第192話 計算の合わない殲滅戦

打ち合わせから40分後、そう言う一癖以上ある四天王の皆さんと一緒にゲートを潜りいざ出陣である。

見送るリックとサチちゃんが兄妹2人でギューッと足に抱きついて来て、

「な、なあ健二兄ちゃん、ちゃんと無事で帰ってきてくれよな!」

と必死で涙を抑えるお兄ちゃんなリック。


しかし、サチちゃんは

「行っちゃやだーーー!」

と駄々を捏ねていた。

まるで、会社に出勤するお父さんの気分だよ。エヘヘ、こんなに嬉しい物なんだなぁ。



「大丈夫だよ。全員で無事に帰って来るからね。約束だから。」

「「うん……」」



「じゃあ、奥方様、この子ら暫しの間宜しくお願い致しますね。」


「おねーちゃんも気をちゅけてね! ブーにいちゃんも、じぃちゃんもね!」

とアケミさんやコナンさんやコルトガさんに無事に戻る様に言うサチちゃんであった。


そうか、コナンさんはブーにいちゃんって呼ばれてるのか。ハハハハ。


そんなサチちゃんの姿を見て「尊いな。」とロシュタットさんが小さく呟いて居た。


え? こ、こいつそう言う感じなの? これは是が非でも無事に帰ってサチちゃんから遠ざけねば!!!!



一般兵なのかは不明だが、同行する兵は8名のみらしい。

少ない様にかんじたのだが、そもそも彼らは戦うのがメインではなく、主な役目は宥め役?らしい。

何其れ? って不思議に思っていたんだが、


「ああ、それはだな―― つまり四天王、強いは強いんだが、一度スイッチ入っちゃうと敵味方関係無く獲物を取り合う感じになってしまうから、そう言う意味の宥め役なんだ。

まあ、ケンジ達は上手く避けてね? 大丈夫だよね?」

と魔王さん。


「ちょっ! この段階でその情報? マジで出発30秒前だったんだけど? えーー、マジか。」


これ、普通に世に放ってはいかん連中なんじゃ?

ああ、イカン―― アタマガ、クラクラシテキタヨー。



「ささ、逝きましょうぞ! ケンジ殿!」

とラングさんが背中から大剣を抜き、地面に突き刺して微笑んでいる。

そんな情報を聞いた後だと、その微笑みが怖いんですが?


俺は、気を取り直してゲートを発動し、先に飛び込んだのだった。


ゲートの向こう側では即座に気配察知と魔力感知の範囲を広げ、ブラック・オーガの動向をチェックする。

うむ、群の位置は相変わらず変わらない。 後方にはハンター・ウルフの群が小集団に分裂し、散らばっていた。


ゲートの向こうに合図して、全員を移動させゲートを閉じたのだった。


「ほほー、誠にゲートは便利じゃの。」

とラングさん。


「ガハハ、であろう? 流石は我が主君であろう?」

と嬉し気にドヤ顔を決めるコルトガさん。


爺様2人は早速仲良くなったらしい。




作戦だが、至って簡単で八方向に別れ、自然を破壊しない範囲で中央に追い詰める感じで殲滅して行くという、シンプルな物。

加えて、ブラック・オーガの素材は大事にしようね? と釘を刺しておいたが、件の美魔女は不服顔であった。

あんた、一体どんな範囲魔法掛けるつもりだったの? と問い詰めたいが怖いので触らない。


尚、もしもの際が怖いので、アケミさんにはピョン吉を、コナンさんにはコロを、コルトガさんには黒助を付ける事にした。

特にピョン吉とコロには接近戦には弱い彼らを守る様にお願いしておいた。


全員に念の為のシールドを掛け、20分後に作戦を開始する事にして散って行った。

アケミさん、本当に大丈夫かな? 本人たっての希望だったからまあ許した訳だけど、凄く心配である。

直ぐにピョン吉には何かあったら直ぐに知らせる様には言ってあるけど、不安である。




アケミさんを始点とすると、時計回りにコナンさん、コルトガさん、そして俺の順のポジションである。

俺も気配遮断を使い、ポジションへと移動した。




時間である。

ブラック・オーガの集落を取り囲んでいる、柵を越え、まずは開始の一発ならぬ、30発のサンダーを発動し、30匹にロックした。 そして、投下!


