第183話 森の中○○に出会った♪

「ある~日」「あるぅひ」「森の中♪」「もりのにゃかぁ♪」「熊さんに」「くましゃんに」「出会った~♪」「でああーった」


「「花咲く森の道~♪ 熊さんに出会ったぁ~♪」」


俺はサチちゃんに日本のあの森歩きの定番の歌を教えてあげて、2人で歌いながらマダラに乗って進んでいる。

元々カラオケとかには興味が無く、中学校ぐらいまでしか授業でもまともに歌って無かったので、音痴かも知れないが、どうせこの世界では、正しいこの歌を知らないのだから問題は無い。


「お歌って楽しいねぇ~」

とサチちゃんも初めて歌う『歌』という物にご満悦である。


そう、この世界にはまともな歌詞のある歌という物が無いらしい。 メロディー的な鼻歌止まりなんだそうで。

それで以前九九の話をガバスさんに話した際に、何となく違和感があったのかと、やっと理解した次第である。

ああ、確かに呼子というか、合図をする為の笛とかは見た事あるけど、楽器という物は見た事が無いなぁと、今日初めて知った訳である。

ハハハ、まだまだ知らない事だらけだな。


「う、歌って、お、面白いもんだな。だな!」

とコナンさんもニコニコしながら聞いている。


そんな中、コルトガさんは、歌が呼び水になって魔物が寄って来てくれるんじゃないか?と目をギンギンにしていた。

しかし、それだけ殺気を放っていれば、そこそこ危機感を持っている魔物も獣も出て来る訳が無いのだがな。ハハハハ。



20分程かけて獣道を進んで行くと、その気配と魔力は大きくなっていきハッキリとした。

「ちょっとストップ。」


「ここから1km先に何か全体的に凄い魔力を持つ集団が居るね。

ただ魔物って感じではしないんだけど、あれはなんだろうね?

コナンさん、何か知ってる? エルフとも違うっぽいんだけど。」


「う、うーーん、こ、これは? 魔族? 聞いた事しか無いんだな。だな。」

とコナンさんも強力な魔力を感じて首を傾いでいた。


「え? 何その魔族って? 初めて聞くんだけど。

この世界って、人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族だけじゃなかったの? 魔族ってやはり人なんでしょ?」

とここに来て、初めて聞く種族に驚く俺。


ブーじゃないんだよね? 頭の中でコメカミに穴の開いた人っぽいのを連想してしまって、思わずクスクス笑ってしまう。


「いや、昔聞いた事があるだけなんだな。だな。」

とコナンさん。


「他に誰か魔族て聞いた事ある?」

とコルトガさんやアケミさんの方を見たが知らないらしい。


これは驚きだね。 少なくとも人としての存在がここまで知られて居ないなんてね。

しかもかなり強力な魔力を持っている様子だけど、このまま進んで大丈夫なんだろうか?


暫く考え込んではみたのだが、頭の中の多数決で好奇心さんが優勝してしまった。


「まあ、考えていても判らないし、百聞は一見にしかず だな。」



更に5分程進むと、森の中に大きな砦っぽい城壁が見えて来た。


「おーーーー! デカいね。 まさか森の中にこんな都市があるとはねぇ。」


金髪に小麦色の肌の衛兵が2名立っている城門に辿り着いた。


「止まれ!! 何者だ? ここをどうやって知った? どうやってここまで入って来たんだ?」

と槍を構える衛兵達。


「あー、初めまして。どうやってって? 普通に森の中の道を馬に乗って来たんですが?

まさか、森の中にこんなに立派な都市があるとは、知りませんでしたよ。

ああ、単純に旅して美味しい物とか食べるのが目的なんで、害意は無いです。」

と俺が説明すると、


「何? 普通に森の中の道を通って来ただと?? 迷わずにか?」

と驚いている。

何で驚いているのか、逆にこっちが聞きたい。


「ええ、迷うも何も、あれだけキチンと獣道もあって、これだけ魔力がダダ漏れなら判りますよね。」

と俺が説明すると、ゴソゴソ相談していた衛兵の1人が慌てて奥へ引っ込んで行った。


残された衛兵の方はというと、苦い顔をしている。


「今、上の方に確認に行かせてるから、暫くここで待つ様に。」


「……はい。」


うむ、雰囲気を総合すると、どうやらここに来られる筈が無いのにスルッと来ちゃったって感じなのか?


