第178話 因縁の街
タンクロウ、アラゴン、金太郎とその群を拠点に運んで以降、1週間彷徨って、ウーコッコーを探し回ったのだが、結局見つかったのは、ハンター・モモンガ(魔物ね)の赤ちゃんのみだった。
まだ目も見えてないこの掌サイズのハンター・モモンガの赤ちゃんは、どうやら巣から落ちたらしく、足と手の骨を折ってしまっていて、今にも死にそうな状態だった。
余りにも可哀想なので、俺がヒールを掛けてやり、泉の水で割った桃のの果汁水を与えると、チューチューのみながら、キューキューと可愛い鳴き声を上げている。
木の上の方に巣穴っぽい物を見つけたのだが、既に何者かの襲撃を受けた後で、血がベットリと付いていた。
「あらら。親は亡くなったのかもしれないな。 どうする? お前、家の子になるか?」
と聞くと、
「キュゥーー!!!」
と目も見えない癖に、俺の指にスリスリしながら、甘えて来た。
か、可愛いぃーーーーー!!
「よし、じゃあ、お前は今日から、モモだ。」
「キューキュー」
とモモが嬉し気に鳴いている。
横から、アケミさんとサチちゃんが、世話を焼きたそうにしているので、任せてやると、スプーンですり潰した果物を掬って口に運んでやっていた。
「可愛いでしゅ! モモちゃん、私はサチだよ? おねーさんなんだよ?」
と嬉し気に指で頭をソーッと撫でてやったりしていた。
フフフ、妹分が出来て良かったな。
まあ、モモ以外の収穫も無かったので諦めて、そのまま当初の目的地である旧アルデータ王国の沿岸部を目指すのであった。
諦めたとは言うものの、機会あるごとに一応気にして探索はしているのだけどね。
旧アルデータ王国の領土に入って半日ぐらい進むと、件の辺境都市の成れの果てがあった。
そう、メルボンタである。 いや、かつてはメルボンタと呼ばれた廃墟かな。
城門は開放されたままで、衛兵の姿も無く、気配を探ると、範囲内に数名程度の反応はあったが、どう言う意図で残ったのかが気になる所である。
「主君、ここであるか、主君が間接的に潰した貴族の街というのは?」
「ちょっ! 人聞き悪いから。 俺は直接何もメルボンタを攻撃してないからね? あの時は。」
と反論しつつも、しかし最終的に王宮を潰したのを思い出し、目を逸らした。
「いや、某は責めているのではござらんよ。寧ろその手腕に惚れ直しておる所存にて。
普通、このクラスの城塞都市を武力で攻め墜とさんとすれば、力業の正攻法なら最低でも7000~1万の兵は欲しい所。
相手の指揮官にもよりまするが、双方に死者は多数でますれば、それを無血で勝ち取ったとは、いやはや、恐れ入りまする。」
とベタ褒めのコルトガさん。
「そ、そう?」
「ええ、そうですとも。」
と満面の笑みで……いや、満面の黒い笑みで応えてくれたのだった。
「どうしようか? 亜人差別の無い人なら、救援の手を差し伸べる気はあるんだけどね。
なんか、判り易い方法が欲しいよね。」
「じゃ、じゃあさ、ら、ランドルフのおっちゃん呼べば? だな?」
とコナンさん。作戦は至って簡単で、ランドルフさんとアリーシャさんを呼んで、2人に御者席に座って貰って街の中をユックリと馬車で通過するという内容であった。
つまり、踏み絵ではないけど、獣人2人を軽く見て高飛車な態度で接してくるなら、スルーするという事だった。
早速、俺はゲートを使って、ランドルフさんとアリーシャさんと、ドングさんも呼んで来た。
流石に2人だけ連れて来ると、ドングさんが拗ねそうだったからね。
「え!? ってここはあのメルボンタじゃねぇですかい! 主ぃ~。」
と連れて来られた場所に驚く虎のおっちゃん。
アリーシャさんドングさんも良い思い出が無いので苦い顔をしている。
そこで、俺は作戦とその趣旨を説明すると3人共にノリノリになっている。
「ゲヘヘへ! 流石は主ぃ、悪い奴ですねぇ~。」
と。
「ちょいまて! 俺じゃないからね? これ参謀であるコナンさんの立案物件だから。ね?」
と言い訳したのだが、
「へいへい、判りましたって」
と横向いて鼻をホジホジしてやがる。 何て態度の悪い奴だ。 な、泣かしてやろうか!?
