第187話 引き留め工作

翌日、魔王城には死屍累々の屍状態の家臣や王侯貴族が転がっていた。

そんな中、朝からメイドさん達は、テキパキとそのゴミを掃除して(床を3人掛かりで転がして、1箇所に集めていた)、宴会場やその周辺の廊下等を復旧して行った。

朝食に起きて来たのは、俺、アケミさん、コナンさん、後は子供達とピョン吉達である。

コルトガさんは魔王さんと飲み比べして2人とも潰れてしまっていた。

今朝は2人共仲良く他の連中と一緒に宴会場の隅に転がされている状態である。


後で聞くと、街の彼方此方でも酔い潰れたダメな大人で溢れていたらしい。


朝食を食べながらコナンさんと話していたのだが、話題は専ら1000年前に作られたという、結界発生装置(魔道具)の事で、


「なあ、コナンさん、俺達も後学の為に、その発生装置見せて貰いたいよねぇ?」


「だな!」(モグモグ、ムシャムシャ)


「魔王さんに頼んだら、見せてくれるかな?」


「だな!!」(モグモグ、ムシャムシャ)「お代わりだな!」


「話によると、ここって魔道具の生産が得意らしいから、色々街を見て廻りたいんだよね。」


「だな!」


どうやら、一旦食べ終わるまでは、割とおざなりな返事しか返って来ない物らしい。

まあ、しょうがないな……コナンさんだし。



午前中の間に街を散策し、先日のおじさんの屋台の肉串を大量に購入した後、魔道具屋やここの名産の蜂蜜や俺好みの洋服も沢山購入し、昼前にホクホク顔で宮殿へと戻って来た。


そして迎えた昼食時間、やっと復活した魔王さんから、結界発生装置のマギ鉱石交換に立ち会う事を許されたのだった。



「楽しみなんだな! だな!」

魔王さんの許可と昼食がほぼ同時に運ばれて来たので、どっちが楽しみなのか微妙に判り辛いタイミングであった……コナンさんだけに。



昼食を終え、結界発生装置の設置場所に移動し、待望の装置にご対面した。

形はともあれ、一番の興味の対象は、中にある魔方陣である。

作業自体は粛々と行われ、無事にセット完了した。物の1分の作業であった。


マギ鉱石を交換する際に、ケースを分解して開けたので、幸いにも魔方陣を横からチェックする事が出来たのだが、詳細解析Ver.2.01で出ていた常設型シールド発生装置のそれとは、微妙に違っており、どちらかというと、この装置は『迷わす』事に特化しているみたいであった。


なるほどな。勉強になるなぁ。 これも今となってはロストテクノロジーの1つなんだよな? 



魔王さん曰く、本日は結界装置をテストで動作させるが、確認が終わったら、一旦停止して、もしもの際にのみ動作させる方針に切り替えたらしい。


「まあ、折角の機会故、少しは外界と接触して様子を見るもの良いかな? 中にはケンジ殿の様な人も居るしな。」

と微笑んでいたのだった。



その後、砂糖を使ったデザート類を各種出してみて、食べさせてみると、昨夜は呆れた様子で魔王さんを見ていた魔王さんの奥方様や侍女達がもの凄い勢いで食い付いて来て、砂糖の輸入をしてくれる事になった。

そして、俺の方へは服やここの特産物の茸等をメインに輸出する感じで話が纏まった。


それは良いのだが、問題は品物の受け渡し方法である。

流石にここに誰かを在駐させるってのは酷な気もするし、かと言って魔族を数人雇うってのもかなりリスクが高い。

なので妥協案として、この街の城壁の外に何時もの屋敷を建てるスペースを頂き、別荘を建てて、当面は3ヵ月に1回訪問し、取引をする事にしたのだった。


常設型ゲートや通信魔道具が出来れば、誰かスタッフに週1回とか訪問して貰えば良いしね。


翌日、城壁の外で占有しても問題無い場所を確認してから、別荘を設置したのであった。

着いて来て確認してくれた文官2名は、その場で整地されてアッと言う間に出来上がった別荘に言葉を失っていた。

どうやら、人族よりも魔法に長けた魔族から見ても、俺の使う土魔法でさえ異常な物なんだそうだ。


魔法の事だし、魔族ならイメージ次第で何とでもなりそうな気がするんだけど、そこら辺は元現代日本人だった俺と、この世界の人とのイメージ力の差なのかもしれないな。


「さて、じゃあそろそろ先に進まないといけない頃合いだな。

魔王さん、色々ありがとうございました。 今後も宜しくね。」

というと、


「えー、ケンちゃん、もう行っちゃうの? まだまだここにも面白いのあるのに。

あー、そうだ! ダンジョンとか好き?」

と明日発とうって話をしているところで止めに掛かる魔王さん。

そうそう、段々打ち解けた俺達は、魔王さん、ケンちゃんの仲となったのである。


「えー、このタイミングでそれを言うのか! もっと早めに教えてくれれば……

いや、今回は悪いけどパスするよ。 あーー、ダンジョンかぁ。行ってみたかったなぁ。」

と後ろ髪を思いっきり引かれている俺だったが、ダンジョンに一旦入ると、最悪なかなか出て来られない可能性も捨てきれない。


もしそんな事になると、最悪冬の間中、ここに居る事に……ならないな。そうだ、ゲートがあるじゃん!

いやいや、そんな事をしていると、アッと言う間に時間が過ぎちゃうから、ダメだな。

と頭の中で葛藤を繰り返し、絞り出す様に

「ゴメン、折角の魅力的なお誘いだけど、次回の楽しみに取って置く事にするよ。」

と告げたのであった。


そうすると、魔王さんの奥方が、横から

「ウフフ、あらあらフラれちゃいましたねぇ~」

とショックを受ける魔王さんの傷口を抉っていたのだった。


ハハハ、これで仲の良い夫婦だから面白い。

きっとこの夫婦ならではの傷薬が後で与えられるんだろうな。

俺は抉られっぱなしで終わったけどな。

普通はきっとこうなんだよ。多分……。


ちなみに、ここのダンジョンは地下に潜って行くパターンの物で、現在45階層までは到達しているらしい。

ダンジョンからは、魔石やスクロールと呼ばれる様な使い切りの魔法を放てる巻物(最低限発動可能な魔力が無いと発動しないらしいが)や、剣や防具等や、付与の着いたアクセサリーとか色々お値打ち品が出て来るらしい。

ダンジョンがどう言う物なのかを余り知らない俺に色々と楽し気な話を教えてくれた。

そんな情報に決心した心が揺らいだが、なんとか我慢したのであった。



そして翌朝、俺達はマダラ達に乗って、入った方とは別の城門から魔王国を出たのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る