第189話 雪隠詰め
出発してからまだ1時間足らずなのに、濃い事態になったものだな。
まあ、気を引き締めないとダメって事だな。
今度は後手に回らない様に気合いを入れて再出発した。
再出発から40分も進むとザッと50程の反応を感知した。
向こうもこちらの気配を察知した様で、三手に別れ、左右から回り込む二隊と正面の一隊で迎え撃つつもりなのだろう。
動きの速さからすると、ウルフ系が濃厚である。
全員に念の為、敵の来襲を伝えると、こんどこそ!と気合いを入れるコルトガさん、そしてピョン吉達。
コナンさんも鼻息を荒くしておられる。
アケミさんも「任せて下さい!」と拳を握っている。
俺達は地面に降り立ち、リックとサチちゃん中心にその周囲をマダラ達に囲ませ、左翼を俺と黒助、右翼はアケミさんとコナンさんとピョン吉、前方はコルトガさんとコロの布陣である。
更に念の為、全員に薄いボディースーツの様な皮膜形状のシールドを掛けておいた。
そして待つ事2分、戦いの火蓋は一瞬で開かれた。
左右から15匹づつのハンター・ウルフが「ガルル」と唸りながら飛びかかって来る。
愛刀を抜き、俺の首を狙って飛びかかって来た2匹を横一文字に切り裂く。他の3匹が怯む事無く連続で飛びかかって来るが、黒助がシャドーバインドの触手を伸ばして空中でキャッチし、「キャン」と鳴く間も与えずに俺が刀で首を刎ねる。
<あーー!! 俺の得物だニャー!!!>
と抗議の声が響いたので、「すまん。」と謝り、残りを任せる事にした。
コルトガさんの方も既に接敵しており、16匹のウルフを相手にバッサバッサと斬り伏せている。
コロも負けじと爪による斬撃や噛みつきで4匹を瞬殺していた。
一方アケミさんとコナンさんの方は、2人の風魔法とピョン吉の角によって、既に8匹が地面にボロボロの状態で転がっている。
全員が大丈夫そうなのを見てホッとしていると、
<主ーー、こっちは完了だニャ!>
と誇らし気な声が聞こえた。
そして、戦闘開始から約3分で46匹のハンター・ウルフを片付けた。
残るは前方の奥からこちらに指示を飛ばしていた1匹とその側近3匹である。
どうやら、かなり賢い奴の様で、不利と悟ったらしく、大人しく右斜め前方へと消えて行ったのだった。
「どうやら、大丈夫らしいな。 取りあえず全部収納したら、出発しよう。」
血生臭い戦場で長居は禁物である。
血の臭いを嗅ぎつけた他の魔物達が寄って来る前に早々に出発するのであった。
再び進み始めて暫くすると、遠くの方で、ハンター・ウルフの物らしい遠吠えが「ワォーーーーーーン、ワン、ワァォーーーーーーン」と聞こえて来た。
もしかすると、仲間を集めているのかもしれないな。 一応あいつの魔力はマークておこう。
それからも出て来る出て来る、10匹以下なら下馬せずに魔法で狙い撃ちしたりで良いが、群で来ると先程同様に迎え撃つ形を取る。
希に事前の情報が無かったキラー・バットという蝙蝠の群が木の枝から集団で襲って来たりするが、シールドを利用して、効率良く狙い撃つ。
まあ連戦連勝なのは良いのだが、お陰で全然距離が稼げ無い状態である。
俺は密かにあの泉から最初に出て来た際の森の中の連戦を思い出していた。
あの時は怖かったし、キツかったよなぁ。独りぼっちで心細くて――
でも今は、共に戦ってくれる仲間が居る。 何と心強い事だろうと。
「そろそろ昼飯時なんだけど、このままだとオチオチ落ち着いてご飯も食べられないね。
どうする? 一旦休憩入れようか?」
とみんなに声を掛けると、
「さ、賛成だな! お、お腹減ったんだな!だな!」
と目を輝かせるコナンさん。 安定の食欲である。
あれだけレベル上げして新陳代謝が上がり、ダイエット効果があった筈なのだが、見ているとそれ以上に食べているみたいで一向に痩せる気配は無い。
痩せればエルフだけに、絶世の美男子になりそうなんだけどなぁ。
コルトガさん以外のみんなも連戦で少し疲れたみたいなので、一旦ドーム状にシールドを拡張して休憩を挟む事にしたのだった。
「ふぅ~、シールドで気配まで遮断しておいたから、安心して寛げるよ。
こんな状況だから、出来合の物でチャッチャと食べて、少しユックリ休憩しよう。」
「ああ、助かります。流石に神経を張り詰めての連戦は精神的に疲れますね。」
と少し疲れた顔のアケミさん。
しかしリックは自分も戦いたいらしく、悔しそうにしている。
サチちゃんは、俺に身を預け、スヤスヤ寝てたらしく、
「あれ? 着いたでしゅか?」
と目を擦っていた。
あれだけの爆音や魔物達の断末魔の悲鳴が鳴り響いていたのに、寝てたとは……大物だ。ハハハ。
マダラ達に泉の水と餌と果物を与え、同じくピョン吉達にもご飯と果物と泉の水を出してやった。
そして、テーブルと椅子を取り出して、俺達の昼ご飯を出した。
「疲労回復の為にも泉の水と果物は食べる様にね。」
「わーーい、桃さんでしゅー。」
「オイラは葡萄が一番好きだな。」
とリックとサチちゃんがワイワイと話して居る。
「主君、某が聞いていた話よりも魔物が多い気がするのであるが、考え過ぎであろうか?
