第168話 剣聖がヤバい!

翌日、朝食を食べ終わると、早速レベリングメンバー全員で森へ出掛けた。


森に入って、10分もしない内に、次々に出て来るB~Aランクの魔物達を嬉々として剣で叩き斬る剣聖ことコルトガさん。

その剣技は凄まじく、対する魔物の反撃を一切許さない。

確かに、レベル自体は俺は約2.5倍くらい高い筈なのだが、動きに一切無駄が無く、立ち回りや位置取りや誘導というのかな? 兎に角それらが異常に上手くて、的確に相手を自分の一番美味しい場所に誘い込みつつ、仕留めて行くのだ。

結果、取り囲まれる事も無く、無双状態のワンサイドゲームとなっている。


「剣聖とはこれ程の者なのか。いやぁ凄いな。」

と俺も呆気にとられていると、


「あのおじ様、凄すぎますね。」

「ええ、動きを目で追うのがやっとです。」

とアニーさんとリサさんが驚きながらヒソヒソと囁き合っていた。


ステファン君も、アケミさんも「正に職人芸ですよね」と目を丸くして見ていた。


最初に出て来た20匹余りのフォレスト・ウルフの群もその群のボスであるフォレスト・キラー・ウルフも1人でサクッと瞬殺した後、


「ほっほぉー、久しぶりじゃ! こりゃぁ堪らんですぞ! ウォーミングアップには持って来いじゃな。

ほれ、コナンよ、お主も主君に実力を見せてやらんか!」


と満面の笑みで振り返りながら、コナンさんを嗾けるコルトガさん。



「ハハハ、や、ヤルのかな? かな?」


どっちかというと、『動』という字が似合わない体型のコナンさんなのだが、その言葉に触発されたのか、次の群が出て来ると参戦し、巧みに土魔法や水魔法で巧みに仕留めて行く。

