第179話 本番に弱い男

作戦は至ってシンプルにした。

馬車で餌役をするコルトガさん率いるホイホイチームと、俺と黒助で隠密チームとした。

ホイホイチームはアリーシャさんが御者席に座り、上手く誘い出して貰う。


その間に俺と黒助でアジトを急襲し、人質を解放するというオーソドックスな物である。


さてと、お着替えも済んだし……「じゃあ行くか。 黒影出動ーー!」「ニャニャー!」


俺達は、嘗ての裏通りを大きく迂回しながら、反応が集中して居る辺りを目指して廃墟と化した建物の影を掛けて行く。

「え? 何で空を飛んで行かないの?」とか野暮な質問はNGである。

ちゃんと理由はあるのだ。 何故なら、俺は今忍者だから!! そしてカッコ良いから!!


『気配遮断』スキルを全開にして走る俺達を視認する事は出来ない(筈)。


10分後、俺達は奴らのアジトから50mぐらいの位置に陣取り、建物の屋根からソッと様子を窺っている。


更に20分が経過し、餌の馬車が移動を開始した。

アジトから200mぐらいに馬車が差し掛かる頃、仕掛けた鳴子?がアジトの中で鳴る音がして、バタバタと6名の男達が武装して飛び出して来た。


どうやら内2名は装備からして騎士崩れの様である。

残り4名は装備はソコソコの物を身に付けているが、見るからに普通の悪党崩れ。


そして、アジトには8名の反応が残っていた。


「黒助、潜入するぞ。」「ニャ!」


俺達は音も無くアジトとなっている元高級旅館の脇道に潜み、裏口から内部に侵入した。

反応は、2階のにあるので、そのまま階段を一足跳びに上がり、身を屈めて階段から廊下を見ると、男が1人廊下で見張りをしている。


高級宿なんだから、風呂ぐらいあるだろうに……見ているだけで臭って来そうな風貌である。

<なあ、俺、アレに触れたくないんだけど、黒助逝ってくれない?>


<ニャーーー!! 何でこんな時に僕なの? ねぇ、アレ僕に触れって言うの? 主、酷いニャ!!!! ジジに言いつけてやるニャ!>


やっぱり、予想通りに断固拒絶されてしまった。

どうする? アレ臭いよね。


<じゃあ、俺があの汚男ヤルから、肩を狙って、倒すから、騒ぐ前に影に入れてくれるか?>

と妥協案を提示したのだが、


<エーー、影が腐りそうだニャ! とは言っても……しょうが無い、直ぐに出して良いニャら>

と飲み込んでくれた。俺はこの日の為に特訓した手裏剣を取り出して、深呼吸。

ヒッヒフーー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー よし、落ち着いたぞ。

力まずに、スルッと自然体で、軽くスナップを効かせてっと、あ、指が引っかかった!?

