い宴会となったのである。

魔族の皆さんは、初めて食べる手巻き寿司というか、生の魚に最初こそビビっていたんだが、最初の1個を作る見本を見せながら自分で作らせて食べた後、目の色を変えてバンバン巻いては食べ巻いては食べを繰り返していた。


フフフ、まあこうして地道にイメルダ料理を全土に広げる訳だな。


そして、いつの間にか何処の国でも食べられる様になる……という俺の全国制覇の野望がまた一つ進行した訳だ。

自称、和食改めイメルダ料理を広報支援する会の会長としては、まあ仕方ないか。ハハハ。


そのうち、ラーメンも流行らせたいなぁ~。


「あ! 大事な目的の1つを思い出した!!! 魔王さん、皆さん、ウーコッコって魔物見かけた事ないですか?」


「ああ、あれか? 鶏の大きくなった感じの魔物だよな?」


これまであまり存在感の無かったマッコイさんが、気さくな感じで聞いて来たよ。


「おお! 多分それですよそれ!! 何処かで見かけましたか?」


「えー? うーん、見たと言えば見たよな? 何処だっけか? 随分昔だからなぁ。 もうそこに居るかは判らんけど、えーっと、何してた時だっけ?」

と頭を抱えて考え始めた。


――――――

――――

――


あれから10分が経過したが、まだウンウンと唸って居るし。

頼むよ、マッコイさん! あんただけが頼りだよ?


そして、ついにマッコイさんが、ガバッと顔を上げた!


「先に食って良い?」と。

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