第169話 旧アルデータ王国の情報

旅の再開に際し、一度ドワースの冒険者ギルドで情報収集を行う事にした。

目的は、元祖村長の要望である、タンク・カウ、アンゴラ・シープ、ゴールデン・シープの所在地情報の収集が目的である。

あと、ガバスさんにも久しぶりに会いたいし、出来れば旧アルデータ王国のその後の動向の情報も入手出来ればとは思って居る。


取りあえず、ドワースへの道のりでは、クドいぐらいにコルトガさんとコナンさん、そして子供らにも口止めをしておいた。

勿論、拠点の事で下手な勘ぐりを入れられない様にする為の防衛策である。


え? 子供って言っちゃダメって事を良く漏らすって? うーん、そうなんだよね。 割と大変な事になったりするよね。

だから、一応可哀想だけど……

「なぁ、もし拠点に関して、余計な事を言っちゃうと、あの拠点に住んでる大勢の人もほらお友達達も、全員家が無くなるかもしれないんだよ?

だから、何か聞かれたら、『ケンジ兄ちゃんとアケミ姉ちゃん、それにスタッフの人と住んでます』ぐらいにしとくんだよ。」

とお願いしておいた。


「うん、サチ約束しゅるーー!」

と元気にお返事してくれてたので、大丈夫だろう。


リックは流石に兄ちゃんで、「何かあったら、俺が口を押さえますから」と言ってたけど。


で、一番ヤバいのは、何となくだが、この大人な2人。

コルトガさんとコナンさん。


「主君、任されよ!」

と言ってたけど、なーんか不安なんだよね。


まあ、コナンさんは逆に初対面の人との会話が苦手って事なので、大丈夫だとは思うんだけど、食い物とか絡むと、一抹の不安は過ぎるよね。



「お!久しぶりだな、ケンジ君! もっとちょくちょく顔を出してくれよー!」

と門番の衛兵のおっちゃんに挨拶されつつ、ドワースの街へ入った。


「主君、ここもなかなかに住みやすそうな都市ですな。」


「だろ? ここの領主様であるドワース辺境伯は、気さくな人で、ちゃんと住民の事を考えてくれる方だからね。

それにこの街でも、特に種族による差別は無いよ。 商業ギルドのギルドマスターはエルフのキャサリンって人だし、獣人達もちょくちょく買い出しに来てるけど、問題無いみたいだしね。」


「え? きゃ、キャサリン!?」


俺がキャサリンさんの名前を告げたら、コナンさんが動揺している。


「あれ? もしかして、知り合いだったり?」


「う、うーーん、わ、判らないんだな。 も、もしかすると、キャサリン違いかも知れないんだな。」


と言いながら、コナンさんの知るキャサリンさんの特徴を俺に言って来たけど、それは判らないからね?

