第180話 サバイバーなサウザンド領

一応、今回の件もあったので、念には念を入れる意味で、アリスタやラングーン、その他の都市も総浚いして廻る事にした。


さて都市ラングーンだが、ここは旧アルデータ王国としては割とまともな領主が仕切って居たらしく、周辺の都市や農村から集まった人が移住して来ていて、都市として機能していた。

ある意味、国が無くなった事で、国に上納する税が無くなった分だけ、税を下げたらしく、健全に運営しているらしい。


ゲンさんの村もここと交易しているっぽかったので、ちょっとホッとした。

フフフ、ゲンさんや村の人達は元気にして居るかなぁ?

ゲンさんの奥さんから握ってもらったおにぎり美味しかったなぁ~。

余りにも勿体無くて、1ヵ月ぐらい掛けて味わったんだよな。


都市アリスタもラングーン同様に割と良い領主だったらしく、生き残り組であった。


それから2ヵ月掛けて21の都市(だった廃墟)やその周辺の村を周りつつ北上して行った。

取り残された人達を篩に掛け、人間的に問題の無い人には、拠点への移住を勧めたりして、現在までに128名程更に送り込んだ。

勿論篩に引っかかった人のその後の事は、知らん。


さて、問題の旧王都だが、ここは最初の段階で殆ど移住済みなので、割とアッサリとスルー出来た。

というか、王宮を破壊した俺が言うのも変だが、王都は俺の関係ないところでほぼ完全に瓦礫に代わっている。

何か内乱だか暴動だか知らないが、破壊活動があった模様。

この王都はもう使える建物が少ないし、瓦礫やゴミが散乱しているので、再建するぐらいなら、別の場所に新規に作る方が楽だろう。


大体王都の辺りで約半分の都市を廻った事になる訳だが、割と生き残っている都市というのは、国境付近であったり、辺境であったりと、旨味が無い所に集中しているのかも知れない。

つまりあの国で言うところの世渡りの下手な領主、貴族らしくない領主が実は誠実な運営をしていて、その結果生き残ったという事なのかも知れない。


という事は、これから行く海辺もそう言う意味で残っている可能性はあるのか?

ただ、海辺は塩という旨味があるからなぁ。 空きが残って居ると良いなぁ。




そして俺達は、旧王都より北側を更に3週間掛けて廻り、98名を拠点に送り込んだ。

残すは沿岸部付近のみとなったのだが、廃村や過疎化の進んだ村が多い中、クーデリアとの国境に近い小規模な都市サウザンドは生き残っていた。

全体的に作物が不作だった訳だが、賢い領主がクーデリア側と貿易をして、作物を買い入れ、塩や一部の保存の利く海産物を収める事で何とか生命線を保って居た様である。

このサウザンドでは、獣人もエルフもドワーフもクーデリア同様に普通に暮らしている。


人口比率は、人族6割弱、獣人、エルフ、ドワーフが残り4割ぐらいらしい。


「ここは旧アルデータ王国で考えると、奇跡の様な所だね。」


「悲壮感が漂う目をした獣人もエルフもドワーフも、ここには居ませんね。

きっと、そう言う領主様が治めている所なんですね。」


とは言え、食糧不足は深刻な様子である。


「うん、こう言う領主様の居る所には、普通に手助けしたくなるよね。」

と俺が呟くと、全員頷いていた。


さて、どうするかな?

一応ここの街には商業ギルドが残って居たので、立ち寄って情報を聞いてみると、小麦等の値段が高騰しているらしく、領主様が自腹を切って小麦等を仕入れして住民にバラ撒いて居るとの事だった。

ああ、益々手を貸したいな。

そこで、取りあえず、別荘用の敷地の売り物があるかを尋ねてみたのだが、ここの街に屋敷等を持っていた貴族らが逃げたり、消滅したりで、大きく纏まった面積の土地が余っていた。