しかも、あの体型からは考えられない程の身体強化と身体加速で、実に身軽なポチャである。


「凄いな。おい。コナンさんも予想以上だよ。ハハハ。」



しかし、流石はコナンさんである。ミノタウロス3匹が出て来た時は、目がヤバかった。


「お、お肉美味しいだな! お、美味しいお肉は、き、綺麗に仕留めるんだな!!」

と愛おしむ様に丁寧に首をアイスカッターで刎ねていた。


「お肉は血抜きが重要なんだな! は、早く血抜きをするだな!」

地面に穴を開けて、水魔法で強制的に血抜きを促進していた。


コナンさんが血抜きをして居る間にコルトガさんは、シルクスパイダーを糸袋を傷付けない様に気を付けながら、胴体と胸の部分を切り離して倒していた。


そんな2人の姿に触発された他のメンバー達も、それぞれが魔物を倒し始めた。


コナンさんは、肉質というか、美味しさによって、狩る際のテンションがあから様にちがっていて、思わず笑ってしまった。


俺の従魔達は、今回レベリング初参加の黒助が、張り切っており、それを察したピョン吉やAシリーズが華を持たせてくれた感じであった。

黒助もそれが判って居るらしく、コッソリお礼を言っている様子であった。

うん、なかなかに微笑ましい風景である。



そんな感じで初日を終え、翌日からは拠点の周囲の魔宮の森ではなく、災害級の住み処となっている魔絶の崖の上の森にステージを移す事にした。


コルトガさん曰く、

「ガハハハ、いやぁ~、流石は主君の拠点ですな!この森もこれまでの人生で最高に美味しいステージではござった。

しかし、これまでの修練で戦った魔物討伐とはレベルの上がり具合が全く違ったでござる。不思議な事もあるもんじゃ。」

と一日の成果に満足しては居たが、相対する魔物の強さには不満があった様で、魔絶の崖の上に続く森の魔物が更に強いと聞くや、


「なんと!Sランク~災害級まで揃っておるとは、何と最高の舞台じゃ。

チマチマA~Sランクを狩っても、高が知れておりますれば、ここは一つ、デッカく逝きましょう!」

と豪快に笑いながら、不穏な単語で締め括っていた。


コナンさんは、崖の上の魔物の美味しさに拘っていたようだが、「夢の食材と出会えるかも」という悪魔の様な囁きに目をキラキラさせていた。

その影で、凶悪な顔で笑うコルトガさんが居たのだが、見なかった事にした。



ちなみに、崖の上の魔物だが、経験値や素材的には美味しいのだが、味で言うと、それ程食用に適した物は居ないと思う。

まあ、行く気になっているのを削ぐのは可哀想なので、コナンさんには伝えてないのだが。


俺の記憶ではあの森で、それ程食べたいと思える食材は少なかった筈だ。


ベア系は食える事は食えるが、肉質が堅く、割と脂っこくて、特に雄は獣臭があったりする。

なので、生姜焼きとか、ハーブ系で臭さを誤魔化せば、それなりには食えると思うが、是非食べたいという程ではない。

逆にボア系は美味い。ボアはボアでも上位種限定なので、更に濃密な味がして美味いのである。

スネーク系も美味しい、美味しく無いで分類するなら、美味しいとは思うのだが、俺はやっぱり見かけが蛇ってだけで何となく食べたくない。

他の人からは、「ウナギも似た様な物じゃないですか?」

と言われるが、ウナギと穴子は別格である。


そう言えば、ウナギかぁ……何とかウナギの100%養殖とか出来ないかなぁ?

魚とかも、海の魚なんかを内陸部で100%養殖出来れば、かなり食糧事情が変わるのだがなぁ。



 ◇◇◇◇



そしてレベリング最終日の5日目が終わる頃、コルトガさんはついにレベル81に到達した。

もう、流石は剣聖と言った所であろう。御年50歳を超えるというのに、同じ人族とは思えない程に化け物(良い意味で)である。

(まあ、この際、俺はハイパーヒューマンじゃないか!という突っ込みは不要だ。)


まあ、毎日のレベリング時の休憩時間には、例の果物シリーズを出していたので、その影響も大きいのかもしれない。


コナンさんは76、ステファン君が63、アニーさんは61、リサさんは68、アケミさんはかなり頑張った様子で、旅行前のレベリングから64にまで上がっていた。


コナンさんは何と単独でもSSランクぐらいまでは倒せる様である。

「ぼ、僕にとっては、人の方が、こ、怖いんだな。だな。」

と悲しい事を言っていた。

ある意味、それはそれで同感である。


「ぼ、僕、頑張ったんだな!だな! こ、ここ20年で、一番頑張った感じなんだな。だな!」

と胸を張ってらっしゃったが、頑張った割には見た目少しも痩せておらず、毎日夕食の時間になると、


「や、やっぱ、身体を動かした後の、ご、ご飯は最高に美味しいんだな! 幾らでも食べられちゃうんだな。だな!!」

と以前にも増してお代わりを連発していた。


うーん、以前よりも食事量を増やしてしまうと、ダイエット効果がなぁ……。

ちょっと当初の予定とは思惑が外れたというか、何とも言えない結果になったが、それぞれにレベルは上がったので良しとするか。


しかし、今回のレベリングの最大の収穫は、コルトガさんやコナンさんの実力が判った事だろう。

付け加えるのであれば、彼ら2人と他のスタッフ達との距離も良い感じで、先輩とか後輩とか関係無く、尊敬の眼差しで見つめられていた。

更に付け加えるなら、コナンさんと魔法大好き少女であるリサさんは、かなり仲良く魔法や錬金の話をしていた。




兎にも角にも、今回のレベリングで、全員怒濤のレベルアップが完了した訳だ。

これだけレベルが上がれば、取りあえず旅の安全度は増した筈である。

唯一、コナンさんのダイエット効果に関しては、微妙だがな。


そして、俺達は3日程休みを取った後、また旅の続きを再開する事にしたのだった。

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