誰が服の下に隠れてる黒子の位置や個数を知っているって言うんだよ! と。


「そんな特徴で判ったら、エスパーだよ!」

と突っ込んだんだけど、そもそもエスパーって単語を知らなかった。そりゃそうだ。


「ところで、逢いたいなら、引き合わせるし、逢いたくなければ、スルー出来るけど、どうする?」

と聞くと、暫く悩んでたけど、「め、面倒だからスルーだな。だな!」と言っていた。


どうやら、もし知って居るキャサリンさんと同一人物なら、幼馴染みだそうで。



まあ、俺としても、コナンさん繋がりで、拠点に招待しろ!とか言われると困るから、丁度良いんだけどね。




まずは、ガバスさんの店を経由して、ガバスさんに挨拶する事にした。


店の裏手に馬車を停め、裏口をノックすると、店の店員が出て来て、すぐに応接室へと案内され、ガバスさんを呼びに行った。

「ここは、前に話したように、ガバスさんという、俺の恩人であり、友人の店なんだよ。」


「ほぉ、あのガバス殿ですな?」



「ケンジーーー!! 久々過ぎるぞーー!」

とガバスさんが、応接室に奥さんと子供を連れてやって来て、「あ………」と声を上げたっきり固まっている。


「ん? あ、アリーシアちゃん、大きく成ったねぇ。ナナシーさんもお久しぶりです。」

と挨拶をすると、


「ケンジさん、何時ぞやは、親子共々お世話になりまして。こうして元気に育っております。」

と深々と頭を下げてお礼を言われた。


すると、やっと復活したガバスさんが、リックとサチちゃんを指刺して、


「ケンジ、水臭いぞ! いつの間に子供出来てたんだよ? えっと、奥さん……アケミさんだっけか? お久しぶりだな。」


盛大な勘違いをしていた。


「ちょっ! それ思いっきり勘違いだからね。 まあこの子らは訳あって家の家族みたいなものだけどね。」

と俺が応えると、事情を察したナナシーさんから、ガバスさんが思いっきり後頭部をポカッと殴られていた。


「ハッハッハ。何か直撃っぽい音出てたけど、大丈夫? 髪の毛?」

と俺が笑って居ると、


「だ、大丈夫だぞ! 俺はまだ!!」

と言っていたが、ナナシーさんがやや目を逸らしていた。


「うちの拠点の子になった、リックとサチちゃんだよ。

そして、こちらが、コルトガさん。こっちがコナンさんで、うちの新しい仲間であり、スタッフなんだよ。」


俺が、コルトガさんと、コナンさんを紹介すると、ガバスさんが喜んでくれて、「ケンジを宜しくな!」と言って居た。


コナンさんは、「あ、な、仲間!? 仲間……なんだな……だな!」

と小さく呟いて、嬉しそうな顔をしていた。



色々と近況の話を伝えたり、聞いたりした後、気になるアルデータ王国のその後を聞いてみた。


「ああ、旧アルデータ王国な。 あそこはどうやら、クーデリア王国もイメルダ王国も手を出す気は無いみたいだぞ。

結構前の王侯貴族らが滅茶苦茶やってたからなぁ。そりゃあ、酷かったらしいし、潰れて当然だよなぁ。

実際、統治も滅茶苦茶だったらしいから、統治に踏み出すと、滅茶苦茶面倒だけが増えるってんで、取りあえず静観するみたいだな。

それに残った貴族の残党とかも居て、何か無駄な争いが勃発しているって噂もあるし、触らぬ神に祟りなしって事じゃなねぇかな。」


「なるほど。残った貴族もやっぱり似たり寄ったりなのか――」


「残った国民らはどうしているんだろうか? 何か情報入ってる?」


「元々圧政で搾取されてた領民とかはゴッソリ国外へ脱出したっぽいな。

残ってるのは、推して知るべしって事なんじゃねぇか? まあ、搾取対象が居なくなって大変なんだろうけどよ。」



ふむ。なるほど。結局何処も手を出す気は無いのか。

となると、気になるのは、旧アルデータ王国の沿岸部の領土だな。



「ねえ、ガバスさん。

旧アルデータ王国の沿岸部ってどんな領主が何処ら辺にあるとかって言う情報は持って無いよね?」


「あ? 旧アルデータ王国の沿岸部だって? そんな遠方と取引する気が無かったから情報は仕入れてねぇな。

まあ、逆に旧アルデータ王国自体との直接取引がほぼ無かったから、俺ん所は助かったけどよ、売り掛けが多かった所とかはキツいだろうな。

ガハハ。 俺は大体あいつらの様な偏見や選民意識の塊みたいな連中だぇっーーきれぇ(大嫌い)だからよ!」


「ハハハ、そうか。うーん、じゃあ商業ギルドで情報仕入れてみるかなぁ。」


「なんだ? もしかして旧アルデータ王国の沿岸部まで行く気なのか?」


「うーん、だって今だったら、国すら適当なんだし、沿岸部抑えちゃうのも手かなぁってね。」


「ハッハッハ! 相変わらず面白い事を言うよな!」


どうやら、冗談として受け止めたようだった。 割と本気なんだけどなぁ~?



ガバスさんの店をお暇し、商業ギルドに寄って、情報を聞いてみたが、沿岸部のザックリとした広域地図があっただけで、情報は何も無かった。

ちなみに、どうやら商業ギルドは今年の春の段階で既に旧アルデータ王国から撤退してしまったらしい。

撤退理由は商業どころでは無い治安の悪さと人口流出による市場の過疎化だそうだ。



ふむ。これはある意味チャンスなのかも知れないな。


そして、商業ギルドを出て、馴染みの屋台で買い食いをしつつ、久々の別荘に到着したのだった。

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