第190話 隣の晩ご飯的な?
ゲートで魔王都の別荘に戻って来たのだが、コルトガさんと黒助の落胆っぷりが半端無い。
「み、見せ場が……」
<見せ場だったニャ!>
と2人して同じ様な事を呟いている。
一方コナンさんとアケミさんは一様にホッとした表情をして居た。
ゲートで戻る前に一旦上空に飛び上がって、魔王都からの距離を計測したのだが、大凡80~90kmといった所だった。
思ってた以上に距離が稼げてなかった訳だが、それ以上に拙いと思ったのは、魔王都から100kmも離れてない地点でブラック・オーガの大規模な集落や戦闘経験豊富なハンター・ウルフの群の存在だろう。
やっぱり、一応警告して置いた方が良いだろうな。
という事で、落ち込んで居るコルトガさんにお願いして、魔王都へ伝令に行って貰う事としたのだった。
一応、出て来た魔物の種類と数を大体の距離毎に記載したメモを添えておいた。
コルトガさんが戻って来るまでに、久々に豪華な夕食を作る事にしたのだった。
豪華な夕食と聞いて、コナンさんのテンションが滅茶滅茶に上がっていた。
「い、生きるって、食べる事なんだな。だな!」
と哲学的なな台詞を吐いていたが、要は食べるのが好きってだけだよなぁ。
今夜の夕食の希望を聞いた所、お子様達は、
「カレーでしゅ!」
「オイラはハンバーグ!」
アケミさんは、
「久々にうな重食べたいです。」
コナンさんは、
「ぜ、全部!?」
と見事に別れた。
ウナギと言えば、既にウナギの在庫がほぼ枯渇してて、とても無理なんだよね。
仕入れとかないとなぁ。
アケミさんにウナギが無い事を告げると、凄く残念そうにしていた。
という事で、カレーの作り置きを増やし、ハンバーグも作り置きを補充する事にした。
ついでにハンバーガー用のバンズも焼いて置こう。
屋敷の厨房で、手分けして、ジャガイモやニンジン、玉葱の皮を剥いて切って貰う。
俺は専ら、スパイスをゴリゴリと調合中である。
リックも涙を流しながら玉葱を刻んでいた。
「あー、兄ちゃん泣いてるーー!」
とサチちゃんに指摘され、
「ば、ばっか! これは違うんだからな!」
と顔を赤くしながら反論していた。
スパイスを調合し終わると、カレーを作る傍ら、ハンバーグ用のミンチをアケミさんとコナンさんに担当して貰う。
玉葱が炒め終わると角切りにした肉をぶっ込んで一緒に炒める。
ある程度火が通ったところで他の野菜を入れ、水を入れ煮込み始めた。
アケミさんと子供達には、ハンバーグを捏ねて貰って、形状を整えてもらった。
俺はコナンさんに切って貰った1cm厚のオーク肉に衣を付けて、油で揚げる。
オークカツが出来上がると、今度はバンズの形状にしたパン生地を二次発酵させて、オーブンへと突っ込んで行く。
通常だと二次発酵に時間を掛けるのだが、そこは魔法のある世界ならではである。
時空間魔法を応用した時間短縮が可能なのだ。
なので、同様にハンバーグ形状にして、一旦冷蔵庫で寝かせたりするのだが、これも時短出来るので、実に効率的なのである。
寸胴型の圧力鍋のお陰でアッと言う間に火が通る。
蓋を開け、スパイスと小麦粉を炒めた物を混ぜて行き、ドロドロのカレーに仕上げる。
コナンさんとアケミさん手伝って貰い、それぞれの寸胴を底が焦げ付かない様にかき混ぜる。
1人2つの寸胴を担当する訳である。
お子様用のリンゴと蜂蜜入りの寸胴は、子供らに掻き回させている。
(専らサチちゃんは応援担当であるが)
1回目のパンが焼き上がり、次のパレットに入れ替えてまた焼く。
家は大食らいが多いから、作れる時に多めに作っておかないとなぁ……。
カレーの煮込みが終わったら、今度はハンバーグを焼き、付け合わせのフライポテトを揚げる。
ついでに、ストックしているデミグラスソースを取り出して、煮込みハンバーグも作って見る事にした。
俵型にしてコロコロ転がして焼き色を付けたハンバーグをデミグラソースを入れた寸胴に放り込んで行く。
後は沸騰しない火加減で煮込むだけだ。
2時間程掛かって食事の準備が終わった頃、やっとコルトガさんが戻って来た……何故か魔王さん御一家と大臣を連れて……。
「主君、どうしてもと詰められましてな。申し訳ございませぬ。」
と頭を下げて来たのだが、まあこれはしょうがないよなぁ。ハハハ……
「ああ、うん、大丈夫。多分。
魔王さん、皆さん今朝振りですね。どうぞ、魔王城に比べると質素ですが。」
と応接室に通してコーヒーをお出しした。
「コルトガ殿から聞いたのだが、これは明らかに異常事態である。」
と魔王さんが真剣な顔をしているが、何となくソワソワしている。
奥方様は奥方様で、鼻をスンスンとしながら、
「あら、何か美味しそうな何とも言えない匂いがするわね?」
と呟いている。
ああ、これは何となく、ご招待する流れなんだろうなぁと察して夕食にご招待すると、全員が待ってましたとばかりに、パーッと明るい顔をした。
もしかして、これが本来の目的なんじゃぁ? と疑いたくなるよな。
しょうがないので、全員分のカツカレーやハンバーグやスープ等を出してテーブルにセットし、頂きますをして食べ始めた。
(まあ、ここでも『頂きます』とはなんぞや?という話もあったのだが、何時もの事なので、省略するけど)
「「美味い!!!」」
「美味しいわー!」
「辛いけど癖になる」
と汗を滲ませつつガツガツと食べる魔王城陣営の皆さん。
コナンさんも負けじとガツガツと食べて居る。
「このカツというのか? これも美味いな! オークなのか?」
と興味津々に聞いて来る魔王さん。
「そうですよ。オークの肉に衣を付けて油で揚げるんです。まあ、パン粉を使うんですが、粗めのパン粉を塗すのがポイントですかね。」
「これ、家の王宮でも作れるかしら?」
と奥方様が聞いて来た。
「うーん、どうですかね? カレーには沢山の種類のスパイスを使いますから、材料さえ揃うなら作れますけど。」
と俺が答えると、奥方様がガバッと魔王さんの方を向いて、眼力で訴えていた。
「あ、ああ、ケンジ、これを作れるスパイスも購入したいんだけど、イケるか?」
と魔王さんが焦って聞いて来たのだった。
結局、魔物異常の話はほぼ無くて、終始食べ物の事ばかりで終わり、満足気な笑顔で魔王城陣営の皆さんが帰って行ったのだった。
やっぱり、なんとなく食事に来た感じだったのか?
まあ、デザートまで大喜びで食べてくれたから、作ったこっちとしては本望なんだけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます