第171話 三人寄れば文殊の知恵
帰りに孤児院にも顔を出して、久々に近況等を聞き、食料と寄付をした。
「あ、そうそう司教様! 俺先日神殿本部に行ったんですが、凄かったですよ!
ここの神殿の4倍くらいの大きさでビックリしましたよ。
ビックリしたと言えば、流石は神殿本部の大神殿ですね。
参拝の人が来ると、自然と鐘が鳴ったり、祭壇への通路がライトアップされたりで。いやぁ~驚きましたよ。ハハハ。
ただ残念だったのは、翌日神様について聞こうと思ったら、お忙しいとかで、バタバタされてて、相手して貰えなかったんですよねぇ。」
と俺が何の気なく話すと、大層驚いた表情をして暫くの間黙り込んでいた。
「……そ、そうでしたか。 なるほど。
私で知って居る事でしたら、お話出来ますが、どんな事をお聞きになりたかったのですか?」
との事だったので、女神エスターシャ様以外の神様のお名前を聞いてみた。
「なるほど、確かに創造神であらせられる女神エスターシャ様の他にも各分野の神様がいらっしゃいます。」
と言いながら、代表的な例を挙げてくれた。
戦神サンドラ様、学問神ラーシュ様、魔法神メグ様、鍛冶神アイン様、錬金神ドワルフ様、商業神ナニワ様、農業神ホーシン様、海神ポスド様等々。
「まだまだ他にもいらっしゃいます。そしてそれらの神々を統括されているのが、創造神であり主神である女神エスターシャ様なのです。」
と。
せっかくの情報なので、忘れ無い様にメモをした。
なるほどなぁ~
で、俺の詳細解析Ver.2.01にバージョンアップした神様はどの方なんだろうか?、解説文を書いて下さっている神様は学問神様なんだろうか?
気になるなぁ。
その後、孤児院の子供やシスター達にも挨拶をして、お土産のドーナツを渡したり、ナスターシャさんの魔法の進行具合を確認しつつ、アドバイス等をした。
ナスターシャさんは、本当に努力家で、驚く程に魔法が使える様になっていた。
既に、中級はマスターし終わっていて、上級に王手が掛かっているのだが、やはりネックになるのは魔力総量の問題で、おそらく上級魔法は現状では難しい感じだろうな。
帰り際には、子供らもナスターシャさんも、凄く寂しそうな何とも言えない顔をしていたので後ろ髪を引かれる思いだったが、この後の予定もあるので孤児院を後にしたのだった。
ちなみに、今年の春孤児院を卒業した子供らは、現在別荘の方の手伝いをしてくれている。
冒険者になった者もいたが、同じく別荘の宿舎を提供している。
まあそんな訳で、今晩の夕食は、その後のケアの意味も含めてみんなで食べる予定となっているのである。
夕方前には別荘の方に戻ったのだが、案の定コルトガさんとコナンさんはまだ帰って来ては居なかった。
「うーん、大丈夫かな? 何か不安だ。 ちゃんと服を買う分のお金残しているかなぁ?」
「アハハハ、何か全部飲み食いに使ってそうな予感もしますね。」
「まあ、これから夏で暑くなって来るし、ちゃんと着替え用意してないと、幾らクリーンがあるからって、何となく気持ち悪いからねぇ。
それに余りにも毎日同じ服だと、何か待遇が悪いみたいで、俺が落ち着かないし。」
「ああ、なるほど。でもメイドや執事の人って制服同じですよ?」
「ハハハ、あれはちゃんと毎日着替えてるから。 その為の制服だし。 作業着と同じだよ?」
「でも、そう言うケンジさんってよくよく考えると、毎日ほぼ同じ格好してませんか?」
と鋭い突っ込みを入れられた。
「う……気付かれたのか。でも安心して! ちゃんと毎日着替えているし。
俺ってあまりセンスないから、一度に同じセットを何着も買ってるんだよね。
ほら、一々、今日は何を着ようかな? って考えるのが面倒じゃん?
1種類のセット固定なら制服と同じで悩む必要も無いし。」
と俺がドヤ顔で言うと、可哀想な人を見る目で見られてしまった。
実際のところ、自分で買った訳では無く、多分女神様が用意して下さった着替えが巾着袋に沢山あっただけの話なんだけどね。
どれも上質の素材と作りで、この世界の変に高級とされる服みたいに、変なビラビラが付いて無いので、安心して着られる訳である。
どうも、あの昭和の時代の少女漫画に出て来るハンサム主人公的な服のセンスだけは良く理解出来ない。
本当は夏ならTシャツとかの方が良いんだけど、この世界にはあんな感じの伸び縮みする生地は少ないし、あったとしても高級な素材で高い。
「そんな、言ってくだされば、私がコーディネートしましたのに。」と。
まあ、ありがたい気もするけど、それも面倒な気がするのだが?
「うーん…… そ、そうなの? ありがと?」
と取りあえず、お礼を言ったつもりだったのだが、
「何で疑問形なんですか!」
とプイッとホッペを膨らませていた。
コルトガさんとコナンさんだが、やっと夕暮れ間際に戻って来た。
「遅いよーー! ちゃんと着替え買って来た?」
俺が一番重要な事を聞いてみると、コナンさんが一瞬ハッとした表情をして、目線を逸らしていた。
コルトガさんは、お酒を飲んだらしく、顔がやや赤いし……酒の匂いがバンバンしているし。
なんて判り易い犯行現場なんだ!?
本当は、宴会の後に、ジョンさんとこの2人とアケミさんを含めての5名で、沿岸部の拠点作りの相談を!と思っていたんだけど、何か素面じゃないので止めて明日にする事にしたのだった。
そして、夕食会という名の宴会はそれなりに盛り上がり、コナンさんもヤリスさんとアズさん、そしてジョリンさん(家事&調理係として入社?した元孤児院出身の女の子)の作った料理を嬉し気に堪能していた。
翌朝、全員が素面の内にという事で、朝食後に5人で集まって作戦会議を行った。
「という事で、旧アルデータ王国の沿岸部に拠点を作り、マスティア王国から連れて来た漁村の人を中心に漁業と農業を行う拠点を1から作ろうかと考えている訳なんだけど、どう思う?」
「なるほど、塩のライフラインを最低限確保するのですな?
うむ、しかし、飛び地となる故に、防衛が難しい所ですな。 主君のゲートを使えば直ぐに駆けつける事は可能ですが、それだと主君だのみとなりますれば、そこは他の手段も考えませぬとな。」
「ああ、なるほど。確かに、俺が居ないと回らないんじゃしょうが無いよね。
出来るだけ、俺抜きで俺が居なくなっても問題無く存続可能にしておかないと、だな……。」
「ほ、他にも問題があるんだな。 げ、現地の勢力図を調査しなきゃだけど、ち、近くに元アルデータ王国の貴族や、野盗化した奴ら、それに食い詰めたロクデナシが居ると、か、必ず襲って来るんだな。だな。
拠点を置くなら、余程地形の理を活かした、な、難攻不落の砦にする必要があるんだな。
も、勿論、戦力もある程度在駐させておかないと、拙いんだな。だな。
そ、それに、漁村という事は、う、海に面している訳だから、拠点防衛で考えると、海側からの侵入が怖いんだな。だな。」
なるほど! そう言われてみれば、確かに海側には城壁なんて作れないよなぁ。
「そうか!海側は確かに盲点だったな。流石だな。
ふむ。じゃあさ、防波堤とかを作ってそこに城壁を置いて、湾を作ったらどう?
海との開口部を限定してしまって入りにくい構造にすれば、かなり違わないかな?
この世界の大型の船による攻撃があるかは知らないけど、大きな船なら浅い湾内に入るのは無理だし、数によるけど小舟相手なら簡単に転覆させる事も可能だよね?」
「な、なるほど、湾を作るのは良い案なんだな。あとは、どれ位の人数で防衛網を作るかだな。……だな。」
「主君、防衛用の兵を鍛え上げるのであれば、某に任されよ。
一騎当千のバリバリの兵士に生まれ変わらせてやろうぞ!」
「ハハハ、いやまあ、一騎当千は良いけど、人格変えちゃダメだからね?
兎に角、現地の状態を一度確認してから、再度検討して決定する感じにしようか。
何かデメリットや反対意見や懸念事項、見落としとかあったら、遠慮無く聞かせてね。」
「げ、ゲートなんだけど、ま、魔道具というか、つ、通常設置型? 常設型?に出来ないかな? だと安心なんだな。だな。」
「ふむ。常設型で転移門みたいな事か。 必要魔力の供給さえ出来れば行ける気もするな。
あーー、でもどんな素材で作れば良いんだろうか?
どうせなら、各別荘と拠点間だけでなく、選択式に出来れば尚一層夢が広がるねぇ。
そうすると、一別荘単位に多数の防衛要員の人数を割り当てなくても、必要に応じて相互にやり繰りも出来るなぁ。」
「だな!だな!!」
うむ、『三人寄れば文殊の知恵』とは良く言った物だ。まあ、実際は5人だけど。
「そうすると、私もこの目で拠点を見学しに行けそうですね。」
と目を輝かせるジョンさん。
「あ、そう言えば、ジョンさん今の拠点の状況を見た事が無かったね。
ごめんね、配慮が足り無かったよ。」
「いえいえ、ただ一度どんな所なのか見たい気は大いにあります。
きっと他の別荘を任せられている者も、同じ気持ちなのではないですかね?」
「確かに、そりゃぁそうだよね。」
「あれは、素晴らしい場所じゃぞ! 某、感服致した次第にて。是非とも自分の目でしかと見るべきじゃて。」
という事で方針も決まり、スッキリした。
そうか、常設型ゲートか。近々に何とかしよう。
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