指が軽く引っかかった事で、肩を狙った手裏剣が丁度汚男の身体の中心へと吸い込まれて行く。


シュッバーーーーン


ドーーーン ガラガラ ドシャ



「あっ! ………」


「ニャァ!」



<主ー! あのミンチどうするニャ? 天井にまで張り付いてるニャよ! あんなの影にいれるのは断固断るニャ!>



予期せぬ衝撃で、臭い男の身体に手裏剣が当たった瞬間に爆散してしまって、廊下に飛び散ってしまった。

更に貫通した手裏剣は廊下の奥の壁を破壊し、建物に大穴を開けるてしまっていた。


余りの出来事に唖然とする黒影の俺。


「何の音だ?」

と男が立っていた後ろのドアがバタンと開き、中から一際豪華な騎士装備を身に付けている汚い45歳ぐらいの大男が出て来た。


そしてその大男は廊下の惨状を見て、目を見開き、

「ロゲス? おい、ロゲス!」

と叫んで居る。

察するに不幸な事故で爆散してしまった汚男の名なのだろう。

優秀な影である俺は、直ぐに復活して、雷撃をその大男に放ち、「バッシーーン」という稲光と共に男が感電してその場に崩れたのだった。


俺は廊下の惨状をクリーンを掛けて綺麗に後始末し、大男を嫌がる黒助の影に投げ入れた。

<貸しニャ! 1つ貸しだからニャ!!>

と念を押す黒助をスルーしつつ、残り6つの反応がある部屋に入ると、殆ど裸同然で薄汚れた女性が6人、部屋の隅に固まって虚ろな目をしていたのだった。



「遅くなってすまないが、救助しに来た冒険者だ。」

と声を掛けたのだが、反応が薄い。


一応全員を詳細鑑定したところ、精神的に崩壊寸前である事が判明した。

幸いな事に妊娠している子は居なかったが、栄養も足りておらず、窶れていて、薄汚れた状態であった。

しかも、17歳~21歳の妙齢の女性が半裸状態であるので、目のやり場に困る訳で……。


「黒助、どうしようか。」


<僕に聞かれても困るニャ。 誰か女性を呼んで任せれば良いニャ?>


「だよな。一応クリーンと回復だけは掛けておくか。」


俺は、女性達に身体の中まで綺麗にするイメージでクリーンを掛け、その後にエクストラ・ヒールを掛けて、最後にマインド・ヒールを掛けてやった。

何でエクストラ・ヒールを掛けたかは、想像にお任せしたい。



全員に綺麗なシーツを取り出して身体に掛けてやり、黒助に見張りをお願いして、女性陣の助っ人を呼びに行ったのだった。




餌となった馬車の方だが、元々過剰戦力だったので、10秒も掛からずに制圧し、俺の合流を待っている状態であった。


「こっちも無事終了していたんだね? 悪いんだけど、監禁されていた女性の方の保護を、女性陣にお願いしたいんだけど? 服の着替えとか色々あるし。

一応、マインド・ヒールを掛けているけど、まだ正常な意識が戻ってないというか茫然自失状態って言うのかな? とにかくあんな格好じゃ無く、普通に服を着せてやって欲しい。」


「ああ、ケンジ様、じゃあ、私とアケミさんとでそっちの方はお任せ下さい。」


「申し訳ないけど、頼むね。 場所はこの先の角を右に曲がった高級宿の2階だよ。

黒助が番をしているから。」


さてと、こっっちの6名はっと? ああ、もう…… そうなんだね。この世界ではこれが普通なんだよねぇ?


「主君、此奴らの亡骸は、何処かで纏めて燃やして置きましょうぞ。」

とコルトガさんが事も無げに言っていた。


「ああ、黒助の影の中に1人、多分こいつらのボス格が入っているから、纏めてお願いするよ。」


「御意に。」





やっと1時間ぐらいで、女性陣の回収も、ゴミの焼却も終わり、臨時助っ人のランドルフさん達と、ここで救助した18名+6名をゲートで拠点へ送り届け、アニーさんに後を任せて戻って来た。



「みんな、お疲れ様。

多分、この先も同じ様な事がありそうな予感はするけどね。

今夜は残りで少し先に進んでから、ユックリ休んで、英気を養おうね。」

と言って、馬車を出発させたのであった。



しかし、不思議だな。

あの汚男は何で爆散したんだろうか?

手裏剣は結構練習したし、かなり力は抜いて威力弱めにしたのになぁ。

投げて手から離れる瞬間に緊張で指には引っかかったけど、ある意味『投擲』と『射撃必中』スキルが影響したのだろうか?

暇を見てまた練習しなきゃな。

そもそもだけど、手裏剣だったのが拙かったのかも知れないな。 今度はクナイを作って貰ってそっちでトライするかな?

クナイって何気に使い勝手良いよね……よし、ドワーフの親方に頼んでおこうっと――――



健二一行は、メルボンタの街を通り抜け、街道を北方面へと進み、2時間程進んだ所で一泊した。

途中で農村等を見かけたが、既に廃村になった跡地ばかりであった。

嘗ては賑わったであろう、街道に人影はなく、街道自体も荒れ始めていた。


「やっぱり、人が使わなくなると、アッと言う間に荒れる物なんだね。」


「本当にビックリですね。そのうち街道ですらなくなるのかも知れませんねぇ。」

とアケミさんも同意していた。


家にしたって、人が住まなくなった家は傷むのが早いという話を聞いた事があるし、そう言う物なんだろうな。

うちの拠点も100年後とかに人が住まなくなったら、廃墟と化すのだろうか?

それはそれで寂しいよなぁ。 何とか俺が死んだ後も、継続して回る様な状況にしておかないとだな。

と心の中で考える健二であった。

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