第188話 眠り姫

開けた魔王都(これが街の正式名称だったそうな)の周囲を過ぎると、また鬱蒼とした森の中の獣道を進んで行く。

魔王さんからの情報によると、この道を進めば海岸線に出るらしい。


予め騎士団長から魔物の情報を聞いているコルトガさんは、活き活きと先頭を進んでいる。

どうやら結構良い感じの魔物が出てくれるらしい。


コルトガさんは、俺と出会い、更にレベリングを行った事で、以前では頭打ち状態であったレベルが急激に上がって、より脳筋度が増した感じである。

レベル上げが楽しくてウズウズする感じと言えば、まあ俺にも経験あるので判らなくは無いのだが、既に良い歳なのに元気だよなぁ。


この先には、A~Cランクの魔物が出るらしい。

種類としては、ジャイアント・コング、ワイルド・ベア、ハンター・ウルフ(単体はCランクだが10匹でBランク20匹でAランク……)、フォレスト・サーペント、キラー・ビー(但し集団となると、その数によりSランクまで上がる)、ファイティング・ブル(但し集団となると……以下略)や、お馴染みのオーク、オーガ、美味しいボアシリーズ、後は大嫌いな昆虫系のデス・センチピード(まあヤバい百足だな)とかお馴染みのシルク・スパイダー等も出るらしい。