しかも、強さ的にはかなり他の地の魔物に比べ強かったり、賢いというか、戦い慣れしている気がしておるのじゃが、如何であろうか?」
そうコルトガさんから指摘され、俺も今までの魔物を思い返し、そう言われれば確かに一味も二味も強い気がしてきた。
「確かに戦い慣れした賢い戦法をする奴が多かったな。
しかし、どうなんだろうか? あまりBランクの魔物と戦った記憶が無いので、これが異常なのかは判断つかないなぁ。」
俺がそう答えると、他のメンバーも同じ様にワンランク上の魔物と戦っている気はしたらしい。
「何にしても、魔物の数が聞いて居た以上に出て来るのは間違いないな。
取りあえず、油断だけはしない様に、気を付けような。」
もし、何か異常が見つかったら、魔王さんに報告いれておくべきだろうな。
そして、少し長めの昼食休憩を終えて再び進み出すと早々にオーガの群がこっちを迎え撃つ様に逆V字の隊形で突っ込んで来た。
オーガってこんなに賢かったっけ?
流石にオーガとなると、アケミさんの魔法ではかなり厳しいみたいで、右翼はコナンさんが大活躍していた。
前衛のコルトガさんとコロは無双状態で分厚いオーガの中央に穴を開け、俺と黒助の左翼側は、黒助は後ろ側から回り込まれない様に俺は左翼中央部分から斬り伏せて行った。
こうして上位種を含む48匹のオーガの群は、10分程の戦闘で全滅したのだった。
「しかし改めて見てもこの剣は切れますなぁ。 流石は主君お抱えの鍛冶師よのぉ。」
と血振りをした剣を眺めながら悦に入っていた。
そう、オーガの外皮は冒険者の皮鎧に使われる程に耐物理攻撃に強いのである。
アケミさんは仕留めたオーガを確認して唸っている。
「これは、珍しいブラック・オーガですね。売ればかなりの値段だった筈ですよ。」
「しかし、オーガってさ、余り大所帯で群れる感じじゃないと思ってたんだけど、そうでもなっかったんだね。」
と俺が呟くと、
「そう言えば他の地方がどうかは判らないですが、多くても10匹程度の群ぐらいですよね。不思議です。」
とアケミさんも同意して来た。
コナンさんは倒したオーガの確認して、
「こ、ここに来てたオーガには、上位種居なかったんだな。だな。 群のリーダーはまだ生きてるんだな。だな。」
と言って居る。
「うむ、つまりもっと大掛かりなオーガの群……いや集落が存在するという訳じゃな?」
と嬉しそうなコルトガさん。
そこで俺は一応釘を刺しておいた。
「今回の目的は討伐旅行じゃないからね? あくまで海産物の為の未開拓エリアを探しに来た訳で、今はその途中に過ぎないからね?」
「ええ、主君、判っておりまするぞ! 主君のお気持ちは!!」
と言うコルトガさんがクックックと悪い顔をしながら笑っていた。
こいつ判ってないよな………。
結局4時まで進行方向上に立ち塞がったり襲撃して来る無数の魔物を倒したが、突然魔物の襲撃が途切れたのだった。
感知の範囲を広げると、前方には無数の反応が密集しており、どうやら集落があるらしい。
しかも、これはオーガ? さっきのブラック・オーガの集落らしい。
コルトガさんの方でも気配を感知したらしく、スッゴく獰猛な笑顔を見せている。
コナンさんはハッとして嫌そうな顔をしている。
「どうしたんですか? 何か途切れましたね?」
とアケミさん。
「ああ、この先にさっきのブラック・オーガの群というか集落があるらしい。
数は……えっと、沢山だ! 200は居そうだな。 中に強烈に強い反応の個体も混じってるから、恐らく上位種だろう。」
すると、アケミさんがウンザリした顔をしている。
しかもだ、範囲を広げた事で俺達の後方から80近いハンター・ウルフの群が両脇から追い込むかの様な隊形で迫って来ていた。
「えっと悪いニュースです。 後ろから包囲する形で、午前中のハンター・ウルフの残党が約80匹やって来ます。」
「うへぇーー、や、ヤバいんだな! ヤバいんだな!!」
と焦るコナンさん。
あ、別のウルフの群が合流しやがったな…… ウルフ祭りでもやる気か! ハッハッハ。
これは幾ら何でも厳しいなぁ。 地形を変えて自然破壊して良いならイケるけど。
コルトガさんも感知したらしく、クックックと更に笑っている。
「あーー、これはちょっと無理っぽいな。自然破壊して良いなら一気に範囲魔法で殲滅出来るけど、チマチマやってたら、数で押し切られるな。
魔王都の別荘に一時撤退する!」
と宣言したのだった。
するとコルトガさんは、目に見えてガーーンって情けない表情をしていて口を開けて固まっていた。
そんな顔をしても無駄だからね? 安全第一だから。
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