と思っていたら、
「こりゃー! おじさん、ダメでしょ。鼻をホジホジしちゃ。 鼻の穴が大きくなちゃうんだよ?」
とサチちゃんに怒られてやがった。 へへへ!ざまーみろ!!
俺がサチちゃんの頭を撫で撫でしながらニヤニヤしていると、プイッと横を向いていた。
すると、突然アリーシャさんが大爆笑しながら、
「ギャハハハハ!! ねぇ、ケンジ様聞いて聞いてぇ~!
こいつったらね、このあいださ、クシャミしたら、鼻から……は、鼻から、カナブンが飛び出して来たんだよーー! ギャハハハハハ!!
あり得ねぇ~って。鼻からカナブンだよ? ギャハハハハ!
普段からそんなゴッツい指で鼻ホジってっから、広がって、カナブンが巣と間違えるだよ!!ギャハハハ!!」
と腹を抱えて笑って居る。
ドングさんも横を向いて、クックックと笑っていた。
「え? カナブンなんか普通入らないよね? マジで?」
「ギャハハ、マジマジ、大マジ!!」
と更に笑い転げていた。
「バッ!おまっ!!! それは内緒って約束したろ!!」
とランドルフさんが真っ赤な顔で抗議していたのだった。
一頻りみんなで笑い転げた後、気を取り直し、作戦を開始した。
鼻の穴でカナブンを飼う男こと、ランドルフさんと未だに笑い過ぎで腹筋にダメージを残すアリーシャさんが御者席に座り、ユックリと馬車を走らせていく。
全員馬車の中では四方の窓から周囲を警戒している。
街の嘗てのメインストリートはゴミや残骸が散らばっていて、建物も荒れ放題である。
街の中に入って15分ぐらい経過した頃、気配察知が隠れて居た奴らが動き出した事を知らせて来たのだった。
「さて、どのタイプで来るかな?」
この街には、32人の反応があったんだけど、動きがあったのは、18名の集団から出て来た3名で、馬車の進行方向を遮らない感じで、通りに出てきた。
「も、もしー! 旅のお方! お願いです! な、何か食べ物を別けて頂けませんか? お、お願い致します。」
と大きめの声で話掛けて来た。
馬車を停める様に指示し、話を聞く事にした。
出て来たのは獣人2名、人族1名で、かなり窶れた感じの青年だった。
ちょっと警戒してたんだが、悪意は無さそうだ。
逆に向こうの方が大人しく止まった為に警戒しているっぽい。
俺達も馬車を降りて、話をする事にした。
「すまないが、食べ物を少し別けて貰えないだろうか?
お恥ずかしい話、お金も何も渡せる物が無いのだが。」
と言う猫族の青年。
「ああ、それは問題ない。食料は18名分あれば良いのかな?」
と俺が聞くと、3人共に凄く驚いた顔をして、こっちを凝視している。
「すまないね、実はあっちの奥に18名分の気配と、向こうの奥300mぐらいの所に14名の反応がある事は知ってたんだよ。
だから、どう言う人達が、どう言う反応をするかで対応を決める為に、彼らに御者をやって貰っていたんだよ。
ほら、物騒な連中や、元々ここを仕切っていた貴族の様な人族優位主義ゴリゴリの人達とは話しもしたくないからね。」
と俺が説明すると、パァーっと明るい顔をして、
「ああ、そう言う事か。ああ、安心してくれ、俺らはそう言う奴らとは反対側の人間だ。」
「みたいだね。安心したから話をする気になったんだよ。フフフ。
で、食料だけど、18名分で良いのかな?」
「ああ、18名分でお願いしたいが、良いのか?」
「それは問題ないけど。
ところで、こんな廃墟に居る理由は何かあるの?