つまり、滅茶滅茶安かった訳だ。


「ああ、じゃあ何処かを購入させて貰います。出来れば貴族街では無い方が嬉しいんですが、ありますかね?」


俺は、商業ギルドの受付嬢に条件を列挙して、いくつかの場所を見せて貰い、最初の物件を購入したのだった。


購入して20分後には、他の別荘と同様に塀に囲まれたいつのも別荘と設備が出来上がっていた。


「いやぁ~、いつ見ても凄いですな。流石は主君!」

とコルトガさんが持ち上げると、


「だな!だな!」

と雑に同意するコナンさん。

尤もコナンさんの意識はメインストリートに並ぶ、魚介類の屋台が放つ美味しそうな匂いに持って行かれている様子だ。


「フフフ、コナンさん、買い出しに行きたいんだろ? 良いよ、行って来て。」

と俺が言うと、ピョン吉達を引き連れ、喜んでスキップしながら街へ消えて行ったのだった。


アケミさんと子供達はに、一足先に市場へ市場調査に行って貰った。


「して、主君、ここの管理責任者とかはどのように致すおつもりじゃ?」

とコルトガさん。


「そう、それなんだよね。

普通なら、奴隷商の所でスカウトして来るところなんだけど、ここの街には奴隷商が居ないらしいから。ハハハ。

いや、これ本当に凄いよね。 それだけでも良い街なんじゃないかと思えるけど。」


「まあ、しかし、奴隷商が居ないだけで判断するのは早計ですぞ?

あれはあれで、ある意味救済の一環であったりするのですからの。」


「まあ、確かに担保も売る物も無く、切羽詰まった際に借金する場所が無いと困る人は困るよね。うむ……。」

まあ、確かにある意味最終手段が有るのと無いのとでは大きく違うだろうけどねぇ。


「あ、で、ここのスタッフだけど、拠点から4人~6人ぐらい来て貰おうと思っているんだ。

どうせ、近々には常設型ゲートを構築する予定だし、なんなら、任期2年交代くらいでも良いし、それなら何人か手を上げてくれる人も居るんじゃ無いかと思うんだ。」


「なるほど。」




コルトガさんに、別荘のお留守番をお願いし、取り急ぎゲートで拠点に戻って、ステファン君に人選をお願いしておいた。

更に、余剰の小麦や野菜等の量や今期の見込みの数字を教えて貰い、30分でトンボ返りするつもりだったのだが、ステファン君に呼び止められ、そのまま未開発地区へと連れ出された。

それから、更に小一時間程、住宅等の補充をさせられ、更に小一時間農業地区で開拓させられた。

最後に大地の息吹を掛けたところでやっと解放され、サウザンドに逃げる様に脱出したのだった。



さて残る問題は、小麦類の卸先をどうするかが問題だな。

何処かの商会か、領主様へ直接取引を持ちかけるか……実に悩ましいところである。



夕方前には全員が別荘に戻って来て、報告を聞きながらの夕食となった。


「な、なかなかに、美味しかったんだな。だな。」


ああ、これは全然ダメな報告の例ね。


「えっと、ここでは主に塩、鰯等の小魚類が主で、後は海藻も多いみたいですね。

余り食べる人が居ない様で、ウニは沢山居る様ですが、出回って無いみたいです。勿体無い事に。

そうそう、岩海苔もかなり採れそうですよ! 見向きもされてない様ですがね。本当に勿体無い。」

と素晴らしい報告をアケミさんがしてくれた。

そう、こう言う情報を欲している訳である。


「なるほど! じゃあそこら辺をベースに取引するのもアリか。

しかし、本当に勿体無いな。宝の持ち腐れも良いところだな。」


「サチ、海苔しゅきーー!!」


「あ、僕も好きです!」

とちびっ子らが話題に乗って来た。


すると、負けじと

「ぼ、僕も好きなんだな! 美味しいんだな。だな!」

とコナンさんも海苔好きをアピールしていた。


まあ、コナンさんの場合、嫌いな物を探す方が大変だったりすのだがな。


結局、取引を何処とするかは、一旦領主様に面会してお伺いを立てた方が無難だろうという事になり、明日にでも一度面会をお願いする事にしたのだった。

若干不安なんだけどね。

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