あと、若干気を付けないとヤバいのは、スリーピィ・モスという、昏睡させる鱗粉をばら撒く迷惑な蛾である。

多分俺は耐性スキルがあるので大丈夫だと思うが、他の人達は鱗粉を吸い込んでしまうと、瞬時に昏睡状態になる可能性がある。

昏睡すると、単純に食われるだけならまだマシなのだが、もっとエグいのは、生きたまま卵を産み付けられる事で、リアルに映画のエー○アンや物体△の世界である。

卵が体内で孵化すると、食い荒らすらしいのだが、食いながら麻薬の様な毒を吐くので痛さを感じないらしい。

そしてある程度の大きさになると、巣立って行くのだ。

その頃には、肉体は食い荒らされてボロボロになっていて、運が良ければ巣立ちの瞬間を自分の目で見られるらしいが、大抵はその前に死亡してしまうらしい。


まあ、それは良いとして、厄介なのは、卵を産み付けられた場合の処置である。

正確な時間は判らないが、確実なのは10分以内に体内から卵を取り出さないと孵化する可能性がある。

孵化すると、小さい幼虫が凄い勢いで食い荒らし出す。

そうなると、取り出す事が困難となってしまうのだ。

だから、初期の10分以内に卵を取り出すのだが、産み付けられた場所によるが、敵も早々簡単に取り出される訳にはいかないと、結構深くに産み付けてくる。

手足等の切断出来る部分ならまだ良いが、胴体部分だと普通は取り出せず、悲惨な結末になるらしい。


話を聞いた時、思わず鳥肌が立ってガクブルと震えてしまったね。

俺、そう言う耐性ないから。


なので、『どうかスリーピィ・モスにだけは逢いませんように!』と祈っていたのだが……。


この世界でも、そう言うのをフラグと言うらしい。

300年前の勇者が流行らせたらしいのだが、一体何を流行らせているんだか……。





「く、口と鼻を塞げ!! 鱗粉を吸い込むな!!」

俺はキラキラと木漏れ日を反射しながらフワフワと降って来る鱗粉に気付いて、慌てて叫んでいた。


しかし、気付くのが遅かった様で、アケミさんとリック、がB7と共に地面に崩れ堕ち、続いてコナンさんとB8が。

俺の腕前に座って居るサチちゃんも堕ち掛けたのを俺が腕で支えるが、マダラが崩れ堕ちた。

前方では、ピョン吉とコロ、そして、B0が崩れ堕ちて居る。

最後まで粘って居たコルトガさんも地面に突っ伏してしまった。


今意識があるのは、耐性のある俺と黒助だけという状態である。

鱗粉の効果は、大体1時間程で切れるのだが、しかし吸い続ける限り続くのである。

気配感知も魔力感知もある程度の広さで常時張っていたのだが、まさか木の上の上空から鱗粉攻撃を受けるとは思っても居らず、完全に油断してしまった。


そして気味の悪い模様の毒々しい蛾が28匹も鱗粉を撒き散らしながら舞い降りてきたのだった。


完全にこの時点でテンパっていたのだが、


<主ーー! シールドニャ!!>

と言う黒助の声で、ハッとした。


そうだ! シールドだ! 何で先に気付かなかったかな。


俺は即座に『シールド』を発動し、全員を包む様にシールドのドームを張り、即座にクリーンを掛けて全ての鱗粉を除去した。


落馬した際に怪我をした者も居たので全員を対象にエリア・ヒールとエリア・ポイズン・キュアを掛けた。


「ふぅ~一時はどうなるかと思った。ありがとう黒助!」


<ククク、やっと俺様の時代だニャ!! 活躍して下克上ニャ!>

と言う黒助の声が頭に響いているが、そのお陰でちょっと平静を取り戻せた。



さて、冷静になればもう大丈夫。

28匹の毒々しい蛾がシールドの周りを取り囲んでチラチラと鬱陶しく飛んでいるが、ここは一気に殲滅させて貰おう。

本来なら、火魔法で気持ち良く灰にしてやりたいところだが、ここは魔王国の森の中である。

という事で、虫なら冷気に弱いだろうと、シールドの周り5mにアイス・ブリザードを限定エリアで発動し、一瞬で氷漬けにしてやった。

「「「キュピー」」」とかって変な鳴き声を上げたのも居たが、瞬時に凍って地面に落下し、砕けてバラバラになっていた。


「ざまあみろ! 俺の大切な仲間に手を出した罰を思い知れ!」

とカッコ良く最後を決めたのだが、


<主~、そりゃ無いニャーー! 活躍の場が!!!! 台無しニャーーーーー!>

と黒助の嘆きが聞こえたのだった。



ホッとしたのだが、シールドの外は凍って砕けた蛾の成れの果てが散乱していて、なかなかにスプラッタームービーのワンシーンさながらの状態である。

この暫く後、目覚めたアケミさんとサチちゃんの「「ギャーーー!」」と言う悲鳴がシールド内に木霊するのであった。


更にコルトガさんは、

「何のお役にも立たずに足を引っ張り、お守りすべき主君に助けられてしまうとは、このコルトガ、死して償いを!」

と騒いでいたが、


「コルトガさん、それは違うぞ? 人には得手不得手がある。 俺にだってある。

不得手をお互いにカバーしあってこその仲間なんだからな?

死んでしまうと、何の役にも立たない処か、俺は深く傷付くぞ?

俺の為にも、長く仕えて欲しい!」

というと、キラキラした目で見つめられ、

「ハッ! このコルトガ、主君の為、そしてエーリュシオンの為、一層の努力をお約束致します!」

と片膝を着いて頭を下げていたのだった。


コナンさんは、

「ふぅ~、ビックリしたなぁ~。 な。」

と言いながら、買い込んである肉串を食べて気を落ち着かせていたのだった。


逆にこの周囲のスプラッタ状態をバックに、肉串を食おうという気が理解出来ないのだがな。



平静を取り戻したアケミさんから、

「ああ、これあれですね、冒険者からは通称『眠り姫』と呼ばれている蛾の魔物ですね。」

と豆知識を教えて貰った。

何で眠り姫なのか?という疑問は、300年前の勇者から聞いた『眠れる森の美女』だか『眠り姫』の物語がどうやら間違って伝わったらしく、鱗粉で昏睡している間に見る夢が、余りにも素晴らしい夢らしく、冒険者の男の多くは綺麗な姫君から『アッフ~ン』な事をして貰えるので何かしらないが、眠り姫と言われる様になったらしい。

どうやら、鱗粉の成分にはその人の願望を叶える様な麻薬系の成分が含まれているという事であった。


ちなみに、この眠り姫の鱗粉や、鱗粉袋は医療にも使われるらしく、高値で買い取られるらしい。

という事で、既にバラバラだから後の祭りだけど、一応回収出来る分だけ回収したのだった。

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