「バババババッシーーン」


俺のサンダーを皮切りに、遠くから「ドッカーン」とか、「グギャーーー」とか阿鼻叫喚の爆音や絶叫が聞こえて来始めた。


まずは30匹の死骸を回収しつつ、「ガォーーーー」と雄叫びを上げながら剣をや棍棒を持って突っ込んで来るブラック・オーガをヒラヒラと躱しつつ、飛び上がり1匹目の首を片手で持った刀で横薙ぎに切断し、反対側から突っ込んで来る2匹には2発のアイス・カッターで同じく首を切断する。

首を失った胴体からは、勢い良く血が噴射するが、俺は既にその場を離れているので、血を被る様なヘマはしない。


慌てて駆けつけようとしている15匹ぐらいの一団を発見して、更に15発のサンダーを放つが、動きの素早い3匹がサンダーを逃れ、大剣を振りかざして突っ込んで来た。

「グガーーー!」

恐ろしく素早い奴である。

10mの距離を一気に縮め、中央先頭の1匹が上段から大剣を振り下ろして来た。

そして、その左の1匹は槍で突いて来て、3匹目はファイヤーボールを放って来た。

え? 魔法使えるのか! 一瞬怯んだが、俺は敢えて槍の懐へと飛び込み槍を持つ腕をその流れで切断する。

「ギャガァーーーー」と槍を持った腕を失ったブラック・オーガが斬り口から血飛沫を飛ばしながら絶叫する。

俺は、3匹が直線上になった位置でアイスカッターを地面から20cmの高さで放ち、3匹の足首を切断した。


「「「ガァーーーーーー」」」

と絶叫を上げながら足を失った3匹が勢い良く「ドッターーーン」という地響きと共に地面に突っ込む。


直ぐにトドメで首を切断しに接近して1匹目……そして2匹目の首を切断しようとした瞬間、嫌な予感がして、ハッと周囲を見回すと、俺の周囲広範囲を目掛け、前方約120度ぐらいの位置から無数の矢や槍、そして石等が飛んで来た。

一瞬回避も考えたが、間に合わないので、シールドをドーム状に展開した。

その0.1秒後に「ドガガガガガ」とシールドに弾かれるそれらの破壊音が鳴り響く。

更に、30発ぐらいのファイヤーボールやファイヤーランスが立て続けにシールド表面で爆裂音を鳴り響かせ、辺り一面を爆風で巻き上げられた砂埃が視界を奪っている。


どうやら、この3匹は囮の餌だったようである。 フフフ、やってくれるじゃないか! 



敵の位置を魔力感知で確認し、範囲を絞って、今度はこちらからサンダーシャワーをお見舞いしてやった。

土埃で良くは見えないが、放った辺りの上空から、無数の稲光がババババババと降り注いでいる残光が見える。

「「「「グギャーーーーーーー」」」」

「「「「アバババーーーーーーー」」」」


と少し離れた所から、断末魔の絶叫が鳴り響き、シーーンとなった。


シールドを縮小して、通常状態に戻し、落ちて居るブラック・オーガの死骸をドンドン回収して行く。

これで、お揃いの鎧を作ると絵になりそうである。

しかも黒装束にもマッチするブラック・オーガだけに、使い道は色々だ。

出来れば、牧場で飼育したい程だよなぁ~ 等と鬼畜な発想をしつつ、サンダーシャワーの被災地を見に行くと、派手に地面が抉れ、50体程の死骸が転がっていた。

これで、俺は68匹葬った事になるのか。


他の者が担当して居る範囲の気配を確認すると、魔王四天王、コルトガさんの所は流石に俺と同じぐらいまで押し込んで居るが、アケミさんとコナンさんの担当エリアがやや遅れている様である。

<ピョン吉、コロ、そっちは大丈夫?>


<ん! 問題無いー   多分>

<僕活躍中だよーー、後ちょい!>

と微妙な返事が返って来たが、どうやらアケミさんもコナンさんも無事な様子である。



俺は、徐々に中央へと押し進んで行きながら、出て来るブラック・オーガの小隊を撃破して行く。


そして、俺はこの辺りでちょっと変だと感じ始めた。


あれれ? おかしいな。

確か俺が感知した数って200ぐらいだったよな?

俺、既に100匹は葬っているんだけど、減らないよな?

何で???


数が合わない。俺が100としよう。仮に四天王とコルトガさんの所が各30としても既に250となる。

更にアケミさんとコナンさんも30とすれば、310である。110多い事になるよな?


増えた? 昨日今日で110増えたのか?


いや、これから向かう中心地帯を検知すると、まだ200匹ぐらいの反応が残っている時点でおかしいよな?

凄く嫌な予感がする。


減らないのではなく、最初の200という数字自体が正しく無かったって事なのか?


気配察知も魔力検知も、地下だとかなり精度が落ちたり検知出来なかったりする。

もしかして、地上の集落は集落よりという、地上の砦で、地下に本拠地があるのか!?


アケミさんとコナンさんのエリアも第一関門突破した様である。


<ピョン吉、コロ、黒助、敵の本拠地は、地下にあるっぽい。中央付近にはまだ200匹ぐらい残ってる。持久戦になるかもだから、気を抜かないでおいてくれ!>


<了解!>

<わかったー!>

<ニャ!>


まさか湧き水の様に湧いて出るとは……嬉しい誤算だな!!! ハッハッハッハッハ!

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