第182話 行かねばなるまい
翌朝、朝食を取ってから拠点に戻ってサウザンドに在駐してくれるスタッフを連れて来た。
構成は8名で3家族となっていて、2名子供が交じっている。
内、1家族は獣人の家族である。
「これから、色々と忙しくなりますが、宜しくお願いしますね。」
と8人を前にして挨拶をすると、
「何を仰るやら。こちらが何時もお世話になっているんです。
これで少しは恩をお返し出来ると張り切っているぐらいですよ。」
とここの別荘の纏め役のラモーさん(狐族の獣人)が嬉し気に返してくれた。
今回この別荘のスタッフを任せるに際し、海産物に対する知識も必要という事で人選したらしい。
午後には再度領主館へ新しく就任したスタッフの男性陣を連れて紹介する事になっている。
「しかし、ケンジ様、獣人の私がこちらの纏め役って言う事で大丈夫なんでしょうか?」
とラモーさんが心配そうに聞いて来るが、
「ここの領主様なら全然大丈夫だと思うぞ。
それにそれで難癖を付ける様な所だったら、速攻で撤退すれば良いだけの話だからね。
そもそも自信持って接して良いんだよ。同じ人間なんだし。何も恥じる所が無いだろ?」
というと少し強張った顔が緩んでいた。
午後になると、馬車に乗って領主館を訪れ、そのまま直ぐにジェイクさんに逢う事が出来た。
「ジェイク、こちらが当方のスタッフで、サウザンド在駐となる者達です。
彼がラモーと言いまして、サウザンドでの纏め役となります。
以降、何かありましたら、ラモーや他の者と打ち合わせして頂ければと思います。」
「おお! ラモー殿か。私は元ここの領主をやっていたジェイク・フォン・サウザンドだ。
この度は宜しくお願いする。
丁寧に話すのは苦手なので、ケンジの様にお互いにざっくばらんに話そう。」
と言いながら、3人と握手して居た。
食糧不足は深刻そうなので、初回分の小麦や野菜を先に倉庫に出して渡したら、昨日の今日でここまで素早く食料が来るとは思ってなかったらしく、大喜びしていた。
ジェイクさんは、直ぐに執事や騎士に声を掛けて、街の商店に伝達する様に指示していた。
「いやぁ、本当に助かるよ。 正直なところ、かなり切羽詰まっていたからね。 これでちょっと一息付ける。」
「フフフ、やはり食事って大切ですからねぇ。
食べる物を食べてないと、良い考えも浮かばないし、悪い方へ悪い方へと考えてしまいますからね。」
「そうだな。 今度はこっちがそちらの要望に応える番だな。
もう既に街の方へは話もしてあるから、近々にお渡し出来る筈だ。」
ふふふ、これで美味しいウニと岩海苔ゲットだぜー!!
あと何気に美味しい出汁が取れる鰯にも期待しているんだよねぇ。
つみれ汁も外せないし。
「ハハハ、ケンジ、どうした? 何か涎出てるぞ?」
とジェイクさんに指摘され、慌てて袖で口元を拭ったのだった。
「いや、思わずこちらの海産物を材料にした料理を思い浮かべてしまいまして……」
「ハハハ、そこまで期待されてるなら、急がねばならんな。」
「「「「「ハハハハハ」」」」」
と全員で笑うのであった。
それから別荘に戻って、その晩は全員でここの海産物を使った料理で宴会を開いた。
アケミさんが新鮮な魚を捌いて刺身にしてくれた。
ラモーさん達は、まだイメルダ料理には慣れてなかったのだが、刺身の美味さに、そしてご飯との相性にノックダウンしていた。
「こ、これ程とは!!」と呟きながら、バクバクと食べていた。
態々イメルダで買った舟盛り用の小舟が何艘も撃沈されて、アケミさんが必死で捌いていた。
やっぱり、海産物とイメルダ料理は相性抜群だよなぁ。
女性陣もイメルダ料理にゾッコンラブ状態になったらしく、翌日からアケミさんの料理教室が開かれていた。
◇◇◇◇
サウザンドの方がある程度回り出すまでと、別荘に留まっていたのだが、5日ぐらいで安心して任せられる状態になったので、6日目の朝にサウザンドを出発した。