「ところで、もしかして衛兵さんって魔族の方ですか? ここは魔族の都市なんですかね?」

と聞いて見ると、


「なっ! お、お前! 魔族を知って居るのか!!」

とかなり狼狽している。


ああ、これも聞いちゃダメなパターンだったのか?

さっきから大人しいコルトガさんをちらりと見ると、もの凄く嬉しそうな(悪い)顔でニコニコしている。

わぁー、これ完全に成り行きを面白がっているパターンだな。




門の前で待たされる事、約10分が経過した。

マダラ達に泉の水や果物を出してやり、俺達は既にテーブルと椅子を出して、ティータイムと洒落込んでいた。

1人残された衛兵のお兄さんにも、「良かったらどうですか?」とお誘いしたのだが、「勤務中だから」と断られた。


「ドーナツおいちいです!」

とサチちゃんが口の周りをパウダーシュガーで真っ白にしながら微笑んでいる。

実に可愛いね。ホッコリするよねぇ。


まあ、コナンさんも同じなのだが――こっちは可愛くないね。

ホッコリしなくてお腹がポッコリしてるね。



リックは表面の砂糖が固まったシュガーオールドファッション風のドーナツを嬉し気に頬張っている。

普段はお兄ちゃんとして、余り子供っぽい表情を抑え気味なリックであるが、こう言う表情は年齢相応で可愛らしい。


コルトガさんは、新作のアンドーナツとカフェオレを堪能中である。

アケミさんは、クリーム入りのドーナツを食べながら、

「このクリーム入りのドーナツ、美味しいですねぇ~」

と幸せそうな顔で蕩けている。


さっきまでは、勤務中と断っていた衛兵のお兄さんだが、こっちをガン見していて、口元には涎がキラリと光っている。

「良かったら、お一つ如何ですか? これ、ドーナツって言うデザートで、甘くて美味しいですよ?」

と再度誘ってみたら、我慢の限界だったらしく、飛びついて来た。


「あ、甘い!! 美味しいぞ!!!」

と叫んでいる。


衛兵のお兄さんに聞くと、砂糖の存在を知らなかったらしい。

甘い物と言えば、蜂蜜と果物ぐらいしか知らないらしい。


「まさか、世の中にこんなにも美味しい物があったなんて……」

と呟いていた。


そして、衛兵のお兄さんがポツリポツリと漏らす情報を纏めると、


どうやら、大昔に何かあったらしく、他種族から隠れる様に結界を張ってこの森でヒッソリ生きて来たらしい。

その為、この森で得られる物以外は食べた事が無く、質素な食生活だったらしい。


不思議なのは、エルフのコナンさんでさえ、その大昔に何があったのかを知らないらしいという事。


謂わば、魔族全体が、俺やコナンさんの上を行く、ヒッキー中のヒッキーであった。


「あれ? でも結界なんて無かったよね? 惑わす様な仕掛けも無かったし。」

と俺が言うと、衛兵のお兄さんも、


「それなんだよなぁ? おかしいんだよ。 普通に入って来られる訳が無いんだけどね。」

と口の周りに餡子やパウダーシュガーを付けた状態で、頭を捻っていた。

その衛兵のお兄さんだが、既にさっきまでの警戒は何だったんだ? と言いたくなる程に打ち解けていて、椅子に座ってカフェオレを飲んでいる。


「考えられるとしたら、何らかの影響で結界が消滅したんじゃないですかね?

魔道具なら、魔石の魔力切れとか?」

と俺が言うと、


「いや、あの結界は無尽蔵の魔力を持つ物を動力源にしているから、魔力切れなんて無い筈だけどなぁ。」

と否定された。


ほほぉー、無尽蔵の魔力供給源……何とも興味をそそられるキーワードである。


更に15分、門の前に放置されたまま、お茶会は進むのであった。

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