こんな所に居たって食い詰めるだけじゃないの?」
「ああ、それなんだが、ちょっとな……動くに動けないというか、まだ幼い子や病気の者や怪我人が居てなぁ。
身動きが取れないんだよ。
放っては置けないし、ズルズルと今日までここに居た訳なんだけどな。」
「そうか、それは大変だったな。 見たところ、君らも余り良い状態では無さそうだし。
俺で良ければ治療も出来るけど、どうする?
まあ、取りあえずは、向こうまで行って、温かい栄養のある食事からだな。
それもだけど、悪いが君達、かなり汚れているね。ちょっと臭うから申し訳無いけど、クリーンを掛けさせてね?」
と断りを入れ手から、3人に2回クリーンを掛けてやった。
「「「うぉー!」」」
と急激に身体がボワンと光った事で驚きの声を上げる3人。
薄汚れた顔と身体、そして衣服まで綺麗サッパリした事で、お互いを見回して、更に驚いている。
「自己紹介が遅れたけど、俺はケンジ。一応冒険者だ。こちらはみんな仲間だよ。
メンバーを見れば判ると思おうけど、俺達は別に種族関係無くみんな普通に接しているから安心してくれ。」
彼らが拠点とする建物は、何と神殿であった。
拠点に残っていた15名中、護衛で残った男性が2名、子供が7名で、足等に欠損がある大人3名と若い女性が3名であった。
俺は全員にクリーンを掛け、ヒール等で治療を行い、健康な状態へ戻した。
足や手の欠損部位が生えて行くのを見て涙を流しながら、俺にお祈りしたりしていたが、
「ああ、祈る相手が違うよ? あっち、あっち! 女神様にお礼を言う様にね。」
と辞退しておいた。
全員に食事を出してやり、栄養を取らせながら話を聞いたのだが、ここに居る18名は孤児や奴隷から解放されたり、放置された連中らしい。
例の騒動のドサクサ紛れで大部分の亜人達は奴隷から解放されたのだが、中には解放されずに主が亡くなり、主不在の奴隷状態の子供も交じっているらしい。
まあ、それを聞いてすぐにリリースを掛けて解放しておいたけどね。
で、あっちの方のグループだけど、野盗崩れの集団で、少なくとも女性6名が無理矢理連れ去られた人らしい事が判明した。
その6名がどう言う状態かは推して知るべしである。
出来れば助けたかったが、戦力的な問題で、助け出せなかったらしい。
「すまないが、力を貸して貰えないだろうか?」
「ああ、勿論それは構わない。ところで、君達はこの先行く宛てとかあるの?
もし、君らが望むなら、安全に暮らせる場所を提供出来るけど、興味ある?
そこは、人族、獣人、エルフ、ドワーフが普通に差別無く、暮らして居る場所でね、特に税も無く、食うにも困らない生活をしている。
勿論みんな働いては居るけど、みんな活き活きと暮らして居るよ。」
と俺が説明すると、俺の周りもウンウンと同意する様に頷いている。
「そ、そんな夢の様な所が!?」
と絶句していた。
「ただね、そう言う場所だから、亜人だからとか言って差別したり、横柄な態度を取ったりする奴は入れないんだよ。
で、何が言いたいかというと、もしその助けた女性6名の内、何人かがそう言う人物なら、その人物は救い出す事はしても、俺達の拠点へは連れて行かない。
それが俺達の拠点のルールでもあるんだ。それは理解して欲しいんだよね。 それでも良いなら救い出すよ。」
「なるほど。そりゃあ、当然の話だな。」
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