態々ジェイクさんも見送りに来てくれたのだが、少し寂しそうな顔で、「また絶対に来てくれよ!」とガッチリ握手して来た。
「ええ、またちょくちょく顔を出しますよ。」
「きっとだからな?」
「じゃあ、ラモーさん、皆さん、宜しくお願いしますね。」
と手を振りながら馬車を出発させたのだった。
ここ5日間、何か用事を見つけては、ちょくちょくジェイクさんが顔を見せていたので、若干俺も寂しい気持ちになってしまった。
「はぁ~……」
「どうしたんですか? 大きなため息ついて。」
とアケミさんに指摘されて、知らず知らずの内に少し寂しく思っていた事を再認識してしまう。
「いや、何だかんだで、結構ジェイクさんと連日逢ってたから、ちょっと寂しい気分になっていたみたいだね。」
「ジェイクさんの方も、寂しそうでしたね。 フフフ、少し妬けちゃいます。」
とアケミさんが笑っていた。
海岸に沿う様に走る荒れ気味の街道を西に向かって走っているが、徐々に上り勾配になって来て、目の前には広大な森と山が見えてきた。
さてと、ここはどうするかな。
街道はそこから山を迂回する様に内陸方面へと曲がっているのだが、細い獣道っぽいのが森の中へと続いている。
「さて、ここはどうしようか? 細い道は真っ直ぐ続いているっぽいけど。」
するとコルトガさんが、
「主君、折角故、真っ直ぐ直進いたしましょうぞ!
面白そ……食料になる魔物等の補給も致しませんと!
やはり、ここは行かねばなるまいて! ガハハ!!
ここなら退屈凌……レベル上げの糧になるかと!! 是非に!!」
と目を輝かせて尤もらしい理由をこじつけ、提案して来た。
いや、既に提案よりというも、願望ダダ漏れですがなんだがな。
「うーん、いやまあ良いんだけど、結構道狭いよね。 馬車行ける?
まあ道があるという事は、誰かが住んでいてもおかしくは無いから行く価値はあるのかな?」
と割と否定的に返事をしたら、コルトガさんは嬉々として「ハッ! 御意!!」と言いながら御者席へと移動し、マダラ達に直進を命じていたのだった。
有耶無耶にされ直進し獣道を行く馬車は徐々に森の中へと突っ込んで行く。
だが、早々に木々の枝が馬車に引っかかる程となり、
「主君、これ以上は馬車では厳しいですな。 Bシリーズに分乗致しますかのぉ。」
と嬉し気に報告して来たのだった。
はぁ~…… こいつ、確信犯だよな。
俺は苦笑いしつつ、他のメンバーの顔を見回すと、全員しょうがないねぇ~って顔をしていたのだった。
俺がマダラ、コルトガさんがB0に乗り、残る2人分のBシリーズを召喚(まあ単純にゲートで連れて来た訳だが)した。
「B7、B8悪いけどまた手伝ってね。」
<わーーい、主~~♪>
<初の出番だーー!!>
と嬉し気な2匹が鼻息荒く登場した。
俺がサチちゃんを乗せ、アケミさんがリックを乗せ、森の中を4匹に乗って獣道をスイスイ移動開始する。
ちなみに、コナンさんは馬に乗った事が無かったらしいのだが、最初こそおっかなびっくり乗っていたものの、次第に慣れて来た様で、30分もすると肉串を食べながらフンフンと鼻歌を鳴らしつつ、ピクニック気分になっていた。
森を進み始めて早1時間。 未だに魔物らしい魔物は出て来ない。
まあ我々脳筋でない組は割とのほほんとしているのだが、完全にスカしを食ったコルトガさんは「おかしいなぁ、何やら面白そうな気配はするのじゃがなぁ」とブツブツ嘆いている。
ちなみに、その面白そうな気配ってのは、おそらくここから5km程北西に向かったアレの事なんだろうな。
確かに何やらの集団から放たれる気配を俺も感じている。
先頭を進むコルトガさんもその気配を感じているらしく、獣道の分岐でも迷わずにそっちを目指して居るのだ。
フフフ、これ人なのかな? 魔物とは違うっぽいし、何だろうねぇ。
正直なところ、俺もワクワクし始めているのだった。
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