第175話 秘湯探索

「さてと、30分ぐらいここで休憩してくれるかな?

ちょっとこの渓谷を調査して来るから」


俺がそう言うと、コルトガさんが口を梳かさず挟んで来た。


「主君一人に働かせ、我ら配下が休む訳にはなりませぬぞ。

どうか、某もお連れくだされ。」


「あ、いや、空からチョチョチョーっと見て来るぐらいだよ?

可能でありれば、少し渓谷に降りるけど、もしかすると有毒ガスが出ている可能性もあるからね。

一人の方が身軽で逃げやすいし、ここで待ってて貰わないと、逆に危険なんだけど。」


「くっ、某ではまだまだ主君のお力には成れませぬか……」

とガーンという顔をしている。


ハハハ、気持ちは嬉しいんだけど面倒だなぁ。


「いや、そう言う訳じゃないけど、ほら適材適所ってあるでしょ? ここは一つ俺を信じて待っていて欲しい。

勿論コルトガさんの事もコナンさんの事もアケミさんの事も信頼してるし、頼りにしてるんだよ?」


「えーー!? サチは? リック兄ちゃんは?」

とサチちゃんが今度は口を尖らせいた。


「ああ、勿論サチちゃんもリックも頼りにしているんだよ? ありがとうな!」


「テヘヘ!」と機嫌を直してくれた。


「そう言われてしもうては、しょうがないですなぁ」

とコルトガさんも承諾してくれたのだった。


「じゃあ、その間に私は昼ご飯でも用意しておきますね。」

とアケミさんが笑顔で送り出してくれたのだった。


まずは上空へ飛び上がり、上から渓谷全体を確認するが、視界はそれ程良く無い。

渓谷の所々から白っぽい様な煙が出ている為、遠くまでは見えないのである。

渓谷自体の幅は、大凡100m~200mぐらいで、深さはガスってて、良く判らない。


恐る恐る高度を下げて渓谷の中へと降りて行く。

「さて、私は今、前人未踏の巨大な開口部へと、人類で初めて足を踏み入れようとしております。

果たしてここに何が隠されているのか? はたまた、秘湯は存在するのか? 未知の生物UMAは存在するのか? 今正に歴史が動こうとしております。」

と昔みたTVの探検番組風に独り言を言いながら下降して行く。


何か空気に異常があれば、某かのスキルが反応する筈である。

一応煙りを詳細解析してみたが、成分を見ても良く判らない。

有害か無害かで言うと、酸性の物質を含む事と、あの煙が充満している所では、窒息の可能性がある事が判明した。


そこで、シールドを張って中の空気を風魔法と聖魔法で空気清浄しながら降下していく。


ガスの所為で、太陽の光が遮られてしまうので、ライトも併用し、辺りを照らしてみる。


既に70mぐらい降下しているが、底は見えない。



多分、120mを通過して居るはずだが、まだ底は見えないし、周囲の温度も心無しか上がっている気がする。



もう200mは通過しただろう。 えーー、普通にそんな深い渓谷ってあるの? というか、渓谷って川が流れているんじゃないの?



400mは過ぎている筈だが、周囲の壁の穴から白い煙が吹き出している。 穴はあちこちにあって、結構な勢いだ。



温度は確実に上がっていて、エアコンを追加で発動し、温度を保つ様にした。

深度は、既に700mを超えている。

壁の彼方此方が、俺のライトに反射してキラキラと光っている。

詳細解析で見てみると、なーんと、ミスリル鉱石らしい。

つまり、ここら一帯はミスリルの鉱脈!? マジかー! 温泉を発見しようと思ってたら、全然違う物を発見してしまったぞ。

ちょっとサンプルで採取して行こう。

土魔法で鉱脈から5m×5m×5mのブロックを20個程切り出してっと……よし、収納。


さあ、次は何が出るかなぁ? おら、ワクワクすっぞ!



ウホッ! とうとう1000mを超えたよ。

しかし、まだ底は見えない。

何となく、少し視界は良くなった気もする。多少下からの上昇気流もあるみたい。

そして、これはなんだろうか? 壁が金色っぽい様な光りを反射してるね。

おー、オリハルコンの鉱石か。これも一部サンプルで採取してっと。




結局1500mまで降りてみたが、底は見えないまま。

そろそろ30分が過ぎるので、反対側の壁の傍を上昇して行く事にした。


グングン登って行くと、1100m辺りでキラキラ真っ赤に光る鉱脈を発見。

何だろうと詳細解析を掛けてみると、『マギ鉱石』という物だった。

マギ鉱石?? 聞いた事が無いけど、後で見てみるとして、取りあえずサンプルを採取っと。



満足顔でほくそ笑んでいたのだが、ハッと気付くと既に渓谷に潜ってから50分程が経過していた。

「あ、ヤバいな。思った以上に時間が過ぎてたよ。これは、上でみんなが心配してそうだな。ちょっと残念だけど、ゲートでショートカットだ。」

と独り言を呟きつつ、ゲートを接続して、馬車の横に出て来た。




「ただいまー。遅くなっ――」


「がえっでぎだーー、ワーーーン」


ゲートから出た俺に大号泣のアケミさんとサチちゃんとリック君がタックルして来た。


「おそいでしゅーー!エーーーン」

「心配したじゃないかーーー!」


予想以上の出迎えに思わず後退りする健二。

どうやら、上では思った以上に修羅場だった様子である。

サチちゃんは足にヒシッと手足を巻き付けてしがみついて泣いているし、リックも泣きながら腰にしがみついている。

そして、アケミさんは、涙だけでなく、鼻水まで垂らしながら両手で胸にしがみつき、大号泣していた。


「ご、ごめんね。ちょっと面白い物を発見しちゃってさ。 本当に申し訳ない。」


「そ、某は、し、信じておりました故に。」

とは言うものの、コルトガさんも目を真っ赤にしていた。


「良かったよ。無事で。」

と何故か汗ビッショリのコナンさんもホッとした表情をしていた。



兎に角、アケミさんと子供らが落ち着くのを待ち、再度全員に謝った。


「本当にごめんなさい。 なんか全然底に辿り着かなくて、ドンドン潜っていると、色々発見しちゃってさ。

本当に申し訳ありませんでした。」


「ダメですからね? 私、思わず飛び降りて探しに行こうかと思ったぐらいなんですからね?」

と真っ赤な目と真っ赤な鼻で頬を膨らませるアケミさん。



今回特に心配した理由を聞くと、『竜の墓場』という不吉な名称の場所で、しかも嗅いだ事の無い様な異様な硫黄の匂いが『死の谷』としか思えなかったそうだ。

そして、なんの反応も無く、予定時間になっても戻らなかった事で、パニクって居たらしい。

うん、何か可哀想な事をしてしまったな。

こう言う時に、通信の魔道具があれば、ここまで不安がらせる事も無かったんだろうけどなぁ。

通信魔道具か……これもその内に何とか作りたい物だな。




自分の所為で冷めてしまった昼食を温め直して貰い、全員で美味しく頂いたのだった。

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