第184話 ヒッキーなりの理由

結局、伝令に行ったまま帰って来なかった衛兵のお兄さんが戻って来たのは、俺達が門に辿り着いてから、約35分ぐらい経過した頃であった。

戻って来た衛兵のお兄さんは、小麦色の肌を青白くさせて居た。


「ま、待たせたな。 えっと、王宮の方が現在ゴタゴタしていて、指示が遅くなったのだが、ここに立ち入る目的を上層部から聞きたいとの仰せである。

あと、まあ出来れば現在の周辺国家の情勢とか教えて欲しいのだそうだ。

それが叶うのであれば、今回特別にこの王都への滞在を許可するという事である。」


なるほどね。まあ折角の機会だし、情報を貰えるだけ貰いたいという事か。


「ああ、それは勿論問題無いです。

ちなみに、こちらの都市には、宿とかありますでしょうか?」

と素朴な疑問を投げ掛けてみた。

だって、普段から鎖国している訳で、旅人がいなければ、宿の需要ないからねぇ。


その証拠に俺が聞いたら、一瞬「あ!」って言って固まってたからね。


「情勢を教える事も良いんですが、立ち入りの許可貰って情報だけお渡しして、ハイさようなら じゃああんまりですよね?

そうなると、何処かに宿泊して、観光して、買い物をして……というのが世間の流れだと思うんですが、宿が無いとなると、困りましたね。

広場の一画でも貸して頂けるなら、まあテントもありますから、それで十分ですが。」


「うむむ……。確かにそれはそうであるな。ちょっともう一回聞いて来るから待ってて貰えるだろうか?」

と衛兵のお兄さんがガックリした表情で聞いて来た。


「ああ、ついでに、その情勢を聞きたいのであれば、その方の所へ案内もお願いしますね。

いつまでも待ってるのは嫌ですし。」


「ああ、判った。すまんが、もうちょっと待っててくれ。」

とガキの使い状態になってしまったお兄さんがトンボ返りして行った。


可哀想になぁ。


「しかし、上層部でゴタゴタって言うのは、もしや結界の動作不良が判明したからじゃないんですかね?」

と俺が満腹で満ち足りた表情で寛いでいる元から居る衛兵のお兄さんに聞くと、


「ああ、その可能性は高いかも。 普通にここの衛兵の仕事ってな、閑職と言われてて、ほぼ出番が無いのだよ。

だって、旅人なんか来ないからねぇ。

魔物だって、この辺りのは全て間引きしてあるから、ほぼ寄って来ないし。」


「おお、それでか。 この森には異様に魔物が居らんかったのじゃ。

その割には、デカい気配がビンビン来ておって、変じゃと思っておったのじゃ。

もしや、これは、まさかの、ドラゴンと一戦出来るかと、結構期待しておったのじゃがのぉ。

実に残念じゃわい。」

とコルトガさんが思い出した様にガックリと項垂れていた。


「ダハハ、爺さん元気だな! ドラゴンなんてそうそうお目に掛かれないだろ? 前に見たのは何時だったかなぁ? うーん、300~350年ぐらい前か?

あの時は確か人族の何とかって奴が蹴散らしたって言う話が流れて来たなぁ。」

と。


「え? 300年前!? 失礼だがもしかして、見かけよりも年齢は凄いのかな?

魔族ってもしかして、長寿?」


と驚いて聞いてみたら、


「ああ、そうか。人族は短命だからなぁ。 俺達魔族ってのは、それこそエルフと同じぐらい長寿じゃないか?

まあ、俺達からすると、人族が早過ぎるだけなんだがな。」


うん、驚きの事実である。


「マジか。人族って早死になのか。 えー、じゃあどの種族が一番長寿なの? 順番って、やっぱり人族がダントツで短命?」

と聞くと、全員が頷いていた。


聞いたところによると、 魔族≧エルフ≒ドワーフ>>獣人>>人族 って感じらしい。


「まあ成長過程や老化のスピードが人族は均一なのに対して、獣人は成人するまでがダントツに早く、そのまま緩やかに老いて行く感じだな。

ドワーフやエルフは、身体的な成長が遅く、人族の成人年齢ぐらいの身体になるまでに、余計に時間が掛かる。

その後は、殆ど老化しないな。

魔族は成長過程は獣人で老化がエルフやドワーフって感じかな。」

と衛兵のお兄さんが説明してくれた。


「えー、何そのズルイ設定。 そうか長生きなのか。 いやぁ~、そんな何百年って人生、全く想像出来ないなぁ。」

と俺が呟くと、人族組が頷いていた。

まあ、俺の場合、転生してて2つの人生だから多少長く感じるんだけどね。

とは言え、前の人生は信長じゃないけど、50年で終わったし、今回は気分良く70歳ぐらいまで生きられるんだろうか?

結局何も残せなかった前世だが、今回は何か意味のある物を後世に残せれば良いなぁ。


等と頭の中で考えていると……


「まあしかし、魔族もメリットだけじゃないんだぞ?」

と衛兵のお兄さんが言う。


「ほら、長寿種ってさ、そのなんだ―― 子供が出来にくいんだよ。 ヤル事やってもな。

その出来にくいんだよな。だから異常に人口が増えるって事も無い訳だよ。」

と頭を掻きながら暴露していた。


なるほど、そう言う感じで生態系が保たれる的な感じなのか。


「でもさ、それだけ長寿で、こんな閉鎖された空間で何百年って、結構辛くない?

何で外に出なくなったの? どう言う事件があったの??」

と素朴な疑問をぶつけてみた。


「あれー? 知らないのか?」

とキョトンとする衛兵のお兄さん。


俺達全員が首を横に振ると、ガーンって感じで唖然としていた。


その後お兄さんが言うには、何でも先代の王様、所謂魔王様がヤラかしたらしい。

「俺ら魔族って強くねぇ? どの種族よりも上位じゃね? だったら、ヤルしか無いっしょ!!」

と魔族以外の全種族を相手に征服戦争を仕掛けたらしいのだ。


で、その時異世界からやって来た勇者にやられてしまい、今の王様に代替わりして大人しく引き篭もっているのだそうで。


「反省の時間が長すぎるね。」

と俺が言うと、


「まあ、それだけの事をヤラかしたんだからしょうが無いよ。 まあ今から500年以上前の話だけどな。」

と言ってた。


「すっげー、500年のヒッキー歴!! 正にキング・オブ・ヒッキーだな。」

と感心するのであった。


多分、寿命関係無く、俺には耐えられないかも知れない。

確かに人が怖くて引き篭もり気質な俺だったけど、3年で切れちゃったしなぁ。


「だけど、500年も反省していたんだから、もう十分なんじゃないだろうか? 他の国や種族に対しての害意が無ければ、受け入れてくれそうな気がするけどなぁ。」


「そ、そうなのか?」

と衛兵のお兄さんが驚いていたのだった。

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